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2015年5月 8日 (金)

再び“混迷の出版界”で考える!

今年2月の「ほんのひとこと」で、私なりに業界低迷の現状と活性化への視座を述べたが、3月、4月の小社の返品状況を見ると、個別の特殊状況を考えても先に明るい見通しを持つのはなかなか厳しい。当然のことながら、企画が悪くて受け入れられないということであれば、それは自己責任の範囲であり、他に責任を転嫁すべきことではない。

しかしながら、業界全体で返品率が上がり、利益率が下がり、書店が廃業に追い込まれるなどして、市場自体が縮小している現状は、人口減という客観的な条件があったとしても、文化という“特殊”な領域の低迷・後退は、何か根本的な要因があるのではないだろうか。

先の「ひとこと」(15年2月号 )では、業界の成長期から低迷への流れを3点述べた。それは言ってみれば、単に上げ潮に乗った時代に胡座をかき、大衆消費時代の裏側で進行する多様化の本質を見誤った結果でもあった。業界の主流にあった人達が、潮目が変わろうとするときに本来なら新たな改革と挑戦をすべきだったのに既得権の保守に陥り、創業を含む新規参入による活力の導入に遅れをとった。そして消費の落ち込みに対応すべく廉価本(文庫、新書)競争に個別企業の勝負を賭けたのである。これは自由競争社会の常で、これ自体を批判しようとは思わないが、それが業界全体のデフレ状態を招いたのである。

書籍はもともと、何十万、何百万という読者を一挙に確保するものではない。ミリオンセラーは、何千分の1か、何万分に1のものである。それは多数の多様な出版物の裾野の上に成り立つものであり、裾野がやせ細ったところでは全くの偶然か、感性や思想の不条理な統一などの作為によるものだろう。

さて、結果としてデフレ状況を招いた文庫・新書の隆盛を支えたのは、戦後発展を続けてきた雑誌に象徴されるマス・セールスの流通システムである。初版数万部、廉価で手に取りやすい商品が全国の書店に一斉に並び、それなりに読者を獲得し、売上げをもたらしたシステム自体は決して否定されるべきものではない。ただ、このシステムと委託販売制度とが対になって洪水のように書店に本が送られたことで、多様化するニーズに対応する書店の仕入れ能力を低下させた負の面を招いた。従って、客単価が落ちる傾向を見せたとき、それを押しとどめることが出来ず、売れても利益がでないというジレンマに陥ったのだ。

川下である書店は、デフレ状況の深刻さを肌で感じたとしても、川上、川中の版元と取次は、マス・プロ、マス・セールスの“幻想”と流通システムの効率性という実利性の呪縛から逃れられなかったのだ。

時代は、多様性がさらに進化し、個が繋がる社会に突入する。パソコン、スマホなどに象徴されるIT社会は、アマゾンという“黒船”をもたらした。アマゾンの問題点には今回触れないが、彼らが突きつけた衝撃のひとつは、出版界の流通問題であった。確かに個人に繋がる情報と翌日配達というシステムは、時間と簡便さにおいては脱帽のほかない。しかしながら、彼らの弱点は現物を手にとってみるという本との出合いを造りあげているわけではなく、まさにヴァーチャルの世界で消費行動をさせているのであり、読者あるいは市場を創造しているのでは決してない。既存の市場において読者を利便性という利点で獲得しているだけである。

従って、リアル書店の優位性を保持する条件は、手元に現物があること、あるいは注文をしたとき、具体的にいつ手に入るかという確たる情報を与えることで、書店と読者との信頼関係を形成できるかどうかにかかっている。

その意味では、既にほとんどの版元はホームページを持ち、自社の情報を開示しており、また7月からの「出版情報登録センター」の稼働によって新刊及び既刊の本の在庫情報も公開されることになる。残るは流通上の情報が的確に取次店から書店に伝えられるシステムが構築されるか否かであり、それが保証されれば読者の書店離れは一定程度防げるのではないか。

版元は、読者に魅力ある商品を提供し、取次店は流通の要として、時代に即応したシステムをどう構築するかが混迷を脱する鍵となるだろう。

前回にも書いたが、「書店の粗利が低迷し、経営が成り立たないのであれば、委託という制度の利点と再販制の原則の下で、業界を挙げて適正な正味の改訂を本音で話し合えば良い」という私の基本的な考えである。読者と対面で取引する書店の活性化なくして、文化の交流する場、市場の創出はあり得ないだろう。

竹内淳夫彩流社 )●出版協副会長
出版協 『新刊選』2015年5月号 第31号(通巻255号)より
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