2017年3月 1日 (水)

出版協新刊選2017年3月号  第53号(通巻277号)

1P「変えてはいけないもの」

三芳寛要パイインターナショナル●出版協理事
  ……出版協BOOKS/3月に出る本 
3P ……出版協BOOKS/3月に出る本(2Pの続き)
4P ……出版協BOOKS/3月に出る本(3Pの続き)

「変えてはいけないもの」

もうすぐ新年度ですね。年度末進行や、組織変更、新入社員の入社準備などで忙しい方も多いと思います。新年度の抱負について考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

弊社の場合、新年度の抱負を年末のうちに考えます。変化の激しいこの出版業界で生き残るために、何か新しいことをせねばならないのではないか、という強迫観念に毎年襲われます。しかし今年の場合は少々違いました。

 

昨年末、自然風景の写真家Tさんとの忘年会でのこと。私がTさんに「来年の抱負はありますか?」と尋ねました。Tさんはしばらく黙ったのちに、「……いや、何もないね。ずっと同じことを続けるだけだよ」とおっしゃいました。

私はその時、はっとしました。Tさんの言うとおり、「変わらないこと」のほうが大事なんじゃないかと。

実際にはTさんの写真は、年々変化し、常に新鮮なテーマを追い求めています。しかしそこには、たとえ酷暑の荒野でも、極寒の冬景色の中でも、世界中、何時間でも自分が撮影したい風景が現れるのを待ち続ける、変わることのない美への追求という姿勢がありました。

 

弊社においても、変えてはいけないものがある、と思い至りました。それは、出版企画における3つのポリシーです。

1. 自分たちが欲しいと思える本か

流行っているから、ではなく、作り手や売り手が欲しいと思えるか、つまり読者の視点に立って本づくりをできるか、また販売戦略が立てられるか、ということになります。

2. 自分たちが作ることで類のない本になるか

自分たちの強みを活かすことで、差別化し、新鮮な提案ができる分野か、ということです。他社が作っても変わらない内容であれば、わざわざ限られた時間を使って、自分たちが作る必要はありません。

3. 10年でも自分の本棚に置いておきたい本か

私たちは単なる情報としての本ではなく、プロダクトとしての魅力を備える本を作っている自負があります。一時的な流行物は、一度に多くの部数を配本できる大手出版社と比較して、弊社の得意とするところではありませんので、不変的テーマを扱うよう心がけています。

これらは多くの出版社で、共通しているポリシーかもしれません。

 

ですが一昨年から、そうとも限らない現象を目にしてきました。

それは「大人のぬり絵」です。「大人のぬり絵」は、2015年夏から2016年春ごろにかけて、世界中で大ブームになったジャンルで、記憶に新しい方もいらっしゃると思います。日本においても10年以上前から河出書房新社さんで出版されてきましたが、主に年配層向けという認識を持っていました。ですが一昨年、英Laurence King社が原書として発売した『Secret Garden』(邦題『ひみつの花園』グラフィック社刊)、『おとぎ話のぬり絵ブック』(弊社刊)といった、20代女性を含め、幅広い年齢層を読者対象とした「大人のぬり絵」書籍が刊行されました。

 

それぞれの出版物が異なった年齢層を対象としていたことから、書店店頭では複数タイトル並べても、競合するどころか相乗効果を生むこととなり、それまでに知られていなかった潜在需要を開拓でき、メディアでも多数取り上げられました。弊社では当初、それほどの需要があるとは考えておらず、あくまで美術系出版社として新しい提案をし続けてきた延長線上にありました。

 

ところが一度ブームになると、大手を含め、多くの版元が参入してきました。プレーヤーが増えること自体は、そのジャンルが互いに切磋琢磨することになり、読者にとっても選択肢が増え、よいことです。問題は決してクオリティの高いものばかりではないことでした。弊社では、作家と編集者とが、二人三脚で時間をかけて本を作りますが、聞くところによると、版元から人気作家に制作依頼が殺到し、その内容が「短期間で、内容は作家におまかせで、少額で」というものも含まれていたようです。そうしたものが出回ると、棚は玉石混交となり、読者が離れていく要因となります。この現象は世界中で起こりました。

