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2013年9月 2日 (月)

出版関連小委員会への要望

出版関連小委員会への要望


2013年 5月29日


一般社団法人日本出版者協議会について

一般社団法人日本出版者協議会(以下出版協)は、著作物再販制度の擁護、出版の自由、中小出版社への取引条件差別の是正などを目的に、1979年に結成された出版流通対策協議会(以下流対協)を前身とする出版業界団体で、会員社は現在95社。もっぱら人文社会科学、自然科学などの学術専門書、教養書など少量出版物を発行する中小零細出版社で構成される。

要 望


1 出版者への権利付与等については、「B 電子出版に対応した出版権の整備」を希望します。出版者への権利付与については、現在も著作隣接権が望ましいと考えていますが、「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」(座長・中川正春衆議院議員=中川勉強会)によって提案された「出版物に係る権利(仮称)法制度骨子案」では、原出版者(一次出版者)の権利保護やオンライン出版への対応等で不備な点があると考え、現行設定出版権の拡大再構成を内容とする「出版者の権利のあり方に関する提言」(座長中山信弘東大名誉教授)を基本とした「中川勉強会提言」による整備を要望します。

2 整備の内容は、現行の設定出版権をオンライン出版(電子出版)に拡大するだけではなく、デジタルネットワーク時代の出版実務の諸問題に包括的に対応しうる内容に改訂されるよう要望します。具体的には以下の通りです。
3 現行の設定出版権のオンライン出版(電子出版)への拡大については、著作権法第79条を、複製権者は「その著作物を文書又は図画【またはオンライン出版物(電子出版)】として出版することを引き受ける者に対し、出版権を設定することができる」、著作権法第80条(出版権の内容)を「出版権者は、設定行為で定めるところにより、頒布の目的をもって、その出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法【並びに電子的方法】により文書又は図画【またはオンライン出版物(電子出版)】として複製及び【送信可能化を含む自動公衆送信】する権利を有する。」とするなど、【 】内を改訂追加することで、一通の設定出版権契約書によって、紙とオンラインの設定出版権による出版が可能となるように整備されることを要望します。

4 紙での出版ないしオンライン出版の設定出版権に第三者への再利用許諾(サブライセンス)を特約なき限り出版者に付与することが、実務上必要不可欠と考えます。著作権法第80条3項を再利用許諾の内容に改訂されることを要望します。

5 コピー等の複写利用については、特約なき限り再利用許諾を出版者に付与することが、実務上必要不可欠と考えます。

6 設定出版権では対象外となってしまう出版物のうち、とくに文化的学術的観点から、下記の出版物を出版した出版者を、一定の条件をつけて一定期間保護するための法的整備を要望します。
 一 古典を新たに組直したり、翻刻、復刻するなどして出版した出版者。
 二 著作権が消滅した未発行の著作物を発行した出版者。

7 いわゆる孤児出版物の出版を促進できるようにするなどのため、現行登録制度を簡素化し、権利情報が容易に明らかになり、孤児出版物を含め出版物の権利処理の環境が整えられるよう要望します。

理 由


1 出版実務上の問題点

出版社が現在ビジネス上抱えている問題点は、主に以下に要約される。

①私的利用の範囲を超えた違法なコピー等の複写、複製(それらのネットへのアップロード等を含む)の蔓延やいわゆる自炊問題などの増大とそれへの対応。

②グーグルブック検索和解問題や内外での海賊版出版などへの対応。

③自社出版物のコピー要請、試験問題集などでの利用、テレビ等での利用、大学内などでのLAN、ネット書店などでの広告利用など、増大する出版物の複写、複製、公衆送信への対応。

④自社出版物が文庫出版社によって文庫化される場合、もっぱら中小出版社である原出版者(一次出版社)は受け身の対応となり、正当かつ充分な経済的補償を受けられないため、不満が多い。

