« トランジスタ・プレスの冒険●ジュンク堂トーク配信開始 | トップページ | 出版協 『新刊選』2015年1月号 第27号(通巻251号) »

2014年12月26日 (金)

著作権法改正・電子書籍・アマゾン・再販制─2014年から2015年へ

新しい年2015年は、敗戦から70年の年だ。敗戦直後生まれの“団塊の世代”もそういう年代になったわけだ。戦後民主主義から高度経済成長の時代の中で育ち、70年安保を経て社会に出たこの世代が、この数十年の日本の出版文化の担い手だったことは間違いない。送り手としても、読者としても。そしてさまざまな分野で新しい世代が中心を担いだしてきたことによる変化が、大きな変化を生んでいる今、出版の世界も大きな変化の中にいることを強く感じさせられた2014年だった。

何と言っても、2014年は、著作権法が改正され、電子書籍に関する出版権が初めて法的に定められた年ということで記録される年ということになる。インターネット社会で育った世代が読者の中心になっていく中、「やっぱり文学は紙の書物で読まなけりゃ」という感覚もなくなっていくに違いない。早晩訪れるだろう「電子教科書」で学ぶ世代になればなおさらだ。コミックの世界ではすでに電子が大きな比重を占めていることはその証だろうし、電子書籍の権利関係についての法的根拠を整えておくことは、時代の流れの中で必須だったと言える。

改正著作権法では、オンデマンドを含む紙の書籍と、CD-ROM版電子書籍など“物”として販売される出版物についての出版権を「第1号出版権」、インターネットで送信される電子書籍を「第2号出版権」として、二つの出版権に区分して設定できることとなった。この二つの出版権は独立していて、それぞれ別の出版者に設定することもできる。しかし、紙の出版権しか持たない出版者は、著者と契約した別の出版者が安価な電子版を販売することを覚悟しなくてはならないし、版面を電子的にコピーした海賊版に対してすら法的に闘うすべがない。出版者としては、両方の出版権を同時に得るしかないだろう。当面電子版を出す予定がなくても、紙の書籍を守るために同時に契約せざるを得ない。ともすればこれまで形式的になりがちだった出版契約は、飛躍的に重さを増したと言える。

しかし、二つの出版権を得た出版者は、その両方の出版義務を負うことになる。契約に当たって特に定めなければ、法的にはいずれも完全原稿引き渡しから6か月以内に刊行しなくてはならない。

現在、出版協会員社の大半は、電子書籍を刊行していない。まず、電子版を出してほしいという読者のニーズが強いとは感じられないのが実感だし、先行して電子書籍に取り組んでいる会員社の事例を聞いてみても、まだビジネスというにはほど遠いようだ。そのうえで、再販制の問題がある。公正取引委員会は電子書籍には再販制は適用されないという見解を変えていない。つまり、出版者は紙の本のように定価販売をすることができない。もし、販売サイトによる電子版の値引き販売によって紙の書籍の購入者が減れば、全体の採算が間尺に合わないことにもなりかねない。

もちろん契約に当たって、電子版の刊行時期を先延ばしにすることは可能だが、電子版を出したいと考える著者との間では信頼関係が怪しくなったり、ついには電子についての契約を解除されたりするような事態も招きかねない。今年2015年からの改正著作権法の施行にあたって、電子書籍の刊行を行える態勢を各社が考える必要があるのと同時に、電子書籍についても実質的な再販制を確保する方策を、共通の課題として考え実現していかなくてはならない。

公取委の見解が変わらないなら、法的にはフランス等の書籍の価格拘束法のような新法制定を考えるしかないのだろう。しかしその実現は容易ではない。当面できるのは出版者による直売による定価販売と、委託販売契約に基づく定価販売だ。後者は「エージェント・モデル」と呼ばれるもので、小売店が販売リスクを負わないこの販売方式では書籍に限らず販売価格の拘束が独禁法で認められている。だがこれも、たとえばアマゾンとの間で「エージェント・モデル」の契約が結べたのは大手でもほんの数社だったことを考えると、ハードルは相当高い。その中で現実的に何ができるのか、可能な方法を探っている。

電子の問題を語れば「アマゾン」・「再販制」の話になる。今や日本の最大手書店と言えるアマゾンは、読者の「書店で本を買う」という行動を大きく変えて来た。そしてそのAmazon Studentプログラム(学生対象10%ポイントサービス)は、書籍の再販制を有名無実化する象徴的なものといえる。2012年以来、出版協の多くの会員社がそれに対し反対を表明し、2014年には5社が再販契約にもとづく出荷停止、4社が違約金請求にふみきった。秋口には小学館の相賀昌宏社長も同サービスを再販契約違反として、アマゾンに同サービスからの自社商品の除外を申し入れるなど、大手出版社にも動きが出始め、今後の動きが注目される。再販制の問題は、紙・電子とも2015年もさらに語っていかなくてはならない問題だ。

再販制を維持するために最も大切なのが読者の支持だ。出版物の多様性こそ読者の最大の利益であり、それを支えているのが再販制だということを読者に理解していただくためにも……多様性こそ価値があるということを実感していただける本を刊行し続ける2015年にしなくては、と考えている。

水野久晩成書房●出版協副会長
『新刊選』2015年1月号 第27号(通巻251号)より

« トランジスタ・プレスの冒険●ジュンク堂トーク配信開始 | トップページ | 出版協 『新刊選』2015年1月号 第27号(通巻251号) »

ほんのひとこと」カテゴリの記事