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2013年12月27日 (金)

2014年のはじめに

2013年も出版者の権利、出版物の再販制、出版・表現の自由という、私たち出版者にとって重要な課題をめぐって、慌ただしい1年だった。

春から「出版者の権利」に関する議論が本格化し、2014年の国会での著作権法の改正に向けて急速に展開していったこと。基本は、電子機器・ネット環境の進展によりデジタル複製やその授受が簡単にできるようになったこと。そして電子端末の急速な普及状況。しかし、現在の出版者は紙の書籍についての「設定出版権」しか持っていない。これでは電子的な海賊版には出版者は法定に対抗できない。その対策と電子書籍の流通の促進のためには、出版者に電子書籍についても何らかの権利を与えるべきだと、文科省「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」が報告を出したのが2011の12月。しかしその後、文科省は法整備に動かない。そこで2012年は、まず国会議員が動いた。

2012年4月、中川正春元文科大臣を座長とする「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」が発足。座長の名を取って通称「中川勉強会」に超党派の国会議員、出版関係者、著作権者、印刷・電子出版関係者らが参加し、議員立法を視野に論議を進めた。私たち出版協(当時は流対協だった)は、勉強会への参加ができなかったが、参加していた書協の関係者からは「著作隣接権」の方向で進んでいると聞いていた。

書協はその方向で「出版物に関する権利」をまとめ、実現可能な「著作隣接権」として私たち出版協にも賛同を要請。しかし、この「出版物に関する権利」は、ある原稿を本にする場合、最初に刊行した「第一次出版物」に権利が発生するだけでなく、同じ原稿から新たに版を組んで別の本を刊行すれば、その本にも同様の権利が発生することになっていた。私たち出版協は「第一次出版者」の権利尊重が必要だとして、さらに出版界の内部で討議するよう求めた。
議員を中心にした2012年の動きを受けて、2013年春先から文化庁が著作権法の改正に向けて本格的に動き出す。2月初頭には文化庁担当者が出版協にヒアリングに訪れ、担当者の話からは文化庁が「設定出版権」を電子にも拡大する方向(「著作隣接権」では著作者や経済界の理解を得にくい)で考えていることが伝わってきた。

呼応するように2月のうちに、経団連が提言「電子書籍の流通と利用の促進に資する『電子出版権』の新設を求める」を発表。現行の紙の「設定出版権」には手をつけず、「電子出版権」を別個に「新設」するという案だ。

4月には中山信弘東大名誉教授を中心にした学者・法律家が、「設定出版権」を電子にも及ぶように一体的に拡大する「総合出版権」を基盤にした、いわゆる「中山提言」を発表。中川勉強会もこの提言の方向を支持することとした。

こうして、「著作隣接権」「電子出版権の新設」「設定出版権の電子への拡大」の3通りの考えが提示される中、5月から文化庁の「文化審議会著作権分科会出版関連小委員会」が始まった。文化庁は2013年中の論議のとりまとめ、2014年の国会への法案上程を念頭に、月1回のハイペースで小委員会を開催。一方、議員側も6月、中川勉強会をもとに「電子書籍と出版文化の振興に関する議員連盟」(座長・河村建夫)を結成。「中山提言」の実現を求め、議員立法も辞さない構えで、文化庁の審議を促した。

小委員会は、夏には「中間まとめ」を発表し、9月のパブリックコメント募集を経て、12月20日の第9回で最終の「報告書(案)」が示され、了承された。

この「報告書」では、設定出版権を電子に及ぶようにすることを基本に、紙と電子の権利を基本的に一体とする「総合出版権」と、両者を別と考える「電子出版権の新設」は依然、両論併記のままである。小委員会では、中間まとめでこの両論併記が示されて以後、パブリックコメントでは、出版関係者を中心に「総合出版権」を求める意見が多かったことが報告されたが、両論併記の状態は変わらなかった。

紙と電子の権利を一体とする「総合出版権」も、どちらか一方のみで契約することは可能だし、別個と考える「電子出版権の新設」でも、紙・電子それぞれを同時に契約することは可能なのだから、両者の違いは運用の問題でしかないのでは、といった法律関係者の意見もあった。しかし、第一次出版者が紙の権利しか獲得できなかった場合、電子的な海賊版にはやはり有効な手だてはない。紙の本の刊行後に、他社が電子版を全く別の(安い)価格設定で刊行することもどうすることもできない──これでは、これからの出版は成り立たない。法制化にあたっては、やはり紙と電子の権利を一体とすることを基本とする「総合出版権」を、と強く求めたい。

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アマゾンの学生対象10%ポイント還元「Amazon Studentプログラム」は、明らかな値引きなので、自社の商品を同サービスの対象から外すよう指導することを求めた小社要望書に対する日販の回答は、1月早々になるとのこと。書籍の再販制を小売最大手の書店がなしくずしにしているこの状態は、やはり何とかしたい。日販の回答内容を検討して、次の一歩に進みたい。

年末の「特定秘密保護法」の強引な採決。「戦争のできる国づくり」にひた走るこの国。その方向は情報の権力への集中と言論・表現の規制との方向しか向かわない。その流れに一気に押し流されないよう、敏感でいたいと思う。

4月には、いよいよ消費税の8%実施。2014年もまた慌ただしい一年になりそうだが、息切れしないようがんばるしかないと思う年の初めです。

水野久晩成書房  )●出版協副会長
『新刊選』2014年1月号 第15号(通巻239号)より

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