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2013年10月

2013年10月30日 (水)

「何が秘密?それは秘密」法(秘密保護法案)に反対する緊急集会●11月5日(火)

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      11・5 「何が秘密?それは秘密」法(秘密保護法案)に反対する緊急集会

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●と き/11月5日(火曜日) 18時30分~
●ところ/文京区民センター 2A集会室

──都営地下鉄大江戸線・三田線「春日駅」下車 A2出口すぐ
  東京メトロ丸ノ内線・南北線「後楽園駅」下車 徒歩5分

安倍政権が「何が秘密?それは秘密」法(秘密保護法案)の制定に向けて動き出しました。自民、公明両党は22日、与党政策責任者会議を開き、秘密保護法案を正式に了承しました。政府は25日に閣議決定し、同法案を国会上程しようとしています。

政府、与党は、同法案を国家安全保障法会議設置法案と一体のものとして、特別委員会で審議する方針です。特別委員会での審議の狙いが、集中審議による早期審議打ち切り・採決、今国会での制定にあることはいうまでもありません。

「何が秘密?それは秘密」法(秘密保護法案)は、外交、防衛、特定有害活動(スパイ活動)・テロ防止の4つの分野に関する情報を行政機関の長が「特定秘密」に指定できるというものです。何が「秘密」とするかは行政機関の恣意的判断できめられ、それをチェックする第三者機関もありません。「特定秘密」を漏らした公務員だけでなく、記者や市民も知ろうとすれば、最高懲役10年の厳罰が科せられます。

政府・与党は、同法案に対する批判の高まりの前に、条文に文言として「知る権利」「取材の自由」をいれるから問題ないとしていますが、小手先のごまかしにすぎず、法案の持つ危険性にかわりはありません。現在でも、原発関連情報は隠され続けています。同法案が制定されれば、市民の生命と安全にかかわる情報が主権者である市民の目から隠されてしまいます。

知る権利、取材・報道の自由を侵害する「何が秘密?それは秘密」法(秘密保護法案)の制定に反対しましょう。11・5緊急集会にご参加ください。

●主催
「何が秘密?それは秘密」法(秘密保護法案)に反対するネットワーク
(略称・秘密法反対ネット)
──出版協は、このネットワークに参加しています

▼連絡先
盗聴法に反対する市民連絡会 090-2669-4219(久保)
東京共同法律事務所(海渡雄一・中川亮) 03-3341-3133
日本国民救援会 03-5842-5842
反住基ネット連絡会 090-2302-4908(白石)
許すな!憲法改悪・市民連絡会 03-3221-4668

▼参加費:500 円

チラシをダウンロード

「日本を取り戻す!」安倍自民党政権は「物言えぬ社会」を目指すのだ!

「日本を取り戻す!」安倍自民党政権は
「物言えぬ社会」を目指すのだ!
“何が秘密? それは秘密”──「特定秘密保護法案」の国会審議がいよいよ始まった

出版協では、この「特定秘密保護法案」の概要が発表され、臨時国会に提出されることがはっきりした段階で反対声明を発表した(リンク参照)。これまでも、この手の法案は何度も立案され、その度に廃案になってきたものだが、今回は、自民党の圧勝という選挙結果を追い風に、公約の隅にも掲げていなかったものを持ち出してきたのだ。
尖閣列島を巡る中国との緊張関係や北朝鮮の核問題、竹島問題などの懸案を政治的に解決する努力を棚上げにし、危機感を煽った“手軽な愛国主義”に乗って杜撰とも言える法案を作ったのだ。この“杜撰な法”が秩序維持のための“網”としては最も危険なものだということは歴史が証明している。

公明党を取り込むために、取材の保証などの出来レースともいうべき修正案を受け入れ、一気にこの臨時国会で成立させようという手法は、“勝てば官軍”という驕りのなにものでもない。

法案の違憲性や危険性の細かいことは、法律関係者の反対声明などにお任せして、私の気になる点だけを挙げて見る。

第一は、特定秘密の定義が明確でなく、しかもその指定の権限が行政の長(所管大臣)にあること。
第二は、漏洩者に最高懲役10年+罰金1,000万円という重罰が加えられること。
第三は、年限を切った秘密事項やその決定過程の公開の原則が明確でないこと。

かつて戦争に導いたわが国の指導者たちは、自らの責任において自分の意志決定について明確な責任を取ろうとしなかった。いわゆる無責任体制と言われた構造の一端は、秘密裏に決定されたものが、そのまま闇の世界に閉じ込められたからである。

公僕たる役人や行政の責任者の行為は、いかなる決定でも公開され、歴史の審判を受けるという緊張感のなかで、行使されなければならない。

その意味では、秘密保護法は情報公開法と完全にセットで提出されなければならないものである。

ところで私は10月22日、40余年ぶりに首相官邸前の集会に参加した。そして29日の日比谷公園の野外音楽堂の集会とデモにも参加した。かつては公園出口から警官隊との小競り合いがあり、各所に装甲車が並び、国会はもとより官邸前には近づくことも出来なかった。デモの参加者にとっては極度に緊張した時間だった。


それに比べれば、官邸前で声を挙げられることは、大きな前進? なのだろうか。時代が変わろうとしているときにもかかわらず、参加者の年齢は、この国の現状=高齢化社会と同様に年配者が多かった。

本来、時代の風に敏感でなければならない若者たちの声が聞こえない社会、これはどう考えたら良いのだろうか。かつて世界を駆け巡った“反乱の60年代”の後に“ミイの時代”があったのだが、まさかそれが続いているのではあるまい。

今回の「特定秘密保護法」がもし成立したら、それを取り締まるのは警察である。何が秘密か明確にならない場合、拘留されてから罪状を告げられるというとんでもない事態が起きないとも限らないのだ。

一度出来た法律は、すぐ悪用されるとは限らず、10年後15年後に拡大解釈されて利用されるのだ。その良い例が、治安維持法である。忘れた頃に動き出す。そのターゲットは、ネット世代の皆さんでは?

