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2015年10月

2015年10月30日 (金)

出版協「新刊選」2015年11月号第37号(通巻261号)

  1P …… 三たび“混迷の出版界”を考える!

竹内淳夫彩流社)●出版協副会長

2P……出版協BOOKS/1Pの続き

3P……出版協BOOKS/11に出る本

4P……出版協BOOKS/11月に出る本

三たび“混迷の出版界”を考える!

今年の2月、「ポイント還元とか」「学生に本に親しみ易くする」「学生に配慮する」などのご託を並べた値引き販売で消費者の囲い込みを図るアマゾンの行為にもの申すこともなく、既得権の上に胡座をかいて、「安ければ売れる」とばかりの低価格本での陣取り合戦を展開する版元の行為が粗利の減少を招き、書店を疲弊させている。その脱出策として、委託制度の利点と再販制度の原則の下での適正な正味改訂の話し合いを提案した。

そして5月には、委託と対になった雑誌に象徴されるマス・セールの流通システムが、多様化するニーズのなかでリアル書店の現物を直に読者に見せるという優位性を確保する仕入れ能力を低下させたことを指摘し、「出版情報登録センター」の稼働などによる新刊情報などの利用とそれを支える流通システムの改革と構築を呼びかけた。

しかし626日、寝耳に水のように栗田出版販売が民事再生法の申請を行った。出版界では初めてのケースである。その再生スキームについては、多くの問題点があるが、既に裁判所での判断にかかっている段階であり、それの正否はここでは論じない。ただ、取次店という本来なら放漫経営などの不祥事でもない限り、版元と違って極めてリスクの少ない企業にも関わらず、鈴木書店に始まる小中取次店の破綻は、この業界の抱える根本的な問題点の噴出であろう。栗田を統合するという大阪屋も再生途上であり、太洋社も経営不振が続いている。もともと問屋制度は時代遅れで、流通は単純、簡素化すべきだという議論はありうる。

しかしながら、出版という言論と思想と表現の自由の実体を形成する書籍・雑誌を作る版元や読者に繋がる書店は、多様にしかも多数存在することが文化国家としての最低限の形であろう。その意味では、取次店の寡占化は、決して好ましいことではない。書店や取次店の経営が成り立たないということは、単なる企業努力の問題でない限り、公正にそしてオープンに正味問題を考える時期にきているのだろう。大手版元や老舗版元の既得権が、もし流通の活力を押さえる結果を招いているとすれば、業界全体の“なしくずしの死”を呼び込んでいるとしかいいようがない。

アマゾンは、スチューデントプログラムだけでなく、ほとんどの書籍にポイントを付けている。しかも、いかなる根拠で設定されているかも分からないポイントのつけかたである。

たしかにわれわれ版元には取次からの入金には変わりはない。だが、スチューデント割引と合わせると20%に近いものもある。これを黙認するのは、定価で売って頂いている書店に版元としては、合わせる顔がないという事態だ。

 

ところで、1029日の朝日新聞に〝売れぬ本「貸し出しが一因」〟という見出しで、新刊本の発売から一定期間、公立図書館での貸し出しをやめるよう要望する動きがあると報じた。確かに公立図書館は増えており、利用者も増えている。市民から要望のある書籍は、できるだけ揃えて閲覧の機会を与えることが図書館の一つの使命であり、それは人気作家の文芸作品、専門書の区別はない。ただ、人気のある書籍は貸出率が上がり、それに対応するため限られた予算の中で複数購入するのは、その分他の書籍を排除するという意味においていかがなものか。

 

右肩下がりに深刻化する出版不況の出口はなかなか見当たらない。大手文芸版元には、図書館利用がそれなりの売上減に繋がることは理解できなくもない。

しかし、時代の流れは、何万部という大部数が恒常的に売れる状況ではない。かつて〝財産としての書籍〟つまり蔵書という意識が薄れつつあった1990年代に、ブックオフが登場し、書籍のリサイクルという新しいステージができた時に一気に崩れたのである。文芸書といえども、蔵書用の四六判上製本よりも手軽な文庫にシフトした。

 

また、専門書に関しても情報化の影響で、全国にある古書店、あるいはアマゾンのユーズド本でリサイクルは定着し、初版の絶対部数は減少し、なおかつ重版の可能性を狭めているのが現実である。

加えて、またアマゾンが買い取りを始めた。あまり触れたくないことだが、専門書の買い取りは、利用者が必要なページをコピーし、それを簡単に売却できるという形を作った。これ自体は手の打ちようがないが、問題は、版元にとって初版の部数減と定価の高騰、そして再生産を行う原資の確保をますます困難にすることにつながる。

 

これらのことは、大きな時代の流れであり、堰き止めることはできない。しかしながら、こうした時代に即した対応が求められているのは確かであり、業界全体の発展の道を、いまこそ既得権に固執することなく改革の展望を開きたいものだ。

 

