アマゾンの一人勝ちは 出版界を何処へ導くか?
アマゾンは日本上陸時には、大阪屋と日販を窓口にし(その後、日販はいったん撤退)、再販制度を利用して、商品と読者の確保に一定の成果を収めると、それをテコに仕入正味の厳しい条件を突きつけたようだ。実際、小社にさえ、大阪屋からアマゾン出荷分の歩戻を求められた事がある。その後、主要取引先が日販に移り、今度は雑誌部門とはいえトーハンをその仕入先に追加したのである。
取次店にとって、アマゾンの売上がどれほどを占めるのか定かではないが、市場が縮小している現状で、市場占有率を上げているアマゾンの比重は極めて大きいはずだ。
しかも、アマゾンは版元とも直接取引を積極的に求めており、それに応える版元も少なくないのが実態だ。
大阪屋が経営危機に陥った要因の一つにアマゾンとの取引関係があったことは否めず、その意味では、今回のトーハンとの取引開始が日販にどんな影響が出るのか注目したい。
日販とアマゾンとの関係は、小社を含む4社が「Amazon Studentポイントサービスからの小社商品の除外指導」を求め、それをしないのは「再販維持契約違反」としたにもかかわらず、「指導はしかねる」と全くの弱腰であった。この時点で既に主客逆転であったのか。
また、今後トーハンがアマゾンとの取引で売上を上げるのと併せて「アマゾンのポイントサービス」を容認するのか目が離せない。もしも、トーハンも日販と同様にアマゾンに物申せずとの体たらくなら、アマゾンの言う「再販制度は維持する。だがポイントサービスも続ける」という実質的な再販崩しに加担することになるだろう。アマゾンに生殺与奪の権を握られる取次店の姿は見たくないものである。
さて、『文化通信』(10月29日号)にアマゾンジャパンのインタビユー記事が載った。
それによると、「アマゾン販売分析レポート」の有料化の一方的な通告に関して「陳謝の意を表し」、配慮の足りなさに反省の弁を述べている。しかしながら、有料化のベースは、売上げ伸張のために販売分析レポートの情報をより充実させ、アップグレードをするための投資に見合うものであり、これまでは出版社には特別なケースとして、無料開示していたものを他のカテゴリーと同様にするというものである。従って、これは版元に相談すべきことではなく、見たいならば、小版元にも配慮した売上げに見合った料金体系を設定したので、どちらかを選びなさいというものである。
しかも、現在の出版不況のなかで、少しでも売上げをあげるためには、自社に他品種のコンテンツの集積と即応体制の確立が急務で、それに協力する、あるいはできるところは優遇すると明確に宣言している、といって過言ではない。
読者第一主義という大義名分とリードタイムという誰にでも反論できない論理と自社の開発したシステムの優位性のもとで、「売って欲しければ、わが軍門にくだれ!」とは言わないまでも、「われわれのやることに付いて来い」といわんばかりである。
確かにIT社会の先端で商売を進める通販会社とはいえ、もろもろのコミュニケーションがメールで行われ、商品の開示もまさに仮想現実のなかで展開されるのが実態であり、「意図的な差別化はない」と言われても、その表示の信頼性は眉唾としか言いようがない。
小社の書籍もたまに新刊にも関わらず、「3~5週間以内に発送」表示が行われる。確かに目下自社では売れ筋本にも関わらず、アマゾンでの表記が「3~5週間」となるといらつくのは確かである。
だが、一方では「アマゾンで買えなければ、他で買う手間を惜しまない読者を味方にできる書籍を作る」と考えるようにしている。
なぜなら、いずれアマゾンは日本の出版界を結果として牛耳るか、食いつぶすかの妖怪になりつつあるからである。
かつてベトナム戦争で、コンピュータ戦争の先駆けマクナマラ戦略がボー・グエン・ザップとベトコンのゲリラ戦争に負けたように、われわれ小出版は柔軟な戦略で負けない出版活動を展開したいと考えている。