栗田出版販売の民事再生計画案に反対する
今年も早師走である。出版界は底の見えぬ不況の中で喘いでいる。今年もあまり明るい話はなかったが、その最たるものが栗田出版販売の民事再生申立であった。
11月5日付けで、栗田出版販売の民事再生案が東京地裁から一斉に送られてきた。同時に栗田出版販売から、栗田出版販売株式会社代表取締役名の「弊社再生計画案のご案内」、大阪屋代表取締役名の「栗田出版販売株式会社との『統合』に関しまして」、各社別の「再生計画案における弁済要旨」が送られてきた。
それによると、
① 50万円以下の少額債権(総額7300万円)は全額100%弁済する。
② 非少額債権者は、非少額債権のうち50万円は一律で弁済する。
③ 非少額債権のうち50万円を超える債権部分に対して、第一回弁済は13.2%、追加弁済予定として4.2%、合計して17.4%の弁済を目指す。
再生債権額計111億1600万円に対し①から③までの弁済見込額は計23億7800万円となり、予定全体弁済率は21.3%となる。
また再生債権のうち栗田からの返品を大阪屋経由で入帳することに対して出版社からの不満、抗議が強く寄せられたことから、1カ月程度の返品分を再生債権から減額することにした、いわゆる「返品相当額」を加えると、予定全体弁済率は32.0%となるという。
さらに、大阪屋と栗田が共同で設立したOKCに対する栗田の債務を大阪屋も連帯保証しているが、この連帯保証債務16億4500万円の免除を受けた場合は、③の第一回弁済は16%、追加弁済予定として5.0%、合計して21.0%となり、予定全体弁済率は25.5%の見込みという。さらに「返品相当額」を加えると、予定全体弁済率は38.2%となるとのことだ。
この結果、出版社を大多数とする2000社あまりの再生債権者は約900社となり、12月24日の債権者集会で、債権額の過半数、出席債権者の過半数が賛成すれば再生計画案は成立する。再生計画認可決定は来年の1月下旬で、認可決定後4カ月以内(4月末日予定)に第一回弁済が行われ、その後追加弁済が行う予定という。
7月の債権者説明会で、再生案二次卸スキームに出版社の猛烈な抗議が起こった。出版協は7月10日、「栗田出版販売民事再生案スキームを撤回するよう求める」声明を発表し、栗田からの返品を納品もしていない大阪屋から返品入帳するという倍返しの驚くべきスキーム案を撤回するよう求めた。出版梓会などの老舗版元も偕成社や有斐閣、インプレスなど専門書版元中心に約58社が「質問する会」を組織し、事実上反対に回った。こうしたことから、栗田の再生債務者側も返品相当額を再生債権から控除するなどの譲歩案を示した。
今回の再生計画案は、別紙声明1にあるように、「50万円以下の債権者に対する全額弁済および全体としての予定弁済率が、一般的な民事再生事案と比べ高い点は評価できるといえるが、これも再生スキームへの反発を考慮した結果といえよう。
そもそもこの再生案の問題点は、「債権者に債権額以上の加重負担を返品で強いるスキームに拠っていることへの不信感にある。今後、現・栗田出版販売帳合の書店が大阪屋帳合の書店として取引が始まれば、再生債権内に含まれているはずのものが大阪屋の返品となって出版社に戻されてくるだろうことは想像に難くない。」(声明)という点である。
極めて問題のあるスキーム案は維持したまま、通常の民事再生に比べて弁済率を高くすることで、こうした批判にある程度答えようとしたものであることは確かだ。しかし、債権額が多くなるほど弁済率は低くなり、通常の民事再生の弁済率とあまり変わりなくなってしまう。しかも大阪屋経由の返品を栗田の平均返品率40%以上で出版社が入帳せざるを得なくなると、債権額の多い出版社ほどさらに損失が拡大することになる。
出版協としては、こうした再生計画案を一旦認めてしまえば、今後同じようなことがあると前例にされてしまうことを怖れる。したがって、この再生計画案には反対を表明する。そして大阪屋経由の返品入帳が新たな問題として浮上してこよう。
話は変わるが、別紙声明2にあるように、アマゾンはスチューデントポイントに加え、私たちが怖れていた、一般読者向けの抱き合わせのポイントサービスを拡大している。1%から最大10%という。スチューデントポイントと合わせると最大20%になるという。これではリアル書店はたまったものではない。書店をのぞいても、人がいない。書店はどんどん減り続けている。都内の山手線、中央線沿線駅でも書店がなくなったり、1店しかないような駅が増えてきている。
出版社や取次店が再販契約の遵守を毅然として求めていかないと、気が付いたときには書店を見つけるのも大変なような、砂漠になってしまう畏れさえある。その時は出版社も生きていけないことになるだろう。
出版社がポイントサービスを再販契約違反の値引きと判断した場合、小売店は該当社の商品の除外をしなければならない。アマゾンは再販契約に従い該当社の商品の除外を行う義務がある。現に楽天ブックは出版社の除外要請に応じている。アマゾンは出版社のポイント除外要請に従うべきである。従わないのなら、出荷停止で臨むしかない。出版協会員社の小社緑風出版、水声社、晩成書房のアマゾンへの出荷停止もまもなく21カ月目にはいる。
アマゾンを怖れるあまり、出版社が手を拱いていれば出版業界は崩壊する。そう時間は残されていないのだ。それで良いのなら何をか言わんや、である。
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