STOP!「秘密保護法」11・21大集会が日比谷公園の野外音楽堂で行われます(詳細はリンク先参照)。国会を包囲する大デモに参加してみませんか。


竹内淳夫彩流社)●出版協副会長
出版協 『新刊選』2013年11月号 第13号(通巻237号)より

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2013年10月18日 (金)

出版関連小委員会「中間まとめ」への意見

文化審議会著作権分科会出版関連小委員会「中間まとめ」への意見
 
2013年10月18日

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日本出版者協議会(以下、出版協)は、文化審議会著作権分科会出版関連小委員会「中間まとめ」について、以下のように意見を提出する。

【はじめに】(1頁~2頁)について

○本「中間まとめ」までの審議経過について。

[理由]
出版協は、出版関連小委員会第2回小委(5月29日)の関係団体ヒアリングで、意見表明はしたものの、委員に選出されなかったため議論には参加できず残念であった。

私どもの団体は、中小零細出版社96社で組織される出版業界団体で、もっぱら大手出版社によって組織される日本書籍出版協会とは、出版者への権利付与について大筋では意見の一致をみるものの、いくつかの重要な点で意見を異にするところがある。その意味で出版界の少数意見を取り入れる機会を講じるべきであったと考える。

7月23日「出版関連小委員会への再要望」を提出したが、この再要望は各委員には配布されたものの、傍聴者や報道関係者に配布されなかったことは残念である。再要望は、「出版者の権利のあり方に関する提言」(2013年4月4日付、中山信弘東大名誉教授ほか。以下、中山提言)に沿った結論をだすべきというものである。
本意見は、出版関連小委の議論を踏まえ、中山提言に沿った方向で、現行設定出版権を紙媒体の出版から電子出版への拡張・再構成する内容で結論をまとめることを求めるものである。

○「本中間まとめでは、便宜的に、パソコン、携帯電話、専用端末等の機器を用いて読まれる電子化されたコンテンツを広く『電子書籍』と呼び、電子書籍をインターネット等で配信することを『電子出版』とする。」と定義しているが、この定義に反対である。

[理由]
納本制度審議会での定義にあるように、電子書籍については、パッケージ系電子出版物とオンライン系電子出版物とがあると考えるのが通常の認識と考える。中間まとめの「電子書籍」は「オンライン系電子書籍」と定義できる。

また「電子書籍をインターネット等で配信することを『電子出版』とする」と定義しているが、これは著作権法上の「自動公衆送信」にあたるもので、この行為は「電子配信」であり、「電子出版」とするのはおかしい。

出版者は自らの発意と責任において、その経済的リスクを賭けて企画から編集・制作、流通までの出版行為を引き受けるものであり、出版行為には文書または図画の著作物を印刷する従来の紙の出版と「電子出版」とがある。電子出版には、パッケージ系電子出版とオンライン系電子出版とがあるが、オンライン系電子出版は文書または図画の著作物を自動公衆送信のために送信可能化する行為、電子書籍を創る行為といえる。「中間まとめ」は、出版者などが電子書籍を販売する行為、すなわち「電子配信」を「電子出版」とすることで、単に電子書籍の配信業者を、電子出版を引き受ける電子出版者と定義するという誤りがある。

【第3章第1節 出版社への権利付与についての方策】(13頁~17頁)について

○出版関連小委の議論を踏まえ、出版協としての本「『中間まとめ』への意見」、並びに中山提言に沿って、現行設定出版権を紙媒体の出版から電子出版への拡張・再構成する内容で結論をまとめることを求める。

[理由]
近年の複製複写技術の発展は、紙やデジタルの違法コピーや海賊版を蔓延させ、著作者や出版社に多大な被害を与え、またデジタルネットワーク時代を迎えて出版社の電子出版への対応が緊急の課題となっている。ところが、こうした事態に出版社が対応しようとしても、現行の設定出版権では限界があり有効に対応できず、著作者ももっぱら個人であるため対応が難しいことから、著作者の利益のためにも、事業体である出版者に迅速な組織対応を任せた方が有効であることが明らかになってきた。グーグルブック検索問題や自炊代行問題がその一端といえよう。こうした観点から出版者への権利付与の必要性が議論されてきた。

文科省に設置された「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」が平成23年12月にまとめた報告でも、「『出版者への権利(著作隣接権)付与』について、出版者から『電子書籍の流通と利用の促進』と『出版物に係る権利侵害への対応』の二つの観点から、その必要性等が主張された」と総括している。

こうした出版者の要望を受けた「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」(以下、中川勉強会)は、4月4日、中川提言をまとめた。出版関連小委の議論の中心となったこの提言は、「著作者との契約により設定される現行の出版権が、原則として電子出版にも及ぶよう改正」し、「法改正前の作品にも当事者の合意により拡張可能なため、権利を分散化せず、著作者の意思に基づいた活用を期待できる。また、オンライン海賊版の差止などのニーズにも対応できる」というものであった。

具体的には、
① 当事者の特約により、「印刷のみ」「電子出版のみ」という出版権の設定も可能にする→流通の変化にともなう、多様な契約のありかたにも対応。
② 現行出版権の再許諾不可を改め、特約なき限り再許諾可とする→一次出版の後の他社での文庫化や、多数のプラットフォームでの配信などに対応する。
③ 当事者の特約により、特定の版面に対象を限定した上、その複写利用などにも拡張可→企業内複製やイントラネットでの利用許諾などに対応する。
④ 対抗要件としての現行登録制度を拡充し、登録しやすいよう環境を整備する。
ことが提言された。

出版関連小委では、①中山提言の現行設定出版権を紙媒体の出版から電子出版への拡張・再構成する案(9月13日第8回中川勉強会で配布された中山提言を基にした著作権法改正案骨子では「総合出版権」と呼称されているので、以下総合出版権と呼ぶ)を軸に、②日本経団連の提言である電子出版に対応して新たに電子出版権を創設する案が検討された。出版者は総合出版権への拡張・再構成を支持し、著作者団体、電子配信業者は電子出版権の新設を支持した。