⑤出版物を電子化しオンライン書店等を通じて販売する(オンライン配信)などの電子書籍ビジネスへの対応、デジタルネットワーク社会への対応。


2 出版者が法的当事者となれないことが著作権者の利益を毀損している

①などに対し、著作権者はもっぱら個人であり、対応が難しく、出版者は単独で差し止めができない、訴訟の当事者になれない等の問題があり、著作権者の許諾ないし委任を一件ずつ求め対応することは、労力的時間的に手間がかかり、放置しがちで、著作権者、出版者の経済的損失は大きくなっている。


②についても、許諾や訴訟の法的当事者になれないため、①と同様の問題点がある。グーグルブック検索和解問題では、流対協(現出版協)はオプトアウトを呼びかけ会員社がオプトアウトを実施したが、法的裏付けに問題がない訳ではなかった。

③についても、法的当事者になれないため、①、②と同様の問題点がある。著作権者と出版者の契約等により出版物の特定の版面をコピーするなど複写利用することや、限定された電子的データを複製しLAN等で利用したりネット書店などの広告で利用することについて、出版者が許諾を与えられるようにすることが、実務上不可欠である。


④についても、現行著作権法80条3項などにより出版者は文庫化の許諾を行えないため、文庫出版社の提案通りに対応せざるを得ない場合が多い。無名の著作者のパイオニア的な一次出版物を多く出版し、経済的にも余裕があるとはいえない出版協会員社のような出版社としては、正当な経済補償が受けられるよう一次出版の再許諾の権利が不可欠である。

⑤については出版者に電子出版権が設定されていないため、出版物を電子化し多様なプラットホームに再許諾を行っていく動機に乏しく、電子化の障害となっている。経産省緊急デジタル化事業においても出版協会員社のほとんどは、同事業に参加しておらず、その理由のひとつに上記の理由があげられた(なお、出版協会員社の多くは自社内でDTPを行い、電子データで保存しており、オンライン出版の技術的体勢はほぼ整っている)。

①、③は日本複製権センター(JRRC)、出版者著作権管理機構(JCOPY)で一部対応しているが、日本出版者協議会は流対協時代に参加を求めたものの、JCOPYの前身である出版者著作権協議会(出著協)に団体参加を認められなかったため、分配金を得ていない。

このような諸問題への対応を有効に行うためには、出版者に電子書籍ビジネスや著作権ビジネスの当事者としての権利が付与されなければ、充分に対応できない。現行設定出版権契約にこうしたビジネスの委任条項を個別特約することでは不十分で、ビジネスそのものも発展しない。また、前記諸問題への対応をもっぱら個人である著作権者に任すのは負担が多く、法人である出版社が組織的に担う方が有効である。出版者が法的当事者となれないことなどが著作権者の利益を大きく毀損しているので、早急な法的整備が必要である。

3 著作権が消滅した古典や未発行の著作物を発行した出版者の保護

貴第一回委員会配布「参考資料4」にあるように、(1)文化的学術的観点から、著作権が消滅した学術的刊行物を発行した出版者や、(2)著作権が消滅した未発行の著作物を発行した出版者に対して、英独仏などEU諸国では出版者への権利保護が与えられている。


日本楽譜出版協会会員社のクラシック音楽楽譜のコピー被害や出版協会員社の大蔵出版が発行する仏教古典『大正新脩大蔵経』(全88巻)の国立国会図書館によるデジタル配信などは、出版社の経済的被害のみならず、発意と責任において出版物を発行していく出版者の出版意欲を毀損するもので、ひいては日本の芸術学問の発展にとってマイナスの影響を及ぼすものと考えられる。

以上の観点から要望6を提起する。

4 現行登録制度を改善し、孤児作品などの出版促進も含め出版物の権利処理の簡素化の必要

著作権者が不明のいわゆる孤児作品の出版については、著作権法第67条の文化庁の裁定でも可能であるが、制度そのものが使い勝手が悪くあまり利用されていない。現行登録制度を登録しやすいよう整備し、権利情報が明確になり、権利処理を簡素かつ迅速化し、孤児作品の出版が促進される必要がある。ただし、国立国会図書館のナショナル・アーカイブの利活用と直結させる必要はないと考える。

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