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2013年8月

2013年8月28日 (水)

ポイントカードによる値引き販売に反対します●読者、書店、取次店、出版社の皆様へ

●声明●

ポイントカードによる値引き販売に反対します

──読者、書店、取次店、出版社の皆様へ

2013年8月28日


学問芸術といった人間の知的創造物である著作物を書籍・雑誌・新聞などによって伝達していく行為は、一国の学問芸術、文化の普及ないしその水準の維持に欠かせないもので、多種多様な著作物が全国に広範に普及されることが求められています。しかも、それらは国民に均等に享受されるべきであり、離島・山間・僻地などを理由に価格差があったりしてはならず、全国どこでも同じ値段で知識や文化にアクセスできることが、民主社会の公正・公平な発展に役立つと考えられています。
その意味で、再販売価格維持制度は、著作物の普及という文化的、公共的、教育的役割を実現していくのに適しているとされ、独禁法制定以前からこうした商慣習があったこともあり、著作物については例外的に許されています。そして著作物再販制度のもとに、出版社、取次店、書店は再販契約を結び、その遵守を約しています。

この再販制度=定価販売によって、本の定価は物価の優等生といわれるほど他の物と比べて安定ないし下落し、いたずらな値引き競争による書店等の倒産廃業を防止してきました。また、返品可能な委託販売制度と相俟って、出版物の安定的な再生産を確保し、出版社はもとより取次店、書店がそれぞれの一定に利益幅が見通せることによって、多様な企画が形成される基盤を保障し、小資本でも出版社を立ち上げ、書店を開業出来る状態を維持してきました。このように本の再販制度は、出版物の多様性と読者の知へのアクセスを保障し、言論・表現の自由という私たちの社会のもっとも基本的な価値を守ってきたわけです。

しかし今、この本の再販制度を内部から崩壊させかねない由々しき事態が進行しています。ポイントカード(ポイントサービス)問題です。「Amazon Student」プログラムの10%ポイント還元に象徴されるように、高率のポイント還元が出現し、いまやさまざまな書店でポイント合戦が展開されています。

ポイントカードについて、公正取引委員会は、1999年12月28日の「著作物再販制度下における関係業界の流通・取引慣行改善等の取組状況について」で、「ポイントカードは実質的に値引きと同一の効果を有するもの」であるとし、また2001年3月26日には糸田省吾公正取引員も「実質的値引きで再販契約違反」と明言しています。

そして、その「ポイントカードの提供が、再販価格維持行為について定めた事業者間の契約に反するかどうかについては、当該事業者間において判断されるべき問題である」(大脇雅子参議院議員の質問主意書に対する2001年7月31日付け小泉内閣総理大臣の答弁書)と答弁して、公取委は、最終的には再販販売価格維持行為の主体である出版社にその判断決定をまかせると指示しています。但し、1%といったお楽しみ程度のポイントカードを止めさせるのは、一般消費者の利益を不当に害する畏れがあるとしています。

これを受け、出版協はポイントカードが再販契約に違反する値引きであることを表明し、再販契約を結んでいる書店がポイントカードを提供することは、他の再販契約を遵守している書店を一方的に不利な立場に追いこみ、契約を守り法規を守る「正直者が馬鹿をみる」結果となっているだけでなく、被害書店を廃業にまで追い込むものとして、この10年来、その中止を求めてきました。

しかるに、ポイント合戦がさらに拡大すれば、書店経営はますます圧迫され、倒産廃業を加速化し、出版社に転嫁されるポイント原資は出版社の経営も圧迫するだけでなく、結局、カバープライスの値上げを招来し、読者は最終的に、高いものを買わされることになります。

20年以上にわたる廃止反対運動によって、ようやく著作物再販制度の存続が確定したにも拘わらず、このような事態を放置すれば、本の再販制度は内部から崩壊してしまうことは必至です。

読者の皆様には、出版物の再販制度の重要性とポイントサービスが本には相応しくないことをご理解いただきたいと思います。

また、出版に関わるあらゆる現場で再販制度を遵守する取り組みがされるべきであり、とりわけ出版社は本の法定再販制度の主体として、ポイントサービスから自社商品の除外を求めるなど、自らの意志で創意工夫をしてポイントカードによる値引き販売に反対し、本の再販制度を守りましょう。

2013年8月16日 (金)

ポイントカードは読者・消費者の利益になるのでしょうか?

ポイントカードは読者・消費者の利益になるのでしょうか?


