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2013年12月 2日 (月)

出版者への権利付与はどうなるのか──著作権分科会出版関連小委・最終まとめを前に

●第8回出版関連小委員会
去る11月25日、出版者への権利付与等を検討している文化審議会著作権分科会出版関連小委員会の第8回委員会が開催された。「電子書籍に対応した出版権の整備」について具体的な論点を詰め、著作権法改正に向けた「最終まとめ」のための会合であった。

同小委員会は9月26日、出版者への権利付与についての「中間まとめ」を公表したが、出版界として推した、「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」(以下、中川勉強会)の「出版者の権利のあり方に関する提言」(2013年4月4日付、中山信弘東大名誉教授ほか。以下、中山提言)から大きく後退した内容であった。

具体的には、①中山提言の設定出版権の電子への拡張と経団連の電子出版権創設が両論併記され、②紙の書籍のデジタル海賊版対策が尻抜けとなるなど、出版界が望んでいた電子書籍の普及と海賊版対策に赤信号が灯った(詳しくは拙論「中山提言は骨抜きにされてしまうのか-著作権分科会出版関連小委『中間まとめ』を読む」出版ニュース2013年10月上旬号を参照されたい)。②などは著作者団体の反対があったとはいえ、「特定の版面」に限定した権利の創設を書協自身が望まなかった結果であり、各論点でも出版社側委員の失策が目立ち、出版関連小委での議論で、出版界としての提言である中山提言を説得的に擁護しきれなかったためと言える。

この間の動きは慌ただしかった。「中間まとめ」には9月27日から10月26日まで一般からの意見募集が行われた。このため、10月9日には、出版広報センターが「『出版権』緊急説明会」を開催、「中間まとめ」に至る経過と論点が報告され、書協、雑協の「中間まとめ」へのパブコメ(案)が発表された。内容は、①紙と電子の一体的設計をデフォルトルールとする「総合出版権」、②海賊版対策は「特定版面権」の復活求めず、「見なし侵害」で対応、③紙の出版物の再許諾のための法改正は不要とし、電子書籍の再許諾に著作権者の承諾を不要とするものであった。

筆者は、紙の出版物の再許諾のための法改正は不要とする部分の削除を求めたが、容れられなかった。出版広報センターの片寄聡氏は、危機感を滲ませながら「中間まとめ」への巻き返しのため、パブコメの送付を会員各社や社員に強く求めた。

10月13日の出版協理事会は、①「中山提言」の実現と、②書協が反対している紙の「再許諾」を勝ち取ることを方針として確認、業界などに働きかけることとした。16日、書協による紙の再許諾反対は大手文庫出版社のエゴであるとして、書協加盟社を含む出版社向けよびかけ「出版者の皆様へ」を1500通以上FAX送信した。18日、出版協は会員集会を開催、「文化審議会著作権分科会出版関連小委員会『中間まとめ』への意見」を公表、会員各社にパブコメを呼びかけた。

10月26日までに文化庁に寄せられたパブコメは2045件であった。
10月29日には、中川勉強会の中心議員らで結成された「電子書籍と出版文化の振興に関する議員連盟」(河村建夫会長=自民)第2回総会が開催され、「出版者への権利付与のあり方に関する今後の議連対応方針(案)」が了承された。

①紙と電子の一体的設計による「総合出版権」
②紙・電子とも「再許諾の原則不可・著作権者承諾の場合可」=契約で再許諾可
③「特定版面権=特定出版物権の設定可」の復活
④利用促進のための「登録制度の具体的検討」

──という内容であった。出版関連小委での後退を踏まえ、一部で修正譲歩せざるを得なかったものの、原則的には「中山提言」での巻き返しを計ろうとするもので、文化庁に提案された。

こうした中で開かれた注目の第8回出版関連小委は、「中間まとめに対する意見募集の結果概要」の論点別報告のあと、書協から提出された「出版関連小委員会における主な論点についての意見」の発表があった。これによると、①「紙と電子一体型」を標準とする出版権を求める理由を次のように説明した。

──「出版」とは、紙と電子を問わず著作物を世に広く伝達する行為であり、出版者は、本や雑誌の企画から編集、制作、宣伝、販売という一連の「出版を引き受ける者」として、より開かれた豊かな日本の出版文化を盛り立て、もって社会的責務を全うすべく努力を行っております。この一連のプロセスの成果物が伝達物としての出版物なのです。その意味で、出版者の社会的役割は、今や紙と電子を分けて考えることができません。
また、現実の出版ビジネスに於いては、電子出版の97%が紙と同一の出版者によって出版されており、そうした実態に則してみても、「出版権」は紙・電子を一体として規定したものであることが極めて重要であると考えます。──