私はそのとき愕然としました。これが、出版の衰退を加速させている原因の一つではないかと。私たちは、決して安易に流行に流されてはいけない。私たちが大切にしている出版のポリシーを守り続けようと思いました。

 

実は、似たようなことが10年ほど前の米国で起きたようです。日本のマンガがブームになり、様々な出版社から日本のマンガの翻訳本が出版されましたが、棚が玉石混交となった結果、読者離れが起き、苦しい淘汰の時代があったようです。その中でもブームに振り回されずに、厳選した翻訳出版を続けてきたDark Horse社やVIZ Media社といった版元が生き残りました。今ではBarnes & Nobleなど大型の書店において、日本のコミック棚はアメコミをしのぐ勢いを見せています。

 

変化することも大切ですが、そもそも私たちは何のために出版という仕事をしているのかを考えたとき、変えてはいけないものもあることを思い起こした新年度となりました。
三芳寛要パイインターナショナル)●出版協理事

2017年2月 8日 (水)

共謀罪(「テロ等準備罪」)法案提出に反対する

報道によると、政府は共謀罪(「テロ等準備罪」)を新設する法律案を今国会に提案する予定である。共謀罪はこれまで何度か国会に提案されたが、「市民団体、労働組合なども対象になる」、「犯罪が実行されなくても、心の中で思ったことで逮捕される」などの批判があり、そのつど廃案になっている。


今回の
共謀罪(「テロ等準備罪」)はおおよそつぎのとおりである。①適用対象の「組織的犯罪集団」を〈刑務所に4年以上入ることになる犯罪〉の実行を目的する団体、処罰に関して②犯罪行為の具体的・現実的な「合意」、③犯罪の計画だけでなく、「凶器を買うお金の用意」「犯行現場の下見」など「準備行為」の実行を条件とすることで、これまでの共謀罪の適用範囲を限定するとしている。

犯罪行為が行われていない段階(犯罪を計画したとき)で処罰する点では、これまでの共謀罪となんら変わりはない。呼び名をあらためて共謀罪を衣替えしたものといえる。


共謀罪(「テロ等準備罪」)にはさまざまな問題点がある。とくに以下の5点は見逃すことができない。

依然として「組織的犯罪集団」の定義が曖昧であること。

②対象犯罪の範囲はしぼるとしているが、300を超えていること。

③「合意」や「準備行為」などの「共謀」に関する捜査は、その集団の構成員の内心やその集団の内部におよばざるを得ないこと。

④国際組織犯罪防止条約に加わるための法整備に必要だとしているが、この条約は国境を越える経済的組織犯罪への対処を目的するもので、テロ対策とはまったく関係ない。

東京五輪・パラリンピックでのテロ対策としているが、日本は国連のテロ関連条約のすべてに加盟し、国内法を整備しているので、あらたなテロ対策の法律の必要性はない。

 

とくに、③の「共謀」の疑いを理由とする段階からの捜査が可能となれば、盗聴や捜査協力者を使った潜入捜査が多用されることが予想される。そうした捜査は、市民団体や労働組合の活動内容に踏み込むおそれがある。それは、市民団体や労働組合に参加する市民や労働者の「内心の自由」や表現活動などを萎縮させたり侵害することにつながる。

 

 一般社団法人日本出版者協議会は、内心の自由や表現の自由を脅かす共謀罪(「テロ等準備罪」)を新設する法律案の国会への提出に強く反対する。

以上

2017年1月30日 (月)

出版協『新刊選』2017年2月号 第52号(通巻276号)

1P …「年度末雑感」

 
石田俊一三元社 )●出版協理事
2P ……出版協BOOKS/2月に出る本 
3P ……出版協BOOKS/2月に出る本(2Pの続き)

