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2013年10月18日 (金)

出版関連小委員会「中間まとめ」への意見

文化審議会著作権分科会出版関連小委員会「中間まとめ」への意見
 
2013年10月18日

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日本出版者協議会(以下、出版協)は、文化審議会著作権分科会出版関連小委員会「中間まとめ」について、以下のように意見を提出する。

【はじめに】(1頁~2頁)について

○本「中間まとめ」までの審議経過について。

[理由]
出版協は、出版関連小委員会第2回小委(5月29日)の関係団体ヒアリングで、意見表明はしたものの、委員に選出されなかったため議論には参加できず残念であった。

私どもの団体は、中小零細出版社96社で組織される出版業界団体で、もっぱら大手出版社によって組織される日本書籍出版協会とは、出版者への権利付与について大筋では意見の一致をみるものの、いくつかの重要な点で意見を異にするところがある。その意味で出版界の少数意見を取り入れる機会を講じるべきであったと考える。

7月23日「出版関連小委員会への再要望」を提出したが、この再要望は各委員には配布されたものの、傍聴者や報道関係者に配布されなかったことは残念である。再要望は、「出版者の権利のあり方に関する提言」(2013年4月4日付、中山信弘東大名誉教授ほか。以下、中山提言)に沿った結論をだすべきというものである。
本意見は、出版関連小委の議論を踏まえ、中山提言に沿った方向で、現行設定出版権を紙媒体の出版から電子出版への拡張・再構成する内容で結論をまとめることを求めるものである。

○「本中間まとめでは、便宜的に、パソコン、携帯電話、専用端末等の機器を用いて読まれる電子化されたコンテンツを広く『電子書籍』と呼び、電子書籍をインターネット等で配信することを『電子出版』とする。」と定義しているが、この定義に反対である。

[理由]
納本制度審議会での定義にあるように、電子書籍については、パッケージ系電子出版物とオンライン系電子出版物とがあると考えるのが通常の認識と考える。中間まとめの「電子書籍」は「オンライン系電子書籍」と定義できる。

また「電子書籍をインターネット等で配信することを『電子出版』とする」と定義しているが、これは著作権法上の「自動公衆送信」にあたるもので、この行為は「電子配信」であり、「電子出版」とするのはおかしい。

出版者は自らの発意と責任において、その経済的リスクを賭けて企画から編集・制作、流通までの出版行為を引き受けるものであり、出版行為には文書または図画の著作物を印刷する従来の紙の出版と「電子出版」とがある。電子出版には、パッケージ系電子出版とオンライン系電子出版とがあるが、オンライン系電子出版は文書または図画の著作物を自動公衆送信のために送信可能化する行為、電子書籍を創る行為といえる。「中間まとめ」は、出版者などが電子書籍を販売する行為、すなわち「電子配信」を「電子出版」とすることで、単に電子書籍の配信業者を、電子出版を引き受ける電子出版者と定義するという誤りがある。

【第3章第1節 出版社への権利付与についての方策】(13頁~17頁)について

○出版関連小委の議論を踏まえ、出版協としての本「『中間まとめ』への意見」、並びに中山提言に沿って、現行設定出版権を紙媒体の出版から電子出版への拡張・再構成する内容で結論をまとめることを求める。

[理由]
近年の複製複写技術の発展は、紙やデジタルの違法コピーや海賊版を蔓延させ、著作者や出版社に多大な被害を与え、またデジタルネットワーク時代を迎えて出版社の電子出版への対応が緊急の課題となっている。ところが、こうした事態に出版社が対応しようとしても、現行の設定出版権では限界があり有効に対応できず、著作者ももっぱら個人であるため対応が難しいことから、著作者の利益のためにも、事業体である出版者に迅速な組織対応を任せた方が有効であることが明らかになってきた。グーグルブック検索問題や自炊代行問題がその一端といえよう。こうした観点から出版者への権利付与の必要性が議論されてきた。

文科省に設置された「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」が平成23年12月にまとめた報告でも、「『出版者への権利(著作隣接権)付与』について、出版者から『電子書籍の流通と利用の促進』と『出版物に係る権利侵害への対応』の二つの観点から、その必要性等が主張された」と総括している。

こうした出版者の要望を受けた「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」(以下、中川勉強会)は、4月4日、中川提言をまとめた。出版関連小委の議論の中心となったこの提言は、「著作者との契約により設定される現行の出版権が、原則として電子出版にも及ぶよう改正」し、「法改正前の作品にも当事者の合意により拡張可能なため、権利を分散化せず、著作者の意思に基づいた活用を期待できる。また、オンライン海賊版の差止などのニーズにも対応できる」というものであった。