また、②「海賊版対策に有効な制度設計の必要性について」次のように説明した。

──紙と電子が一体となった形での出版権制度が創設されたとしても、出版権の設定行為が著作権者の意思に基づくものであり、一方電子化を望まない著作権者が存在している以上、紙の出版物から作られる電子の海賊版に対して出版権が行使できない場合が出てくることを否定できません。この意味で、中間まとめにおいて言及されている「みなし侵害」規定の導入は、非常に重要な論点であると考えています。深刻な紙の本や雑誌の違法アップロードが横行している現状を打開するためには、「みなし侵害」、あるいは それに代わるだけの効力を持つ法的施策が不可欠です。──
 さらに③再許諾については、パブコメまでは反対していた書協が、その主張を引っ込め、再許諾一般について「原則不可、ただし著作権者の承諾をえた場合のみ可」とし、議連対応方針どおりとなった。

●「紙と電子一体型」はどうなる?
まず、出版関連小委の議論では①「紙と電子一体型」について、日本印刷産業連合会が、「現行の出版権を制度改正するにあたり、主目的たる海賊版対策への実効性という観点からすると、現行の出版権を電子出版にも及ぶように拡張する、いわゆる一体型によることが望ましい」との見解を発表し、また日本写真著作権協会などもこれを支持した。また法曹委員からは前田哲男弁護士が、著作権法80条「出版権の内容」を改定し「出版権者は、設定行為で定めるところにより、頒布の目的をもつて、その出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製し、または電子出版する権利を専有する」とするなど、出版の概念を紙と電子に一体的に及ぼせるようにすべきとの意見などが出された。この結果、「紙と電子一体型」はほぼ間違いないものとなった。

●「紙の再許諾」はどうなる?
③の紙の再許諾については、委員の松田政行弁護士は、サブライセンスが紙の出版物に般の常識からもおかしく、「出版権者は、他人に対し、その出版権の目的である著作物の複製を許諾することができない」と規定した著作権法第80条3項は削除されるべきであると断言した。

書協、雑協などが反対する理由は、次のようなものであった。第一に「二次出版の実務は再許諾では通常再許諾では行われていない」(出版広報センター「出版権」緊急説明会資料)という理由を掲げているが、現行著作権法の複製権者も出版権者の許諾を出せない「一種の両すくみの関係」(加戸守行『著作権法逐条講義』)にある以上仕方のないことで、当該出版者に再許諾の権利がない以上それを行使できるわけがない。この法的矛盾を解消する意味で紙媒体の設定出版権に再許諾を付与する意義があると言える。紙の再許諾を文化庁や法律家が支持する所以である。

第二に「単行本が絶版となると文庫の再許諾権も無くなるのではないか」(同)という理由をあげているが、これも理由になっていない。単行本が絶版になれば著作権者は設定出版権の消滅請求を行い、当該文庫出版者に出版権を再設定すればすむことであり、何も問題はない。

さらに第三として、「出版ブローカーも出版者となることになるのではないか」(同)という理由をあげているが、これも理解に苦しむ。出版権を設定された出版者は、著作権法81条に基づき当該著作物の原稿等の引渡後6カ月以内に出版しなければならない義務を負い、この約束を果たすことができなければ設定出版権の消滅請求をされるだけである。紙媒体の出版をしない者が他人に対し再許諾を行うことはできないわけで、この紙の再許諾を付与することによって出版ブローカーが成立する根拠はないと考えられる。

このように紙の再許諾に反対する書協・雑協の理由は、人を説得できるような内容ではなかった。

また文化庁前次長の吉田大輔氏は、もともと設定出版権は現行とほぼ同じ出版権制度として1934年に法制化されたが、「立法当時、無断出版や競合出版に対して先行出版者の利益をどのように確保するかという議論が高まっており、制度導入時の立法作業担当者も、その趣旨をどのような方法で実現するかについて様々な案を検討したようである」(吉田大輔「電子出版に対応した出版権の見直し案について」、『出版ニュース』2012年10月上旬号)と指摘しており、類似出版物、競合出版物から一次出版者の守ることが、設定出版権創設の意義であると述べている。

