混迷の出版界で 改めて再販制度の活性化を!
この原稿を書き始めたら出版科学研究所の「2014年の書籍・雑誌販売実績」の情報がもたらされた。 それによると、「合計販売額は前年比4.5%減の1兆6065億円。マイナスの幅は1950年の統計開始以来最大。書籍は文芸書、文庫といった売れ筋の低迷が響き、雑誌も落ち込みが続き、雑誌の返品率は調査史上初めて40%に達した。書籍の販売額は7544億円、同4.0%減、販売部数は6億4461万冊、同4.8%減、返品率は37.6%、同0.3ポイント増。新刊点数は7万6465点、同1.9%減、新刊の発行部数は10億8393万冊、同4.5%減、平均価格は1116円、同1.2%増。雑誌の販売額は8520億円、同5.0%減、販売部数は16億5088万冊、同6.4%減、返品率は40.0%、同1.2ポイント増」とある。この右肩下がりの傾向は、出版危機を通り越して、業界崩壊の瀬戸際と言っても過言ではない。
聞くところによれば、KADOKAWAが300人のリストラをするとか。ドワンゴとの合併による人員整理という面もあるそうだが、基本的には紙媒体の低迷の結果と言えそうだ。その紙の本の売れ行き不振の根底にあるのは言うまでもなく少子高齢化社会に起因する読者人口の減少であり、それに輪をかけているのがIT社会の形成にともなう電子媒体である。
この要因は、21世紀という時代の流れであって、これを止めることは出来ない。しかし、この間の来し方をみれば、不幸にしてわれわれはむしろその低迷を加速させるべく“奮闘”したかのような風景が見える。
その一つ、人口増という上げ潮と高度経済成長に乗って、本来はパーソナルに近いミニ文化の集合であるべき出版に“金太郎飴”的マス生産と販売に有頂天になって、きたるべき時代を見失ったこと。これは流通の肥大化とその負の改革の遅れをもたらした。
第二は、再販制と委託制の本来もっているプラス面を発展させるのではなく、その陥穽とういうべき安易な利用法(取次任せの配本や返品)に流れた結果、末端の書店が単なる陳列店に堕して、書店としてもつべき地域の文化共同体の拠点としての役割を薄めることになった。合わせて、読者のニーズを蒐集し、市場を広げる力を喪失したのである。
第三は、戦後の出版社創業ラッシュと1960年代後半から80年代半ばまでの創業や他業種からの参入などを含む版元の多様化、つまり新しい世代の活力の吸収が、90年代以降、取引条件の悪化によって抑制されたこと。これは業界全体として、既存と新参の格差をもたらし、全体として活性化に水を差し、保守化を生んだ。この保守性が、眼前にある危機の姿が見えているにも関わらず、個別企業の利益優先という大義名分によって、出版界全体の“なしくずしの死”を招いているのではなかろうか。
「本は売れなくなっている」「若者は本を買わなくなっている」「欲しい本がない」「高いから売れない」などなど、いずれも否定できない。「安ければ売れる」これも真実である。だが、単行本の1500円より文庫の600円が売れる。同じ物であれば、安いにこしたことはない。当たり前である。だからといって、新書や文庫で市場を占有する戦略が、個別版元にとっては一時の勝利を得たとしても、「高いから買わない」という読者を作ったとすれば、本来の読者を生むことにはならない。「文庫の売れ筋が低迷」といったことが売上げ減の要因としなければならないところまできたのだ。
書店の粗利が低迷し、経営が成り立たないのであれば、委託という制度の利点と再販制の原則の下で、業界を挙げて適正な正味の改訂を本音で話し合えば良い。
「ポイント還元とか」「学生が本に親しみ易くする」「学生に配慮する」などのご託を並べた値引き販売で消費者の囲い込みや、競争相手の蹴落としでなく、適正な利益と公平な取引で、読者を育て、市場を拡大し、文化の育成と継承をどうすべきかを、業界のリーダーに呼びかけたい。
竹内淳夫(彩流社 )●出版協副会長
聞くところによれば、KADOKAWAが300人のリストラをするとか。ドワンゴとの合併による人員整理という面もあるそうだが、基本的には紙媒体の低迷の結果と言えそうだ。その紙の本の売れ行き不振の根底にあるのは言うまでもなく少子高齢化社会に起因する読者人口の減少であり、それに輪をかけているのがIT社会の形成にともなう電子媒体である。
この要因は、21世紀という時代の流れであって、これを止めることは出来ない。しかし、この間の来し方をみれば、不幸にしてわれわれはむしろその低迷を加速させるべく“奮闘”したかのような風景が見える。
その一つ、人口増という上げ潮と高度経済成長に乗って、本来はパーソナルに近いミニ文化の集合であるべき出版に“金太郎飴”的マス生産と販売に有頂天になって、きたるべき時代を見失ったこと。これは流通の肥大化とその負の改革の遅れをもたらした。
第二は、再販制と委託制の本来もっているプラス面を発展させるのではなく、その陥穽とういうべき安易な利用法(取次任せの配本や返品)に流れた結果、末端の書店が単なる陳列店に堕して、書店としてもつべき地域の文化共同体の拠点としての役割を薄めることになった。合わせて、読者のニーズを蒐集し、市場を広げる力を喪失したのである。
第三は、戦後の出版社創業ラッシュと1960年代後半から80年代半ばまでの創業や他業種からの参入などを含む版元の多様化、つまり新しい世代の活力の吸収が、90年代以降、取引条件の悪化によって抑制されたこと。これは業界全体として、既存と新参の格差をもたらし、全体として活性化に水を差し、保守化を生んだ。この保守性が、眼前にある危機の姿が見えているにも関わらず、個別企業の利益優先という大義名分によって、出版界全体の“なしくずしの死”を招いているのではなかろうか。
「本は売れなくなっている」「若者は本を買わなくなっている」「欲しい本がない」「高いから売れない」などなど、いずれも否定できない。「安ければ売れる」これも真実である。だが、単行本の1500円より文庫の600円が売れる。同じ物であれば、安いにこしたことはない。当たり前である。だからといって、新書や文庫で市場を占有する戦略が、個別版元にとっては一時の勝利を得たとしても、「高いから買わない」という読者を作ったとすれば、本来の読者を生むことにはならない。「文庫の売れ筋が低迷」といったことが売上げ減の要因としなければならないところまできたのだ。
書店の粗利が低迷し、経営が成り立たないのであれば、委託という制度の利点と再販制の原則の下で、業界を挙げて適正な正味の改訂を本音で話し合えば良い。
「ポイント還元とか」「学生が本に親しみ易くする」「学生に配慮する」などのご託を並べた値引き販売で消費者の囲い込みや、競争相手の蹴落としでなく、適正な利益と公平な取引で、読者を育て、市場を拡大し、文化の育成と継承をどうすべきかを、業界のリーダーに呼びかけたい。
竹内淳夫(彩流社 )●出版協副会長
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