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2016年1月 5日 (火)

アマゾン「e託取引」と再販制

11月以降、出版協はアマゾンに関連して2つの声明を発表した。ひとつは「アマゾンに対して、高率ポイント付与からの除外要請の受け入れを求める声明」(1119日付)、もうひとつは「アマゾンによる出版社直取引(e託取引)の勧誘に対する声明」(1216日付)だ。

高率のポイント付与(値引き)、出版社直取引(e託取引)と、この2つのアマゾンの動きは一体となって、出版社—取次—書店というこれまでの書籍流通を変え、再販制の溶解を伴いつつ、書籍販売におけるアマゾンの寡占状態へと突き進みかねないと、強く懸念している。

アマゾンは以前から出版社に対し「e託販売サービス」として、60%掛けの直接取引を提案してきた。さらに2015年秋以降、アマゾンはe託取引を勧誘するセミナーをたびたび開催してe託取引社の増加を図っている。セミナー参加出版社には、66掛け、歩戻しなし、支払いサイト60日、納品運賃出版社負担・返品運賃アマゾン負担などを主な内容とした取引条件が提示されたとのことだ。出版協会員社の大手取次店への納入正味は6769%に集中しており、分戻しや支払い保留など過酷な条件での取引を強いられている場合もあり、提示条件であればアマゾンとの直接取引を検討したいとの声も聞こえてきた。 

しかし、出版協では会員には「慎重に!」と呼びかける。

ひとつは、魅力的にみえる「66%」という条件が、いつまで続くものであるかはわからないという点だ。取次への卸し正味は、いったん決まったら基本的に変わらない(良くも悪くも……)。しかし、アマゾンもそう考えているという保証はない。むしろ、アマゾン側がe託取引を増やしたい今回の場合、これまでの60%という条件を一気に66%と引き上げたように、条件は取引状況によって変更されるものと認識していると考えるのが妥当だろう。 

もうひとつが、再販制との関係だ。アマゾンと直接取引した場合、再販契約をアマゾンと直接結ばない限り、その商品は現在の再販制の及ばないものとなり、販売価格の決定権はアマゾン側が持ってしまうことになる。

現在の再販制は、法律で定価販売が義務づけられたものではなく、自由競争が原則の独禁法の例外として、民間同士が再販売価格維持契約を結んで定価販売を義務づけることが許されている。その上で、出版社と取次店間で「再販契約を結んだ書店以外には販売しない」という再販契約を結び、取次店が各書店と定価販売を約した再販契約を結ぶ、という二重の契約で成り立っている。取次とのそれぞれの再販契約によって、出版社と書店は個々に再販契約を結んではいなくても、全体の再販制が成り立ってきた。

この構造はアマゾンの「
Amazon Studentプログラム」への対応の際、くっきりと示された。「Amazon Studentプログラム」を再販契約違反の値引きとして抗議した出版協会員各出版社に対し、アマゾンは「契約当事者でない」ことを理由に、対応を拒否した。出版協は取次店(日販)にアマゾンと取次店間の再販契約の存在の確認を求め、日販からはアマゾン(Amazon.com Int'l Sales,Inc.)と再販契約を結んでいるとの回答を得た(もし結んでいなければ、取次店自身の再販契約違反だ)。この確認によって、出版社側はアマゾンに対し「Amazon Studentプログラム」は再販契約違反の値引きである、あるいは2015年秋以降の任意のポイント付与サービスについて再販契約違反の値引きであるとする根拠を持ってきた。そして、出版社の再販契約当事者である日販を通じて、抗議や自社商品除外要求を行ってきた。その正当な要求さえ、アマゾンは拒否し続けているわけだが……。

そして、e託取引の場合に戻ると、これは各出版社が取次店と結んでいる再販契約とは何ら関わりのない取り引きである。現状として各出版社はアマゾンと直接の再販契約を結んでいない。e託取引の契約自体に再販契約にあたる条項が含み込まれているか、改めて再販契約を結ぶかしない限り、再販契約なしでの取り引きとなる。e託取引によって取次経由より低い掛率で仕入が可能となるアマゾンが、その本にどのようなポイントを付与しようが「再販契約違反」とは言えなくなる、ということだ。しかも同じ本でも、取次経由で書店で販売される際には定価販売が義務づけられた「再販商品」ということになる。再販契約を順守する通常のリアル書店、国内の他のネット書店に、さらに不当なハンデを負わせるような事態を招くことに加担しないよう、出版社には「慎重に!」と強く呼びかける所以である。

1216日付声明にも記したように、アマゾンのこうした動きを招いている根底には、大手取次店の新規出版社や中小出版社に対する過酷な姿勢がある。以下、声明を転記しておこう。

「 近年、大手取次店は新しく出版を始めようとする出版社に対し、さまざまな理由をつけて新規取引口座を開設しなかったり、口座を開設する場合も、出版社に対しおよそ出版事業を継続できないような過酷な条件を押しつけている。その結果、創業出版社数は激減し、今や年間10社未満が続き、一方で倒産廃業が高水準で、出版社は減少するばかりである。加えて既存の出版社に対しても同様の条件を押しつけようとしている。こうした出版社に対する過酷な取引手法は、取次店が優越的地位にあるからこそ可能なのであるが、結局は出版の新しい芽生えを押しつぶし、書店を疲弊させ、結局は自らの取次業そのものを衰退させることになることは、出版協がかねてから指摘してきたところである。」
「 大手取次店は出版協がかねてから主張している、再生産可能な取引条件で積極的に新興の出版社と新規取引口座を開設し、出版社に対する過酷な取引条件を緩和し、一方で、高正味版元の正味を引き下げて行くべきである。」

再販制、出版流通をめぐって課題は2016年に継続される。
厳しい現状のなか、出版文化を守り、自由で多様な出版物を提供することこそ読者にとっての最大の利益との思いで、取り組んでいきたいと思う。


水野久晩成書房●出版協副会長

『新刊選』2016年1月号 第39号(通巻263号)より

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