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2013年7月 5日 (金)

STOP! Amazon Studentプログラム!

アマゾンがAmazon Studentプログラムと銘打って、10%のポイントサービスを始めて1年近くになる。昨年秋、10月11月と2度にわたって、私たちはアマゾンジャパン社に、10%ポイントサービスは明らかな値引きであり、再販契約に違反しているのは明らかなので、中止するよう申し入れた。

11月下旬までにアマゾンジャパン社から答えはあったものの、「契約当事者でないので答える立場にない」というもの。当初我々は、契約当事者でないとういうのは私たち出版協を指しているのかと思った。再販契約は〈版元-取次〉〈取次-小売〉の二段階で成り立っており、アマゾンが再販契約を結ぶ相手は私たち出版社ではなく、取次店だからだ。それにしては「答える立場にない」というのは変な言い方だ。そこで、Amazon.co.jpのサイトで本を買った人に領収書を見せてもらうと、冒頭に大きくAmazon.co.jpのロゴが表示されてはいるが、「領収者」の欄に小さい字で記載されているのは、アマゾンジャパン社ではなくAmazon.com Int'l Sales, Inc. の名とアメリカ・シアトルの住所なのだ。

これを踏まえて12月初頭、私たちは、アマゾンとの「契約当事者」である取次店(日販・大阪屋)に、アマゾンとの再販契約があることの確認とアマゾン側の契約者の確認を求めたうえで、アマゾンとの契約当事者である取次店から、値引きであるAmazon Studentプログラムを中止するようアマゾンに強く指導するよう申し入れた。

3月までの取次2社からの回答等で明らかになったのは、再販契約はAmazon.com Int'l Sales, Inc. との間で結んでおり、契約内容は「守秘義務」があり明らかにできないが、ほぼ書協によるひな型に沿った内容であること。出版社側が値引きであると考え、サービスの中止を求めていることは伝えたが、値引きの判定および「出荷停止」などの対抗措置は取次店の判断では行えない。版元が値引きだという判断に立って「出荷停止」を決めれば、取次店はそれに従う、というもの。

やっぱりアマゾンジャパン社自身も契約当事者ではなかったのだ。すると、私たちが取次店に収めた本はアメリカに輸出されていたのか? 輸出した本がまた輸入されて国内で販売されるのか? 素朴な疑問が浮かぶ。そして、ここでも出てきた「守秘義務」。アマゾンはこんなに多くの人が利用しているのに、書籍の売り上げ額も公表していない。電子書籍の配信契約に当たっても「守秘義務」が話題になった。秘密の多い会社だな、と感じる。

私たちが申入れの際に面談した折、売り上げの非公開の理由を尋ねると「会社の売り上げや大きさは、個別の読者に関係がない」とのこと。そうかもしれないが、業界第一位[推定]の企業として、情報公開や法令順守が求められると釘を刺した。

そうこうしている内に、3月25日から約1か月間、新学期に合わせてアマゾンは期間限定で15%のポイント付与実施。

4月10日、私たちは公正取引委員会と面談。ポイントサービスは値引きであるとした公取の判断に変更がないか確認。変更なしと公取。Amazon Studentプログラムの10%ポイント付与は、許されるべき「お楽しみ程度」の範囲を越えた値引きといえるだろうが、「再販契約」は民間同士の契約で、それに違反するどうか、判断するのは当事者間の問題だと。

また、以前はこうしたサービスについて独禁法の適用除外としての再販維持に関わる「値引き」なのか、景表法の「景品」(値引きではない)に当たるのか、ともに公取が判断していたが、消費者庁ができてからは「景表法」は同庁の管轄になったので、公取委では「値引きか景品か」というような判断はしない……とのこと。

アマゾンが売り上げを伸ばしていることに着目はしているが、競争を阻害するような寡占の状態でなければ、公正な競争の上で企業が発展することは当然問題にならない。輸出入や税金の問題は財務省、国内の出版産業の保護・発展は経済産業省の管轄と縦割り行政はそっけない。

公取委との面談後、4月24日、確認の意味で消費者庁と面談。ポイントは例外として景表法から除外。ただし、商品と選択できるのであれば景品となり景表法の扱いになるが、一般的に20%以内とされているのでAmazon Studentプログラムの10%は問題にならない。「出版物の公正競争規約」で7%という上限が示されているが、それは小売公取協の会員のみ有効で、会員外のアマゾンは拘束されない。消費者庁としては、値引きは基本的に消費者の利益を損なわないという考え方。出版物の再販制や、小売書店の保護が結果的に消費者の利益につながるというような大枠は、役所でできることの枠を越えているとのこと。

結局、再販制を守るのは他ならぬ私たち出版社が、値引きは許さない、値引きをするなら品物は渡せないということしか、具体的に取れる手段はないということがくっきりと浮かび上がってくる。

これらの経過を経て、理事会では以下の2点を確認する。
(1)改めて、再販契約当事者であるAmazon.com Int'l Sales, Inc.宛に、値引きであるAmazon Studentプログラムの中止を申入れ、中止されない場合は出荷停止も考慮せざるを得ない旨通告する。
(2)取次店には、出版社側が同プログラムを値引きと判断していることを伝え、同プログラムを中止するようさらに強く文書で警告するよう求める。

6月6日、まずアマゾンに申入れ。アマゾンジャパン社に赴き、Amazon.com Int'l Sales, Inc. へ申入れ書を手渡し、その伝達と、7月1日までの回答を要請する。アマゾンジャパン社側は、了解したうえで、Amazon Studentプログラムが「学生にもっと本を読んでほしい」という思いから始まったこと、しかしAmazon Studentプログラムの効果は予想を下回っており、15%に率を上げた新学期期も、通常の年の教科書需要による増加を越えるものでなかったことを明らかにした。

学生にもっと本を読んでほしいとの思いは共有できても、それを値引き=ポイントサービスに結びつけたことが問題と反論する。

6月12日日販、13日大阪屋に赴き、Amazon.com Int'l Sales, Inc. へ申入れをしたことを報告。書店では業界トップのアマゾンの値引き行為が再販制をなし崩しにし、値引きに対抗できない小売書店をさらに困難な状況に追い込み淘汰してしまうことの、出版業・出版文化全体に与える影響の大きさを考え、取次店としてさらに強力にAmazon Studentプログラムを中止するように文書で申し入れることを要請し、両取次店も回答することを了解した。なおここで、両取次店の納品・請求先はアマゾンジャパン社であり、取次店は「輸出」ではなく通常の国内取引だということが明らかになった。

6月26日には書協の再販委員会のメンバーと会合。この間の私たちの動きを報告するとともに、これから先は出版協会員社が具体的行動をとらざるを得ない局面も見据えての対応をすることへの理解を求めた。書協再販委メンバーからは共感は得たが、独禁法に触れるような団体としての行動はとれず、会員各社の判断によることになるとのこと。
駆け足で振り返ってみた。

これまでのアマゾンとのやりとりを考えると、申入れの回答期限とした7月1日を守る形で回答が来るだろう。

7月8日、私たちはアマゾンの回答に対し、会として、またそれぞれの会員社として、どう次の行動をとるかを討議する会員集会を開くことにしている。Amazon Studentプログラムが予想外に伸び悩むなかで、09年の早稲田カード(早稲田の学生・関係者限定の8%ポイントサービス)の時のように、アマゾンが自主的にサービスを終了してくれれば申し分なしだが……期待はできそうにない。私たち出版社側の、再販制を守る決意を確認する集会になりそうな予感である。

水野久(晩成書房●出版協副会長
出版協 『新刊選』
2013年7月号 第9号(通巻233号)より
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