著作権隣接権から設定出版権の拡大への転換
去る5月29日に出版者への権利付与等を検討する文化審議会著作権分科会出版関連小委員会の第2回委員会が開催された。この日の委員会は、第1回委員会で事務局から提案された「『出版者への権利付与等』についての方策」について、関連11団体からのヒアリングを行い、権利付与の方向を決定する場であった。
「『出版者への権利付与等』についての方策」は、(A)著作隣接権の創設、(B)電子書籍に対応した出版権の整備、(C)訴権の付与(独占的ライセンシーへの差止請求権の付与の制度化)、(D)契約による対応、の4方策である。これら4方策は、文科省の「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」で検討され見送られた内容である。この検討会議では、出版界が出版者への権利付与を著作隣接権として実現することを明確に説得的に主張しなかったことが、見送りの原因ともなった。
これを受け、書協首脳が継続審議を文化庁に働きかける一方、2012年2月に衆議院議員の中川正春元文科副大臣(民主党)ら議員を中心に「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」が立ち上げられたのを機会に、議員立法による著作隣接権の制定を目指し、「出版物に係る権利(仮称)法制度骨子案」という形で具体的提言が打ち出された。
出版協は、「骨子案の問題点は、出版物として最初に固定した出版者の権利を守ろうというのではなく、出版者の権利を出版物に係る権利に置き換え、新たに組み直せば別の出版物原版となり、先行する出版物原版の権利が及ばないとの構成をとったところにある。そこには電子出版の流通促進という名分を借りて、文庫化が簡単にできるという文庫出版社の戦略が垣間見える。しかしこれでは競合出版と海賊出版を可能にし、アマゾンなど電子書店に出版物原版を奪われ、また出版物原版の真偽をめぐる紛争、裁判沙汰を蔓延させる可能性さえある。」「最初に発行した出版者へのリスペクトが皆無なのである」(高須次郎「日本出版者協議会の発足とその課題」『出版ニュース』2013年1月上・中旬号)等と骨子案の問題点を指摘し、練り直しを求めたが、そうはいかなかった。また設定出版権の電子出版への拡大を論文等で示唆していた文化庁の前次長吉田大輔氏の骨子案への批判も妥当なもので、「吉田氏の電子出版権の立場はとらないが、同感である」(同『出版ニュース』)と考え、出版協としては骨子案から離脱し、設定出版権の電子への拡大への方針転換を検討しはじめた。
「『出版者への権利付与等』についての方策」は、(A)著作隣接権の創設、(B)電子書籍に対応した出版権の整備、(C)訴権の付与(独占的ライセンシーへの差止請求権の付与の制度化)、(D)契約による対応、の4方策である。これら4方策は、文科省の「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」で検討され見送られた内容である。この検討会議では、出版界が出版者への権利付与を著作隣接権として実現することを明確に説得的に主張しなかったことが、見送りの原因ともなった。
これを受け、書協首脳が継続審議を文化庁に働きかける一方、2012年2月に衆議院議員の中川正春元文科副大臣(民主党)ら議員を中心に「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」が立ち上げられたのを機会に、議員立法による著作隣接権の制定を目指し、「出版物に係る権利(仮称)法制度骨子案」という形で具体的提言が打ち出された。
出版協は、「骨子案の問題点は、出版物として最初に固定した出版者の権利を守ろうというのではなく、出版者の権利を出版物に係る権利に置き換え、新たに組み直せば別の出版物原版となり、先行する出版物原版の権利が及ばないとの構成をとったところにある。そこには電子出版の流通促進という名分を借りて、文庫化が簡単にできるという文庫出版社の戦略が垣間見える。しかしこれでは競合出版と海賊出版を可能にし、アマゾンなど電子書店に出版物原版を奪われ、また出版物原版の真偽をめぐる紛争、裁判沙汰を蔓延させる可能性さえある。」「最初に発行した出版者へのリスペクトが皆無なのである」(高須次郎「日本出版者協議会の発足とその課題」『出版ニュース』2013年1月上・中旬号)等と骨子案の問題点を指摘し、練り直しを求めたが、そうはいかなかった。また設定出版権の電子出版への拡大を論文等で示唆していた文化庁の前次長吉田大輔氏の骨子案への批判も妥当なもので、「吉田氏の電子出版権の立場はとらないが、同感である」(同『出版ニュース』)と考え、出版協としては骨子案から離脱し、設定出版権の電子への拡大への方針転換を検討しはじめた。