今はどんなところでも商品を買うとポイントカードがついてきます。貯まればあとで使えてちょっと得をした気分になります。もう少しで500円分となると、思わずそこで買い物をしたりしてしまいます。すごいのになると同じ店ですぐ使えるところもあります。でも私たちは本のポイントカードには反対なのです。読者・消費者のそんなささやかな楽しみに反対なんて、ちょっとおかしいんじゃないの? と言われそうですが、本については反対なのです。それはなぜか? 私たちの言い分も聞いてください。

Q 本や雑誌は、どうして定価販売なの? ずるくない?

A 同じものなら東京でも札幌でも沖縄でも同じ定価。他の商品は、安売りありでいろいろな価格がついているのにおかしく思われるのもわかります。

実は本や雑誌などは出版社が書店などに対し定価販売をさせること、つまり値引き販売をさせないことを独占禁止法(独禁法)の例外として許されているからです。再販売価格維持制度(再販制度)と呼ばれるこの制度は、メーカーが小売価格を決定・拘束できるため、縦のカルテルと呼ばれ、本来は消費者の利益にならないことが多いので、自由経済では原則違法とされています。しかし、文化的な配慮などから著作物についてだけ独禁法で例外的に認められています。公正取引委員会が認めている著作物は、他に新聞、レコード盤・音楽用テープ・音楽用CDがあります。出版社は取次店(問屋)を通じて書店と再販売価格維持契約を結んで、定価販売を行っています。

Q どういう理由で許されているの?

書籍・雑誌・新聞などの著作物は一国の学問芸術、文化の普及ないしその水準の維持に欠かせないもので、多種多様な著作物が全国的に広範に普及される必要があり、それらは均等に享受されるべきであり、離島・山間・僻地などを理由に価格差があったりしてはならないと考えられています。再販制度は、著作物の普及という文化的、公共的、教育的役割を実現していくのに適しているとされ、独禁法制定以前からこのような商慣習があったこともあり、例外的に許されているわけです。この再販制度により国民は、全国どこでも同じ値段で知識や文化を享受することが可能となり、民主社会の公正・公平な発展に役立つと考えられています。

Q 再販制度で本の値段を出版社が勝手に決められることで、本の値段が高くなっているってことはないの?

A  そう思うのが普通ですね。ところが本は物価の優等生といわれるほど他の商品に比べとても安いのです。2012年現在新刊書籍の平均定価は2278円で1996年の2609円に比べて13%減、消費税を含めると16%減です(出版年鑑2013年版「新刊書籍30年間対比部門別平均定価」)。同じ年で公共料金をみますと、郵便はがきが41円から50円(+21%)、新幹線(東京〜大阪)が13480円から14050円(+4.2%)、都バスが160円から200円(+25%)、朝日新聞購読料1カ月が2800円から3925円(+40%)に値上がりしています。本はまさにデフレ価格なのです。

本は、文学作品など人間の知的創造物を本という媒体に載せて伝達するわけで、価格は著者の印税や印刷製本などの生産費に一定のマージンを加えて算出されています。小説や論文そのものに値付けをしているわけではありません。読者に人気の文学作品などをみれば、人気があるほど定価が安くなる傾向があります。

Q ポイントカードはせいぜい3%から5%くらいなのだから、読者サービスでいいんじゃない?

A 1998年ころ東京の神田駅近くに進出した全国チェーン書店が当時もっとも値引き率の高い5%のポイントカードを始めました。近くの小さな書店さんたちも対抗上、やむなくポイントカードを始めました。どうなったかといいますと、小さな書店さんは続けられなくなってお店を閉めてしまいました。その後、大きな書店も撤退してしまい、地域の読者にとって不便な結果となりました。もともと書店のマージンはとても少なく、とくに小さな書店さんほど不利なのです。

Q ポイントカードに出版業界が反対しているのはわかったけど、公正取引委員会はどう考えているの?

A 公正取引委員会は、ポイントカードは値引きにあたると判断しています。しかしポイントサービスによる値引きが再販契約違反するかどうかは、出版社が判断し、契約当事者間で解決しなさいとしています(大脇雅子参議院議員の質問主意書に対する2001年(平成13年)7月31日付小泉首相の答弁書)。しかし、お楽しみ程度といえる1%程度のポイントサービスについてまで、再販契約に違反する値引きだといって出版社が止めさせようとするのは、消費者利益に反するので問題だとしています。

長期の出版不況のなかで一般書店は、0.2〜0.3%程度の営業利益しかなく(「2012年書店経営指標」日販調べ)、街の小さな書店になるほど営業利益で赤字(売上5000万円未満だと−2%の赤字=トーハン調べ)です。1%のポイントサービスすらできないのが現状です。ポイントサービスをしている全国チェーンの書店でもほとんどは1%です。

Q アマゾンのポイントサービスをなぜ問題にするの?

