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2015年3月11日 (水)

アマゾン抜きでも本は売れる●日本には、アシェットはいないのか?─アマゾン出荷停止3社、停止継続中

今月の『FAX新刊選』は、出版協の総会の後で出そうということになり、遅れての7日発行となった。

出版協の総会は、今年は人事改選がなく、14年度の活動総括と15年度の活動方針の決定である。昨年度は原出版者の権利確保の観点から著作権法の改正に取り組み、新しい出版契約書ひな型を作った。

また、アマゾンの「Amazon Studentポイントサービス」への反対の取り組みが、有志出版社による同社への出荷拒否にまで発展した。

本年度は、紙と電子の価格コントロール権を失うことが出版社の危機をもたらすとの観点から、改正著作権法に伴う一体型の契約書の締結推進や電子書籍の価格拘束法などの検討が課題となった。アマゾン・ポイント反対の取り組みも電子書籍の価格コントロール権を確保するための取り組みと表裏一体の関係にある。

さて、アマゾンの「Amazon Studentポイントサービス」が、再販契約違反の大幅値引きに当たるため、同サービスからの自社商品の除外を求めて出荷停止している緑風出版、晩成書房、水声社の三社は、昨年の11月6日に記者会見をして、3カ月の延長を表明したが、それも2月上旬で3カ月となった。そのまま出荷停止を続けているので、この3月で4カ月となる。1年も間近だ。記者会見をした前日の11月5日には、日販に対し再販契約を遵守し、会員社の要望に誠意をもって応えるよう申し入れを行ったが、ずるずる回答が延びていた。近々ようやく返事があるらしい。

先日、小社のFAX新刊案内の返信に、ある書店が「*頑張って下さい」と書き入れてくれていた。これで何回目だろうか。前に知り合いの業界紙の記者に「保存しといてくださいよ」といわれたので、今度は控えをとっておいた。かなり長い激励文を書き入れてくれた書店もあった。ありがたい。

その書店の状況をみてみると、書店数は、ピークの2000年12月の2万3776店から13年3月の1万5602店、14年12月には1万4744店と減少、ピーク時の62%の水準に落ち込んだ。

14年の閉店は1196店と2年連続で1000店を超え、新規出店は14年254店で、毎年、閉店数が出店数を大きく上回っている。

新規出店は大型店が多く、300坪以上の書店数は03年の587店から12年には1120店へと2倍近い伸びを示していて、1000坪以上の書店数は03年の38店から13年の88店へと増加している。売り場面積はそれに伴い03年109万6532坪から14年131万9779坪と2割以上増大している(JPO書店マスター管理センター調べ)。

つまり地方の県庁所在地の老舗書店が消えた時代は遙か昔のこととなり、大型店の出店ラッシュやネット書店の影響で、中小書店の閉店の歯止めがなくなり、いま、大型リアル書店がネット書店の影響で撤退していく時代になった。大型書店が複数出店した政令都市などでは、息切れしたところから撤退している。都内もネット書店の影響が著しい。確かに都心の山手線や中央線の書店もここ数年で急速に減少している。以前なら3、4店あった駅周辺の書店が、いまや1、2店である。私が乗り降りする水道橋のように書店のない駅まである。

米Amazon.comが米証券取引委員会に提出した年次報告書によると、14年の日本国内における売上高は79億1,200万ドル(13年は76億3900万ドル)で、前年比3.6%増となった。円換算による発表はないが、14年の平均為替レートを106.85円とした場合、日本円にして8454億円程度となると報じられた。

ここからはデータがないので推測になるが、雑誌を除いた書籍売り上げは20~25%といわれるので、1690億円から2113億円となる。13年の推計が、1ドル=100円の換算で1527億円から1909億円だったので、為替変動を考慮して100円換算だと14年度は1582億円から1978億円となり、13年比で3.6%の伸びで、消費税の3%値上げも考慮すれば、14年は実質前期比0.6%の微増ということになる。もともと12年の売上高が前期比18.6%増の78億ドルだったことを考えれば、アマゾンの日本での売り上げの伸びは、ここ2年足踏みしているとみられる。税金を払っていないなど、アマゾンへのマイナスイメージも影響しているのかも知れない。

