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3月9日の出版協第4回定時総会から一週間もたたない3月15日、自主廃業を目指していた太洋社が、東京地裁に破産申請し、同日、破産開始決定を受けたことが報じられた。昨年来の、栗田出版販売の民事再生に続いての、中堅取次の破綻だ。太洋社は300法人・800店舗の書店と取引していたとされる。2月5日に太洋社が自主廃業の方針を発表して以来、多くの書店が帳合変更したとされるが、関連した書店の休廃業が目立っている。太洋社が大きな売掛債権をもつ芳林堂書店が2月26日に倒産(店舗は書泉が継承)した他、3月中旬までに全国で16店舗の書店が休廃業したという(東京商工リサーチ)。
リアル書店の苦境をよそに、元気というか、活発な動きが目立っているのがアマゾンだ。小社を含む多くの出版社が再販契約違反としている学生対象10%ポイントサービスAmazon Studentプログラムに加えて、昨秋からは、対象を学生に限らず、1〜10%のポイントを任意の書籍に付与するサービスを続けている。少なくとも出版協会員社の場合はなんの連絡もなく対象にされており、恐らく他も同様だろう。Amazon Studentプログラムと加算すると最大20%という高率のポイント付与となる。アマゾンは「再販制度の中で、時限再販、非再販の値引きキャンペーンを常に行えるようルール、仕組みを作る必要がある」(種茂正彦書籍事業本部長、1月28日の事業説明会)としており(文化通信、3月4日)、今後もさまざまな値引きキャンペーンが行われるのは間違いないだろう。
同時にアマゾンジャパンは、昨年来、直取引への勧誘を強めている。昨年秋「和書ストア販売促進セミナー」を開催し、中心は高い卸し率(66%)を提示した直取引の勧誘だったという。1月28日の事業説明会では、出荷金額に対する直接取引の割合は年末年始平均で25%超(最大31.2%)という。年末年始の欠品対策として呼びかけたスポット的な直取引を含めているとはいえ、かなりの数字だ。アマゾンはさらに直取引を拡大させる意向を表明しており、3月にも「和書ストア販売促進セミナー」を開催している。
もちろん取引は各社の判断の問題だが、勧誘の際の高い卸し率がいつまで続くかは定かでなく、また、取次をはさんだ再販契約で成り立っている再販制度の枠外になってしまう直取引では、自社商品がアマゾンの今後の「さまざまな値引きキャンペーン」の対象になった場合に、再販契約違反ということさえできなくなる。
一連のアマゾンの動きは、これまでの出版界を支えてきた再販制、出版社—取次—書店というルートでの委託販売制を大きく揺るがすものだ。アマゾンは「消費者利益」というひとことでこの方向を進めてくる。私たちはこれに対し、多様な出版物が生まれ、公平に享受できる環境を支えることこそ読者の利益と考え、それを支えてきた両制度を守り続けていこうとしている。
だが、12月16日付声明にも記したように、アマゾンのこうした動きを招いている根底には、大手取次店の新規出版社や中小出版社に対する過酷な姿勢がある。さまざまな理由をつけて新規取引口座を開設しなかったり、出版社に対しおよそ出版事業を継続できないような過酷な条件を押しつけたりしている。その結果、創業出版社数は今や年間10社未満が続き、一方で倒産廃業が増え、出版社は減少するばかりである。加えて既存の出版社に対しても同様の条件を押しつけようとしている。これでは、再販制、出版社—取次—書店ルートでの委託販売制が出版文化を支えると言えなくなってしまう。新規・中小出版社にとってアマゾンの示す条件が魅力的に見えてしまう所以だ。中堅取次の破綻によって寡占化が進んだ大手取次店には、優越的地位を濫用することなく、再生産可能な取引条件で積極的に新興の出版社と新規取引口座を開設し、新規・中小出版社に対する過酷な取引条件を緩和し公正性を高めることを望むものである。
アマゾンの一人勝ちの状態とは言っても、2015年の出版物販売額は1兆5,220億円で、11年連続で前年を割り込んでいる(出版科学研究所)。地域の読者にとって、ネット書店は間違いなく便利な存在だろう。しかし、町から身近な書店が消え、ネット書店が活用される中で、全体の売上は減少し続けている。新たな、本好きの読者が生まれてくることに、町の本屋さんが果たしてきた役割は大きかった、と思う。
本好きの新たな読者が生まれてくるために、私たち出版社が元気に、魅力的な出版物を創りだしていくことが第一義なのは言うまでもないが、書店さんとの、共に元気が出るような新たな協力のあり方も模索していきたいと思う。
3月9日の総会で、出版協は新たな役員体制になった。長年、的確なリーダーシップを発揮してきた高須会長からバトンを受けて、やや平均年齢を下げた理事全員で、少しでも状況を切り開いていこうとしています。どうぞよろしくお願いいたします。
水野久(晩成書房)●出版協会長
『新刊選』2016年4月号 第42号(通巻266号)より