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2013年9月 2日 (月)

出版関連小委員会への再要望

出版関連小委員会への再要望

2013年 7月22日

一般社団法人日本出版者協議会(出版協、旧流対協)は、出版関連小委員会でこれまで議論されている出版者への権利付与の論点について、改めて次のように要望致します。

1 紙の出版物に係る再許諾についての要望

現行の設定出版権は、著作権者の権利である複製権のうち出版を引き受けるものについて出版についての独占的利用を契約で許すものとなっています。一方で著作権法80条3項は、出版権者が第三者に対して出版権の再許諾をすることを許していません。ある出版物を文庫などの形で他社から出版する場合、当該出版者が他社に対し再許諾できるようにすることは、実務上も設定出版権の趣旨からも必要不可欠と考えます。
現行設定出版権は、「立法当時、無断出版や競合出版に対して先行出版者の利益をどのように確保するかという議論が高まっており」(吉田大輔「電子出版に対応した出版権の見直し案について」『出版ニュース2012年10月上旬号』所収)、「無断出版や競合出版から出版者の利益を保護する制度で、著作者(厳密には複製権者)と出版者との間の『出版権設定契約』に基づき、出版者が取得する権利である」(同)。自らの発意と責任、経済的リスクにおいて出版を引き受けた第一次出版者が、他社での文庫化などに対し、再許諾をできるようにすることは、設定出版権の趣旨からも合理的です。

現在、日本の出版社3676社(出版年鑑2013年版)のうち文庫を発行している出版者は九十数社172文庫(同)程度であり、他社への文庫化の許諾は実務上もルール化が求められています。

自社出版物が文庫出版社によって文庫化される場合、もっぱら中小零細出版社である原出版者(一次出版社)は受け身の対応となり、正当かつ充分な経済的補償を受けられないため不満が多く、文庫化に消極的です。

紙の出版物に係る再許諾について、中山提言どおりに可とするよう要望致します。

2 中山提言①「現行出版権の電子への拡大」についての要望

現在、本の電子書籍化は、既存の出版者が保有する紙の本を電子書籍化するというケースが圧倒的です。しかしながら、例えば緊急デジタル化事業においても、そのための法的整備がなされていないことなどから、多くの出版者が積極的になれない問題が生じました。その意味でも、著作権法第80条(出版権の内容)を「出版権者は、設定行為で定めるところにより、頒布の目的をもって、その出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法【ないし電子的方法】により文書又は図画【または電子出版物】として複製及び【送信可能化を含む自動公衆送信】する権利を有する。」と改定するなど、紙の本からの電子書籍化を促進にするために、現行設定出版権の電子への拡大という中山提言①で法改正するよう要望します。
また、デジタル・ネットワーク社会に対応した出版物の電子書籍化や海賊版対策など出版物に係る権利侵害への対応から「出版者への権利付与」が検討されてきた経緯を踏まえ、権利の主体については、出版権者とするよう要望します。

3 中山提言③「特定の版面の利用」についての要望

提言①、②では、紙の出版や電子出版に限定されるため、出版物の一部=特定の版面をコピーするなど複写利用する場合、許諾を求められても、許諾したり、使用料を請求したりすることができません。グーグルブック検索問題では、日本の出版社の本がグーグルによって無断スキャニング=複写されても、出版者が権利の当事者となれないということが露呈し、グーグルの違法行為を当事者として差し止めできないことが明らかになったため、著作権者、出版者の対応を混乱させました。

こうした複写利用等の許諾は日常的に出版社に個別に問い合わせが来ますが、法的根拠があいまいなまま、許諾が行われたり、著作権者への問い合わせを促したりするなど、個々ばらばらに処理されているのが現状で、著作権者に経済的利益ももたらされていません。

また小委員会における複製権センターの報告でも、個別の複写許諾は年間数十件とのことで、許諾を受けるべきケースの大半が無断で複写されていると推定され、著作権者、出版者の逸失利益はかなりのものと考えられます(出版協関連団体の著作権管理事業者である一般社団法人日本出版著作権協会の年間処理数と大差がありません)。また近年は大学などでのイントラネットなどでの利用の申し込みも増え、これへの対応も迫られています。

中山提言③は「当事者の特約により、特定の版面に対象を限定した上、その複写利用などにも拡張可」にすることでルール化し、こうした出版実務上の解決に資するものです。著作権者と出版者の特約等により出版物の特定の版面をコピーなど複写利用することや、LAN等のイントラネットで利用するなど、「出版・電子出版とはいえない利用」(「提言に関する補足説明」)が可能となり、出版者が許諾を与えたり、使用料を求めたりすることができるようになれば、著作権者にも経済的利益がもたらされるうえ、問合せ先が出版者に絞られることによって利用者の利便性も向上すると考えられます。

中山提言③「特定の版面の利用」についても、提言どおりに可とするよう要望致します。

以上

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