「中間まとめ」は「いずれの方法をとる場合でも、紙媒体での出版と電子出版を行う場合には、出版者と著作権者との契約により、双方の権利を一体的に設定することは可能である。また、出版者が多大な労力と資本を投下し著作者と密接な関係の下で創作される著作物については、著作権者と出版者との信頼関係に基づき、紙媒体での出版と電子出版に係る権利が、おのずと同一の出版者に一体的に設定されていくことが想定される」(22頁)と結論して、事実上、②を選択した。

【第4章第2節 1、2電子書籍に対応した出版権の主体の在り方】(19頁~22頁)について

○中山提言に沿って、権利の主体は出版者(自らの発意と責任において出版物を企画編集し出版する者)とし、権利の主体を「電子出版を引き受けるもの」に拡大することに反対する。また紙と電子媒体の一体的設定とし、電子出版も含んだ出版権をデフォルトルール(標準的な内容)とする「総合出版権」の方向で改訂することを求める。

[理由]
総合出版権について吉田大輔氏は「金子(敏哉)講師(中山提言のメンバーで出版関連小委の委員、明治大学法学部講師)の説明によれば、既存の出版権と電子出版権を別々に設定するのではなく、電子出版も含んだ出版権をデフォルトルール(標準的な内容)とした上で、著作権者の意思によって紙媒体のみや電子出版のみといった限定した権利設定も可能とするというもの」(「出版者の権利に関する審議の動向」、出版ニュース2013年9月中旬号)と要約する。

一方、経団連の電子出版権は、「インターネット上で流通する違法電子書籍の問題については、著作権者である作家個々人で対処することは事実上不可能である。他方、出版者は紙の違法出版物に対して、『出版権』の設定による差止めは可能であるが、インターネット上の違法流通を排除する権限は、現行著作権法上に存在しない。」(「電子書籍の流通と利用の促進に資する『電子出版権』の新設を求める」日本経団連、2013年2月19日)との認識で、中山提言と一致するものの、「現在、電子書籍ビジネスが直面している深刻な違法電子書籍被害に鑑みれば、先ずは電子書籍を発行する者に、違法電子書籍に対抗できる権利を与えることが効果的である。」(同)としている。

二つの大きな違いはまず、権利を行使できる主体にある。総合出版権では「文書若しくは図画又はこれらに相当する電磁的記録として出版することを引き受ける者」であるのに対し、電子出版権では「電子出版を引き受ける者(電子出版のみを行う者を含む)」が、紙媒体の「出版を引き受ける者」とは独立して設定されているところにある。「出版を引き受ける者」は出版者であるが、「電子出版を引き受ける者」は必ずしも出版者である必要はなく、出版をしない単なる電子配信業者や、いわゆるボーンデジタルといわれる従来の出版物とは言えないコンテンツ等を配信する電子出版者も含まれる、より広い概念となる。電子配信業者は、具体的にはアマゾン、グーグル、アップルなどが想定される。

電子出版権では、既存の出版者が電子出版権をとることも可能であるし、総合出版権でも紙媒体のみや電子出版のみといった権利設定も可能なので大差はなく、著作権者との信頼関係があれば、両方を契約できるので問題はないという、著者団体や法律家の意見も強かった。しかし、著作権法でデフォルトルールとして規定されているのといないのでは、意味合いが違う。

そもそも「電子書籍の流通と利用の促進」と「出版物に係る権利侵害への対応」という観点から出版者への権利付与がこの間議論されてきたのであって、電子出版者への権利付与が議論されてきたわけではない。

ところが経団連案は、出版者が占有する紙の設定出版権の限界を検討することなく、電子出版に係る権利を単独に検討し、設定出版権を電子出版に応用し、電子出版権設定契約に基づく電子出版権を打ち出し、単に電子出版を引き受ける者に電子出版権を付与するとした。

現在の電子出版物、オンライン出版物のほとんどは、出版者が発行する紙の出版物をもとにデジタル化されている。紙の出版物から電子出版物への変換は、出版者が著作権者に電子出版化の許諾をひとつずつ取って処理していて、手間ひまがかかる。電子化が進まないのも当然である。その意味で、電子出版を促進するためには、出版者に総合出版権を付与し、電子出版を引き受けさせ出版義務を課せば、出版者は電子出版を期限内に行うようになり、電子出版は飛躍的に促進されよう。義務を果たさなければ著作権者は電子出版権の消滅請求を行い、別の出版者等で電子出版をすればよい。

第3回出版関連小委で渋谷達紀委員(東京都立大学名誉教授、「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」座長)は、次のように述べている。

「電子書籍出版権のようなものがあるとすれば、それを付与されるのは現行の出版権を持っている出版社に限るべきではないかと私は思います。ボーンデジタル型のコンテンツを配信する業者がいるだろうと思うんですけれども、(中略)ボーンデジタル型のコンテンツを公衆送信する者に現行の出版権類似の権利を与えるとしますと、ほかの書籍とはみなせないようなデジタル情報を配信する業者にも、みんな同じような権利を与えなければいけなくなり、際限がなくなるんではないかなということを恐れます。」

渋谷委員の指摘の通りで、自らの発意と責任において企画から編集・制作、流通までの出版行為を引き受ける出版者ではなく、著作権者の許諾をとることでもっぱら紙媒体の出版物をデジタルコピーし配信するにすぎない電子配信業者や、およそ出版物とはいえないものを電子出版する者にまで電子出版権を付与する必要はない。

出版協としては、改めて、中山提言に沿った「総合出版権」の方向で改訂することを求めるものである。同時に、権利の主体は出版者(自らの発意と責任において出版物を企画編集し出版する者)とし、権利の主体を拡大することに反対する。
──紙の出版者が電子出版権を得られないと深刻な事態が起きる
仮に紙の出版者が電子出版権を得られない場合、どういうことが起こるのか。この点の危惧を6月24日の第4回小委で、森田宏樹主査代理(東大大学院法学政治学研究科教授)が次のように指摘している。