A アマゾンの「Amazon Studentプログラム」は、対象を学生に限定にしていますが、そのポイントは10%という高率です。これがすべての読者に拡大すると書店への影響は決定的になります。すでに書店間のポイントサービス合戦を誘発しつつあります。出版不況で書店数も減り続け、ピークの2000年12月の2万3776店から倒産廃業が続き約4割減少し2013年5月には1万4241店となっています。いくつもの有名全国チェーンが経営危機になり、印刷資本や取次店の傘下になるくらいです。

アマゾンは、一般書店、ネット書店のなかでトップの売上高をあげていることは確実で、その影響は大きなものがあり、10%ポイントカードは、日本の書店に壊滅的影響を与えることは必至です。

アマゾンには、トップ企業としての社会的責任として、再販契約のルール、業界ルールを守ってもらいたいと思います。

Q 自由競争なのだから、強いところが勝つのが当たり前だし、読者としては安く手に入るに越したことはないんですけど。


A 業界紙によると最近、紀伊國屋書店の社長さんや大手出版社などが加盟する日本書籍出版協会が、「アマゾンは消費税も法人税も払っていない。一般書店は両方支払っている。これでは不公平で、競争に成らない」と問題にしています。競争はあくまで公平で公正なルールのなかで行われるべきではないでしょうか?


Q ポイントカードが広まることは読者にとってはいいことばかりだと思います。何か損になるのですか?


A ポイントカードが広まると、書店は値引きの経済的負担を出版社に求めるようになることは必至です。それらの負担分が価格に転嫁され本の値段が上がってしまいます。これでは、読者=消費者の利益にならないと思います。


しかもポイントカードによる値引きが蔓延すると、定価販売という再販制度が事実上不要ということになってしまいます。定価販売がなくなれば、当然、値引きされることを前提に表示価格(カバープライス)は高く設定されることになると考えるのが自然です。


価格の問題にとどまらず、売れない専門書などは市場原理で値段を叩かれるなどの事態が起こり、ますます出版がしにくくなり、出版文化の要ともいえる出版物の多様性が失われて、知識や文化の伝播機能が低下してしまう恐れがあります。現在でも、新古書店やネット書店でのユーズド本の流通、図書館貸し出しの増大、不正コピーの横行など複合的な要因による出版不況の長期化で、出版社はピークの
1997 年4612社から2013年には3676社へと、2割が消えてなくなりました。ここに再販制度の崩壊が加われば出版社数はさらに減少するでしょう。これでは、わが国の出版文化を支えてきた本の多様性を守ることは困難になります。

目先のポイントによる値引きをとるか、全国同一の安定した値段と出版物の多様性をとるか、本当はどちらが得なのでしょうか? 私たちはもちろん、後者こそが本来の「読者利益」であると思うのです。


私たち一般社団法人日本出版者協議会は、再販制度を守るためにポイントカードに反対しています。また自分たちの発行する本はポイントカードの対象から外すよう求めています。ぜひご理解ください。

2013年8月7日)

これは、出版協が読者向けに再販制度の必要性、ポイントカードの問題点をまとめたもの。7日の記者会見で発表、会員各社が、自社の書籍に挟み込むリーフレットにしたり、各社のHPにアップしたりするために、作られたものです。

2013年8月 9日 (金)

Amazonへの要望書

要望書●実例

貴社ポイントサービスから小社商品の除外を求めます

2013年8月6日

Amazon.com Int'l Sales, Inc. 御中

株式会社○○○○
代表取締役 ○○○○
東京都○○区○○○
tel.03-○○○○ fax.03-○○○○

謹啓

いつも小社の書籍の販売にご尽力いただき、誠にありがとうございます。
さて、貴社が昨年8月より、「〈Amazon Student〉プログラム」の名のもとに、10%ものポイントサービスを実施しつづけていることは、極めて遺憾なことと考えております。というのは、ポイントサービスによる販売行為は、公正取引委員会の判断をまつまでもなく、値引であり、再販売価格維持契約違反であることは明白だからです。同時に、契約を遵守されている書店との公正な競争を阻害し、ひいては、再販制度そのものを崩壊させる道に繋がります。これらの点につきましては、小社の加盟する日本出版者協議会が貴社に対して再三にわたり、問題を指摘し、改善を求めてまいりましたが、今日に至るも何らの改善もみられないのは、まことに遺憾です。小社としましては、貴社の値引販売をこれ以上放置することはできません。

