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2014年10月

2014年10月31日 (金)

アマゾンの一人勝ちは 出版界を何処へ導くか?

トーハンがアマゾンと来年1月から取引を始める。トーハンの案内によれば、取引のジャンルは、定期雑誌(増刊・別冊を含む)、ムック、雑誌扱いコミックス、マルチメディア扱いコミックスとなっている。この分野がアマゾンの扱い出版物の何パーセントを占めるのかは知らないが、問題は出版取次の大手3社(公取委の寡占監視対象)と口座を開いて「商品調達=供給源の多様化」進め、併せて3社を競合させることによって、仕入条件を有利にし、影響力を強める結果をもとらすことは理解できる。

アマゾンは日本上陸時には、大阪屋と日販を窓口にし(その後、日販はいったん撤退)、再販制度を利用して、商品と読者の確保に一定の成果を収めると、それをテコに仕入正味の厳しい条件を突きつけたようだ。実際、小社にさえ、大阪屋からアマゾン出荷分の歩戻を求められた事がある。その後、主要取引先が日販に移り、今度は雑誌部門とはいえトーハンをその仕入先に追加したのである。

取次店にとって、アマゾンの売上がどれほどを占めるのか定かではないが、市場が縮小している現状で、市場占有率を上げているアマゾンの比重は極めて大きいはずだ。

しかも、アマゾンは版元とも直接取引を積極的に求めており、それに応える版元も少なくないのが実態だ。

大阪屋が経営危機に陥った要因の一つにアマゾンとの取引関係があったことは否めず、その意味では、今回のトーハンとの取引開始が日販にどんな影響が出るのか注目したい。

日販とアマゾンとの関係は、小社を含む4社が「Amazon Studentポイントサービスからの小社商品の除外指導」を求め、それをしないのは「再販維持契約違反」としたにもかかわらず、「指導はしかねる」と全くの弱腰であった。この時点で既に主客逆転であったのか。

また、今後トーハンがアマゾンとの取引で売上を上げるのと併せて「アマゾンのポイントサービス」を容認するのか目が離せない。もしも、トーハンも日販と同様にアマゾンに物申せずとの体たらくなら、アマゾンの言う「再販制度は維持する。だがポイントサービスも続ける」という実質的な再販崩しに加担することになるだろう。アマゾンに生殺与奪の権を握られる取次店の姿は見たくないものである。

さて、『文化通信』(10月29日号)にアマゾンジャパンのインタビユー記事が載った。

それによると、「アマゾン販売分析レポート」の有料化の一方的な通告に関して「陳謝の意を表し」、配慮の足りなさに反省の弁を述べている。しかしながら、有料化のベースは、売上げ伸張のために販売分析レポートの情報をより充実させ、アップグレードをするための投資に見合うものであり、これまでは出版社には特別なケースとして、無料開示していたものを他のカテゴリーと同様にするというものである。従って、これは版元に相談すべきことではなく、見たいならば、小版元にも配慮した売上げに見合った料金体系を設定したので、どちらかを選びなさいというものである。

しかも、現在の出版不況のなかで、少しでも売上げをあげるためには、自社に他品種のコンテンツの集積と即応体制の確立が急務で、それに協力する、あるいはできるところは優遇すると明確に宣言している、といって過言ではない。

読者第一主義という大義名分とリードタイムという誰にでも反論できない論理と自社の開発したシステムの優位性のもとで、「売って欲しければ、わが軍門にくだれ!」とは言わないまでも、「われわれのやることに付いて来い」といわんばかりである。

確かにIT社会の先端で商売を進める通販会社とはいえ、もろもろのコミュニケーションがメールで行われ、商品の開示もまさに仮想現実のなかで展開されるのが実態であり、「意図的な差別化はない」と言われても、その表示の信頼性は眉唾としか言いようがない。

小社の書籍もたまに新刊にも関わらず、「3~5週間以内に発送」表示が行われる。確かに目下自社では売れ筋本にも関わらず、アマゾンでの表記が「3~5週間」となるといらつくのは確かである。

だが、一方では「アマゾンで買えなければ、他で買う手間を惜しまない読者を味方にできる書籍を作る」と考えるようにしている。

なぜなら、いずれアマゾンは日本の出版界を結果として牛耳るか、食いつぶすかの妖怪になりつつあるからである。

かつてベトナム戦争で、コンピュータ戦争の先駆けマクナマラ戦略がボー・グエン・ザップとベトコンのゲリラ戦争に負けたように、われわれ小出版は柔軟な戦略で負けない出版活動を展開したいと考えている。

竹内淳夫彩流社 )●出版協副会長
出版協 『新刊選』2014年11月号 第25号(通巻249号)より
※画像で見る

出版協 『新刊選』2014年11月号 第25号(通巻249号)

1P …… アマゾンの一人勝ちは出版界を何処へ導くか?