「例えば、紙媒体の書籍についてスキャナーがなされ、サイトにアップされた場合に、紙媒体の書籍の出版権と電子書籍の出版権の双方を有する出版社は、公衆送信権に基づいてその差止めを請求することが可能でありますが、紙媒体の書籍の出版権のみの付与を受けた出版者については、紙媒体の書籍の出版に必要な範囲での支分権として、その頒布目的の複製権しかないということになりますと、公衆送信権はありませんので、それに基づいて海賊版を差し止めるということはできないことになります。」

これは、グーグルブック検索問題の時に、日本の出版社がなす術がなかった状況そのものである。アマゾンやグーグルなどの電子配信業者は、すでに、「なか見!検索」などに応じた出版者の本をスキャンするなど、様々な方法で無断を含めスキャンしており、電子書籍として電子配信する条件をすでに整えていると見るべきであろう。

こうした電子配信業者が「電子出版を引き受ける者」として著作者と契約しさえすれば、紙媒体の出版権しかない出版者は、電子配信業者によってコピーされた電子書籍を電子配信されてもなにもできないことになる。まして公正取引委員会が電子書籍を非再販商品としている現状で安売りなど恣意的な値付けで販売された場合、紙の出版物の打撃は大きく、多くの出版社は立ち行かなくなる。これでは、何のための出版者への権利付与なのか。

もともとこのような電子配信業者は、自らの発意と責任において出版物を企画編集する者ではなく、もっぱら既存の紙の出版物からデジタルスキャンするだけのコピー業者にすぎず、本来の出版者とはいえない。出版者と電子配信業者つまり電子書籍販売業者という役割の違う者を同列におき、後者にまで電子出版権を付与しようというのが電子出版権新設案といえる。「中間まとめ」でも、「電子書籍に対応した出版権の客体に関しては、現行の出版権で対象となっている文書又は図画に相当するものを対象とすることが適当であると考える。」(「中間まとめ」22頁)と結論しているわけで、「現行の出版権で対象となっている文書又は図画に相当する」電子書籍に対応した出版権は、出版者に付与されるのが自然であり、そうすべきである。そう規定されたからといって、電子配信業者が出版をすれば出版者になれるわけで、電子配信業者に不利益はなく問題はない。

【第4章第2節 3電子書籍に対応した出版権の客体の在り方】(22頁)について

○「中間まとめ」の通りである。「電子書籍に対応した出版権の客体に関しては、現行の出版権で対象となっている文書又は図画に相当するものを対象とすることが適当であると考える。」(「中間まとめ」22頁)と規定する以上、現行出版権の拡張として権利の主体も、出版者とすべきである。

【第4章第3節 権利の内容1、2】(23頁)について

○権利の内容としては、「中間まとめ」の理由の通り、「複製権及び公衆送信権が適当である」。

【第4章第3節 3「特定の版面」に限定した権利の付与の是非】(23頁~29頁)について

○「特定の版面」に対象を限定した権利の創設が、海賊版対策ならびに、出版以外の複写等の許諾の促進に不可欠である。

[理由]
仮に経団連案の電子出版権新設が採用された場合には、紙媒体の出版権しかない出版者がデジタル海賊版などへの対策が取れるようにすることが不可欠であるが、「中間まとめ」は、そのための方法でもある中山提言③「特定の版面」に限定した権利付与を葬ってしまった。

この「特定の版面」について、第8回中川勉強会配布の中山提言を基にした「著作権法改正案骨子」は次のように創設の意義を述べている。

試案によると「特定の版面」は「特定版面権(特定出版物権)(仮称)の設定」として、次のようにその創設の意義が説かれている。

「①総合出版権を設定することなしに(=著作物の独占的利用権限を設定せずに)、出版者に対して特定の版面の利用を認める(=特定の版面を利用した侵害についての対抗手段を出版者に付与する)ことができる。
②総合出版権を設定した者との関係においても、例えば、紙媒体書籍の出版しか予定していない出版者にとって電子書籍に係る総合出版権を設定することは事実上不可能であり、そうすると、出版物をデッドコピーしたインターネット上の海賊版への対策を講じることは極めて困難であるところ、特定版面権(特定出版物権)を重ねて設定することで上記のような態様の侵害についても対抗できるようになる。」

第5回出版関連小委で金子委員は、次のように補足説明している。
「提言の〔3〕については、複写利用など、出版とは言えない利用にも出版権の対象を拡大するものであるというものであります。(中略)特に著作者の団体等に加盟していない著作者などについては出版者に対してそのような権利を預けたいというニーズがあるのではないかと。特に我々のような学術論文の著者等についてはそのようなニーズもあるのではないかと考えて、このような〔3〕の提言の中に企業内複製等も含めた形に入れたわけであります。」

再許諾が紙媒体と電子出版にも認められれば、出版という範囲での利用は進むであろう。しかし紙媒体の複写や企業内複製、紙媒体のデジタル複製、電子媒体でのイントラネットなど、出版物の特定な部分に限ってのさまざま複写、複製、送信の許諾要請が様々にある。こうした需要に円滑に応えていくとともに、違法なデジタル複製に対して紙媒体のみの出版者でも対応ができるようにしたのが、この「特定の版面の利用」の意義であり、ぜひとも必要な所以である。

ところが、「『特定の版面』に対象を限定した権利の法制化に反対する意見が多勢を占め、日本書籍出版協会からも、海賊版対策が可能な方策が講じられるならば、『特定の版面』に対象を限定した権利にはこだわらないとの意見が表明された結果、(中略)法制化に向けた合意形成には至らなかった」(中間まとめ25頁)。書協は「JRRC(日本複製権センター) や一般社団法人出版者著作権管理機構(JCOPY)による現行の許諾実務に大きな影響を与える可能性」との理由からだ。しかし、これらの団体が大半の出版者や著作権者を網羅しているわけではない。出版協は旧流対協時代にこれらの団体に加盟を断られた経緯がある。金子委員がいうように「ニーズがある」のである。