 

2015年10月28日 (水)

民主主義の本フェアの中断に抗議する

丸善ジュンク堂渋谷店が開催していたフェア「自由と民主主義のための必読書50」が政治的に偏っているとの批判を受け、フェアを中断した。書店は選書の見直しをして再開するという。従業員とみられる人がツイッター上で「夏の参議院選まではうちも戦うと決めました」との発言からネット批判を受けたためだという。

しかし、従業員のツイッターの問題は、あくまで丸善ジュンク堂の内部問題であり、それを理由にフェアを中止するのは、出版社と書店との信頼関係を崩すものである。ネット批判を受けようが、フェアは書店の自由裁量であり、言論の自由を表現する場でもある。このような理由でフェアを中止してはいけない。それこそ民主主義に反するものだ。

 

書店が公式サイトで「本来のフェアタイトルにそぐわない選書内容であった」という発言は、

 書店員の選書の自由を奪い、選書に選ばれた書籍の出版社を否定するようなものである。表現の自由が損なわれてしまう。読者・書店・出版社の信頼関係をもっと大事にしなければならないのではないか。

 

たとえば私たちは、「保守政治思想をたどる」というフェアでも、「TPPが日本経済を救う!」というフェアであっても、主張は違うが、そういう出版物が「出版物に値しない」とか「一般にそぐわない」とかの理由で、フェア中止を求めるようなことはしない。

 

丸善ジュンク堂渋谷店は、直ちに従来のフェアを再開し、読者、出版社の信頼の回復に努めるべきだ。

  

 

 

2015年10月 2日 (金)

出版協 『新刊選』 2015年10月号 第36号(通巻260号)



1P
…ポイントサービス対象除外をめぐって

      -楽天とアマゾン、そして日販の対応
水野久
晩成書房 )●出版協副会長
2P・・・1P続き
3P ……出版協BOOKS/10月に出る本 
4P……出版協BOOKS/10月に出る本

ポイントサービス対象除外をめぐって-楽天とアマゾン、そして日販の対応

アマゾンの学生対象10%ポイントサービス〈Amazon Studentプログラム〉について、出版協加盟の多くの出版社が、再販契約に違反するものとして、自社商品の同サービス対象からの除外を求めてきた。もちろん、〈Amazon Studentプログラム〉の中止自体を求めたいのだが、それを求めることは公正取引委員会が認めていない。ポイントサービスは値引きである。だが、再販契約は個々の出版社-取次店-小売店を結ぶ契約であり、小売店の行う特定のポイントサービスが再販契約違反かどうかを判断するのは個々の出版社だ。〈Amazon Studentプログラム〉についても、再販契約違反としない出版社もあるかもしれないので、違反とした出版社もサービス自体の中止は求められない。ただ、再販契約違反と判断した出版社は自社の商品をサービス対象から除外することを要求することができ、その出版社の要求にもとづいて取次店も対処できる、というのが公取委の見解だ。

「最大の書店」のこのサービスを看過することは、書籍の10%ポイントサービス(=値引き)を「業界標準」として認めてしまうことにつながり、ポイント合戦を生み、一般書店をさらに苦しい状況に追い込むことになる。それは「書店のない町」を増加させ、読者が本に出会うことを困難にさせていく。
こうしたポイント競争激化の懸念を証明するように、楽天も、昨2014年12月22日から「楽天ヤング」として若者向けのポイントサービスを開始。楽天ブックスの書籍についても10%のポイントサービスを実施し始めた。

今年に入ってそのことを知った出版協会員社は楽天と会談。「楽天ヤング」のポイントサービスは再販契約違反と判断しており、自社商品をサービス対象から除外するよう申し入れた。楽天の担当者は検討することを約束し、その結果、6月22日より、サイト上で、「楽天ヤング」のポイントサービス対象から除外される出版社のリストを公表した。自社商品の除外を求める出版社はその後も増え、現在30社が対象除外と表示されている。*

「楽天ヤング」に関する楽天ブックスの各出版社への対応は、「Amazon Student プログラム」に関するアマゾンの対応とは異なり、公取委の見解に沿ったものになっている。最初の申し入れから4か月あまりでの楽天ブックスの対応は、サービス開始から3年以上になっても対応しようとしないアマゾンと対照的だ。サービス自体を中止していただければさらに評価したいところだが、再販契約違反とする出版社の商品の除外を認めたことで、逆に出版社側が再販制に対する意識を問われている形になった。「楽天ヤング」の対象除外出版社が、今後どう増えていくか注視したいと思う。