こうしたなか2月19日に日本経団連が「電子書籍の流通と利用の促進に資する『電子出版権』の新設を求める」政策提言が打ち出され、3月13日の中川勉強会ガイドライン委員会に提言の説明に招かれた経団連に対し、「現行の紙の設定出版権にも第三者への再利用許諾(サブライセンス)を付与すること」を要望した。これを受け、書協や中川勉強会の内部では、骨子案で行くのか、設定出版権の電子出版への拡大で行くのかで意見が分かれた。中川勉強会は、急遽、隣接権に批判的な中山信弘東大名誉教授らの著作権学者に検討を依頼、同研究会から、電子出版等への「現行出版権の拡張・再構成」を内容とする「出版者の権利のあり方に関する提言」が打ち出された。この提言を4月4日に開催された第7回中川勉強会で諒承、中川勉強会の最終提言として、立法化するよう文化審議会著作権分科会へ提出した。出版協もこの勉強会に正式メンバーとして参加、中山提言を指示する旨の意見を表明した。
こうした紆余曲折を経て、5月13日に、著作権分科会出版関連小委員会の第1回会議が開催され、この会議で日本印刷産業協会(提出資料 )、日本漫画家協会、書協 (提出資料 )がヒアリングを受け、日本印刷産業協会は経団連案を、書協は中山提言をそれぞれ支持し、漫画家協会は隣接権には反対だが現行出版権の拡大には話し合いの余地はあるとしながらも法改正に疑問とした。
そして29日の第2回会議を迎え、日本文藝家協会をはじめ11団体が次々にヒアリングを受けた。
日本文藝家協会や日本美術著作権連合 (提出資料)は、現行法での対処を優先すべきで、新たな法制化には慎重で、Dの個別契約で対処できるとした。インターネットユーザー協会(提出資料 )もD案を支持した。日本美術著作権連合は、「著作権者の権利と利益を現状より縮小しないと約束する」など3条件を約束するなら、「(B)電子書籍に対応した出版権の整備」を考える余地はあるとした。日本写真著作権協会(提出資料)、新聞協会、読者利用者側の主婦連合会 (提出資料)がB案を支持したのをはじめ、他の団体は、中山提言、経済団連案のニュアンスの違いはあるものの、B案を支持した。出版協もB案の中山提言を支持した(提出書類)。日本楽譜出版協会(提出資料)は、クラシック楽譜などのコピー被害が著しいため、従来通りAの著作隣接権案を支持した。また電子出版制作・流通協議会 (提出資料 )からは特に態度表明がなかった。
ヒアリングの印象では、B案支持が大勢を占めた。小委員会委員間の討論の後、委員会主査の土井一史日大大学院知的財産研究科教授が、意見を集約し、小委員会としては「(B)電子書籍に対応した出版権の整備」を軸に今後検討していくことが決まった。
中山提言は、著作者との契約により設定される現行出版権を、電子出版に及ぶように著作権法を改正するものである。具体的には、(1)現行設定出版権における出版者による再許諾不可を改め、特約なき限り再許諾可とし、一次出版の後の他社での文庫化や、多数のプラットフォームでの配信などに出版者が対応できるようにする。また、(2)当事者の特約により、特定の版面に対象を限定した上で、その複写利用などにも拡張し、企業内複製やイントラネットでの利用許諾に対応できるようにする。などを骨子としている。
今後は、中山案の(2)の論点を中心に、(1)のうちの出版者に紙の再利用許諾を付与することなどが主な論点となりながら、中山案を軸に日本経団連案を含め議論が交わされていく模様だ。
出版協としては、設定出版権の電子出版への拡大案は、著作隣接権とは似て非なる「出版物に係る権利(仮称)法制度骨子案」よりは、ましであると判断して、B案を採った。しかし設定出版権の拡大に方針を切り替えたことで、保護の埒外になってしまった、著作権保護期間切れの出版物を新たに組み直したり、復刻や翻刻して出版物の刊行した出版者を、EU並みに保護するなどの対策を求めることが重要である。紙の再利用許諾は文庫化の対応策として必要なことはいうまでもない。
出版協 『新刊選』
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