具体的には、
① 当事者の特約により、「印刷のみ」「電子出版のみ」という出版権の設定も可能にする→流通の変化にともなう、多様な契約のありかたにも対応。
② 現行出版権の再許諾不可を改め、特約なき限り再許諾可とする→一次出版の後の他社での文庫化や、多数のプラットフォームでの配信などに対応する。
③ 当事者の特約により、特定の版面に対象を限定した上、その複写利用などにも拡張可→企業内複製やイントラネットでの利用許諾などに対応する。
④ 対抗要件としての現行登録制度を拡充し、登録しやすいよう環境を整備する。
ことが提言された。

出版関連小委では、①中山提言の現行設定出版権を紙媒体の出版から電子出版への拡張・再構成する案(9月13日第8回中川勉強会で配布された中山提言を基にした著作権法改正案骨子では「総合出版権」と呼称されているので、以下総合出版権と呼ぶ)を軸に、②日本経団連の提言である電子出版に対応して新たに電子出版権を創設する案が検討された。出版者は総合出版権への拡張・再構成を支持し、著作者団体、電子配信業者は電子出版権の新設を支持した。

「中間まとめ」は「いずれの方法をとる場合でも、紙媒体での出版と電子出版を行う場合には、出版者と著作権者との契約により、双方の権利を一体的に設定することは可能である。また、出版者が多大な労力と資本を投下し著作者と密接な関係の下で創作される著作物については、著作権者と出版者との信頼関係に基づき、紙媒体での出版と電子出版に係る権利が、おのずと同一の出版者に一体的に設定されていくことが想定される」(22頁)と結論して、事実上、②を選択した。

【第4章第2節 1、2電子書籍に対応した出版権の主体の在り方】(19頁~22頁)について

○中山提言に沿って、権利の主体は出版者(自らの発意と責任において出版物を企画編集し出版する者)とし、権利の主体を「電子出版を引き受けるもの」に拡大することに反対する。また紙と電子媒体の一体的設定とし、電子出版も含んだ出版権をデフォルトルール(標準的な内容)とする「総合出版権」の方向で改訂することを求める。

[理由]
総合出版権について吉田大輔氏は「金子(敏哉)講師(中山提言のメンバーで出版関連小委の委員、明治大学法学部講師)の説明によれば、既存の出版権と電子出版権を別々に設定するのではなく、電子出版も含んだ出版権をデフォルトルール(標準的な内容)とした上で、著作権者の意思によって紙媒体のみや電子出版のみといった限定した権利設定も可能とするというもの」(「出版者の権利に関する審議の動向」、出版ニュース2013年9月中旬号)と要約する。

一方、経団連の電子出版権は、「インターネット上で流通する違法電子書籍の問題については、著作権者である作家個々人で対処することは事実上不可能である。他方、出版者は紙の違法出版物に対して、『出版権』の設定による差止めは可能であるが、インターネット上の違法流通を排除する権限は、現行著作権法上に存在しない。」(「電子書籍の流通と利用の促進に資する『電子出版権』の新設を求める」日本経団連、2013年2月19日)との認識で、中山提言と一致するものの、「現在、電子書籍ビジネスが直面している深刻な違法電子書籍被害に鑑みれば、先ずは電子書籍を発行する者に、違法電子書籍に対抗できる権利を与えることが効果的である。」(同)としている。

二つの大きな違いはまず、権利を行使できる主体にある。総合出版権では「文書若しくは図画又はこれらに相当する電磁的記録として出版することを引き受ける者」であるのに対し、電子出版権では「電子出版を引き受ける者(電子出版のみを行う者を含む)」が、紙媒体の「出版を引き受ける者」とは独立して設定されているところにある。「出版を引き受ける者」は出版者であるが、「電子出版を引き受ける者」は必ずしも出版者である必要はなく、出版をしない単なる電子配信業者や、いわゆるボーンデジタルといわれる従来の出版物とは言えないコンテンツ等を配信する電子出版者も含まれる、より広い概念となる。電子配信業者は、具体的にはアマゾン、グーグル、アップルなどが想定される。

電子出版権では、既存の出版者が電子出版権をとることも可能であるし、総合出版権でも紙媒体のみや電子出版のみといった権利設定も可能なので大差はなく、著作権者との信頼関係があれば、両方を契約できるので問題はないという、著者団体や法律家の意見も強かった。しかし、著作権法でデフォルトルールとして規定されているのといないのでは、意味合いが違う。

そもそも「電子書籍の流通と利用の促進」と「出版物に係る権利侵害への対応」という観点から出版者への権利付与がこの間議論されてきたのであって、電子出版者への権利付与が議論されてきたわけではない。

