「アマゾン問題」と再販制度
「わが業界の長期低落傾向は止まることを知らない。“失われた10年”どころか、“失われる未来”になりそうな雲行きである」と年頭に書いたが、その思いはますます深い。
売上げは伸びず、取次店の第三極の大阪屋も縮小再建を図って、ネット通販の大手楽天の資本参加を求めているという。その真相ははっきりしないが、それは、ジュンク堂や丸善がグローバル企業のDNP傘下に入ったことに象徴されるように、業界内の救済そのものが、既に出版界の枠を越えなければ出来ないところまで来てしまった事である。かつて出版社の救済には印刷所や製本所、広告代理店などが当たった時代はとうに終わり、製造業者より、流通業者、さらに川下にある販売業者が川上の業者の救済だけでなく、生死を左右する"逆転の時代"に突入しているのだ。
さて、「アマゾン問題」だが、グローバル通販会社としてのアマゾンは、当然ながら、日本国内におけるネット通販のトップクラスにあり、その売上げは、出版界全体を上回っている。書籍に関しても国内のナショナルチェーン店を凌駕したと言われている。小社に於いても、毎月の書店別売上げのトップを飾ることは希ではない。その意味では、「アマゾンさまさま」である。
だが、冷静に考えてみよう。アマゾンの売上げ増が、各社、業界全体の売上げ増に繋がってはいない。アマゾンの割合が増えることは、単純に占有率が上がっているだけで、他の書店の売上げが減っている関係にある。
業界全体が右肩下がりで推移する中で、一人勝ちで売上げを伸ばし続けるアマゾンは、読者層を創出し、市場を拡大しているのではなく、既存の市場を占有しつつ増殖しているのだ。
卑近な例を挙げる。アマゾンが実施している「〈Amazon Student〉プログラム」による学生割引の期間限定(4月末)15%大幅値引きは、大学の採用品の返品増をもたらした。版元としては、その大学での販売実数の総数には変化が無いかも知れないが、当該の生協や購買会の売上げは下がり、返品作業、それに伴う倉庫会社への手数料は版元負担となって流通経費を押し上げたのである。
この「〈Amazon Student〉プログラム」の実施は、アマゾンジャパン(株)の当事者によれば、「学生たちに少しで本を読んでもらいたい」との意図だという。
確かに少しでも価格は安い方が読者には都合がよい。そのことは否定しようとは思わないが、業界第一位に登り詰めたアマゾンが、敢えて再販制度という出版界の背骨となっているものを破壊してまで、占有率を高める必要性が今有るのか。
振り返ってみれば、アマゾンの上陸時は、日本の再販制度が大きな助けになったはずである。というのも、4000社にも及ぶ版元との取引を個別交渉で契約し、本を流通させ、売上げをあげるということは、いかに世界に冠たる通販のノウハウをもってしても商品確保が難しかったはずだ。しかも、顧客データもはっきりせず、もし自由価格市場であれば、後発の書籍販売事業が成功する確率は極めて少なかっただろう。
独自の流通システムとユーザーの利便を考えた販売は、それなりの評価に値するが、再販制度の利点をフルに使い、一定の顧客数を確保した後の振る舞い──取次店との正味交渉、運輸業者の熾烈な競争など──は、ユーザー第一という名目による市場の独占を目指す“ハゲタカ”の容貌である。
特に昨年から始めた「〈Amazon Student〉プログラム」は10%という書籍の大幅値引きでの販売だけでなく、その顧客データを将来の顧客囲い込みにつなげる戦略的プログラムという二重の意味合いがあるのだ。
そして、このポイントサービスはいずれ学生だけでなく、一般ユーザーにも拡大されることだろう。もし、アマゾンが本格的にポイントサービスを実施したら既存のリアル書店はあっという間に駆逐されるだろう。
わが国の出版文化は、全国至る所の書店と多様な出版物を創出する大から小までの版元によって成り立っている。現在、書店は急激に淘汰され、生き残りを賭けた闘いが展開されているが、それが目先の読者に媚びるかのようなポイントという値引きで、日銭を稼ぐということだけでよいのだろうか。
再販制度という法的裏付けの有る商行為を業界挙げて守るという大前提の下で出版界の未来を獲得しようではありませんか。
われわれ出版協は、業界第一位のアマゾンの「〈Amazon Student〉プログラム」の即時中止を求めているが、版元、書店の皆さまにも声を上げて頂きたい。
われわれは、再販売契約者として、アマゾンに値引き対象商品からの除外を求める行動を起こします。
法治国家の住民として契約上の商行為は守られなければなりません。アマゾンの回答が如何なる物か、グローバル企業の遵法精神の正体を見たいものだ。