竹内淳夫彩流社)●出版協副会長

2P ……出版協BOOKS/11月に出る本
3P ……出版協BOOKS/11月に出る本

2014年10月27日 (月)

出版のカタチをさぐる●第1回●トランジスタ・プレスの冒険●11月21日/ジュンク堂書店池袋本店

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    日本出版者協議会 presents@ジュンク堂書店池袋本店

             [出版のカタチをさぐる]

                 第1回
            トランジスタ・プレスの冒険

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場所/ジュンク堂書店 池袋本店
開催日時/2014年11月21日(金)19:30 ~

講師/佐藤 由美子(トランジスタ・プレス代表)
聞き手/下平尾 直(共和国代表)

▼版元+カフェから発信する「自由の新たな空間」

新宿2丁目にあるイベントスペース、カフェ・ラバンデリアをご存知でしょうか。
さまざまなイベントや運動の拠点として愛されるこのカフェから発信する出版社が、
トランジスタ・プレスです。

代表の佐藤由美子さんは、アメリカ文化をリアルタイムで伝える伝説の
雑誌『アメリカン・ブックジャム』の副編集長などを歴任し、2009年には旧い
クリーニング店をリフォームして、カフェ・ラバンデリアを開業。

ビートニクの精神を受け継ぐ魅力的な書籍5点を刊行してきました。
今回は佐藤さんに、自分たちの空間やネットワークをいかした多彩な
出版活動の可能性について語っていただきます。

・講師紹介
佐藤 由美子(トランジスタ・プレス代表)
1960年、東京生まれ。ビート・ジェネレーションの影響受け、
インディーズの出版活動を始める。
1996年に『アメリカン・ブックジャム』、1999年にはカフェで読む
文芸誌『12 water stories magazine』の創刊に携わる。
2007年にひとり出版社トランジスタ・プレスを立ち上げ、
現在は新宿2丁目にあるカフェ・ラバンデリアを活動拠点にする。
最新刊は、北口幸太『新約ビート・ジェネレーション』。

聞き手:下平尾 直(共和国代表)
1968年、大阪生まれ。コピーライター、京都大学大学院、
編集者の順に経て、2014年4月に独立、ひとり出版社を始める。
既刊3点。最新刊は、波戸岡景太訳『総統はヒップスター』。

★入場料はドリンク付きで1000円です。当日、会場の4F喫茶受付でお支払いくださいませ。
※トークは特には整理券、ご予約のお控え等をお渡ししておりません。
※ご予約をキャンセルされる場合、ご連絡をお願い致します。(電話:03-5956-6111) 

■イベントに関するお問い合わせ、ご予約は下記へお願いいたします。
ジュンク堂書店池袋本店
TEL 03-5956-6111
東京都豊島区南池袋2-15-5

※チラシを見る

2014年10月16日 (木)

特定秘密保護法の施行に反対する

政府は、10月14日、特定秘密保護法の運用基準と施行を12月10日にする閣議決定をした。

昨年12月、国民の知る権利と出版・報道の自由を犯すものとして、我々が大反対した秘密保護法を強行採決した政府は、今年7月に政令と運用基準についてパブリックコメントを募集した。国民のコメントは24000通に及んだが、出てきた政令と運用基準の内容は、昨年の基準とほとんど変わりはなく、厳格な運営基準を求める国民の声は無視され、単なる政府のアリバイ作りでしかなかったといわざるを得ない。

秘密情報の指定は政府に委ねられたままの恣意的なもので、国民の主権と人権を脅かす畏れが強い秘密指定の期間は30年と長く、一度指定されれば、政府の判断でさらに30年継続される懸念もそのまま残った。不当な秘密指定への罰則がない問題も改善されていない。チェック機関は「内閣保全監視委員会」「独立公文書管理監」としているが、いずれも身内の官僚機関であって、独立したチェック機構とはいえない。

出版協は、このような国民の知る権利と出版・報道の自由を犯す特定秘密保護法の施行に反対し、廃止を求めるものである。

※PDFで見る

2014年10月 7日 (火)

