紙も電子も書籍は再販商品に
電子書籍は非再販商品である、という“常識”を見直そうとする動きが起き始めている。
紙の出版物である書籍・雑誌が独占禁止法の適用除外の再販商品として認められているのに、同じ出版物である電子書籍については、CD-ROM等に収めたパッケージ型であろうと、ネットで配信するオンライン型であろうと、公正取引委員会は再販商品とは認めていない。私たちは、従来からそのことについて疑問を呈し、公正取引委員会に対しても電子書籍にも再販価格維持を認めるべきだと発言してきた。
公正取引委員会の見解は、同委員会ホームページの「よくある質問コーナー(独占禁止法)」に次のように記載されたまま、変わっていない。
Q14 電子書籍は、著作物再販適用除外制度の対象となりますか。
紙の出版物である書籍・雑誌が独占禁止法の適用除外の再販商品として認められているのに、同じ出版物である電子書籍については、CD-ROM等に収めたパッケージ型であろうと、ネットで配信するオンライン型であろうと、公正取引委員会は再販商品とは認めていない。私たちは、従来からそのことについて疑問を呈し、公正取引委員会に対しても電子書籍にも再販価格維持を認めるべきだと発言してきた。
公正取引委員会の見解は、同委員会ホームページの「よくある質問コーナー(独占禁止法)」に次のように記載されたまま、変わっていない。
Q14 電子書籍は、著作物再販適用除外制度の対象となりますか。
A.著作物再販適用除外制度は、昭和 28年の独占禁止法改正により導入された制度ですが、制度導入当時の書籍、雑誌、新聞及びレコード盤の定価販売の慣行を追認する趣旨で導入されたものです。そして、その後、音楽用テープ及び音楽用CDについては、レコード盤とその機能・効用が同一であることからレコード盤に準ずるものとして取り扱い、これら6品目に限定して著作物再販適用除外制度の対象とすることとしているところです。
また、著作物再販適用除外制度は、独占禁止法の規定上、「物」を対象としています。一方、ネットワークを通じて配信される電子書籍は、「物」ではなく、情報として流通します。 したがって、電子書籍は、著作物再 販適用除外制度の対象とはなりません。
見直しの論議の始まりは、先日の著作権法改正によって、電子書籍について、出版権設定が法的に認められたことと関係している。
この著作権法改正のねらいは電子出版について法的な根拠を定めることで海賊版対策をはかり、電子書籍の普及を目指すというものだ。しかし、成立した改正法は、その二つのねらいを十分に達成したものとは言い難い。
海賊版対策については、紙と電子の出版権が一体化されていないため、紙媒体の出版権のみしかない出版権者は、海賊版の差し止めができないというのが基本的な問題であるが、電子書籍の「再販」についての論議に関わるのは「電子書籍の普及」の面である。
私たち中小出版社が電子出版を躊躇する理由としてよく挙げられるのが、製作技術上のハードルと費用の問題だ。しかし、実は、中小出版社は社内でのDTP化率が高く、最終印刷データの自社保有率も高い。技術的なハードルは外部の人が思うほど主要な課題ではない。そのことは、技術上と費用をサポートしてくれた「緊デジ」事業への中小零細出版社の応募が伸びなかったことにも現れている。中小零細出版社が、自社出版物の電子化を躊躇するのは、電子出版についての出版者の権利の法的な根拠がなかったことと、販売に関する問題が大きいのだ。
そのうちの権利の問題は、今回の著作権法改正で電子の設定出版権が確立したことで一歩前に進んだ。電子についても「出版義務」が課されることからも、電子出版への取り組みは促進されることになるだろう。
そこで残る大きな問題が電子書籍の価格の問題だ。電子書籍が再販制の範囲外とされ、価格が維持される保証がない現状は、出版者が電子出版を躊躇する最も大きな問題と言ってよい。出版協はこの間、この点を繰り返し指摘し、電子書籍の流通促進の観点からも、文化政策の観点からも、フランスで成立した電子書籍の価格維持法のような法整備を求めるよう発言を重ねてきた。
去る6月4日、超党派の国会議員による「電子書籍と出版文化の振興に関する議員連盟」は第3回総会を開き、来年1月の改正著作権法の施行に向けて、関係官庁や出版者・著作者団体の取り組みについてヒアリングを行った。その冒頭のあいさつで河村建夫会長(衆院・自民)が、電子書籍の流通促進のために今後論議すべき問題の一つとして、電子書籍の「再販」についての問題を挙げたことは、注目しておきたい。