書籍の推定販売金額は、13年は7851億円(対前年比2.0%減)、14年は7544億円(同4.0%減)である。アマゾンの書籍販売シェアは、14年でいうと単純に21%から26%となる。現実には取次を通さないe託もあるので、数字はもう少し下がるが、さまざまな版元の話を聞いていると、2割を超える売り上げシェアにはなっていると思われる。だんだんアマゾンにものが言えなくなる水準に近づいている。

その再販問題だが、「文化通信」によると、アマゾンは今年を書籍販売における「ポイント・価格訴求元年」と位置づけ、ポイント還元や時限再販を活用した「再販制度の枠組みの中で」の割引販売を積極的に進める方針で、出版社に時限再販品の出荷の増加、直取引などを呼びかけている。説明会にはマーケティング契約を結んでいる150社、360人が集まったという。価格訴求では、廃棄予定の滞留在庫を一括買い取り安売りするなどするという。
 でも、これも変な話である。現在の再販制度のもとでは、再販売価格維持行為をするかしないか、どの程度するかは当該出版社が決定することであって、巨大流通業者がマーケティング契約のもとに取引先を集めて、時限再版をこの程度やってくれとか、あれこれいうのは、時限再版等を強制するようなもので、不公正な取引方法にあたるのではないか。流通業者があれこれ言うべきことではないのである。

公取委は、出版協会員社がアマゾンのポイントカードで記者会見をやろうとすると、すぐに共同行為ではないか、独禁法に抵触する恐れがあるなどと、事実上の圧力をかけてくるのに、アマゾンには事情聴取をしているのだろうか?

ともあれ。私たちが予想していたとおり、アマゾンのポイント攻勢は新たなポイントサービス合戦などを誘発しはじめた。楽天ブックスの楽天ヤングや日書連会長の弾力運用発言しかりである。

『新潮45』2月号が「『出版文化』こそ国の根幹である」という特集を組んでいて、紀伊國屋書店の高井昌史社長が「日本の出版文化を守りたい…アマゾンと闘う理由」を寄稿している。現状認識は共有できるが、解決策には疑問が多い。再販制と委託販売制を見直し、雑誌と書籍に時限再販を導入しようとの提言である。アマゾンがやるならこっちも、背に腹は代えられないということなのだろうが、このやり方ではたして勝てるのだろうか。気持はわかるが、値引き合戦をはじめれば、体力のない書店から倒産・廃業していくだけだ。アマゾンの思う壺ではないだろうか。

時限再版となれば委託を止めて買い切りということになり、市場は縮小する。買い切りでも結局、売れなければ、出版社は書店や取次店に返品を強いられる。力の弱い出版社になればなるほどそうなる。他の小売業界でも売れ残りの返品を強いられる返品条件付き買い切り取引はいくらでもある。

繰り返しになるが、再販制度は出版社に守る気がなければ崩れてしまう。出版社だけが自らの意思で再販売価格維持行為をできる。再販売価格維持行為をしたくない出版社は、時限再版も部分再販もしてよいことになっている。出版社次第なのだ。いま出版社に求められていることは、再販制度を守ることが、出版社の安定的な再生産を保証し、読者に多様な出版物を供給し、著者に安定的な印税をもたらすことにつながるという確信を持つことであろう。そして再販制度を守る必要があると確信するなら、例えばルール無視のアマゾンには出荷停止で望むなどルールを守る努力をして、そしてルールを守る書店に頼って生き残りを図ればいいのではないか。

これは小社の話だが、アマゾンのことは話題にもならなくなった。アマゾン抜きでも本は売れるということが、この10カ月の経験ではっきりしたからだ。出版社として納得できる本をつくろう。そうすれば読者はどこかの書店で買ってくれるのだ。

アメリカでは、アシェットが電子書籍の価格決定権を要求して、アマゾンと果敢に戦って、押し切った。そうした気概と実行力が、長期の出版不況の中で出版社になくなってきているのが、悲しい現実である。日本にはアシェットはいないのか?

高須次郎緑風出版 )●出版協会長

『新刊選』2015年3月号 第29号(通巻253号)より

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