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2014年4月 7日 (月)

出版権は「出版を引き受ける者」に……修正が必要、著作権法改正案

中学生たちが「職場見学」ということでたずねて来たことがある。狭い社内を見回して「本はここでできあがるんですか?」と中学生。「本ができあがるのは製本所です」「じゃあ、ここで印刷してるんですか?」「ここでは印刷しません。印刷所に頼んで印刷してもらいます」「じゃあ……出版社って、本はつくらないんですか?」。中学生たちの頭から「?」マークがあふれ出しているのが見える。

「つくります。そのために出版社では、今みんながどんな本をほしいと思っているかを、うんと考えます。今みんなが知りたいことなのに、そのことについて書いてある本がないことって何なのか? それは誰が知っていて、よくわかる原稿を書くことができるのか?……こうやって考えることを“企画する”って言います。ここがまず出版社の仕事の一番大切な出発点だよ」

中学生たちの頭上の「?」マークがちょっと減った。続けて、その企画を実現するための、著者との話し合いやら、できあがってきた原稿のチェック、編集・デザイン、校正・校閲、宣伝・販売の企画やら、出版社がいろんな人の力を集めて、責任を持って「出版する」ということを力説する。中学生たちも、なんとなくわかってくれたと思うけれど……。

と、何年も前のことを思いだしたのは、昨2013年の集中的な議論を経てこの3月、「出版社の権利」にかかわる著作権法の改正案が、政府提出法案として出されたためだ。これまでの著作権法に定めがなかった電子書籍について、法的に権利関係を示し、その普及を図るとともに、デジタル海賊版に出版社が対応できるようにすることが目的だ。

私たちは、当初音楽著作権のように著作隣接権の創設を目指したが、書協を中心にまとめられた「出版物に関する権利(著作隣接権)」が第一次出版社へのリスぺクトに欠けた、いわば「名ばかり隣接権」だったことと、著作隣接権について著作権者・利用者とのコンセンサスが不十分な中では実現は困難とみて、昨年春からは、現行の著作権法で紙の出版物にのみ認められている設定出版権を、電子書籍に拡張して一体的に制度設計することを求める方向に舵を切った。

実際に政府提出法案として出てきた改正法案をみると、「第三章 出版権」の主要部分は以下のようになっている。



●出版権の設定
【現行法】第七十九条 [複製権者は、]その著作物を文書又は図画として出版することを引き受ける者に対し、出版権を設定することができる。
【改正案】第七十九条 [複製権等保有者は、] その著作物について、文書若しくは図画として出版すること(電子計算機を用いて[画面上に表示する方式で]記録媒体に記録し、当該記録媒体に記録された当該著作物の複製物[CD-ROM など]により頒布することを含む。[以下、第八十一条第一号で]「出版行為」 という。)又は当該方式により記録媒体に記録された当該著作物の複製物を用 いて公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあっては送信可 能化を含む。以下この章において同じ。)を行うこと([以下、第八十一条第二号で]「公衆送信行為」という。)を引き受ける者に対し、出版権を設定することができる。

●出版権の内容
【現行法】第八十条 出版権者は、設定行為で定めるところにより、頒布の目的をもつて、その出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利を専有する。
2 [略]
3 出版権者は、他人に対し、その出版権の目的である著作物の複製を許諾することができない。
【改正案】第八十条 出版権者は、設定行為で定めるところにより、その出版権の目的である著作物について、次に掲げる権利の全部又は一部を専有する。
一 頒布の目的をもつて、原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利。([CD-ROMなど]記録媒体に記録された電磁的記録として複製する権利を含む。)
二 原作のまま前条第一項に規定する方式により記録媒体に記録された当該著作物の複製物を用いて公衆送信を行う権利
2 [略]
3 出版権者は、複製権等保有者の承諾を得た場合に限り、他人に対し、その出版権の目的である著作物の複製又は公衆送信を許諾することができる。
4 [略]