その観点から見ると、書協などの反対論は、文庫出版者でない出版者がほとんどという出版業界の要望に応えたものとは言えない。いわば「紙のコピー出版者」であるわずか数十社の文庫出版者が他社の単行本等を難なく自社の文庫に収録する都合だけを考えた対応で、出版界の大局を見通した判断とはおよそ言えない。

ともあれ、「紙の再許諾」については、著作権者の承諾を条件に認められる方向となった。
 
●デジタル海賊版対策はどうなる?
③の「特定の版面」について、第8回中川勉強会配布の中山提言を基にした「著作権法改正案骨子」によると「特定の版面」は「特定版面権(特定出版物権)(仮称)の設定」として、次のようにその創設の意義が説かれている。

「①総合出版権を設定することなしに(=著作物の独占的利用権限を設定せずに)、出版者に対して特定の版面の利用を認める(=特定の版面を利用した侵害についての対抗手段を出版者に付与する)ことができる。

②総合出版権を設定した者との関係においても、例えば、紙媒体書籍の出版しか予定していない出版者にとって電子書籍に係る総合出版権を設定することは事実上不可能であり、そうすると、出版物をデッドコピーしたインターネット上の海賊版への対策を講じることは極めて困難であるところ、特定版面権(特定出版物権)を重ねて設定することで上記のような態様の侵害についても対抗できるようになる。」

仮に経団連案の電子出版権新設が採用された場合には、紙媒体の出版権しかない出版者がデジタル海賊版などへの対策が取れるようにすることが不可欠であるが、「中間まとめ」は、著作者団体の反対に加え書協が制度設計を望まなかったことから、そのための方法でもある中山提言③「特定の版面」に限定した権利付与を葬ってしまった。

この結果、小委員会では、「出版物(特に雑誌)をデッドコピーしたインターネット上の海賊版対策を講じるための方法について、検討することとし、(i)電子書籍に対応した出版権による対応や、(ii)インターネット上の違法配信を紙の出版物に係る出版権のみなし侵害とみなす規定の創設をすることによる対応について議論がされた」(中間まとめ26頁)。

「電子書籍に対応した出版権による対応」というのは、雑誌を構成する著作物についても、現行の出版権を雑誌の発行期間等に合わせた短期間の存続期間を設定できるようにし、電子書籍に対応した出版権においても同様に設定できるようにするというものである。

結局、「中間まとめ」は(ii)みなし侵害規定を創設する方策については、みなし侵害規定の性質から法制的に困難であるとの意見などが示されたのに対し、(i)電子書籍に対応した出版権による対応であれば、雑誌を構成する著作物に出版権を設定することを可能とする制度としていくことで日本書籍出版協会の指摘する問題点を解消することができることに照らせば、(i)電子書籍に対応した出版権の創設により対応する方向で進めることが適当であると考える」(中間まとめ29頁)という結論となった。

しかし書協がみなし侵害規定を推したのは「(ii)みなし侵害規定を創設する方策については、(i)電子書籍に対応した出版権による対応のみでは、著作権者の意向により紙媒体での出版に係る出版権のみ設定を受けている出版者は、紙媒体の出版物がデッドコピーされ、インターネット上にアップロードされた場合に出版者自ら差止請求を行うことができないことから、こうした場合において出版者自らが対応できるようにするという観点から」(中間まとめ28頁)であった。

目玉の海賊版対策が迷走し、大穴があくことが分かり、書協などは著者の賛同を得るため「『電子書籍に対応する出版者の権利』に関する緊急アピール」を発し、「現在の著作権法の下では、紙の本や雑誌をスキャンしたデジタル海賊版による著作権侵害に対しては著作者本人のみが対抗でき、出版者には対抗する法的根拠が与えられていません。雑誌を含めできるだけ幅広い出版物に関して、実務的に有効な海賊版対抗策を出版者自らがとれるような法改正を強く望みます。」と訴え、署名活動をはじめた。

こんなことは、かのグーグルブック検索問題の時に明らかになっていたことではないか。「特定の版面」を放棄したことのツケは大きい。出版関連小委の議論でも、論点まで混乱し議論は迷走して、次回の最終まとめで事務局が整理して提案することとなった。

あとは議連の踏ん張りに期待するしかあるまい。
 
高須次郎緑風出版 )●出版協会長
『新刊選』2013年12月号 第14号(通巻238号)より

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