年度末雑感


2月、3月の年度末に向けて、綱渡り的な毎日が続いている。毎年繰り返されることであるにして、今年は例年に比して、さらに危うい日程調整が続いている。小社など専門書が主力となっている版元さんは、同じような状況であろうと思われる。学術振興会の科研費また各大学の出版助成などなど、2月中あるいは3月中での刊行が義務付けられているからである。もちろん、それぞれ採択から、しかも多くの場合、完全原稿があって、それを審査した上で採択されたものであるはずなので、少なくとも、紙の上では半年以上の制作期間があることになっている。したがって、よほどのものでないかぎり、日程的に無理があるわけではない。順調にいっていれば、大方、年内12月には刊行できているはずである。

しかし、そういったことは、小社の場合でも極めてまれな例である。
採択されてから、原稿に手直しが入り、さらに推敲しなどなどで、版元に届くのが遅れる。しかも、近年は、大学では学期内は関係者の忙しさが飛躍的となっているので、その期間落ち着いて原稿に取り組む余裕はないようである。したがって、夏休みの間にそれを行うというのが、現実的であろうと思われる。そうすると、いきおい、脱稿はさらに遅れることになり、早くて9月あるいは10月くらいにようやく、脱稿となる。

さてようやく制作に入ると(といっても、版元もその頃、そういった原稿がまとめて入ってくることになる)、大学がはじまり、なかなか予定通りには、校正が進まない。こちらも、複数本を一気に抱えることとなり、思い通りには進行できない。加えて、図表、図版が多いものは、それがあとから揃うなどもあり、より混乱の度がましてくる。

なんだかんだで、再校が出てくるのが、結局、正月明けになってくる。それから念校になるのだが、センター入試、私大では入試が始まり、著者、版元ともにバタバタしながら、ようやく念校にたどりつき、頁が確定してから、索引をとるというこれまた、難儀な作業が最後に残り、これが、時間がかかる。

 


科研の刊行助成は2月中が締め切りであるが、この時期の印刷、とくに近年では製本が非常に混み合ってくる。通常であれば、印刷所にデータを渡してから、2週間みておけば見本となるのだが、そう順調にはいってくれない。2月10日までには、入れないと間に合わないこともあり得る。
ようやく見本を納めると、最近では、やたらと提出書類が多い。どの取次に何冊出荷したのか、伝票を示せ、著者に何冊送ってなどなど、また、請求書をもう一度提出せよ(しかし助成金額が決まっているのに、なぜもう一度、請求書が必要なのか分からないが)など、これにも手間がかかる。
以前は、科研の刊行助成は、筆者と版元の間だけで処理されていたものが、大学がすべて処理するようになった。このため、大学が請求書を提出せよと言ってくるようになったわけである。そもそも国の助成金になぜ、消費税があるのか、分からないのだが、こちらで請求書を出せば、何もしなくとも、内税ということになってしまう。ということは、消費税分が助成金から目減りするということである。これは、小出版社にとっては、かなり大きい。

などなどしている間に、今度は、3月の締め切りとなる。こちらは、2月にまして、各版元の決算期にあたるのか、毎年刊行点数が非常に多い。それと、年度末の締め切りの出版物がかさなるので、大混雑となる。印刷所との打ち合わせた日程で進行しないと、まず年度末には間に合わないことになってしまう。このため連日の綱渡りとなる。
しかし、なんとか締め切りに間に合っても、なぜか助成金の支払いは、3月末ではなく、4月末になっている。年度末までの支払ではなくていいようである。であれば、金額は決まっているのだから、締め切りをそれほど、厳格にする必要などないのではないだろうか。よく分からない。

ということで、以上のような状況が現在進行形のなか、この原稿を書くことになり、愚痴っているとしかいいようがないのであるが、なんとか手立てはないものだろうかと思う。
せめて、年度末という締め切りを、採択後、1年以内として、採択時期を2回にわけるとか、大学関係の助成金は、例えば、6月(9月)採択、翌年6月(9月)までに刊行とか、出来ないものであろうか。そうすれば、多少なりとも事態は改善するように思えるのだが。