しかも、書協が望んだ出版物(特に雑誌)をデッドコピーしたネット上の海賊版対策は、「電子書籍に対応した出版権の創設」で対応することとなった。紙のみの設定出版権しかない出版社は、デジタル海賊版対策を著者任せとするしかない。海賊版対策にならないような改正は無意味である。

【第4章第4節、第5節、第6節】(29頁~32頁)

○再許諾については、「中間まとめ」のとおり、電子媒体と共に、紙媒体の設定出版権の再許諾が不可欠である。

[理由]
再許諾の関係では、電子出版権とともに紙の設定出版権にも再許諾を与えることを「中間まとめ」が中山提言通り認めた点は評価される。書協や雑協は紙の設定出版権の再許諾にも反対しているが、これはわずか数十社の文庫出版社が他社単行本等を自社の文庫に収録する都合だけを考えた対応で、出版界の大局を見通した判断とはおよそ言えない。紙の再許諾に反対する書協・雑協の理由も理由になっていない。

書協、雑協などが反対する理由1に「二次出版の実務は通常再許諾では行われていない」(出版広報センター「出版権」緊急説明会資料)という理由を掲げているが、これは理由ではなく現状を述べているに過ぎなく、現行著作権法では複製権者も出版権者の許諾を出せない「一種の両すくみの関係」(加戸守行『著作権法逐条講義』)にある以上仕方のないことで、当該出版者に再許諾の権利がない以上それを行使できるわけがない。この法的矛盾を解消する意味で紙媒体の設定出版権に再許諾を付与する意義があると言える。

また理由2に「単行本が絶版となると文庫の再許諾権も無くなるのではないか」(同)というが、これも理由になっていない。単行本が絶版になれば著作権者は設定出版権の消滅請求を行い、当該文庫出版者に出版権を再設定すればすむことであり、何も問題はない。

さらに理由3として、「出版ブローカーも出版者となることになるのではないか」(同)というが、これも理解に苦しむ。出版権を設定された出版者は、著作権法81条に基づき当該著作物の原稿等の引渡後6カ月以内に出版しなければならない義務を負い、この約束を果たすことができなければ設定出版権の消滅請求をされるだけである。紙媒体の出版をしない者が他人に対し再許諾を行うことはできないわけで、この紙の再許諾を付与することによって出版ブローカーが成立する根拠はないと考えられる。このような出版ブローカー云々は妄想である。

前記吉田大輔氏は、もともと設定出版権は現行とほぼ同じ出版権制度として一九三四年に法制化されたが、「立法当時、無断出版や競合出版に対して先行出版者の利益をどのように確保するかという議論が高まっており、制度導入時の立法作業担当者も、その趣旨をどのような方法で実現するかについて様々な案を検討したようである」(吉田大輔「電子出版に対応した出版権の見直し案について」、『出版ニュース』2012年10月上旬号)と類似出版物、競合出版物から一次出版者の権利を守ることが、設定出版権創設の意義であると述べている。

その観点から見ると、書協などの反対論は、文庫出版者でない出版者がほとんどの出版界の要望に応えたものとは言えず、いわば「紙のコピー出版者」である文庫出版者の都合ばかりが目立つものとなっている。いかなる出版社であれ、一次出版への敬意は払うべきであり、それこそが著作権法の精神と考える。

【終わりに】(33頁~34頁)について

○権利の主体は出版者(自らの発意と責任において出版物を企画編集し出版する者)とし、権利の主体を「電子出版を引き受けるもの」に拡大することに反対する。また紙と電子媒体の一体的設定し、電子出版も含んだ出版権をデフォルトルール(標準的な内容)する「総合出版権」の方向で改訂することを求める。
権利の内容としては、「中間まとめ」の理由の通り、「複製権及び公衆送信権が適当である」。

「特定の版面」に対象を限定した権利の創設が、海賊版対策ならびに、出版以外の複写等の許諾の促進に不可欠であるため、この権利を創設すべきである。

再許諾については、電子媒体と共に、紙媒体の設定出版権の再許諾が不可欠である。
以上、重複があるが、中山提言に沿って出版者への権利付与が行われるべきである。

中山提言の提起した中山信弘名誉教授は、「中間まとめ(案)」を議論した第8回中川勉強会で、グーグルなどの「敵が箱根の山を越えてきているのに、いつまで小田原評定をしているのか」「提言は最低限一致できるものにした」と指摘した。出版協は、「中間まとめ」を中山提言に沿った方向で改訂することを強く要求する。「中間まとめ」の内容で著作権法が改正されるならば、アメリカ等の電子配信業者の天下となり、日本の出版は確実に崩壊しよう。
なお、【その他】として、下記のことを要望する。

5月29日ヒアリング並びに7月23日付「出版関連小委員会への再要望」で要望したとおり、現行設定出版権及び今回の権利付与では対象外となってしまう出版物のうち、とくに文化的学術的観点から、下記の出版物を出版した出版者の権利を、ヨーロッパ連合諸国で行っているように、一定の条件をつけて一定期間保護するための法的整備を要望する。

一 古典を新たに組み直したり、翻刻、復刻するなどして出版した出版者。
二 著作権が消滅した未発行の著作物を発行した出版者。

以上

※10月21日、文化庁にパブリックコメントとして提出

9月12日第2回トーク●ジュンク堂・インターネット配信

2013年9月12日に行われた、ジュンク堂書店池袋本店でのトークの模様が、
下記のインターネットで配信されています。

●Podcast http://junkudo.seesaa.net/article/377748152.html
●ニコニコ動画 http://www.nicovideo.jp/watch/1381975665

ぜひ、ご覧ください。

●出版協/事務局

2013年10月16日 (水)