つきましては、小社の出版物を貴社のポイントサービスの対象から1ヵ月以内に除外されるよう、強く要請いたします。

なお、貴社が小社商品をポイントサービスの対象から除外しないということを明言されるのであれば、小社としましては、取次店に対して、小社商品の貴社への出荷を停止するよう指示せざるを得ない場合も生じますので、あらかじめご了承下さい。

誠に勝手ながら、小社要望につき、文書にて8月20日までにご回答いただきますようお願い申し上げます。

謹白 

STOP!! Amazon!! ●出版社へ呼びかけ

●出版社へ呼びかけ●

STOP!! Amazon!!

── Amazonのポイントサービス=値引販売を止めるために ──


日本出版者協議会(出版協、98社)は7日、記者会見を行い、Amazon Student プログラムの10%ポイントサービス中止を求めて来ましたが、何ら改善されないため、同サービスから自社商品の除外を求める要望書を会員社51社が送付したことを発表。対象となる書籍は41,740点、これはアマゾンの流通書籍(70万点)のうち約6%になります。
アマゾンが学生向けの10%のポイントサービス=値引販売(〈Amazon Student〉プログラム)をはじめて、まもなくはや1年。
街の書店はますます苦況に陥り、再販制度は、内部崩壊の最大の危機を迎えています。
アマゾンのポイントサービス中止へ向けて、大きな一歩を踏み出しませんか?
本の再販売価格維持制度は、著作物の普及という文化的、公共的、教育的役割を実現していくのに適しているとされ、独禁法制定以前からこうした商慣習があったこともあり、例外的に許されているわけです。
この再販制度により全国どこでも同じ値段で知識や文化を伝播することが可能となり、民主社会の公正・公平な発展に役立っています。
日本の多くの出版社が、再販制を守り、ポイントサービス=値引販売を看過しないということを明確にアマゾンに認識させ、自社商品の「10%ポイントサービスからの除外」を求めるならば、その効果は決して小さくないはずです。

アマゾンにポイントサービスを中止させることができるかどうかのターニング・ポイントです。
アマゾンに対して、自社商品のポイントサービスからの除外を強く求めましょう!

▼今回の問題の留意点
1 Amazon studentは10%という高率のポイント
ポイントサービスは値引きである。しかし1%程度のお楽しみまでは問題にできない
(公取委見解)
大学生協は独禁法対象外のため、再販制度に拘束されない

2 ポイントサービスが再販契約違反かどうかは出版社が判断、それぞれが中止を求められる
(政府見解/公取委見解)

3 自社商品を除外要請できるのは当該出版社だけ
(公取委見解)

1 アマゾン(Amazon.com Int'l Sales, Inc.)に対して/自社商品のポイントサービス対象からの除外を求める要望書を送付
2 日販、大阪屋に対して/アマゾンが上記のことを実施するよう指導することを求める要望書を送付

●要望書送付先●
Amazon.com Int'l Sales, Inc.:
〒153-0064 東京都目黒区下目黒1-8-1ARCO TOWER ANNEX アマゾンジャパン気付
日販:〒101-8710 東京都千代田区神田駿河台4-3
大阪屋:〒112-0002 東京都文京区小石川2-22-2 和順ビル

出版社が声をあげ、動かなければ、再販も街の書店も守れない!!

会員社が送付した要望書の実例を、出版協のブログ(下記参照)にアップしておきます。参考にしてください。
また、アマゾンとのこれまでの経緯、ポイントサービスからの除外要請についての公取委見解、再販制維持についてのQ&A等の資料、事務局にありますので、必要に応じてご請求ください。
その他、不明な点など、事務局までお問い合わせください。

2013年8月 5日 (月)

「アマゾン問題」と再販制度

「わが業界の長期低落傾向は止まることを知らない。“失われた10年”どころか、“失われる未来”になりそうな雲行きである」と年頭に書いたが、その思いはますます深い。

売上げは伸びず、取次店の第三極の大阪屋も縮小再建を図って、ネット通販の大手楽天の資本参加を求めているという。その真相ははっきりしないが、それは、ジュンク堂や丸善がグローバル企業のDNP傘下に入ったことに象徴されるように、業界内の救済そのものが、既に出版界の枠を越えなければ出来ないところまで来てしまった事である。かつて出版社の救済には印刷所や製本所、広告代理店などが当たった時代はとうに終わり、製造業者より、流通業者、さらに川下にある販売業者が川上の業者の救済だけでなく、生死を左右する"逆転の時代"に突入しているのだ。