だったら、そんな助成金に頼らない出版をすればいいではないか、とも言われそうだが、専門書で助成金をまったくナシで刊行するのは、現在非常に厳しいと思う。助成金で制作費がまるまる賄えるわけではなく、各社かつかつでやっているのではないだろうか。小社に限っていえば、助成金がついても、なるべく価格を抑え、一般書店でも買える価格を付けたいとすると、助成金の総額はどうしても低くなってしまうようになる。しかし、そうした本が一般書店で販売されて、手にとってもらえることが、知の下支えになるのではないかと思っているのだが。

 

石田俊一三元社 )●出版協理事

2017年1月16日 (月)

出版協プレゼンツ ブックデザイン講座

第3回

 

本づくりと聖書The Book)

 

日時/24(金)

1900分から (開場18時30分)

終了/20時30分頃 (予定)

 

●場所文京シビックセンター会議室

4階ホール

(文京区春日1丁目16番21号)

 

●講師桂川潤(かつらがわ・じゅん)

 

●参加費1,000円

 

【講師紹介】

 

装丁家、イラストレーター。1958年東京生まれ。立教大学大学院文学研究科修士課程修了。キリスト教系NGOや研究所の勤務を経て、1995年からブックデザイン(装丁)の仕事をはじめる。『吉村昭歴史小説集成』(岩波書店)の装丁で第44回(2010年)造本装幀コンクール日本書籍出版協会理事長賞(事典・全集部門)を受賞。「世界でもっとも美しい本」(於:ライプチヒ)等で展示される。著書に『本は物(モノ)である──装丁という仕事』(新曜社/2010年)、共著書に『本は、これから』(池澤夏樹=編/岩波新書/2010年)、『人権とキリスト教』(明治学院大学キリスト教研究所=編/教文館/1993年)、共訳書に『民衆神学を語る』(安炳茂=著/新教出版社/1992年)等がある。

 

【講座内容】

 

これまで桂川氏が装丁がけてきたには「本づくりと聖書」についてえさせられるものがいくつもあります。それらはキリスト教系出版社から刊行されたものばかりではありません。氏が「本づくり」をねながらえてきたこと、モノとしての本=書物としての聖書」からキリスト教自体を考えること、さらには電子書籍以降のこれからの「本」をめぐって講演していただきます

 

【懇親会】

 

講座のあとには懇親会を予定しております(参加自由)

 

【申し込み締め切り】

 

2月20日(月)事務局へメールまたはFAXでお願いします。

(定員60名で締め切りといたします)

申し込みの際には、懇親会参加の有無を併せお知らせください。

 

東京地裁による『日本会議の研究』販売差し止め決定に抗議する

『日本会議の研究』(菅野完著、扶桑社、2016年5月)で名誉を毀損されたとして、宗教団体元幹部の男性が販売差し止めなどを求めた仮処分申し立てで、東京地裁(関述之裁判長)は1月6日、名誉権の侵害を認め、当該本の販売を禁止する決定を出した。
 

地裁が問題としたのは、1970年代に同宗教団体青年会の機関紙拡大運動の中で、メンバーの学生らがサラ金にまで手を出して購入することを余儀なくされ、「結果、自殺者も出たという。しかし、そんなことはA〔仮処分申立人〕には馬耳東風であった」とのくだりで、「この部分は真実でない可能性が高く、販売を続けると、男性は重大かつ著しく回復困難な損害を被る」として、販売差し止めの判断を下したのである。

 

出版物の販売を差し止めるという行為は、憲法で保障された「言論・出版・表現の自由」を侵し、読者の「知る権利」を奪ってしまうものであるため、よほど慎重に扱わなければならない。従来の司法では、「一定の要件を満たしたときに限って、例外的に許される」とされてきたことを、いま一度思い起こすべきである。

 