出版者の皆様へ●パブリックコメント提出の呼びかけ

出版者の皆様へ ──パブリックコメント提出の呼びかけ
 
2013年10月18日

拝啓
貴社ますますご繁栄のこととお慶び申し上げます。

さて、ご承知のとおり、文化審議会著作権分科会出版関連小委員会「中間まとめ」への意見募集が10月26日まで行われております。電子出版の普及と海賊版対策のための出版者への権利付与を目的にしていると言われますが、「中間まとめ」では、それらの目的を出版者主導で達することができません。出版者の立場からの意見(パブリックコメント)提出が必要です。

日本書籍出版協会(書協)もパブリックコメントの提出を呼びかけておりますが、出版協としてはその内容について、紙の出版物と電子書籍について一体的な制度設計を求める件、権利の主体を出版者とし、単なる電子配信業者が権利の主体に含まれないように求める件などは、同様に考えておりますが、次の二点については同意できません。

1「中間まとめ」では「紙媒体の設定出版権の再許諾」を認めているのに、反対としている点。
2 海賊版対策と出版以外の複写等の利用許諾のための「『特定の版面』に限定した権利付与」についての「制度設計」が「中間まとめ」で認められていないにもかかわらず、反論をしていない点。

紙媒体の設定出版権の再許諾は、単行本出版者が文庫出版者へ再許諾をすることができる、つまり条件を含め交渉権を得るための画期的な規定です。

また「特定の版面」も複写の個別許諾や海賊版対策に不可欠です。しかし小委員会ではこの「制度設計」を書協はあえて求めず、著作者団体の反対もあり「中間まとめ」では葬られてしまっています。

下記に、上記二点の部分についてのパブリックコメント文例を示します。
これらをご参照の上、パブリックコメントをご提出いたければ幸いです。
敬具
 
文化庁意見募集/電子政府の総合窓口(e-Gov)


▼上記2点についてのパブリックコメント文例

【第4章 第4節 2電子書籍に対応した出版権に係る再許諾の在り方】について(29~30頁)

再許諾については、「中間まとめ」のとおり、電子媒体と共に、紙媒体の設定出版権の再許諾が不可欠です。

現在、典型的二次出版である単行本の文庫化にあたっては、現行著作権法では複製権者も出版権者も許諾を出せない「一種の両すくみの関係」(加戸守行『著作権法逐条講義』)にあります。そのため、法的な裏付けのない、当事者間の実務処理によらざるを得ず、一次出版社は大手文庫出版社の提示する条件での合意を強いられているのが現状です。この法的矛盾を解消する意味で紙媒体の設定出版権に再許諾権を付与する意義は大きいと言えます。

もともと類似出版物、競合出版物から一次出版者を守ることが、設定出版権創設の意義であるという観点から見ると、電子媒体と共に、紙媒体の設定出版権の再許諾権を認める「中間まとめ」は妥当であり、いかなる出版社であれ一次出版への敬意は払うべきであり、それこそ著作権法の精神であろうと考えます。

文庫出版社などが、「二次出版の実務は通常再許諾では行われていない」(出版広報センター「出版権」緊急説明会資料)ことを理由に反対していますが、これは前述のような現状を述べているに過ぎず、反対の理由になっていません。

「単行本が絶版となると文庫の再許諾権も無くなるのではないか」(同)という反対理由もあがっていますが、これも単行本が絶版になれば著作権者は設定出版権の消滅請求を行い、当該文庫出版者に出版権を再設定すればすむことであり、何も問題はありません。

さらに反対理由として、「出版ブローカーも出版者となることになるのではないか」(同)と指摘していますが、これも反対の理由になっていません。繰り返しになりますが、出版権を設定された出版者は、著作権法81条に基づき当該著作物の原稿等の引渡後6カ月以内に出版しなければならない義務を負い、この約束を果たすことができなければ設定出版権の消滅請求をされるだけです。紙媒体の出版をしない者が他人に対し再許諾を行うことはできないわけで、この紙の再許諾を付与することによって出版ブローカーが成立する根拠はないと考えられます。
【第4章 第3節 3「特定の版面」に対象を限定した権利の付与の是非】について(23~29頁)

「特定の版面」に対象を限定した権利の付与は、海賊版対策ならびに、出版以外の複写等の許諾の促進に不可欠です。

「特定の版面」に限定した権利の創設の意義は次のように考えられます。

①総合出版権を設定することなしに(=著作物の独占的利用権限を設定せずに)、出版者に対して特定の版面の利用を認める(=特定の版面を利用した侵害についての対抗手段を出版者に付与する)ことができる。

②総合出版権を設定した者との関係においても、例えば、紙媒体書籍の出版しか予定していない出版者にとって電子書籍に係る総合出版権を設定することは事実上不可能であり、そうすると、出版物をデッドコピーしたインターネット上の海賊版への対策を講じることは極めて困難であるところ、特定版面権(特定出版物権)を重ねて設定することで上記のような態様の侵害についても対抗できるようになる。

出版物の特定の部分に限っての利用については、紙媒体の複写や企業内複製、紙媒体のデジタル複製、電子媒体でのイントラネットなど、さまざま複写、複製、送信の許諾要請が現実にあります。こうした需要に円滑に応えていくとともに、違法なデジタル複製に対して紙媒体のみの出版者でも対応ができるようにするのが、この「特定の版面」に対象を限定した権利の付与の意義であり、ぜひとも必要な所以です(第8回中川勉強会配布の「著作権法改正案骨子」などを参照)。

小委員会の審議過程で、書協は「海賊版対策が可能な方策が講じられるならば」という条件付きで「『特定の版面』に対象を限定した権利にはこだわらない」とし、あえてこの権利の創設を求めませんでした。その理由として「JRRC(日本複写権センター) や一般社団法人出版者著作権管理機構(JCOPY)による現行の許諾実務に大きな影響を与える可能性」をあげています。しかし、これらの団体が出版者や著作権者を網羅しているわけではありません。

