栗田破綻と再生スキーム、その陰の本質的危機
6月26日、栗田出版販売(株)が民事再生法を申請して破綻した。負債総額は134億円弱とのこと。売上げがピーク時の701億円から昨年9月期には329億円まで落ち込み、大型店の閉鎖や縮小、中小書店の転廃業に伴い、書店からの返品率の増加、売掛金の延滞、回収不能の増加などが理由で、平成21年9月以降、6期連続で経常赤字となった。
リストラや資産売却などの手当をしてきたが、昨年の消費税増税の影響で、売れ行きはさらに落ち込み、返品率も上がって、資金不足に陥り、大手版元の支払い猶予などの支援を受けて、正常化を目指したが、その目途も立たず、自力更生をあきらめて民事再生手続きをした、という。
そして、その再生スキームとして発表されたものが、驚くべき方法であった。法的なことではとやかく言えないが、確かに民事再生法は、破綻した企業が債権者の支援を受けて早期に再生する手立ての仕組みであり、他業種ならその可能性は高い。
なぜなら、基本的に商品の返品が無い業種であれば、債権を一端棚上げにして、破綻に至った病巣を整理し、債権者が商品を供給すれば、システムは動きだし、再生への道は開ける。しかし、返品が前提となっている出版業界では、この再生法自体が本質的に馴染まないものと言えるのではないか。返品も凍結して、いわゆる「新栗田」というシステムを動かすのならば異存はない。
しかしながら、再生スキームと言われるものは、資金保証をする立場の大阪屋と近い将来(来年の春とも言われる)統合(合併)する前提で、破綻した「旧栗田」の返品を版元の新売掛金から相殺するという、どう考えても理解に苦しむものである。法的には義務がないとのことで、これはあくまでも「お願い」ということのようだが、実際には後々、各版元と大阪屋との軋轢を生む種を撒くようなことに思える。
現下の業界を考えれば、取次店の寡占化が進むよりは、小なりとも栗田が再生し、活躍するのが望ましいし、それを支援しようという者も少なくないはずだ。返品を相殺するなどという上から目線の押しつけよりも、同じ仲間として、例えば支援金として小口の寄付なり、社債なりの手立てはなかったのだろうか。今回の再生スキームは、出版界に大きな禍根を残すことになるように思われる。
というのは、栗田の破綻への道は、現在業界が抱えている問題の縮図であるからだ。これまでなら、大手版元を中心に業界内でどうにか支え、あるいは金融機関の支援で再生への道を歩めたであろうことが、もう既にその力が無いことを明らかにしただけでなく、金融機関の債権がゼロという事実は、不動産を持たない限り、金融機関の支援の対象にもならない業種という証明にもなった。また、返品商品を担保に再生出来るということは、委託制度というシステムに甘える前例を破綻取次に容認することになるからである。
売上げ減少は止まる様子もなく、益々加速する様相を見せている中で、取次店の苦戦は、単なる栗田の問題だけではない。
書店の減少。大型店の出店と撤退。アマゾン等の通販。流通システムの遅れ。企画の貧困(新規版元の生成)……。そして、栗田の支払いを保証し、統合を目指す大阪屋もつい先年、他業種からの支援を受けて再出発したばかりという現状である。
統合(合併)するなら、債権債務をすべて含めて新しい展開を目指すのが本来の姿だが、それをする余裕もないというのが本音なのだろう。しかし、だからといって、下世話で言う「身軽になって、一緒になろう」ということではいかがなものであろうか。
嫌みを言っても始まらない。栗田の破綻は、我々が抱えている問題を根本的に考える場にしなければならない。それは、書店、取次、版元のそれぞれの利害を超えて、流通問題や再販制度、取引条件など全ての分野で知恵を出し合い、方策を作らない限りこれからの展望は開けない。業界のリーダー諸氏に是非お考え頂きたい。
竹内淳夫(彩流社 )●出版協副会長
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