しかるに今回の地裁の判断はあまりに粗雑で、説得力に欠けると言わざるをえない。「この部分は真実でない可能性が高く」という予断をもって、販売差し止めの「一定要件を満たした」ものなのだとすれば、およそ「自由な出版活動」「言論・出版・表現の自由」などは成立困難になってしまうであろう。
出版に携わる者の団体である日本出版者協議会は、今回の東京地裁決定に強く抗議するものである。

 

 

2016年12月27日 (火)

出版協『新刊選』2017年1月号 第51号(通巻275号)

1P…「世界一美しい本を作る男GS」に触発され考えた二、三の事柄

 
河野和徳彩流社 )●出版協理事
2P……出版協BOOKS/1月に出る本 
3P……出版協BOOKS/1月に出る本(2Pの続き)

「世界一美しい本を作る男GS」に触発され考えた 二、三の事柄

先日、池袋演芸場のまえでばったり梅原圓朝氏に会った。なんでも古書店組合の寄り合いがあったらしく、酔い醒ましに歩いて帰宅する途中という。この圓朝氏は氷川町(板橋)で古書店を営んでおり、近くに住んでいるわたしは店にお邪魔しては(焼酎の御相伴にあずかり)、「本」にまつわるよしなしごとを拝聴するのであった。
 
「しばらくでしたねぇ。ところで、東京藝術大学美術館・陳列館で、《世界一美しい本を作る男》として世に知られたゲルハルト・シュタイデルさんが差配する《Robert Frank: Books and Films, 1947-2016 in Tokyo》という展覧会(2016年11月11日~11月24日)が開かれていますが、ご覧になられましたか。この展覧会、学生が什器の製作から広報・宣伝まで裏方として働いていて観覧料が無料なんです。あなたも多忙でしょうが行ってみるといいですよ」
 
「ええ、ロバート・フランクのファンの友人からはその情報を聞いていたのですが、行こうと思いつつもなかなか時間がなくてまだなんです。シュタイデル氏の仕事は出版者たちに多くの示唆や刺激を与えてきたはずです。ドイツの地方都市、ゲッティンゲンに彼の会社がありますが、多くの作家やアーティストに支持され、世界中を飛びまわるシュタイデル氏です。ことに今回の展覧会では彼のその智慧を盗みたいものですね。また私的なことですが、わが故郷である紀州の熊野新聞社が協賛していて、大判の刷り物を印刷したようですね。シュタイデル氏も南紀・新宮にまで出張(校正)したとのこと。さらに藝大教授で新宮市出身の写真家・鈴木理策氏のトークイベントもあるようで楽しみです」
 
1968年、シュタイデル氏は18歳のとき会社を設立。当初は版画やポスター、のちにアート系書籍や文芸書なども手がけるようになった。多くの写真家やアーティスト、作家、美術館等を顧客に持ち、企画の打ち合わせには数年も待たねばならないほど多忙を極める。シュタイデル社は出版社とはいえ、本の製作(企画、組版・デザイン、印刷・製本)のすべてを自社で行い、版元と印刷会社と製本所が一緒になったような会社なのだ。
著者とは必ず会って打ち合わせをするシュタイデル氏は、紙の見本帖や束見本などを持参して、紙やインキを選び、本づくりについて提案をする。電話やメールで用を済ませることはない。その仕事ぶりは「職人」だ。作家から信頼を寄せられるのも当然といえる。

「今回の展覧会では、写真集『アメリカンズ』で成功をおさめたロバート・フランクが、写真から映画の製作に興味を移してフィクション(芝居)とドキュメンタリーのあいだに位置するような映像作品(それらは商業的成功を望んだものではない)を展示しています。とはいえ、写真であれ映画であれ、彼の作品を決定づける媒体(メディア)は結局、《ブック》なのです。会場入り口の天井からぶら下げられた多くの本とともに、製版や印刷、製本について細かく指示が書かれたゲラ刷りもたくさん展示されていました」と圓朝氏は話す。
 
