アマゾンは、このところ、取次店と取引のある出版社を対象に、アマゾンとの直取引を勧誘するセミナーをたびたび開催している。取引条件は、これまでのe託取引(e託販売サービス)の条件とは違い、セミナー参加出版社の場合は、66掛け(従来は60掛け)、歩戻しなし、支払いサイト60日、納品運賃出版社負担・返品運賃アマゾン負担などが主な内容である。今回のアマゾンの勧誘に、出版協会員社のような中小零細出版社で、かつ大手取次店と過酷な条件での取引を強いられている社のなかには、アマゾンとの取引を検討する出版社も出てきている。
しかし、これまでのアマゾンの取引等から推察するとこの条件は恒常的なものとは思えず、アマゾンとの力関係で変更されないとは限らない。また、e託取引ではアマゾンの提示する契約書で直に契約するため、これまでの取次を介した再販契約の効力は及ばない。改めてアマゾンと直接に再販契約を結ばない限り、再販制度から離脱することになりかねない。出版社には慎重な判断が求められる。
近年、大手取次店は新しく出版を始めようとする出版社に対し、さまざまな理由をつけて新規取引口座を開設しなかったり、口座を開設する場合も、出版社に対しおよそ出版事業を継続できないような過酷な条件を押しつけている。その結果、創業出版社数は激減し、今や年間10社未満が続き、一方で倒産廃業が高水準で、出版社は減少するばかりである。加えて既存の出版社に対しても同様の条件を押しつけようとしている。こうした出版社に対する過酷な取引手法は、取次店が優越的地位にあるからこそ可能なのであるが、結局は出版の新しい芽生えを押しつぶし、書店を疲弊させ、結局は自らの取次業そのものを衰退させることになることは、出版協がかねてから指摘してきたところである。このような状況下で先のアマゾンの取引条件が魅力的に見えてしまうのも仕方のないことかもしれない。
だがアマゾンは、10%のポイント付与のスチューデント・プログラムに加え、一般読者を対象にした最大10%のポイントサービスを開始し、学生には併せて最大20%の値引きを実施している。こうした再販契約に違反したポイントサービスは、リアル書店を大量に廃業に追い込み、中小取次の危機を加速している。
アマゾンが出版社との直取引を拡大すれば、定価販売と委託販売とで成り立っている出版社−取次店−書店を軸にした、いわゆる正常ルートは破壊され、書店・取次店の廃業が続き、遂には、出版社もアマゾンの言いなりにならざるを得ない事態に進むであろう。
こうした最悪の事態を避けるためには、大手取次店は出版協がかねてから主張している、再生産可能な最低取引条件で積極的に新興の出版社と新規取引口座を開設し、出版社に対する過酷な取引条件を緩和し、一方で、高正味版元の正味を引き下げて行くべきである。また、出版社は再販契約違反のアマゾンに対しては、出荷停止を含む毅然とした態度で臨み、正常ルートによる取引と再販制を断固として堅持すべきである。公取委の意向を忖度し、恣意的な弾力運用を推進するなどは、自ら墓穴を掘っているとしか言えまい。
出版流通の歴史的危機に際し、出版社は定価販売と正常ルートを守るために、自らその先頭に立つべきである。
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