七つ森書館への不当判決に抗議する

七つ森書館への不当判決に抗議する

2014年 9月30日

2012年4月11日、日本出版者協議会加盟の出版社である七つ森書館が、読売新聞東京本社によって出版差し止めなどを求めて訴えられた。

2014年9月12日、東京地裁は、七つ森書館に171万円の支払いを命じる判決を言い渡した。東海林保裁判長は、七つ森書館の再刊本の販売は、著作権侵害にあたると判断した。七つ森書館は不当判決として、控訴した。

『会長はなぜ自殺したか──金融腐敗=呪縛の検証』(読売社会部)は1998年に新潮社から出され、2000年に文庫化されたものである(内容は証券会社による損失補填の発覚に端を発した金融不祥事件の取材解明)。今回、七つ森書館が読売新聞社と2011年5月9日に出版契約を結び「ノンフィクション・シリーズ“人間”」(佐高信監修)に収録することになったものである。それまで、なんら問題もなく出版に向けて準備を進めていたのに、2011年12月になって突然、読売側は契約の「合意解除」を求めてきた。これは同年11月に勃発した読売新聞グループ本社及び読売巨人軍内における清武英利氏(読売巨人軍専務取締役球団代表兼GM・編成本部長・オーナー代行、当時)と渡邉恒雄氏(読売新聞グループ本社会長兼主筆、読売巨人軍球団会長)との対立が原因であることは明らかである。

七つ森書館は、本書の出版について2010年12月から交渉を開始しており、清武氏のかつての部下であり、本書の取材記者もつとめた読売新聞社会部次長(当時)が交渉の窓口となって会社の法務部門と協議した上で結ばれた出版契約である。

判決文によると、「原告からH(社会部次長)への本件出版契約の契約締結に係わる代理授与の有無についてなんら調査確認もせず……被告に過失があるものといわざるを得ない」としているが、契約者の信憑性を「調査確認」した上で契約しろ、といっているに等しい。世間の失笑を買う判決といわざるを得ない。

判決は、読売側の主張をなぞったものにすぎず、七つ森書館に対する出版妨害を追認したものである。大手マスコミである読売新聞社が、小出版社の七つ森書館を訴えることによって、多大な時間と訴訟費用の浪費を迫り、自らの主張を押し通すという暴挙に加担しているに等しい。

われわれジャーナリストにとって社会的正義は何よりも重く、言論・表現の自由は社会的正義を守り抜くためにある。東京地裁の判決の不当性を訴えるとともに読売新聞東京本社は直ちに訴訟を取り下げ、七つ森書館に対して謝罪し相当の補償をすべきである。



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2014年10月 3日 (金)

今こそ日販がしなくてはならないこと─現在最大18%!「Amazon Studentプログラム」をめぐって

アマゾンの「Amazon Studentプログラム」が依然続いている。依然というか、今現在は「Amazon Studentプログラム」が期間限定の15%ポイント付与となっており、加えてアマゾンは9月12日から10月13日まで、読者対象は限らず30万点の書籍に3%ポイントを付与しているので、実に18%のポイント付与という“大幅値引き”が、国内最大手の書店で堂々と行われているという異常事態だ。

「Amazon Studentプログラム」については既に昨夏以来、私たち出版協会員社の50社以上が「再販契約違反」と判断し、取次店を通じて「自社商品のAmazon Studentプログラム対象からの除外」を文書で要望した。そして、その要望が何ら効を奏さないため、5月から会員社のうち5社が「再販契約に従って」アマゾンへの期限付きの出荷停止に踏み切り、3社は依然出荷停止中だ。そして8月には、会員社4社が改めて「自社商品のAmazon Studentプログラム対象からの除外」を要求したうえで、出版社との再販契約当事者である日販に対しての「違約金請求」に踏み切った。

8月21日付で4社に対し、日販から全く同文での回答が届き、その内容は以下の通りだった。

(1)日販はアマゾン(Amazon.com Int'l Sales, Inc.)と再販契約を結んでいるので、「再販契約を結んでいない書店には本を卸さない」という、出版社との再販契約に違反していない。だから、違約金は払わない。
(2)ポイント付与が再販契約に違反するかどうかは「多様な解釈基準があり」Amazon Studentプログラムのポイント付与が違反かどうか判断するのは困難であり、再販契約違反を前提に、要望社の商品をAmazon Studentプログラムから除外するよう指導することはできない。

(1)の違約金は払わない、というのはほぼ予想できた。(2)の回答は、これまでの日販の見解を繰り返しているにすぎない。違約金請求を行った4社は、9月26日、回答に反論する声明を発表した。