これまではプリント(紙焼)の取り扱いの難しさもあって、なかなか展覧会が実現しなかったというフランクの作品だが、映像メディアに大きな影響を与えてきたフランクが、この展覧会では、新聞紙への印刷、そして終了とともにそれらを破棄することを了承したというのだ。それはまさに画期的な「できごと」である。
「展覧会用チラシには《シュタイデル氏への質問》が掲載されています。『良い本を作る条件があれば教えてください』という質問に対し、『良い作品+良いアイディア+良い紙+良い印刷+良い香り+良い装丁=良い本』と彼は述べていますが、この『良い』という語の意味はじつに多義的(アンビギュアス)で拳拳服膺すべきところではないでしょうか」と圓朝氏。
 
「おっしゃるように、この『良い』という形容詞が鍵語ですね。わたしも『良い』本づくりの要諦を考えるヒントのために、[出版協のイベントで]ブックデザイナーの鈴木一誌氏や祖父江慎氏、そして桂川潤氏(2017年2月実施予定)を講師に招きレクチャーを開きました。《tenor》(中身)と《vehicle》(器)について、また《noise》(余白等)について考えるなど、本の《物質性》へのこだわりを講師たちから学ぶという意図でした」
 
シュタイデル氏が作るのは、世界一「売れる」本ではなく世界一「美しい」本である。紙の質感(風合い、紙厚)、インキの匂い等、モノとしての本への愛、本づくりへの情熱、それらがベースにあって「出版」が具体化する。とはいえ、さまざまな「コスト」が生じる出版では、「利(益)」を生まねばならない。しかし、「それ」のみを追求すれば、おそらく想像できないような恐るべき陥穽が待ち受けている(だろう)。
 
河野和徳彩流社 )●出版協理事
出版協 『新刊選』2017年1月号 第51号(通巻275号)より
 

2016年12月13日 (火)

七つ森書館への不当判決に再度抗議する

日本出版者協議会加盟の出版社である七つ森書館が20125月に刊行した再刊本をめぐり、同年10月、これを「著作権侵害」だとして読売新聞東京本社が同社を訴えた訴訟で、東京地裁が読売勝訴の不当判決を下したことについては、当会の2014930日付声明「七つ森書館への不当判決に抗議する」に述べたとおりである。

 

その後、これを不服として七つ森側が控訴、上告したにもかかわらず、本年6月、最高裁はこれを棄却、七つ森書館は203万余円の賠償金支払いを余儀なくされた。
裁判の最大の争点は、20115月に両社が取り交わした出版契約書が有効かどうかにあった。読売側は、「社を代表する権限を有していなかった」社会部次長が署名・捺印した出版契約は無効であると主張し、七つ森側は、「読売本社が、H次長を代理人として本件出版契約を締結し、著者名を『読売社会部清武班』とする本再刊本の出版を承諾していたことは、まぎれもない事実である」と応じたのだが、司法は読売側のおかしな主張を全面的に認めてしまった格好である。

 

しかし、裁判の過程でこの元次長が、「私が独断でやった」「七つ森にうそをついた」と証言した(泥をかぶった)ことから、先の訴訟の地裁・高裁判決は、「無権限であるにもかかわらずそれを秘して締結手続を進めた」元次長の責任を指摘し、高裁判決では読売新聞社の「使用者責任」にも言及していた。

こうした経緯を経て、20156月、七つ森側が元次長とその使用者の読売新聞社に対し、2000万円の賠償責任を求めて提訴したのが、今回の裁判だった。

しかるに今回2016125日の東京地裁判決は、「七つ森側が読売側の指摘を受けた後、販売を強行して生じた損害は、読売社員の行為とは関係ない」などとして、七つ森側の請求を棄却したのである。

 

判決は、「契約」というものに対する市民感覚から大きく逸脱しているばかりでなく、小零細出版に対する大手メディアの出版妨害をまたしても追認したものであり、「不当判決」と言わざるをえない。

 

出版社82社で構成する日本出版者協議会は、きわめて不公正な今回の判決に強く抗議するものである。

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