ところが経団連案は、出版者が占有する紙の設定出版権の限界を検討することなく、電子出版に係る権利を単独に検討し、設定出版権を電子出版に応用し、電子出版権設定契約に基づく電子出版権を打ち出し、単に電子出版を引き受ける者に電子出版権を付与するとした。

現在の電子出版物、オンライン出版物のほとんどは、出版者が発行する紙の出版物をもとにデジタル化されている。紙の出版物から電子出版物への変換は、出版者が著作権者に電子出版化の許諾をひとつずつ取って処理していて、手間ひまがかかる。電子化が進まないのも当然である。その意味で、電子出版を促進するためには、出版者に総合出版権を付与し、電子出版を引き受けさせ出版義務を課せば、出版者は電子出版を期限内に行うようになり、電子出版は飛躍的に促進されよう。義務を果たさなければ著作権者は電子出版権の消滅請求を行い、別の出版者等で電子出版をすればよい。

第3回出版関連小委で渋谷達紀委員(東京都立大学名誉教授、「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」座長)は、次のように述べている。

「電子書籍出版権のようなものがあるとすれば、それを付与されるのは現行の出版権を持っている出版社に限るべきではないかと私は思います。ボーンデジタル型のコンテンツを配信する業者がいるだろうと思うんですけれども、(中略)ボーンデジタル型のコンテンツを公衆送信する者に現行の出版権類似の権利を与えるとしますと、ほかの書籍とはみなせないようなデジタル情報を配信する業者にも、みんな同じような権利を与えなければいけなくなり、際限がなくなるんではないかなということを恐れます。」

渋谷委員の指摘の通りで、自らの発意と責任において企画から編集・制作、流通までの出版行為を引き受ける出版者ではなく、著作権者の許諾をとることでもっぱら紙媒体の出版物をデジタルコピーし配信するにすぎない電子配信業者や、およそ出版物とはいえないものを電子出版する者にまで電子出版権を付与する必要はない。

出版協としては、改めて、中山提言に沿った「総合出版権」の方向で改訂することを求めるものである。同時に、権利の主体は出版者(自らの発意と責任において出版物を企画編集し出版する者)とし、権利の主体を拡大することに反対する。
──紙の出版者が電子出版権を得られないと深刻な事態が起きる
仮に紙の出版者が電子出版権を得られない場合、どういうことが起こるのか。この点の危惧を6月24日の第4回小委で、森田宏樹主査代理(東大大学院法学政治学研究科教授)が次のように指摘している。

「例えば、紙媒体の書籍についてスキャナーがなされ、サイトにアップされた場合に、紙媒体の書籍の出版権と電子書籍の出版権の双方を有する出版社は、公衆送信権に基づいてその差止めを請求することが可能でありますが、紙媒体の書籍の出版権のみの付与を受けた出版者については、紙媒体の書籍の出版に必要な範囲での支分権として、その頒布目的の複製権しかないということになりますと、公衆送信権はありませんので、それに基づいて海賊版を差し止めるということはできないことになります。」

これは、グーグルブック検索問題の時に、日本の出版社がなす術がなかった状況そのものである。アマゾンやグーグルなどの電子配信業者は、すでに、「なか見!検索」などに応じた出版者の本をスキャンするなど、様々な方法で無断を含めスキャンしており、電子書籍として電子配信する条件をすでに整えていると見るべきであろう。

こうした電子配信業者が「電子出版を引き受ける者」として著作者と契約しさえすれば、紙媒体の出版権しかない出版者は、電子配信業者によってコピーされた電子書籍を電子配信されてもなにもできないことになる。まして公正取引委員会が電子書籍を非再販商品としている現状で安売りなど恣意的な値付けで販売された場合、紙の出版物の打撃は大きく、多くの出版社は立ち行かなくなる。これでは、何のための出版者への権利付与なのか。

もともとこのような電子配信業者は、自らの発意と責任において出版物を企画編集する者ではなく、もっぱら既存の紙の出版物からデジタルスキャンするだけのコピー業者にすぎず、本来の出版者とはいえない。出版者と電子配信業者つまり電子書籍販売業者という役割の違う者を同列におき、後者にまで電子出版権を付与しようというのが電子出版権新設案といえる。「中間まとめ」でも、「電子書籍に対応した出版権の客体に関しては、現行の出版権で対象となっている文書又は図画に相当するものを対象とすることが適当であると考える。」(「中間まとめ」22頁)と結論しているわけで、「現行の出版権で対象となっている文書又は図画に相当する」電子書籍に対応した出版権は、出版者に付与されるのが自然であり、そうすべきである。そう規定されたからといって、電子配信業者が出版をすれば出版者になれるわけで、電子配信業者に不利益はなく問題はない。

