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2014年10月 3日 (金)

今こそ日販がしなくてはならないこと─現在最大18%!「Amazon Studentプログラム」をめぐって

アマゾンの「Amazon Studentプログラム」が依然続いている。依然というか、今現在は「Amazon Studentプログラム」が期間限定の15%ポイント付与となっており、加えてアマゾンは9月12日から10月13日まで、読者対象は限らず30万点の書籍に3%ポイントを付与しているので、実に18%のポイント付与という“大幅値引き”が、国内最大手の書店で堂々と行われているという異常事態だ。

「Amazon Studentプログラム」については既に昨夏以来、私たち出版協会員社の50社以上が「再販契約違反」と判断し、取次店を通じて「自社商品のAmazon Studentプログラム対象からの除外」を文書で要望した。そして、その要望が何ら効を奏さないため、5月から会員社のうち5社が「再販契約に従って」アマゾンへの期限付きの出荷停止に踏み切り、3社は依然出荷停止中だ。そして8月には、会員社4社が改めて「自社商品のAmazon Studentプログラム対象からの除外」を要求したうえで、出版社との再販契約当事者である日販に対しての「違約金請求」に踏み切った。

8月21日付で4社に対し、日販から全く同文での回答が届き、その内容は以下の通りだった。

(1)日販はアマゾン(Amazon.com Int'l Sales, Inc.)と再販契約を結んでいるので、「再販契約を結んでいない書店には本を卸さない」という、出版社との再販契約に違反していない。だから、違約金は払わない。
(2)ポイント付与が再販契約に違反するかどうかは「多様な解釈基準があり」Amazon Studentプログラムのポイント付与が違反かどうか判断するのは困難であり、再販契約違反を前提に、要望社の商品をAmazon Studentプログラムから除外するよう指導することはできない。

(1)の違約金は払わない、というのはほぼ予想できた。(2)の回答は、これまでの日販の見解を繰り返しているにすぎない。違約金請求を行った4社は、9月26日、回答に反論する声明を発表した。

それにしても、この回答に私たちが大きく失望し、いらだちを覚えるのは、ここに至っても“再販制を守りたい”というような日販の気概がまるで感じられないことだ。すでに1年以上、出版協の会員社と日販はこの問題をめぐってやりとりを重ねたにも関わらず、その中で、版元・小売双方を結ぶ再販契約の要としての取次=日販が“再販制を守るために何ができるのか、しなくてはならないか”という積極的な問題意識で、真剣に検討した痕跡すらないことなのだ。

そのため、日販の今回の回答は、これまでの回答のコピぺ回答であり、日本の出版物の“再販制”について、根本的な勘違いを含んだままになっている。

日本の“再販制”は「定価を守らなくてはならない」といった法律に拠っているものではない。独占禁止法の適用除外として、他には認められていない「再販売価格維持契約」を、版元-取次-小売が結んで、価格維持行為をすることが許されている。取次を間に挟む形での個々の版元と個々の小売の契約の総体によって、日本の“再販制”は守られている。公正取引委員会が「再販制度」などという制度はない、という言い方をするのはそのことを指す。定価販売が維持されているのは、あくまでも民間同士の個別の契約によっているだけなのだ。

そのことをアタマに置くと、公取委の、以下の見解はある意味で明解だ。
(1)ポイントサービスは値引き行為である。
(2)しかしその値引き行為が再販契約に違反するかどうかは契約当事者間の問題だ。
(3)小売店の特定のサービス(ここではアマゾンのAmazon Studentプログラム、以下面倒なので現在の事象についての記述にする)が、再販契約に違反するかどうかを判断できるのは出版社のみだ(取次が勝手に判断することは許されない)。
(4)ただし1%程度のおたのしみ程度のポイントサービスにまで、出版社が異を唱えることは許されない。
(5)出版社がAmazon Studentプログラムを、再販契約違反と判断しても、Amazon Studentプログラムの中止を求めることは許されない(違反と判断しない出版社もあるのだから)。
(6)違反と判断した出版社はAmazon Student プログラムの対象から自社商品を除外することを要求できる(この要求は、当然、取次を間に挟んで実現する)。

日販の掲げる“ポイント付与が再販契約に違反するかどうかは多様な解釈基準がある”というのは当然のことであり、そこから日販は“Amazon Studentプログラムのポイント付与が違反かどうか判断するのは困難”という説明するが、日販が“判断するのは困難”なのではなく、もとより判断できるのは各出版社だけであり、日販は個別の契約関係において、出版社の判断に沿って(勝手な解釈を行うことなく)、再販契約違反状態の解消に務めなくてはならないだけなのだ。

ある出版社が「Amazon Studentプログラムは再販契約に違反している」と明確に判断し自社商品のAmazon Student プログラムからの除外を求めているのに、「再販契約に違反していることを前提として、貴社出版物のプログラムからの除外指導はできません」というのは、まさに公取委が取次に対して許されないとしている「勝手な判断」による、契約の履行のサボタージュにほかならない。

くりかえすが、“再販制”の成り立ちから考えれば、取次店の日販が「Amazon Studentプログラム」をどう判断するかなどは、日販が出版社との再販契約上何をしなくてはならないかとは、全く関係のないことなのだ。

もし日販が、取次という再販契約の要の位置で、再販制の崩壊に手を貸すのではなく、その存続のためにできることをすると少しでも考えているのなら、「違反と判断した出版社」の出版物について「Amazon Studentプログラムからの除外指導」をきちんと行いアマゾンに実行させることを改めて強く求めるものである。日販ができること、そして、しなくてはならないことはそれだけである。

日販の「違約金は払わない」「アマゾンへの指導もしない」という態度表明を待っていたかのように、冒頭の通りAmazon Studentプログラムでは最大18%のポイント付与が行われている。この事態を重大だと認識するなら、日販は「Amazon Studentプログラム」に対してのこれまでの対応を、早急に、根本から見直すべきだ。アマゾンの再販制倒壊プログラム(=市場独占プログラム)は確実にテンポを上げて進んでいる。

水野久晩成書房●出版協副会長
『新刊選』2014年10月号 第24号(通巻248号)より

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