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2015年6月 2日 (火)

出版ADRがスタート

今年の1月から改正著作権法が施行されて、出版界もさまざまな動きがある。この5月18日には、一般社団法人出版ADRが法人登記を完了、正式にスタートした。

ご存じの通りADRは、Alternative Dispute Resolution、裁判外紛争解決手続きの略である。商品やサービス、医療や交通事故などで生じる誤解や不満など身の回りで起こるさまざまな法的トラブルについて、裁判を起こすのではなく、当事者以外の公正な立場の第三者に関わってもらいながら、当事者同士の話し合いによって解決する仕組みである。

出版ADRは、著作権の問題や主に出版に係わる契約上のトラブルに関して裁判外紛争解決手続きを用いて解決することを目指して設立されたもので、日本文藝家協会日本ペンクラブ日本漫画家協会など著作者団体11団体、書協雑協に日本出版者協議会の出版社団体3団体が設立社員で、著作者団体、出版者団体をほぼ網羅している。代表理事は作家の浅田次郎氏、副代表理事は漫画家の里中満智子氏、理事には書協理事長の相賀昌宏氏、出版協の高須が就任した。

出版ADRの設立は、改正著作権法の付帯決議で、「当事者間の契約上の紛争予防及び紛争が発生した際の円満な解決の促進を目指し、出版契約における裁判外紛争解決手段(ADR)を創設すべく、必要な措置を講ずること」(衆議院付帯決議8/参議院付帯決議5)にもとづくものである。

さまざまな紛争解決の手段としては、当事者間による交渉と裁判所による法律に基づく裁断があるが、ADRはその中間に位置する。つまり当事者間での交渉がうまく行かなかった場合に、裁判所による民事訴訟に訴える前の段階で、法律家など専門家の第三者的意見を交え紛争を解決しようというものだ。

具体的には、和解、仲裁、調停、あっせん、などの裁判によらない民事上の紛争解決方法である。

ADRは、①利用者にとっては費用や時間が比較的少なくてすみ、②非公開のため個人のプライバシーが守られる、企業の業務内容や機密が守られる、などの長所がある。一方、ADR機関が企業や行政など一方の当事者と密接な関係にある場合、反対の当事者が不利になるという点が、短所として上げられている。

福島第一原発事故に伴い設置された原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)が被害者の賠償額をあらかじめ「原発事故の影響は50%」と内規で決めて賠償を半額にしたり、被害企業に無理な立証責任を押しつけ、東電の賠償を免れさせたりするなど、東電よりの対応をしたため、強い批判を受けている。

ADRは双方が合意しなければ紛争解決ができないが、あくまで双方の合意による解決を目指すものと、仲裁のように、第三者によって法的判断が示されるものとに大別される。

日本のADR機関としては、司法機関としては家庭裁判所の家事調停、先の原子力損害賠償紛争解決センターや公害等調整委員会、労働委員会などの行政機関、それから日本弁護士連合会交通事故相談センターや公益社団法人交通事故紛争処理センターなどの民間機関がある。一般社団法人出版ADRはこれに当たる。

出版ADRは「当法人は、出版物に係る著作権の保護のため、出版者(社)および著作者相互のトラブルの解消と相互理解を深める活動を行うことを目的とし」、「出版物に係る著作権に関する出版者(社)と著作者間のトラブルの解消を目指す相談および仲裁人による和解あっせん業務」(一般社団法人出版ADR定款第3条)を行う。

具体的には、著作権の問題や主に出版に係わる契約上のトラブルに関して、紛争の当事者同士(著作者、出版者)が直接交渉するのではなく、公正中立な立場の第三者(出版ADRの和解斡旋人の弁護士)が関わることで、当事者同士の合意を促し、両者間での「和解」を行いトラブルの解決解消を目指す。相談及び和解に関する手続きや内容等については秘密厳守で、かつ非公開のため、プライバシーや出版社の業務内容が外部に公表されることなく紛争解決を行うことが可能となる。

なお、出版ADRで扱わない事案は、次のとおりである
 1 自費出版に係る紛争
 2 法人間(内)での紛争
 3 私人間紛争
 4 表現、言論の自由等主に著作物の表現内容に係る紛争
 5 紛争当事者(どちらか一方)がADRでの解決を望まないとしたもの
 6 その他、団体として扱えないと決定した紛争
 
出版ADRの運営で大事なことは、出版社(者)だけに有利に運営されたり、著作者にとってのみ有利に運営されたりすることはあってはならないことで、両者が協力して公正かつ中立的に運営していくことが求められる。そうでなければ利用されないし、信用されなくなってしまう。

このため、両当事者が協力して運営している一般社団法人出版物貸与権センターに組織運営を委託し、同センターが実施している無料の「著作者、出版者のための電話相談」(TEL 03-3222-9055)を共同で運営し、そこでの事前相談を行ったうえで申請を受け付けることになっている。

申請にかかる費用は1万円(税別。振込手数料申請人負担)、和解不成立の場合は半額が返金される。和解が成立した場合は、以下の別途定められた和解契約書の解決額に応じて、成立手数料を出版ADRに支払う。
 
紛争の価額             成立手数料(紛争価額の)
300万円まで                              5%
300万円越え1500万円まで     3%
1500万円越え3000万円まで    2%
3000万円越え5000万円まで     1%
5000万円越え1億円まで          0.7%
1億円を超える価額          0.3%

これまで出版協は、会員社からのさまざまトラブルの相談については、出版協や関係団体である日本出版著作権協会(JPCA)が受け付け、法律問題は日本ユニ著作権センターにお願いしてきた。紛争事例に応じて、今後も日本ユニ著作権センターにご協力をお願いしつつ、出版ADRも利用していくことになる。

それ以上に出版社が考えなければならないことは、新たな出版契約書による契約を確実にし、著作者とのトラブルを起こさない努力をすることであろう。

高須次郎緑風出版 )●出版協会長

『新刊選』2015年6月号 第32号(通巻256号)より

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