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2012年11月30日 (金)

「Amazon Student」プログラムの中止に向けて

またか! という感じでアマゾンが「Amazon Student」と名づけた割引プログラムを開始した。「Amazon.co.jp」によると、「Amazon Student 本 10%ポイント還元」とうたって、和書(コミックと雑誌を除く)、洋書(雑誌を除く)について「Amazon Student会員なら、下記の対象書籍を購入すると、注文金額(税込)の10%分のAmazonポイントが還元されます」という。

アマゾンは2008年末にも、早稲田大学の学生、教職員、校友を対象に、アマゾンサイトでの和書購入について、通常より安く買える値引きサービスをはじめた。私たち(当時は流対協)はサービスの中止を求め、その後、このサービスは沙汰止みになった。……と思っていたのだが、今回は、一気に全ての学生を対象にした「10%ポイント還元」という値引きサービスの開始である。

私たち出版協は10月17日、高須会長はじめ5名が東京都目黒区のアマゾンジャパン社内で渡部一文メディア事業部門長らと面談し、同社に対して、「Amazon Student」プログラムの10%ポイント還元特典の速やかな中止を申し入れた(同時に以前にも申し入れたのだが、「Amazon.co.jp」の価格表示について、再販対象書籍については「定価」との表示にするよう改めて申し入れをした)。

席上私たちは、売上げトップの書店としての影響が大きいこと、日本国で営業する企業であれば日本国の法令規則や、公取委の指導による業界規則を遵守すべきとした上で、「Amazon Student」プログラムは明らかな値引きに当たり、景表法の景品にも該当しないはずだと指摘し、即時中止を求めた。
アマゾンの渡部氏からは「公取には話をしている」「ポイント以外も選べるようになっている」等の説明があったが、納得できるものではなく、明確な理由を示したうえで10月31日までに文書で回答するよう求めた申入書を渡し、面談を終えた。

10月31日、アマゾン側から渡部部門長名で文書回答が届いたのだが、申入書の内容に具体的に触れることなく、「申入書記載の事項に関して、弊サイトとしては個別の契約内容に関して貴会に対しご回答する立場にはないと考えておりますので、何卒ご理解賜りたく宜しくお願いいたします。」との内容。まったく誠意が感じられないものである。

私たちは、さっそく11月12日付で次の3点について説明するよう求めた再度の申し入れを行った。

「1.当会の申し入れの2点について、「個別の契約内容」とする根拠は何か。
2.「個別の契約内容」とは誰との何についての契約を指すのか。
(例えば、取次店との販売契約ならびに再販売価格維持契約などを指しているのか)
3.その「個別の契約」で、値引き販売が認められているのか。」

つい先日、こちらが期限を切った11月26日付でアマゾンからの回答が届いたが、「再販契約は弊サイトが特定の者と締結しているものであり」「弊サイトは、当該再販契約の当事者ではない貴会に対して、再販契約の内容やその解釈に関してご回答する立場にはなく、そのため貴会の申し入れに対する回答も控えさせていただきます。」との内容で、これ以上説明する気はないようだし、Student Programの中止に応じる気配もない。

私たちは、今や書籍小売業界のトップ企業(と言っても、アマゾンジャパン社は書籍部門の売り上げすら公表していないので推定だが)のアマゾンジャパン社の出版界全体に及ぼす影響は大きく、「ポイントによる値引き」(や「再販商品の『価格』表示」)を続けるなら、最低限、自らの正当性・合法性を説明する責任があると考えており、同社の誠実な回答、適切な対応を求め続けていく。

ただ、この間のやりとりで、アマゾンが私たちの申し入れを「再販契約の当事者でない」としていわば手続き論的に「門前払い」しているので、ここでいったん別方向から迫ってみたい。

アマゾンに言われるまでもなく、私たちはアマゾンとは再販契約を結んでいない。私たち出版社は取次店と再販契約を交わし、取次が再販契約を交わした小売店に卸すことで、再販売価格の維持が成立する。私たちは近々、アマゾンに商品を卸している取次店に対し、取次が再販契約を交わしたアマゾン側に、値引き行為である「Amazon Student」プログラムの中止を「契約当事者として」指導するよう強く求める申し入れを行うことにした。

それにしても、大手出版社から公式に「Amazon Student」プログラムに反対・抗議する声が上がらないのは寂しい。大手出版社関係者からは、再販制をなし崩しにする同プログラムへの怒りの声や、各版元が個別に担当者を通じて抗議しているとの情報が、非公式には伝わってくる。

それが公式な声として上がらないのは、一つは、大手でも売り上げの20%前後になるというアマゾンとの関係をギクシャクさせたくないという配慮、もう一つは、「値引きに反対」が読者に悪い印象を与えてしまうという危惧という二つの理由だと思われる。

確かに、私たちのアマゾンへの「Amazon Student」プログラム中止の申し入れを報じた新聞記事も「値引きに出版社が横やりを入れている」という印象を与える感があった。しかし、原則に帰ろう。出版についての最大の読者利益は「値引き販売」ではないはずだ。

今回のアマゾンの10%という高率のポイントサービスが、対抗上他の書店にも波及すれば、体力勝負の消耗戦となり、体力のない一般書店が立ち行かなくなる事態も起こりうるし、値引きの原資が取次店、出版社に転嫁されることも想定され、それは最終的には定価の値上げとなって、読者にツケが回っていくことになりかねない。

多様な出版物が刊行され豊かな出版文化を生み、誰もが出版物に全国一律に妥当な価格で地域的格差なしにアクセスできること──それこそが、読者にとっての根本的な利益であると思う。そこに出版物の再販制が寄与してきた役割の大きさを改めて訴えつつ、私たちは「Amazon Student」プログラムが中止されるまで、さらに働きかけを続けていく。

水野久晩成書房)●出版協副会長

出版協 『新刊選』
2012年12月号 第2号(通巻226号)より

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