【第4章第2節 3電子書籍に対応した出版権の客体の在り方】(22頁)について

○「中間まとめ」の通りである。「電子書籍に対応した出版権の客体に関しては、現行の出版権で対象となっている文書又は図画に相当するものを対象とすることが適当であると考える。」(「中間まとめ」22頁)と規定する以上、現行出版権の拡張として権利の主体も、出版者とすべきである。

【第4章第3節 権利の内容1、2】(23頁)について

○権利の内容としては、「中間まとめ」の理由の通り、「複製権及び公衆送信権が適当である」。

【第4章第3節 3「特定の版面」に限定した権利の付与の是非】(23頁~29頁)について

○「特定の版面」に対象を限定した権利の創設が、海賊版対策ならびに、出版以外の複写等の許諾の促進に不可欠である。

[理由]
仮に経団連案の電子出版権新設が採用された場合には、紙媒体の出版権しかない出版者がデジタル海賊版などへの対策が取れるようにすることが不可欠であるが、「中間まとめ」は、そのための方法でもある中山提言③「特定の版面」に限定した権利付与を葬ってしまった。

この「特定の版面」について、第8回中川勉強会配布の中山提言を基にした「著作権法改正案骨子」は次のように創設の意義を述べている。

試案によると「特定の版面」は「特定版面権(特定出版物権)(仮称)の設定」として、次のようにその創設の意義が説かれている。

「①総合出版権を設定することなしに(=著作物の独占的利用権限を設定せずに)、出版者に対して特定の版面の利用を認める(=特定の版面を利用した侵害についての対抗手段を出版者に付与する)ことができる。
②総合出版権を設定した者との関係においても、例えば、紙媒体書籍の出版しか予定していない出版者にとって電子書籍に係る総合出版権を設定することは事実上不可能であり、そうすると、出版物をデッドコピーしたインターネット上の海賊版への対策を講じることは極めて困難であるところ、特定版面権(特定出版物権)を重ねて設定することで上記のような態様の侵害についても対抗できるようになる。」

第5回出版関連小委で金子委員は、次のように補足説明している。
「提言の〔3〕については、複写利用など、出版とは言えない利用にも出版権の対象を拡大するものであるというものであります。(中略)特に著作者の団体等に加盟していない著作者などについては出版者に対してそのような権利を預けたいというニーズがあるのではないかと。特に我々のような学術論文の著者等についてはそのようなニーズもあるのではないかと考えて、このような〔3〕の提言の中に企業内複製等も含めた形に入れたわけであります。」

再許諾が紙媒体と電子出版にも認められれば、出版という範囲での利用は進むであろう。しかし紙媒体の複写や企業内複製、紙媒体のデジタル複製、電子媒体でのイントラネットなど、出版物の特定な部分に限ってのさまざま複写、複製、送信の許諾要請が様々にある。こうした需要に円滑に応えていくとともに、違法なデジタル複製に対して紙媒体のみの出版者でも対応ができるようにしたのが、この「特定の版面の利用」の意義であり、ぜひとも必要な所以である。

ところが、「『特定の版面』に対象を限定した権利の法制化に反対する意見が多勢を占め、日本書籍出版協会からも、海賊版対策が可能な方策が講じられるならば、『特定の版面』に対象を限定した権利にはこだわらないとの意見が表明された結果、(中略)法制化に向けた合意形成には至らなかった」(中間まとめ25頁)。書協は「JRRC(日本複製権センター) や一般社団法人出版者著作権管理機構(JCOPY)による現行の許諾実務に大きな影響を与える可能性」との理由からだ。しかし、これらの団体が大半の出版者や著作権者を網羅しているわけではない。出版協は旧流対協時代にこれらの団体に加盟を断られた経緯がある。金子委員がいうように「ニーズがある」のである。

しかも、書協が望んだ出版物(特に雑誌)をデッドコピーしたネット上の海賊版対策は、「電子書籍に対応した出版権の創設」で対応することとなった。紙のみの設定出版権しかない出版社は、デジタル海賊版対策を著者任せとするしかない。海賊版対策にならないような改正は無意味である。

【第4章第4節、第5節、第6節】(29頁~32頁)