しかも、書協が望んだ出版物(特に雑誌)をデッドコピーしたネット上の海賊版対策は、「電子書籍に対応した出版権の創設」で対応することとなっており、これでは紙のみの設定出版権しかない出版社は対抗できません。

というのは、設定出版権の紙から電子への拡張・再構成でなく、「中間まとめ」のとおり電子出版権が独立して新設された場合、次の問題が起こるからです。紙媒体の出版権のみの出版者は、紙媒体の出版に必要な範囲での複製権しかなく、公衆送信権はありませんので、自社の紙の出版物をスキャンされてデジタル海賊版を作られた場合、これを差し止めることはできないのです。

改めて、「特定の版面」に対象を限定した権利の付与を求めます。
 
※なお、出版協としての「中間まとめ」への意見全文を出版協ブログにアップしますので、ご参照ください。
 
●問い合わせ等は、事務局(木下)まで
shuppankyo@neo.nifty.jp

2013年10月15日 (火)

〈Amazon Student プログラム〉問題●日販に再要望書

学生を対象にした10%ポイント還元という〈Amazon Studentプログラム〉をめぐるやりとりが続いている。

8月まで、出版協は会員の要望を受けて、アマゾン側には値引きに当たる同サービスの中止を、またアマゾンに商品を卸している日販と大阪屋には、再販契約を遵守するようアマゾンに指導することを求める要望をくり返してきたが、アマゾンは一向に同サービスを中止しなかった。

出版協としてこれ以上申し入れを続けても効果は期待できないとみて、小社は、8月6日付で、Amazon.com Int'l Sales, Inc. に対して、当方は〈Amazon Studentプログラム〉を再販契約違反の値引きと判断しているので、小社の出版物を同サービスの対象から1か月以内に除外するよう求め、それがなされなければ出荷停止も検討せざるを得ない旨の警告を含んだ要望書を送付した。同時に取次の日販・大阪屋にも、アマゾンが小社の要望に応えるよう指導し、その指導内容と結果を知らせることを求める要望書を送付した。小社と同様の思いで、出版協の会員51社(全会員98社の半数超)も同様の趣旨の申入れを行っている。

回答期限とした8月20日の日付でアマゾンジャパン(株)渡部一文メディア事業部長名義で回答が届いた。しかしその答えは、またしても「再販契約の当事者でない」小社には答える立場にないとするものだった。

こうなると、小社の直接の再販契約の相手であり、アマゾンとの再販契約の当事者である…つまり、再販契約の要の位置にある取次店の回答が重要になるのは言うまでもない。日販からは9月2日付で安西浩和専務取締役名義で回答が届いた。そこに記された「アマゾンジャパン社様から示された見解」は以下の4点だ。
①再販制度を崩壊させるといった意図は全くない。再販制度をこれからも尊重していく。
②Amazon Studentプログラムは学生の読書環境を支援したいという目的のサービスで、利用した学生からも一定の評価や支持を得ている。
③Amazon Studentプログラムが再販契約違反かどうかを判断するのは出版社だと認識している。出版社が違反と判断して出荷停止となる可能性は、取次の事前説明で認識している。
④Amazon Studentプログラムは今後も継続する。(以上、回答原文のまま)

日販自体の立場については、「弊社はAmazon.com Int'l Sales, Inc. 様と再販売価格維持契約書を締結しており、今後とも再販制度を維持することは重要と考えております。しかし貴社もご案内の通り、そもそも再販商品に対するポイント付与が再販契約違反に該当するかどうかについては様々な解釈があり、少なくとも司法や行政における統一的な解釈基準が示されていない現状の下では、弊社が独自に判断することは困難であることをご理解いただきたく存じます。」という。小社が知るかぎり、この回答は要望を出した各社すべてに同文だ。

小社が要望した〈Amazon Student〉プログラムのサービス対象からの小社出版物の除外には何も触れていない全く不十分な回答なので、直ちに改めてその点を確認する要望書を日販あてに送付した。小社の思いも記しているのでそのまま掲載する。
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アマゾン・ポイントサービスから小社商品を除外するよう指導を求める再要望
2013年9月6日

謹啓

日頃は、小社出版物の販売にご尽力いただき、誠にありがとうございます。
このたびは、Amazon.com Int'l Sales, Inc.の「〈Amazon Student〉プログラム」のポイントサービスの対象から小社出版物を除外するよう、Amazon.com Int'l Sales, Inc.に対して貴社の指導を求める旨の、小社8月6日付要望書について、9月2日付で貴社専務取締役安西浩和様名にてご回答いただきありがとうございます。

しかし、下記の理由により、改めて要望を申し上げる次第です。
(1)〈Amazon Studentプログラム〉と再販価格維持契約の関係について
貴社ご回答によると、アマゾンジャパン社様は「再販制度を崩壊させるといった意図は全くない。これからも再販制度を維持尊重していく。(見解①)」としつつ、同プログラムが再販契約に違反しない論拠を示しておりません。

貴社は〈Amazon Studentプログラム〉について「さまざまな解釈があり」「弊社が判断することは困難」と、ポイント付与についての一般論を記されていますが、今回の具体的事例について、Amazon.com Int'l Sales, Inc.は再販維持契約の当事者である貴社に、〈Amazon Studentプログラム〉が再販維持契約に違反しない旨の説明をしたことと拝察いたします。その説明についての貴社の判断は結構ですので、Amazon.com Int'l Sales, Inc.による説明の内容を正確にお知らせください。


小社では、前回要望書にて申し上げました通り、ポイントカードによる販売行為は、公正取引委員会の判断をまつまでもなく、値引であり、再販売価格維持契約違反であると判断しており、再販制度そのものを崩壊させかねないものとして、小社商品のAmazon.com Int'l Sales, Inc.への出荷停止を見据えて重大な決断をしようとしております。そのために、〈Amazon Studentプログラム〉についてAmazon.com Int'l Sales,Inc.側がどういう解釈・論拠をもって再販維持契約に違反しないとしているのかは、重要なポイントです。Amazon.com Int'l Sales, Inc.は、再販維持契約の当事者でない小社には説明不要としており、小社がそれを知りうるのは、同社との契約当事者である貴社の回答によるしかありません。