●出版の義務
【現行法】第八十一条 出版権者は、その出版権の目的である著作物につき次に掲げる義務を負う。ただし、設定行為に別段の定めがある場合は、この限りでない。
一 複製権者からその著作物を複製するために必要な原稿その他の原品又はこれに相当する物の引渡しを受けた日から六月以内に当該著作物を出版する義務
二 当該著作物を慣行に従い継続して出版する義務
【改正案】第八十一条 出版権者は、次の各号に掲げる区分に応じ、その出版権の目的である著作物につき当該各号に定める義務を負う。ただし、設定行為に別段の定めがある場合は、この限りでない。
一 前条第一項第一号に掲げる権利に係 る出版権者(次条において「第一号出 版権者」という。) 次に掲げる権利
イ 複製権等保有者からその著作物を複製するために必要な原稿その他の原品しくはこれに相当する物の引渡し又はその著作物に係る電磁的記録の提供を受けた日から六月以内に当該著作物について出版行為を行う義務
ロ  当該著作物について慣行に従い継続して出版行為を行う義務
二 前条第一項第二号に掲げる権利に係る出版権者(次条第一項第二号において「第二号出版権者」という。) 次に掲げる権利
イ 複製権等保有者からその著作物について公衆送信を行うために必要な原稿その他の原品若しくはこれに相  当する物の引渡し又はその著作物に係る電磁的記録の提供を受けた日から六月以内に当該著作物について公衆送信行為を行う義務
ロ 当該著作物について慣行に従い継続して公衆送信行為を行う義務

──ややこしいのでまとめてみると、以下のようになる。
これまでの出版権を紙の出版と、電子出版に大別して、
1 紙の本(およびパッケージ型の電子書籍)の複製・頒布を「出版行為」と名づけ、「出版することを引き受ける者」に「第一号出版権」名づけた紙の書籍の出版権を設定することができる。
2 電子書籍をインターネットで頒布することを「公衆送信行為」と名づけ、「公衆送信を行うことを引き受ける者」に「第二号出版権」名づけた電子書籍の出版権を設定することができる。

条文で見る限り、紙と電子の権利は独立的になっていて、それぞれ別の者に設定することが可能だ。さらに、電子書籍の出版権についての条文には、「出版」という語が使われず、「公衆送信を行うことを引き受ける者」に電子書籍の出版権が設定できるということだ。

ここが冒頭の、中学生たちの疑問と関連する。電子書籍について「公衆送信を行うこと」というのは、紙の書籍について言えば「印刷・製本すること」にあたり、それでは「出版すること」にならないではないか。つまり、この改正案の条文を見るかぎり、本のデジタルデータを集めただけの、企画・編集等、これまでの概念の「出版」を行わない配信業者(例えばアマゾンとか、グーグルとか)が、(著者との契約さえ結べば)「第二号出版権者」として参入できるということだ。グーグルやアマゾンが、既存の書籍の膨大なデジタルデータを既に持っていることはご存知の通りで、ここは基本にかかわる問題だ。

また、紙と電子の出版権が別々に設定できることから、紙の出版権のみしか契約できなかった出版権者は、その紙の出版物から作製されたデジタルの海賊版について、対抗することができない。ここにあげた条文以外をみまわしても、その場合に対応した海賊版対策の条文はなく、出版社としては紙と電子両方の出版契約を結ぶ以外ない。しかし、現にこれまでに出版された膨大な量の紙の出版物は電子の契約などもちろん結んでおらず、やはり紙の書籍の出版権しか持たない出版社がデジタル海賊版になんら対抗できないのは問題だ。

出版協はさっそくこれらの点の修正を求める声明を発表した。

今日4月2日から衆議院文部科学委員会で、この法案の審議が始まった。さっそく、与党の議員含めて各質問者がこの、電子書籍の出版権者の問題を取り上げている。ぜひ、法案改正の趣旨を生かすような修正を望みたい。

なお、条文を掲げた第八十号第三項にあるように、今回の改正案では、これまで出版権者に認められていなかった「再許諾」が、紙・電子とも(著作権者の承諾があれば)可能とされている。これまで、自社の単行本が文庫化される際など、元の単行本の版元は文庫出版社に再許諾をすることができない、という第八十条第三項の規定により、文庫出版社ときちんとした交渉ができなかった。これが改正されることは歓迎したい。

余談だが、この改正案が示されたとき、電子出版の条文になぜ「出版」の語が使われていないのかという出版関係者の質問に、文化庁の関係者が「法律の語は『広辞苑』に記された意味にしか使わない。『広辞苑』では紙の印刷物しか「出版」としていない」と答えたとか。あらためて『広辞苑』をみてみると……。

しゅっぱん【出版】
文書・図画を印刷してこれを発売・頒布すること。(『広辞苑』三版)

う~ん。中学生たちにした説明を『広辞苑』の編纂にあたる方々にもしたほうがよさそうだ。

水野久晩成書房  )●出版協副会長
『新刊選』2014年4月号 第18号(通巻242号)より

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