楽天ブックスとは、直接会談や連絡をとることでこうした結果を生むことができた。しかしアマゾンの場合は、アマゾン側から協議の場を閉ざしてしまった。2013年秋以降、アマゾンは、出版社はアマゾンとの再販契約当事者でないことを理由に、出版社との直接協議を拒否してしまったからだ。
冒頭で記したように、再販契約は(1)出版社-取次店間で「取次店と再販契約を結ばない小売店には販売しない」契約を結び(2)取次店-小売店間で「値引き販売しない」再販契約を結ぶという2段階契約で成立している。出版社とアマゾンは確かに直接の契約当事者ではない。出版社が契約当事者として交渉できる相手は取次店であり、アマゾンの場合は主に日販を通じて交渉していくしかない。再販契約の扇の要に位置する取次店=日販の姿勢が問われるところだ。
正直、日販の姿勢はアマゾンに対して腰が引けている。再販契約違反とする出版社のサービスからの除外要請についても、再販制度は重要としながら、どの程度のポイントサービスが再販違反かどうかはさまざまな解釈があり、日販が判断することは困難……といった調子で、アマゾン側に強く指導せずに時間が過ぎた。

6月初頭、出版協は公取委と会談し、ポイントサービスと出版社の対応について、冒頭に記した見解が変わっていないことを確認。さらに6月22日の楽天ブックスの対象除外出版社の表示実施を踏まえて、7月2日付で日販に対し、公取委見解を改めて示した上で、日販は出版社の判断に沿って、「Amazon Studentプログラム」からの除外を求める出版社の要求に応えるようアマゾンに対し文書で指導し、その結果を報告するよう要望書を出した。
 「楽天ブックス」がサービス対象からの除外を認めたことは、日販の対応にも影響を与えたと考えられる。8月25日、日販より出版協事務局に回答が届き、日販が8月13日、アマゾンに対して出した文書が添えられた。文書は7月2日付の出版協要望書を添付したうえで、「今後のご対応方針をご判断いただきますよう」「お願い」するもので指導とはほど遠い印象だ。それにしても、2年間私たちが日販にアマゾンに対して指導を求めてきて、日販としては今回の文書が初めての文書でのアマゾンへの要望(これまでは口頭のみ)というところに、日販の姿勢が表れている。

日販担当者に確認したところ、アマゾンには文書での回答を要求したとのことだ。9月末現在、アマゾンから回答があったという日販からの連絡はない。アマゾンからの反応を注目している。

*楽天ポイントサービス除外希望会員社(33社 楽天ヤングのHP記載社より3社増えております)
あけび書房 インパクト出版会 解放出版社 教育史料出版社 現代書館 現代人文社 皓星社 コモンズ 桜井書店 彩流社 三一書房  三元社 三陸書房 時潮社 社会評論社 松柏社 不知火書房 水声社 スタジオクリエイティブ 青灯社 草風館 大蔵出版 知泉書館 南方新社 晩成書房 ひとなる書房 批評社 唯学書房 有志舎 リベルタ出版 緑風出版 れんが書房新社 論創社

2015年10月 1日 (木)

軽減税財務省案への反対声明

 

この度、財務省から発表された消費税の軽減税率適用について、飲食料などの軽減税率2%分を限度額の範囲内で「ポイント制」によって還付する案が提示されました。そのためにマイナンバーカードを活用する、としています。この方法は、事業者の事務負担軽減を優先した分が消費者にしわ寄せされることになります。さらに、小売店の負担となるマイナンバーカードの読み取り機の設置費用、データの蓄積に関わる財政負担の発生、システム構築が消費税引き上げ時に間に合わないことが予想されます。また、子どもや高齢者対策が不備、カードの紛失や盗難に伴う個人情報の流出問題、税の還付のシステムが複雑であるなど、解決されなければならない前提が未整備の中、任意である筈のマイナンバーカードを税の還付を受ける為に半強制的に取得させられることになりかねません。更には、国民の買い物のデータが国に掌握されることでのプライバシー侵害や、セキュリティー上の不安も無視できません。

我々は予てより、消費税増税に伴う出版物への軽減税率適用を、知の伝達と文化の継承に不可欠な出版物の為に強く求めてきました。にも拘らず、これを無視し、今回飲食料品のみを軽減税率適用の対象としたことは、誠に容認し難く、遺憾の念を禁じ得ません。

人間は、日々食べなければ生存できません。同様に新聞や雑誌、書籍を読むことで情報や知識が伝達され、また心が満たされます。豊かな読書体験は心を癒したり、感動を覚えるのみならず思考力、創造力を育成し、ひいては国の発展に繫がると考えます。殊に未来がある子どもたちや若年層が、少しでも軽い税負担で活字文化を享受できる環境が望まれます。

欧米の先進諸国には書籍、雑誌も含めて、活字文化は単なる消費財ではなく「思索のための食料」という考え方があります。故に英国、アメリカの多くの州、またアジアでも韓国では出版物は0%、フランス、ドイツを始め多くの欧州諸国で軽減税率を適用しています。

これら既に軽減税率制度を導入している先進諸国に倣い、消費者に文化の継承に不可欠な出版物に負担をかけることなく、速やかなる出版物への軽減税率適用を強く求めます。

 

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