ポイントサービス対象除外をめぐって-楽天とアマゾン、そして日販の対応
アマゾンの学生対象10%ポイントサービス〈Amazon Studentプログラム〉について、出版協加盟の多くの出版社が、再販契約に違反するものとして、自社商品の同サービス対象からの除外を求めてきた。もちろん、〈Amazon Studentプログラム〉の中止自体を求めたいのだが、それを求めることは公正取引委員会が認めていない。ポイントサービスは値引きである。だが、再販契約は個々の出版社-取次店-小売店を結ぶ契約であり、小売店の行う特定のポイントサービスが再販契約違反かどうかを判断するのは個々の出版社だ。〈Amazon Studentプログラム〉についても、再販契約違反としない出版社もあるかもしれないので、違反とした出版社もサービス自体の中止は求められない。ただ、再販契約違反と判断した出版社は自社の商品をサービス対象から除外することを要求することができ、その出版社の要求にもとづいて取次店も対処できる、というのが公取委の見解だ。
「最大の書店」のこのサービスを看過することは、書籍の10%ポイントサービス(=値引き)を「業界標準」として認めてしまうことにつながり、ポイント合戦を生み、一般書店をさらに苦しい状況に追い込むことになる。それは「書店のない町」を増加させ、読者が本に出会うことを困難にさせていく。
こうしたポイント競争激化の懸念を証明するように、楽天も、昨2014年12月22日から「楽天ヤング」として若者向けのポイントサービスを開始。楽天ブックスの書籍についても10%のポイントサービスを実施し始めた。
今年に入ってそのことを知った出版協会員社は楽天と会談。「楽天ヤング」のポイントサービスは再販契約違反と判断しており、自社商品をサービス対象から除外するよう申し入れた。楽天の担当者は検討することを約束し、その結果、6月22日より、サイト上で、「楽天ヤング」のポイントサービス対象から除外される出版社のリストを公表した。自社商品の除外を求める出版社はその後も増え、現在30社が対象除外と表示されている。*
「楽天ヤング」に関する楽天ブックスの各出版社への対応は、「Amazon Student プログラム」に関するアマゾンの対応とは異なり、公取委の見解に沿ったものになっている。最初の申し入れから4か月あまりでの楽天ブックスの対応は、サービス開始から3年以上になっても対応しようとしないアマゾンと対照的だ。サービス自体を中止していただければさらに評価したいところだが、再販契約違反とする出版社の商品の除外を認めたことで、逆に出版社側が再販制に対する意識を問われている形になった。「楽天ヤング」の対象除外出版社が、今後どう増えていくか注視したいと思う。
楽天ブックスとは、直接会談や連絡をとることでこうした結果を生むことができた。しかしアマゾンの場合は、アマゾン側から協議の場を閉ざしてしまった。2013年秋以降、アマゾンは、出版社はアマゾンとの再販契約当事者でないことを理由に、出版社との直接協議を拒否してしまったからだ。
冒頭で記したように、再販契約は(1)出版社-取次店間で「取次店と再販契約を結ばない小売店には販売しない」契約を結び(2)取次店-小売店間で「値引き販売しない」再販契約を結ぶという2段階契約で成立している。出版社とアマゾンは確かに直接の契約当事者ではない。出版社が契約当事者として交渉できる相手は取次店であり、アマゾンの場合は主に日販を通じて交渉していくしかない。再販契約の扇の要に位置する取次店=日販の姿勢が問われるところだ。
正直、日販の姿勢はアマゾンに対して腰が引けている。再販契約違反とする出版社のサービスからの除外要請についても、再販制度は重要としながら、どの程度のポイントサービスが再販違反かどうかはさまざまな解釈があり、日販が判断することは困難……といった調子で、アマゾン側に強く指導せずに時間が過ぎた。
6月初頭、出版協は公取委と会談し、ポイントサービスと出版社の対応について、冒頭に記した見解が変わっていないことを確認。さらに6月22日の楽天ブックスの対象除外出版社の表示実施を踏まえて、7月2日付で日販に対し、公取委見解を改めて示した上で、日販は出版社の判断に沿って、「Amazon Studentプログラム」からの除外を求める出版社の要求に応えるようアマゾンに対し文書で指導し、その結果を報告するよう要望書を出した。
「楽天ブックス」がサービス対象からの除外を認めたことは、日販の対応にも影響を与えたと考えられる。8月25日、日販より出版協事務局に回答が届き、日販が8月13日、アマゾンに対して出した文書が添えられた。文書は7月2日付の出版協要望書を添付したうえで、「今後のご対応方針をご判断いただきますよう」「お願い」するもので指導とはほど遠い印象だ。それにしても、2年間私たちが日販にアマゾンに対して指導を求めてきて、日販としては今回の文書が初めての文書でのアマゾンへの要望(これまでは口頭のみ)というところに、日販の姿勢が表れている。
日販担当者に確認したところ、アマゾンには文書での回答を要求したとのことだ。9月末現在、アマゾンから回答があったという日販からの連絡はない。アマゾンからの反応を注目している。
*楽天ポイントサービス除外希望会員社(33社 楽天ヤングのHP記載社より3社増えております)
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