売上げは伸びず、取次店の第三極の大阪屋も縮小再建を図って、ネット通販の大手楽天の資本参加を求めているという。その真相ははっきりしないが、それは、ジュンク堂や丸善がグローバル企業のDNP傘下に入ったことに象徴されるように、業界内の救済そのものが、既に出版界の枠を越えなければ出来ないところまで来てしまった事である。かつて出版社の救済には印刷所や製本所、広告代理店などが当たった時代はとうに終わり、製造業者より、流通業者、さらに川下にある販売業者が川上の業者の救済だけでなく、生死を左右する"逆転の時代"に突入しているのだ。
さて、「アマゾン問題」だが、グローバル通販会社としてのアマゾンは、当然ながら、日本国内におけるネット通販のトップクラスにあり、その売上げは、出版界全体を上回っている。書籍に関しても国内のナショナルチェーン店を凌駕したと言われている。小社に於いても、毎月の書店別売上げのトップを飾ることは希ではない。その意味では、「アマゾンさまさま」である。
だが、冷静に考えてみよう。アマゾンの売上げ増が、各社、業界全体の売上げ増に繋がってはいない。アマゾンの割合が増えることは、単純に占有率が上がっているだけで、他の書店の売上げが減っている関係にある。
業界全体が右肩下がりで推移する中で、一人勝ちで売上げを伸ばし続けるアマゾンは、読者層を創出し、市場を拡大しているのではなく、既存の市場を占有しつつ増殖しているのだ。
卑近な例を挙げる。アマゾンが実施している「〈Amazon Student〉プログラム」による学生割引の期間限定(4月末)15%大幅値引きは、大学の採用品の返品増をもたらした。版元としては、その大学での販売実数の総数には変化が無いかも知れないが、当該の生協や購買会の売上げは下がり、返品作業、それに伴う倉庫会社への手数料は版元負担となって流通経費を押し上げたのである。
この「〈Amazon Student〉プログラム」の実施は、アマゾンジャパン(株)の当事者によれば、「学生たちに少しで本を読んでもらいたい」との意図だという。
確かに少しでも価格は安い方が読者には都合がよい。そのことは否定しようとは思わないが、業界第一位に登り詰めたアマゾンが、敢えて再販制度という出版界の背骨となっているものを破壊してまで、占有率を高める必要性が今有るのか。
振り返ってみれば、アマゾンの上陸時は、日本の再販制度が大きな助けになったはずである。というのも、4000社にも及ぶ版元との取引を個別交渉で契約し、本を流通させ、売上げをあげるということは、いかに世界に冠たる通販のノウハウをもってしても商品確保が難しかったはずだ。しかも、顧客データもはっきりせず、もし自由価格市場であれば、後発の書籍販売事業が成功する確率は極めて少なかっただろう。
独自の流通システムとユーザーの利便を考えた販売は、それなりの評価に値するが、再販制度の利点をフルに使い、一定の顧客数を確保した後の振る舞い──取次店との正味交渉、運輸業者の熾烈な競争など──は、ユーザー第一という名目による市場の独占を目指す“ハゲタカ”の容貌である。
特に昨年から始めた「〈Amazon Student〉プログラム」は10%という書籍の大幅値引きでの販売だけでなく、その顧客データを将来の顧客囲い込みにつなげる戦略的プログラムという二重の意味合いがあるのだ。
そして、このポイントサービスはいずれ学生だけでなく、一般ユーザーにも拡大されることだろう。もし、アマゾンが本格的にポイントサービスを実施したら既存のリアル書店はあっという間に駆逐されるだろう。
わが国の出版文化は、全国至る所の書店と多様な出版物を創出する大から小までの版元によって成り立っている。現在、書店は急激に淘汰され、生き残りを賭けた闘いが展開されているが、それが目先の読者に媚びるかのようなポイントという値引きで、日銭を稼ぐということだけでよいのだろうか。
再販制度という法的裏付けの有る商行為を業界挙げて守るという大前提の下で出版界の未来を獲得しようではありませんか。
われわれ出版協は、業界第一位のアマゾンの「〈Amazon Student〉プログラム」の即時中止を求めているが、版元、書店の皆さまにも声を上げて頂きたい。
われわれは、再販売契約者として、アマゾンに値引き対象商品からの除外を求める行動を起こします。
法治国家の住民として契約上の商行為は守られなければなりません。アマゾンの回答が如何なる物か、グローバル企業の遵法精神の正体を見たいものだ。
竹内淳夫(彩流社 )●出版協副会長
出版協 『新刊選』2013年8月号 第10号(通巻234号)より
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