それにしても、この回答に私たちが大きく失望し、いらだちを覚えるのは、ここに至っても“再販制を守りたい”というような日販の気概がまるで感じられないことだ。すでに1年以上、出版協の会員社と日販はこの問題をめぐってやりとりを重ねたにも関わらず、その中で、版元・小売双方を結ぶ再販契約の要としての取次=日販が“再販制を守るために何ができるのか、しなくてはならないか”という積極的な問題意識で、真剣に検討した痕跡すらないことなのだ。

そのため、日販の今回の回答は、これまでの回答のコピぺ回答であり、日本の出版物の“再販制”について、根本的な勘違いを含んだままになっている。

日本の“再販制”は「定価を守らなくてはならない」といった法律に拠っているものではない。独占禁止法の適用除外として、他には認められていない「再販売価格維持契約」を、版元-取次-小売が結んで、価格維持行為をすることが許されている。取次を間に挟む形での個々の版元と個々の小売の契約の総体によって、日本の“再販制”は守られている。公正取引委員会が「再販制度」などという制度はない、という言い方をするのはそのことを指す。定価販売が維持されているのは、あくまでも民間同士の個別の契約によっているだけなのだ。

そのことをアタマに置くと、公取委の、以下の見解はある意味で明解だ。
(1)ポイントサービスは値引き行為である。
(2)しかしその値引き行為が再販契約に違反するかどうかは契約当事者間の問題だ。
(3)小売店の特定のサービス(ここではアマゾンのAmazon Studentプログラム、以下面倒なので現在の事象についての記述にする)が、再販契約に違反するかどうかを判断できるのは出版社のみだ(取次が勝手に判断することは許されない)。
(4)ただし1%程度のおたのしみ程度のポイントサービスにまで、出版社が異を唱えることは許されない。
(5)出版社がAmazon Studentプログラムを、再販契約違反と判断しても、Amazon Studentプログラムの中止を求めることは許されない(違反と判断しない出版社もあるのだから)。
(6)違反と判断した出版社はAmazon Student プログラムの対象から自社商品を除外することを要求できる(この要求は、当然、取次を間に挟んで実現する)。

日販の掲げる“ポイント付与が再販契約に違反するかどうかは多様な解釈基準がある”というのは当然のことであり、そこから日販は“Amazon Studentプログラムのポイント付与が違反かどうか判断するのは困難”という説明するが、日販が“判断するのは困難”なのではなく、もとより判断できるのは各出版社だけであり、日販は個別の契約関係において、出版社の判断に沿って(勝手な解釈を行うことなく)、再販契約違反状態の解消に務めなくてはならないだけなのだ。

ある出版社が「Amazon Studentプログラムは再販契約に違反している」と明確に判断し自社商品のAmazon Student プログラムからの除外を求めているのに、「再販契約に違反していることを前提として、貴社出版物のプログラムからの除外指導はできません」というのは、まさに公取委が取次に対して許されないとしている「勝手な判断」による、契約の履行のサボタージュにほかならない。

くりかえすが、“再販制”の成り立ちから考えれば、取次店の日販が「Amazon Studentプログラム」をどう判断するかなどは、日販が出版社との再販契約上何をしなくてはならないかとは、全く関係のないことなのだ。

もし日販が、取次という再販契約の要の位置で、再販制の崩壊に手を貸すのではなく、その存続のためにできることをすると少しでも考えているのなら、「違反と判断した出版社」の出版物について「Amazon Studentプログラムからの除外指導」をきちんと行いアマゾンに実行させることを改めて強く求めるものである。日販ができること、そして、しなくてはならないことはそれだけである。

日販の「違約金は払わない」「アマゾンへの指導もしない」という態度表明を待っていたかのように、冒頭の通りAmazon Studentプログラムでは最大18%のポイント付与が行われている。この事態を重大だと認識するなら、日販は「Amazon Studentプログラム」に対してのこれまでの対応を、早急に、根本から見直すべきだ。アマゾンの再販制倒壊プログラム(=市場独占プログラム)は確実にテンポを上げて進んでいる。

水野久晩成書房●出版協副会長
『新刊選』2014年10月号 第24号(通巻248号)より

出版協 『新刊選』2014年10月号 第24号(通巻248号)

1P …… 今こそ日販がしなくてはならないこと

──現在最大18%!「Amazon Studentプログラム」をめぐって

水野久晩成書房)●出版協副会長

2P ……出版協BOOKS/10月に出る本

3P ……出版協BOOKS/10月に出る本

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