さて、「アマゾン問題」だが、グローバル通販会社としてのアマゾンは、当然ながら、日本国内におけるネット通販のトップクラスにあり、その売上げは、出版界全体を上回っている。書籍に関しても国内のナショナルチェーン店を凌駕したと言われている。小社に於いても、毎月の書店別売上げのトップを飾ることは希ではない。その意味では、「アマゾンさまさま」である。

だが、冷静に考えてみよう。アマゾンの売上げ増が、各社、業界全体の売上げ増に繋がってはいない。アマゾンの割合が増えることは、単純に占有率が上がっているだけで、他の書店の売上げが減っている関係にある。

業界全体が右肩下がりで推移する中で、一人勝ちで売上げを伸ばし続けるアマゾンは、読者層を創出し、市場を拡大しているのではなく、既存の市場を占有しつつ増殖しているのだ。

卑近な例を挙げる。アマゾンが実施している「〈Amazon Student〉プログラム」による学生割引の期間限定(4月末)15%大幅値引きは、大学の採用品の返品増をもたらした。版元としては、その大学での販売実数の総数には変化が無いかも知れないが、当該の生協や購買会の売上げは下がり、返品作業、それに伴う倉庫会社への手数料は版元負担となって流通経費を押し上げたのである。

この「〈Amazon Student〉プログラム」の実施は、アマゾンジャパン(株)の当事者によれば、「学生たちに少しで本を読んでもらいたい」との意図だという。

確かに少しでも価格は安い方が読者には都合がよい。そのことは否定しようとは思わないが、業界第一位に登り詰めたアマゾンが、敢えて再販制度という出版界の背骨となっているものを破壊してまで、占有率を高める必要性が今有るのか。

振り返ってみれば、アマゾンの上陸時は、日本の再販制度が大きな助けになったはずである。というのも、4000社にも及ぶ版元との取引を個別交渉で契約し、本を流通させ、売上げをあげるということは、いかに世界に冠たる通販のノウハウをもってしても商品確保が難しかったはずだ。しかも、顧客データもはっきりせず、もし自由価格市場であれば、後発の書籍販売事業が成功する確率は極めて少なかっただろう。

独自の流通システムとユーザーの利便を考えた販売は、それなりの評価に値するが、再販制度の利点をフルに使い、一定の顧客数を確保した後の振る舞い──取次店との正味交渉、運輸業者の熾烈な競争など──は、ユーザー第一という名目による市場の独占を目指す“ハゲタカ”の容貌である。

特に昨年から始めた「〈Amazon Student〉プログラム」は10%という書籍の大幅値引きでの販売だけでなく、その顧客データを将来の顧客囲い込みにつなげる戦略的プログラムという二重の意味合いがあるのだ。

そして、このポイントサービスはいずれ学生だけでなく、一般ユーザーにも拡大されることだろう。もし、アマゾンが本格的にポイントサービスを実施したら既存のリアル書店はあっという間に駆逐されるだろう。

わが国の出版文化は、全国至る所の書店と多様な出版物を創出する大から小までの版元によって成り立っている。現在、書店は急激に淘汰され、生き残りを賭けた闘いが展開されているが、それが目先の読者に媚びるかのようなポイントという値引きで、日銭を稼ぐということだけでよいのだろうか。

再販制度という法的裏付けの有る商行為を業界挙げて守るという大前提の下で出版界の未来を獲得しようではありませんか。

われわれ出版協は、業界第一位のアマゾンの「〈Amazon Student〉プログラム」の即時中止を求めているが、版元、書店の皆さまにも声を上げて頂きたい。

われわれは、再販売契約者として、アマゾンに値引き対象商品からの除外を求める行動を起こします。

法治国家の住民として契約上の商行為は守られなければなりません。アマゾンの回答が如何なる物か、グローバル企業の遵法精神の正体を見たいものだ。

竹内淳夫彩流社
)●出版協副会長
出版協 『新刊選』2013年8月号 第10号(通巻234号)より

出版協 『新刊選』2013年8月号 第10号(通巻234号)

出版協 『新刊選』2013年8月号 第10号(通巻234号)

1P  …… 「アマゾン問題」と再販制度

竹内淳夫
彩流社 )●出版協副会長
2P ……出版協BOOKS/8月に出る本
3P ……出版協BOOKS/8月に出る本

出版協トークイベント●9月12日(木)●ジュンク堂書店池袋本店

●出版営業というお仕事──私はこうして本を売り込む

日本出版者協議会プレゼンツ トークイベント●第2回

まだまだ知られていない「本を営業する」ことの面白さを語る!

