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2016年1月

2016年1月29日 (金)

出版協「新刊選」2016年2月号第40号(通巻264号)

1P…… “ 老衰”状態からの出口はあるのか?

      竹内淳夫(彩流社)●出版協副会長

2P……出版協BOOKS/2月に出る本

3P……出版協BOOKS/2月に出る本 (2Pの続き)

“老衰”状態からの出口はあるのか?

先日発表された出版科学研究所によると、2015年の書籍・雑誌販売額は1兆5220億円、前年比5.3%減、減少幅は過去最大。書籍の販売額は7419億円、同1.7%減、販売部数は6億2633万冊、同2.8%減、返品率は37.2%、同0.4ポイント減。雑誌の販売額は7801億円、同8.4%減、販売部数は14億7812万冊、同10.5%減、返品率は41.8%、同1.8ポイント増。雑誌のうち月刊誌は販売額が6346億円、同7.2%減、販売部数が10億5048万冊、同8.7%減、返品率が42.6%、同11.8ポイント増。週刊誌の販売額は1454億円、同13.6%減、販売部数は4億2764万冊、同14.6%減、返品率は38.1%、同1.6ポイント増だという(文化通信速報)。

この数字を見る限り、わが業界は"瀕死の重傷"というより"老衰"状態と表現すべき状況にある。1996年をピークに右肩下がりの傾向が加速度的に深化しているのである。特に雑誌と書籍の売上げがほぼ半々ということは、雑誌を基幹として形成されてきた戦後の出版流通システムの崩壊の可能性を示唆するものである。それは、毎日のように定期的に刊行される雑誌の全国配送システムが地方の小さな書店を支えたのであり、注文による書籍を届ける役割を担ってきたからである。

一方、言われて久しい地方の過疎化や高齢化という人口動態と電子化による配信というシステムが市場の変化をもたらしたのは確かであり、その傾向市場の自然縮小はある意味で想定内のことである。
問題は、雑誌の落ち込みが止まらないとすると、いまのままでは流通システムやコストの負荷が増すことは必然であって、小規模な末端書店への商品供給が困難、あるいは遅滞状態が加速する。そして、いまでも一日一店で減り続けると言われる書店の数が一挙に激減することだろう。かつて"無医村"という言葉があったが、"無書店"村や町、市が全国に出現するだろう。

リアル書店の利点は言うまでもなく、現物を手にとって見せることである。そして本に接する機会を与え、選ばせることによって、子どもを含めた未知の読者を知らないうちに創ることである。そのリアル書店の存続の危機が目の前にある。
雑誌の危機は、販売部数の減少だけでなく広告収入の減少を伴うもので、版元を直撃し、合わせて返品率の上昇は流通コストを押し上げている。雑誌に関わったことのない筆者にはその処方箋は分からない。ただ言えることは、価値観と情報の多様化が更に進む現状を考えれば、数十万部という部数を誇るものはほんの一握りになるのではないだろうか。部数でいえば、"雑誌の単行本化"である。それで版元が成り立つかどうかは別として。

であるならば、流通(取次)はいかにあるべきか。問われて久しい問題が喫緊の課題になったというべきであろう。大阪屋、太洋社の物流の一部が統合される。これに異議を述べる立場にはないが、これも明確な展望の上で統合するのか、現状の単なる経費節減の方法としてのものなのかで、その意味合いは異なってくるだろう。長期的にはさらに他品種、少部数に対応する物流システムの構築が求められる。

さて、版元であるが、これだけの売上げ減にもかかわらず、小零細版元がどうにか延命しているのは、高齢化したとはいえ創業者世代の意地と自社におけるDTPの導入などによる組版コストの削減(編集者の二役)によって、採算ラインを下げて再生産構造を維持しているのが現状である。また多くのデッドストックを抱える版元は、その処理に頭を悩ましている。読者サービスという名目の"安売り"も業界全体ではカンフル剤にもならず、むしろ再販制度の堤防を崩す蟻の一穴になろうとしている。

前にも書いたが、書店の粗利が少なすぎて経営が出来ないのであれば、公取が何を言おうが、書店・取次・版元が大ぴらに談合して、正味の値下げ、適正マージンを確定して、業界全体の再生産構造の維持が必要な事態に直面しているのではないか。
新しい版元の参入が可能な条件の整備に合わせて、若い書き手や作り手を積極的に受け入れる体制を如何に創れるかが、業界の活性化と発展の鍵になるだろう。

読者の味方という錦の御旗で、書店や取次を追い込み、出版文化の果実を食い尽くして再生産構造には配慮しないアマゾンの一人勝ちを許してはならない。

竹内淳夫彩流社 )●出版協副会長

2016年1月 5日 (火)

アマゾン「e託取引」と再販制

11月以降、出版協はアマゾンに関連して2つの声明を発表した。ひとつは「アマゾンに対して、高率ポイント付与からの除外要請の受け入れを求める声明」(1119日付)、もうひとつは「アマゾンによる出版社直取引(e託取引)の勧誘に対する声明」(1216日付)だ。

高率のポイント付与(値引き)、出版社直取引(e託取引)と、この2つのアマゾンの動きは一体となって、出版社—取次—書店というこれまでの書籍流通を変え、再販制の溶解を伴いつつ、書籍販売におけるアマゾンの寡占状態へと突き進みかねないと、強く懸念している。