○再許諾については、「中間まとめ」のとおり、電子媒体と共に、紙媒体の設定出版権の再許諾が不可欠である。

[理由]
再許諾の関係では、電子出版権とともに紙の設定出版権にも再許諾を与えることを「中間まとめ」が中山提言通り認めた点は評価される。書協や雑協は紙の設定出版権の再許諾にも反対しているが、これはわずか数十社の文庫出版社が他社単行本等を自社の文庫に収録する都合だけを考えた対応で、出版界の大局を見通した判断とはおよそ言えない。紙の再許諾に反対する書協・雑協の理由も理由になっていない。

書協、雑協などが反対する理由1に「二次出版の実務は通常再許諾では行われていない」(出版広報センター「出版権」緊急説明会資料)という理由を掲げているが、これは理由ではなく現状を述べているに過ぎなく、現行著作権法では複製権者も出版権者の許諾を出せない「一種の両すくみの関係」(加戸守行『著作権法逐条講義』)にある以上仕方のないことで、当該出版者に再許諾の権利がない以上それを行使できるわけがない。この法的矛盾を解消する意味で紙媒体の設定出版権に再許諾を付与する意義があると言える。

また理由2に「単行本が絶版となると文庫の再許諾権も無くなるのではないか」(同)というが、これも理由になっていない。単行本が絶版になれば著作権者は設定出版権の消滅請求を行い、当該文庫出版者に出版権を再設定すればすむことであり、何も問題はない。

さらに理由3として、「出版ブローカーも出版者となることになるのではないか」(同)というが、これも理解に苦しむ。出版権を設定された出版者は、著作権法81条に基づき当該著作物の原稿等の引渡後6カ月以内に出版しなければならない義務を負い、この約束を果たすことができなければ設定出版権の消滅請求をされるだけである。紙媒体の出版をしない者が他人に対し再許諾を行うことはできないわけで、この紙の再許諾を付与することによって出版ブローカーが成立する根拠はないと考えられる。このような出版ブローカー云々は妄想である。

前記吉田大輔氏は、もともと設定出版権は現行とほぼ同じ出版権制度として一九三四年に法制化されたが、「立法当時、無断出版や競合出版に対して先行出版者の利益をどのように確保するかという議論が高まっており、制度導入時の立法作業担当者も、その趣旨をどのような方法で実現するかについて様々な案を検討したようである」(吉田大輔「電子出版に対応した出版権の見直し案について」、『出版ニュース』2012年10月上旬号)と類似出版物、競合出版物から一次出版者の権利を守ることが、設定出版権創設の意義であると述べている。

その観点から見ると、書協などの反対論は、文庫出版者でない出版者がほとんどの出版界の要望に応えたものとは言えず、いわば「紙のコピー出版者」である文庫出版者の都合ばかりが目立つものとなっている。いかなる出版社であれ、一次出版への敬意は払うべきであり、それこそが著作権法の精神と考える。

【終わりに】(33頁~34頁)について

○権利の主体は出版者(自らの発意と責任において出版物を企画編集し出版する者)とし、権利の主体を「電子出版を引き受けるもの」に拡大することに反対する。また紙と電子媒体の一体的設定し、電子出版も含んだ出版権をデフォルトルール(標準的な内容)する「総合出版権」の方向で改訂することを求める。
権利の内容としては、「中間まとめ」の理由の通り、「複製権及び公衆送信権が適当である」。

「特定の版面」に対象を限定した権利の創設が、海賊版対策ならびに、出版以外の複写等の許諾の促進に不可欠であるため、この権利を創設すべきである。

再許諾については、電子媒体と共に、紙媒体の設定出版権の再許諾が不可欠である。
以上、重複があるが、中山提言に沿って出版者への権利付与が行われるべきである。

中山提言の提起した中山信弘名誉教授は、「中間まとめ(案)」を議論した第8回中川勉強会で、グーグルなどの「敵が箱根の山を越えてきているのに、いつまで小田原評定をしているのか」「提言は最低限一致できるものにした」と指摘した。出版協は、「中間まとめ」を中山提言に沿った方向で改訂することを強く要求する。「中間まとめ」の内容で著作権法が改正されるならば、アメリカ等の電子配信業者の天下となり、日本の出版は確実に崩壊しよう。
なお、【その他】として、下記のことを要望する。

5月29日ヒアリング並びに7月23日付「出版関連小委員会への再要望」で要望したとおり、現行設定出版権及び今回の権利付与では対象外となってしまう出版物のうち、とくに文化的学術的観点から、下記の出版物を出版した出版者の権利を、ヨーロッパ連合諸国で行っているように、一定の条件をつけて一定期間保護するための法的整備を要望する。

一 古典を新たに組み直したり、翻刻、復刻するなどして出版した出版者。
二 著作権が消滅した未発行の著作物を発行した出版者。

以上

※10月21日、文化庁にパブリックコメントとして提出

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