再販契約の結節点として小社と小売店を繋ぐ貴社には、本来ならそのお立場でのご見解をうかがいたいのですが、「判断することは困難」とのことですので、貴社の判断はともかく、Amazon.com Int'l Sales, Inc.側の説明の内容をお知らせいただくよう要望いたします。

(2)小社の出版物を〈Amazon Studentプログラム〉の対象から除外する件について
貴社ご回答では、アマゾンジャパン社様の見解として「Amazon Studentプログラムは今後も継続する(見解④)」と記されていますが、そもそも小社の要望書は同プログラムの中止を求めておりません(心中熱望してはおりますが)。

小社の要望は、同プログラムのサービスの対象から小社商品を早急に除外することのみを求めたものです。これは「出版社が再販契約に基づいて言う場合であっても、自分の商品についてだけ止めてくれと言えるわけで、他社の商品についてまでは言えない。ポイントカードを実施しているところに対して、ポイントカードシステムを止めろとは言えないのであって、自社の商品は対象外とするようにと言えるということです。表示上から言うと、消費者向けにその旨を表示して貰うことになります」という野口文雄公取委取引企画課長の見解(「再販制度の適切な利用に当たっての留意点」、出版ニュース2005年1月下旬号)に沿った、きわめて穏当なものです。

〈Amazon Studentプログラム〉の存続がアマゾンジャパン社様の意志であることは伝わって参りましたが、肝心の小社の要望への答えにはなっておりません。

改めて、小社の出版物を〈Amazon Studentプログラム〉の対象から早急に除外するようAmazon.com Int'l Sales, Inc.にご指導の上、そのご指導の結果内容をお知らせいただくよう要望いたします。

まことに勝手ですが、前回要望から既に1か月を経過していることもあり、9月13日までのご回答をお願いいたします。

出版物の再販制度の今後に大きな影響を及ぼさざるを得ない問題として、再販契約の要、再販制度の重要な担い手である貴社の指導力の発揮を切に希望いたします。

謹白

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再要望は小社だけでなく、他社からも送付されたと認識している。小社の再要望書では日販がポイントカードについて再販契約違反に該当するかどうか「判断することは困難」としているのを追認した内容になっているが、その点についても、公正取引委員会の見解や、出版再販研究委員会の「再販契約の手引き」を示して、日販が「判断することは困難」としていること自体に疑義を呈している社もあると聞いている。

日販担当者によると「回答に向け鋭意努力中」とのことだが、9月30日現在、回答はまだない。

水野久
晩成書房  )●出版協副会長
『新刊選』2013年10月号 第12号(通巻236号)より

「特定秘密保護法案」に反対する声明

「特定秘密保護法案」に反対する声明

2013年10月10日

政府は「特定秘密保護法案」の概要を9月3日に発表して、10月の国会に提出しようとしている。この法案は、これまで何度も立案されては国民が何とか廃案に持ち込んできた「国家機密法」と呼ばれたものの復活である。2011年には「秘密保全法」として再度提出され、出版協は反対声明を出した。多くの反対があり、これも廃案になった。

今回の「特定秘密保護法案」は、概要発表が国会提出1か月前であり、国民へのパブリックコメントの募集も2週間と非常に短い、一方的で強引なやり方であった。よせられたコメントは9万件にのぼり、その8割は、国民の知る権利が損なわれるとした反対意見であったという。政府は反対のコメントを精査し、法案提出をやめるべきである。

法案は国の防衛・外交・安全脅威活動の禁止・テロ活動の防止を対象として「特定秘密」を指定するとしているが、それは行政の「長」が指定することになっている。防衛相や外相は恣意的に特定秘密を指定し、さまざまな情報を国民の眼から隠すことができる。また何が特定秘密にあたるかが、国会や裁判所でチェックできない。秘密指定は30年間続く。特定秘密の定義が曖昧なままその判断が行政の「長」に任されるのはきわめて危険なことである。

安全脅威やテロの分野も解釈次第で、市民レベルの活動にまでも処罰対象になりかねない。特定秘密を取得する行為(内部告発)について、未遂・共謀・教唆・煽動の処罰規定があるからだ。特定秘密を漏らした場合、懲役10年の重罰を科していることも驚きである。現在の国家公務員法では1年、自衛隊法でも5年である。現行法でも十分に対処できるのに、新たな重罰規定は国家公務員への威嚇行為である。

さらに法案は特定秘密を扱う人への「適正評価制度」を導入しようとしている。人の監視を強化することによって情報漏洩を防ごうとするものであるが、調査項目は多岐にわたっている。国籍、外国への渡航歴、ローンの返済状況、精神疾患など、対象も公務員や受託業務を受けた民間人、その家族、友人にまで及ぶ可能性がある。このような  「適正評価制度」はプライバシーの侵害であり、到底容認できない。

現在でも国家公務員法の秘密漏洩罪など国家秘密を守る刑事規定は存在している。この上にさらに、政府は特定秘密の範囲や処罰対象を広げようとしている。公務員・市民が処罰を恐れ、メディアの取材に応じにくくしているのである。民主主義には行政情報の情報公開こそが必要なのであり、情報公開の世界的潮流に逆行しているのである。

「特定秘密保護法案」は、報道・出版の自由を制約し、国民の知る権利を侵害する危険な法律であり、悪用が懸念される法律を新たに作る必要はない。断固反対するものである。

以上

2013年10月 4日 (金)

出版協 『新刊選』2013年10月号 第12号(通巻236号)

出版協 『新刊選』2013年10月号 第12号(通巻236号)

1P …… 日販に再要望書
──〈Amazon Studentプログラム問題

水野久晩成書房 )●出版協副会長
2P …… 出版協BOOKS/10月に出る本
3P …… 出版協BOOKS/10月に出る本

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