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2013年3月 1日 (金)

「Amazon Student プログラム」申し入れその後

アマゾンジャパン社に「Amazon Student プログラム」10%ポイント還元特典という値引き販売の速やかな中止の申し入れを行ったのは、2012年10月17日。10月1日に法人化を果たした出版協としての初仕事となった。

アマゾンジャパン社からは「個別の契約内容に関して貴会に対しご回答する立場にはない」(10月31日)との、極めて不誠実な回答。誠実な回答を求めた再度の申し入れ(11月12日)に対しても、「再販契約は弊サイトが特定の者と締結しているもの」「弊サイトは、当該再販契約の当事者ではない貴会に対して、再販契約の内容やその解釈に関してご回答する立場にはなく」回答を控える(11月26日)と、埒が明かない。

このやりとりを経て、私たちは取次店に、具体的にはアマゾンの主要仕入れ先(アマゾンの言う「再販契約の当事者」)の日販と大阪屋に、アマゾンとの再販契約をしていることの確認と、その上でアマゾンに値引き販売を中止するよう指導することを求める申し入れを行った(12月5日)。

この申入れで私たちは、取次2社に対し、アマゾンとの再販契約の存在確認とともに、契約の相手も明らかにするように求めている。アマゾンジャパン社の回答の中で、再販契約について語るとき、「弊社」とせず「弊サイト」としていることに着目したからだ。読者が日本の出版物を購入するのは「Amazon.co.jp」のサイトからであり、「Amazon Student プログラム」の中止(=再販契約の順守)についても求める先はアマゾンジャパン社と考えて私たちは同社に申し入れを行ったわけだが、アマゾンジャパン社の言い分は「再販契約は弊サイト(弊社、ではない!)が特定の者(これは取次だろう)と締結しているもの」ということなのだ。

確かに、アマゾンで書籍(等)を購入した際の領収書を見せてもらうと、大きく「Amazon.co.jp」のロゴが入っているが、領収者の欄に小さい字で印字されているのは、アマゾンジャパン社ではなく「Amazon.com Int’l Sales,Inc」となっていて、住所もアメリカのシアトルになっている。つまりアマゾンジャパン社は、購入の申込みサイト、商品の配送を行っているだけで、商取引の主体は「Amazon.com Int’l Sales,Inc」なのだろう。今後のことを考え、この点の確認を取次に求めたのだ。

取次2社から正式な回答はまだないが、日販の担当者からは概ね以下のような情報が伝わっている。

(1)日販は「Amazon.com Int’l Sales,Inc」と再販売価格維持契約書を締結している。
(2)「Amazon.com Int’l Sales,Inc」はアマゾンジャパン社に業務を委託。
(3)「Amazon.com Int’l Sales,Inc」と日販の契約を、アマゾンジャパン社との取引においても適用する旨を合意。
(4)アマゾンジャパン社に「Amazon Student プログラム」は再販契約に抵触するという出版者からの指摘がある旨を通知し、協議した。
(5)アマゾンとは以前から再販商品へのポイント付与の問題について議論を重ねてきたが、解決には困難な点がある。

また、大阪屋担当者からの情報は概ね以下の通りだ。

(1)アマゾンとは守秘義務契約を結んでおり、再販売価格維持契約の有無・内容についてコメントは本来はできない。
(2)ただし出版社との再販売価格維持契約を順守した形でアマゾンと契約を結んでいる。
(3)再販違反の認定は、大阪屋としては出来ない。個々の出版社の再販違反認定を受けて、指導通知するものと認識。
(4)アマゾンには現状認識等の確認をし、値引きではなく「景品のひとつ」との回答を得ている。
(5)個々の出版社の再販違反認定、及び出荷停止指示を受けて出荷停止する事は可能だし、出版社から指示があればそれに従う旨、アマゾンには説明している。

日販は「Amazon.com Int’l Sales,Inc」と再販売価格維持契約書を締結していることを明らかにしているが、大阪屋は「守秘義務」により相手はおろか再販売価格維持契約の有無も言えないらしい。本筋からはずれるが、アマゾンとのやりとりは何かと「秘密」がつきまとう。電子書籍の販売契約にあたっても各社に「守秘義務」を求めているし、何より、業界最大手になったと推測される今も書籍の販売高も明らかにしていない。アマゾンは「会社の大小や売上高は読者に関係がないから」(10月17日の申し入れの際の発言)と言うが、情報の透明性が求められる時代に逆行している。

両社には早く正式回答するように求めているが、いずれも自社としての「Amazon Student プログラム」への判断(値引き行為かどうか)は避け、判断、対応ともに出版社に下駄を預ける内容になりそうだ。

しかし、やはり取次は再販売価格維持契約の当事者としてきちんとアマゾンと対応することを求めたい。再販制は「版元—取次」「取次—小売店」という二段構えの契約で維持されるわけで、小売店の値引きに対し、直接「契約違反」を言えるのは取次のはずだ。

契約内容を明らかにしていないので、参考例として書協版の「再販売価格維持契約(取次—小売)」ひな形には、小売店は「割り引きに類する行為はしない」ことが記され、それに違反した場合は取次は小売店に「警告し、違約金の請求、期限付きの取引停止の措置をとることができる」とされている。それも、出版社の指示がなければ出来ないのではなく、取次は措置をとる前に「事前に出版業者の諒承を得るものとする」としている。あくまで参考例だが、再販維持契約を結んでいる以上、当然その契約に違反しているかどうかは、契約当事者が判断すべきではないかと、率直に思う。

もちろん、我々出版社の判断は最終的に尊重されるべきだが。

これ以上は、正式な回答を待って今後の取り組みを展開するが、粘り強く、知恵を絞って、再販制を守るよう求め続けていくつもりだ。

この問題にあたっていて思うのは、出版物の再販制については、繰り返しその必要性を広くアピール誌続ける必要があるということだ。アマゾンへの申入れを伝える新聞報道にも、「読者にポイントサービスするアマゾンに、出版社が横やり」の印象が含まれていた。

出版物については「低価格」のみが読者利益ではない。再販制により全国一律の価格で地域格差なく出版物が流通し、文化に公平にアクセスする機会を保障していることを何度でも説明すべきだ。また再販制が、多彩な出版活動の支えになっていること、多様な出版物が生まれ、流通することが、文化的に最大の読者利益であることを言うべきだ。何度でも。

現在の再販制は「公正な価格競争=読者利益」を守る独禁法の「除外規定」という、いわば「消極的なかたち」での法的根拠で維持されている。ことは文化の問題だ。文化の保護・発展の観点からの「積極的なかたち」での「出版物価格維持法」のような法的根拠を求めたいと強く思う。

水野 久晩成書房)●出版協副会長

出版協 『新刊選』
2013年3月号 第5号(通巻229号)より

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