アマゾンは以前から出版社に対し「e託販売サービス」として、60%掛けの直接取引を提案してきた。さらに2015年秋以降、アマゾンはe託取引を勧誘するセミナーをたびたび開催してe託取引社の増加を図っている。セミナー参加出版社には、66掛け、歩戻しなし、支払いサイト60日、納品運賃出版社負担・返品運賃アマゾン負担などを主な内容とした取引条件が提示されたとのことだ。出版協会員社の大手取次店への納入正味は6769%に集中しており、分戻しや支払い保留など過酷な条件での取引を強いられている場合もあり、提示条件であればアマゾンとの直接取引を検討したいとの声も聞こえてきた。 

しかし、出版協では会員には「慎重に!」と呼びかける。

ひとつは、魅力的にみえる「66%」という条件が、いつまで続くものであるかはわからないという点だ。取次への卸し正味は、いったん決まったら基本的に変わらない(良くも悪くも……)。しかし、アマゾンもそう考えているという保証はない。むしろ、アマゾン側がe託取引を増やしたい今回の場合、これまでの60%という条件を一気に66%と引き上げたように、条件は取引状況によって変更されるものと認識していると考えるのが妥当だろう。 

もうひとつが、再販制との関係だ。アマゾンと直接取引した場合、再販契約をアマゾンと直接結ばない限り、その商品は現在の再販制の及ばないものとなり、販売価格の決定権はアマゾン側が持ってしまうことになる。

現在の再販制は、法律で定価販売が義務づけられたものではなく、自由競争が原則の独禁法の例外として、民間同士が再販売価格維持契約を結んで定価販売を義務づけることが許されている。その上で、出版社と取次店間で「再販契約を結んだ書店以外には販売しない」という再販契約を結び、取次店が各書店と定価販売を約した再販契約を結ぶ、という二重の契約で成り立っている。取次とのそれぞれの再販契約によって、出版社と書店は個々に再販契約を結んではいなくても、全体の再販制が成り立ってきた。

この構造はアマゾンの「
Amazon Studentプログラム」への対応の際、くっきりと示された。「Amazon Studentプログラム」を再販契約違反の値引きとして抗議した出版協会員各出版社に対し、アマゾンは「契約当事者でない」ことを理由に、対応を拒否した。出版協は取次店(日販)にアマゾンと取次店間の再販契約の存在の確認を求め、日販からはアマゾン(Amazon.com Int'l Sales,Inc.)と再販契約を結んでいるとの回答を得た(もし結んでいなければ、取次店自身の再販契約違反だ)。この確認によって、出版社側はアマゾンに対し「Amazon Studentプログラム」は再販契約違反の値引きである、あるいは2015年秋以降の任意のポイント付与サービスについて再販契約違反の値引きであるとする根拠を持ってきた。そして、出版社の再販契約当事者である日販を通じて、抗議や自社商品除外要求を行ってきた。その正当な要求さえ、アマゾンは拒否し続けているわけだが……。

そして、e託取引の場合に戻ると、これは各出版社が取次店と結んでいる再販契約とは何ら関わりのない取り引きである。現状として各出版社はアマゾンと直接の再販契約を結んでいない。e託取引の契約自体に再販契約にあたる条項が含み込まれているか、改めて再販契約を結ぶかしない限り、再販契約なしでの取り引きとなる。e託取引によって取次経由より低い掛率で仕入が可能となるアマゾンが、その本にどのようなポイントを付与しようが「再販契約違反」とは言えなくなる、ということだ。しかも同じ本でも、取次経由で書店で販売される際には定価販売が義務づけられた「再販商品」ということになる。再販契約を順守する通常のリアル書店、国内の他のネット書店に、さらに不当なハンデを負わせるような事態を招くことに加担しないよう、出版社には「慎重に!」と強く呼びかける所以である。

1216日付声明にも記したように、アマゾンのこうした動きを招いている根底には、大手取次店の新規出版社や中小出版社に対する過酷な姿勢がある。以下、声明を転記しておこう。

「 近年、大手取次店は新しく出版を始めようとする出版社に対し、さまざまな理由をつけて新規取引口座を開設しなかったり、口座を開設する場合も、出版社に対しおよそ出版事業を継続できないような過酷な条件を押しつけている。その結果、創業出版社数は激減し、今や年間10社未満が続き、一方で倒産廃業が高水準で、出版社は減少するばかりである。加えて既存の出版社に対しても同様の条件を押しつけようとしている。こうした出版社に対する過酷な取引手法は、取次店が優越的地位にあるからこそ可能なのであるが、結局は出版の新しい芽生えを押しつぶし、書店を疲弊させ、結局は自らの取次業そのものを衰退させることになることは、出版協がかねてから指摘してきたところである。」
「 大手取次店は出版協がかねてから主張している、再生産可能な取引条件で積極的に新興の出版社と新規取引口座を開設し、出版社に対する過酷な取引条件を緩和し、一方で、高正味版元の正味を引き下げて行くべきである。」

再販制、出版流通をめぐって課題は2016年に継続される。
厳しい現状のなか、出版文化を守り、自由で多様な出版物を提供することこそ読者にとっての最大の利益との思いで、取り組んでいきたいと思う。


水野久晩成書房●出版協副会長

『新刊選』2016年1月号 第39号(通巻263号)より

出版協『新刊選』2016年1月号 第39号(通巻263号)

1P…アマゾン「e託取引」と再販制

 
水野久
晩成書房 )●出版協副会長
2P……1P続き
.3P ……出版協BOOKS/1月に出る本 
4P……出版協BOOKS/1月に出る本

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