いま、出版営業は多様化してきている。書店営業は紹介型から提案型へと発展し、SNSを利用した読者営業、イベントによる話題づくり、さらには海外版権取引など、営業活動の「場」は広がった。自社の本を知ってもらうために、誰にどう売り込むのか。独自のスタイルと先進的手法で活動する営業のプロに聞く!

◎パネラー
春日俊一彩流社)、今岡青衣アスク出版)、糸日谷智羽鳥書店
司会:須藤岳現代書館

◎パネラー プロフィール
春日俊一(彩流社)…人文から文芸・趣味・芸術関連まで多種多彩なジャンルの本を発行。年間約130点、総出版点数約1800点。

丸善、文教堂書店を経て、2000年、彩流社に入社。主に営業、WEB販売、海外版権取引(たまに編集も)を担当。小版元ながら年間130点という中堅版元並の発行点数で、多種多彩なジャンルで様々な読者のニーズに応える品揃えを特色とする版元。書店営業の他にも図書館営業、楽天市場直営店出店、中国・台湾・韓国等アジアを中心とした海外版権取引、電子書籍販売等、多角的な営業を展開中。
◆自社のいちおし本:『【図説】軍服の歴史5000年』(辻元よしふみ・著 辻元玲子・イラスト)
◆営業担当者にオススメの本:『やっぱり変だよ日本の営業』(宋 文洲・著/日本経済新聞出版社刊)

今岡青衣(アスク出版)…語学書専門版元。新刊年間約25点、総出版点数約900点刊行。

芳林堂書店池袋店に新卒入社、情報センター出版局勤務を経て、2010年アスク出版営業部に入社。全国約900店の書店と直取引が中心。 返品率約10%程度。 対面による新刊受注と提案型営業が強み。2011年に発売したTOEIC教材が入門者向けテキストで現在全国1位!
◆自社のいちおし本:『はじめての新TOEICテスト全パート総合対策』(塚田幸光・著)
◆営業担当者にオススメの本:『ビジネスマンのための行動観察入門』(松波晴人・著/講談社刊)

糸日谷智(羽鳥書店)…法律・美術・人文書を中心に幅広く出版。総出版点数は2013年6月時点で42点。

東京大学消費生活協同組合を経て、2009年4月羽鳥書店創業と同時に入社。営業担当。ツイッター上では羽鳥書店の営業の人(@hp_eigyo)として情報を発信中。創業時より受注配本制を採用。著者のトークイベントや事務所を開放した一日限定ギャラリーの開催などのイベントを積極的に行っている。
◆自社のいちおし本:『女川一中生の句 あの日から』(小野智美・編)
◆営業担当者にオススメの本:『名古屋とちくさ正文館』(古田一晴・著/論創社刊)

◎一般社団法人 日本出版者協議会[出版協/旧・流対協]とは
中小出版社98社が加盟する出版業界団体。
①言論、出版及び表現の自由の擁護
②出版者の権利を確立
③出版物の再販制度を堅持
④出版物の公平・公正な流通確保
という4つの目的を掲げ活動を行っています。

■日 時 2013年 9月12日(木) 19:30~
■会 場 ジュンク堂書店池袋本店  4階カフェにて
■定 員 40名(お電話又はご来店にてお申し込み先着順)
■入場料 1000円 (ドリンク付)
■ 受 付 お電話又はご来店(1Fサービスカウンター)にて先着順に受付。
■ ※トークは特には整理券、ご予約のお控え等をお渡ししておりません。
■ ※ご予約をキャンセルされる場合、ご連絡をお願いいたします。

■ ◎お問い合わせ 池袋本店 TEL03-5956-6111

トークチラシ

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2013年6月13日に行われた、ジュンク堂書店池袋本店でのトークの模様が、
下記のインターネットで、編集なしで配信されています。

●YouTube http://youtu.be/Xyyj5EeOjv0
●Podcast http://junkudo.seesaa.net/article/368854448.html
●ニコニコ動画 http://www.nicovideo.jp/watch/1373590339

ぜひ、ご覧ください。

 

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