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2015年10月30日 (金)

三たび“混迷の出版界”を考える!

今年の2月、「ポイント還元とか」「学生に本に親しみ易くする」「学生に配慮する」などのご託を並べた値引き販売で消費者の囲い込みを図るアマゾンの行為にもの申すこともなく、既得権の上に胡座をかいて、「安ければ売れる」とばかりの低価格本での陣取り合戦を展開する版元の行為が粗利の減少を招き、書店を疲弊させている。その脱出策として、委託制度の利点と再販制度の原則の下での適正な正味改訂の話し合いを提案した。

そして5月には、委託と対になった雑誌に象徴されるマス・セールの流通システムが、多様化するニーズのなかでリアル書店の現物を直に読者に見せるという優位性を確保する仕入れ能力を低下させたことを指摘し、「出版情報登録センター」の稼働などによる新刊情報などの利用とそれを支える流通システムの改革と構築を呼びかけた。

しかし626日、寝耳に水のように栗田出版販売が民事再生法の申請を行った。出版界では初めてのケースである。その再生スキームについては、多くの問題点があるが、既に裁判所での判断にかかっている段階であり、それの正否はここでは論じない。ただ、取次店という本来なら放漫経営などの不祥事でもない限り、版元と違って極めてリスクの少ない企業にも関わらず、鈴木書店に始まる小中取次店の破綻は、この業界の抱える根本的な問題点の噴出であろう。栗田を統合するという大阪屋も再生途上であり、太洋社も経営不振が続いている。もともと問屋制度は時代遅れで、流通は単純、簡素化すべきだという議論はありうる。

しかしながら、出版という言論と思想と表現の自由の実体を形成する書籍・雑誌を作る版元や読者に繋がる書店は、多様にしかも多数存在することが文化国家としての最低限の形であろう。その意味では、取次店の寡占化は、決して好ましいことではない。書店や取次店の経営が成り立たないということは、単なる企業努力の問題でない限り、公正にそしてオープンに正味問題を考える時期にきているのだろう。大手版元や老舗版元の既得権が、もし流通の活力を押さえる結果を招いているとすれば、業界全体の“なしくずしの死”を呼び込んでいるとしかいいようがない。

アマゾンは、スチューデントプログラムだけでなく、ほとんどの書籍にポイントを付けている。しかも、いかなる根拠で設定されているかも分からないポイントのつけかたである。

たしかにわれわれ版元には取次からの入金には変わりはない。だが、スチューデント割引と合わせると20%に近いものもある。これを黙認するのは、定価で売って頂いている書店に版元としては、合わせる顔がないという事態だ。

 

ところで、1029日の朝日新聞に〝売れぬ本「貸し出しが一因」〟という見出しで、新刊本の発売から一定期間、公立図書館での貸し出しをやめるよう要望する動きがあると報じた。確かに公立図書館は増えており、利用者も増えている。市民から要望のある書籍は、できるだけ揃えて閲覧の機会を与えることが図書館の一つの使命であり、それは人気作家の文芸作品、専門書の区別はない。ただ、人気のある書籍は貸出率が上がり、それに対応するため限られた予算の中で複数購入するのは、その分他の書籍を排除するという意味においていかがなものか。

 

右肩下がりに深刻化する出版不況の出口はなかなか見当たらない。大手文芸版元には、図書館利用がそれなりの売上減に繋がることは理解できなくもない。

しかし、時代の流れは、何万部という大部数が恒常的に売れる状況ではない。かつて〝財産としての書籍〟つまり蔵書という意識が薄れつつあった1990年代に、ブックオフが登場し、書籍のリサイクルという新しいステージができた時に一気に崩れたのである。文芸書といえども、蔵書用の四六判上製本よりも手軽な文庫にシフトした。

 

また、専門書に関しても情報化の影響で、全国にある古書店、あるいはアマゾンのユーズド本でリサイクルは定着し、初版の絶対部数は減少し、なおかつ重版の可能性を狭めているのが現実である。

加えて、またアマゾンが買い取りを始めた。あまり触れたくないことだが、専門書の買い取りは、利用者が必要なページをコピーし、それを簡単に売却できるという形を作った。これ自体は手の打ちようがないが、問題は、版元にとって初版の部数減と定価の高騰、そして再生産を行う原資の確保をますます困難にすることにつながる。

 

これらのことは、大きな時代の流れであり、堰き止めることはできない。しかしながら、こうした時代に即した対応が求められているのは確かであり、業界全体の発展の道を、いまこそ既得権に固執することなく改革の展望を開きたいものだ。

 

 

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