私たちは、この間「Amazon Studentプログラム」の10%ポイントサービス(=値引き)への反対を訴える中で、書籍の再販制を守っていくには、広く読者に書籍の再販の必要を訴える論議を起こし、説明し、理解を求めていく以外に道はないと確信している。
電子について言うなら、これからの議論は、現在価格拘束が認められていない電子書籍を価格拘束しようという論議である。“常識”をくつがえそうというのである。これは、現在法的に再販が認められている紙の書籍の値引きに反対する以上の反撥が起きることは想像に難くない。私たちは引き続き、「Amazon Studentプログラム」への反対を通じて、紙の書籍の再販制の必要を訴える活動に力を入れるとともに、電子書籍についても同様に、出版者が価格を維持することを適法とするよう、正面から訴えていくつもりである。
水野久(晩成書房)●出版協副会長
この著作権法改正のねらいは電子出版について法的な根拠を定めることで海賊版対策をはかり、電子書籍の普及を目指すというものだ。しかし、成立した改正法は、その二つのねらいを十分に達成したものとは言い難い。
海賊版対策については、紙と電子の出版権が一体化されていないため、紙媒体の出版権のみしかない出版権者は、海賊版の差し止めができないというのが基本的な問題であるが、電子書籍の「再販」についての論議に関わるのは「電子書籍の普及」の面である。
私たち中小出版社が電子出版を躊躇する理由としてよく挙げられるのが、製作技術上のハードルと費用の問題だ。しかし、実は、中小出版社は社内でのDTP化率が高く、最終印刷データの自社保有率も高い。技術的なハードルは外部の人が思うほど主要な課題ではない。そのことは、技術上と費用をサポートしてくれた「緊デジ」事業への中小零細出版社の応募が伸びなかったことにも現れている。中小零細出版社が、自社出版物の電子化を躊躇するのは、電子出版についての出版者の権利の法的な根拠がなかったことと、販売に関する問題が大きいのだ。
そのうちの権利の問題は、今回の著作権法改正で電子の設定出版権が確立したことで一歩前に進んだ。電子についても「出版義務」が課されることからも、電子出版への取り組みは促進されることになるだろう。
そこで残る大きな問題が電子書籍の価格の問題だ。電子書籍が再販制の範囲外とされ、価格が維持される保証がない現状は、出版者が電子出版を躊躇する最も大きな問題と言ってよい。出版協はこの間、この点を繰り返し指摘し、電子書籍の流通促進の観点からも、文化政策の観点からも、フランスで成立した電子書籍の価格維持法のような法整備を求めるよう発言を重ねてきた。
去る6月4日、超党派の国会議員による「電子書籍と出版文化の振興に関する議員連盟」は第3回総会を開き、来年1月の改正著作権法の施行に向けて、関係官庁や出版者・著作者団体の取り組みについてヒアリングを行った。その冒頭のあいさつで河村建夫会長(衆院・自民)が、電子書籍の流通促進のために今後論議すべき問題の一つとして、電子書籍の「再販」についての問題を挙げたことは、注目しておきたい。
私たちは、この間「Amazon Studentプログラム」の10%ポイントサービス(=値引き)への反対を訴える中で、書籍の再販制を守っていくには、広く読者に書籍の再販の必要を訴える論議を起こし、説明し、理解を求めていく以外に道はないと確信している。
電子について言うなら、これからの議論は、現在価格拘束が認められていない電子書籍を価格拘束しようという論議である。“常識”をくつがえそうというのである。これは、現在法的に再販が認められている紙の書籍の値引きに反対する以上の反撥が起きることは想像に難くない。私たちは引き続き、「Amazon Studentプログラム」への反対を通じて、紙の書籍の再販制の必要を訴える活動に力を入れるとともに、電子書籍についても同様に、出版者が価格を維持することを適法とするよう、正面から訴えていくつもりである。
水野久(晩成書房)●出版協副会長
『新刊選』2014年7月号 第21号(通巻245号)より
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