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2016年5月

2016年5月31日 (火)

出版協『新刊選』2016年6月号 第44号(通巻268号)

1P…出版不況と言うけれど……

 
上野良治合同出版 出版協副会長
2P……出版協BOOKS/6月に出る本 
3P……出版協BOOKS/6月に出る本(2Pの続き)

出版不況と言うけれど……

●神保町のラーメン屋さん
出版不況という。今月出した○○××という本が思い通り売れないという。「そんなに売れるとは思っていなかったがね……」という言い訳付きだ。
もう、30年も付き合っているが、始終こんな嘆きを聞かされている。
思い通りに商品が売れないという自覚症状がありながら、この友人は四半世紀も○○△△出版の店を張っているのだ。
このことだけでも大したものだ。神保町の交差点からJR水道橋駅まで白山通りに並ぶラーメン屋で、1年を跨いで営業を継続しているとよくやっていると感心するほどで、誠に「昔ありし家は稀なり」である。
この点から見ると出版業の地力恐るべしと評価しなければならない。

●トラック一杯分の不振の理由
たしかに書籍と雑誌、新聞、総じて紙に印刷された商品の販売金額は毎年落ち続けている。原因はいくらも挙げられている。曰く、大学生の質が落ちた。興味・関心が細分化した。人口減少とキノコ型人口構成が効き始めている。ネット情報が氾濫している。最近では電子書籍の登場が取り沙汰される。
確かに、人口が1億2700万人から1億人に減少すると全産業が20%近く規模縮小を余儀なくされるに違いない。お米も本も、床屋も貸し間の必要戸数も原理的には人口によって決まってくる。

●消えモノ・失せモノと本
本がお米やトイレットペーパーのように、「消えモノ・失せモノ」の消費財の性格を持っていたらどんなにいいかと、夢想したことがあった。読むごとに内容が減っていくので、買い足していく必要がある。残念ながら、余程特殊な好事家以外、同じ本を複数買うことはない。
本の使用の頻度を我が身で反省しても、読む回数は0回(積ん読/買い置き)か、基本1回限り。同じ本を年に5回は読み返すという人は稀である。
 
●洗濯機と本のビジネスモデル
洗濯機は1回買うと15年は買い換えられることはなく、ほぼ毎日、繰り返し繰り返し使われる。過大な宣伝のせいで無用な機能に消費者が浮気心を掻き立てられない限り、既存のメーカーの洗濯機に本質的性能の差異はない。 
ナショナルブランドもせいぜい片手ほど、製造ラインも大きい。原価回収台数も本のように初版2000部、3000部というわけではないだろう。
実は、売れないと自覚症状を持ちながら四半世紀も出版社が継続している秘密がここにあると推測している。 
1回買われると、1回しか使われない。他に代替する商品がない。個人と社会の心と頭脳の活動は人類が存続する限り止むことなく、たえまなく本というメディアに新規のテーマが提供される。
 
●有能なプロデューサーの有無
友人は、特殊な関心を持つ層に、その層にあった本づくりで、1冊だけを買って戴くことをビジネスモデルにしているのだろう。その顧客を10万人と想定しようが1000人と限定しようが本質的にかわらない。
いまこのビジネスモデル(の強み)、本の商品特性を踏まえて、社の経営、本の作り方、売り方、働き方を考え直すことで、小社も生き残れるだろうと将来を展望している。
売れている社と売れない社がある、売れる本と売れない本がある、(同じテーマでも)売れる本を作れる編集者と売れない本を作ってしまう編集者がある。同じ陶土を使っても名器と駄器に別れるのは技術の差、技術は個人の肉体にしか宿らない。
能狂言は威勢を失って歌舞伎は威勢がよく、浪曲はまったく低迷して落語は持ちこたえている。柔道、キックボクシングは見る影もない。有能なプロデューサーの有無なのだろうか?
 
●最後に我田引水
そんな訳で、編集技能の実践的・体験的な諸側面を考える研修を、我が為にもやってみたいと思っていた。40年の本づくりの体験から3つや4つの有益な編集作法が見つけ出せるかもしれない。同業の参考になるかもしれない。
出版協は、各種の研修活動に力を入れ、会員相互の交流を図ると言う。この機会を借りたい。名付けて「小社が企画の採否を決定する際の2、3の基準あるいは、小社の成功事例・失敗事例」である。
6回の限定で、小社の編集実態、編集会議のワークショップのようなものである。来月には、出版協事務局からご案内があると思う。ただ、少数のブレスト研修。奮ってご参加を。
読者の性向、テーマをピッタリ読み切り、正確な原価計算、根拠ある初版部数の設定、エッジの立ったタイトル付けの編集能力を身につけ、出す本、出す本「重版出来!」といきたいものである。

上野良治(合同出版 ●出版協副会長

『新刊選』2016年6月号 第44号(通巻268号)より

2016年5月 2日 (月)

出版協『新刊選』2016年5月号 第43号(通巻267号)

1P…会員社獲得のための第1歩

 
成澤壽信現代人文社)●出版協副会長
.2P……出版協BOOKS/5月に出る本 
3P……出版協BOOKS/5月に出る本(2Pの続き)

会員社獲得のための第1歩

小社が出版の業界団体の一つである出版流通問題対策協議会(流対協)に入ったのは、創業(1994年)して数年経ったころである。当時流対協の会長(現相談役)だった菊池泰博・現代書館社長から誘われてのことである。そのころ、流対協は会員社を100社以上にするという大きな目標を掲げていた。またたく間にその目標を達成したという記憶がある。
流対協の核となる中心的な会員社は70年代に創業した強者ぞろいの出版社である。小社は、その中で末席を汚す、いや枯れ木の賑わい程度の存在でしかなかった。
 

その後、流対協は、会長が高須次郎・緑風出版社長に交替し、2012年に一般社団法人日本出版者協議会(出版協)に発展的解消をした。今では出版業界の一角に「ものいう」存在として確固たる位置を占めている。
その理事になってもう3年が経過する。理事会の世代交替をはかるために、前号で紹介したとおり本年3月の総会で水野久・晩成書房社長が会長になった。理事もその若返りのために一挙に5人が交替した。その折り、私は、出版協では社歴が比較的若い方に属していたためか、7月で67歳になるのでそう若くはなかったが、副会長を仰せつかった。
理事としても末席を汚す程度の仕事しかしてこなかったので、出版協の3役に突然なってしまったので、ちょっと面くらっている。
最初の3役会のテーマの一つは会の財政問題であった。ご存知のとおり、出版協の財源は加盟社の会費である。この会費で事務所経費と一人の事務局員の人件費などを賄っているのである。長く続く出版不況のため、会員社がだんだん減ってきている。最盛期は100社を優に超えていたが、現在は83社である。果たして団体としての機能をこの数で長期的に維持できるのか、というのが大きな課題である。

さて、以上の課題に今後じっくり取り組む第1歩として、長く出版界にいる方は知っていることばかりで申し訳ないが、出版の業界団体を調べることにした(但し、活字の書籍関連に限定する)。
はじめに、言わずと知れた一般社団法人日本書籍出版協会(略称「書協」)。1957年に創立され、2015年10月現在、大手出版社を含む423 社の会員を擁する、業界団体の横綱である。出版事業の健全な発達、文化の向上と社会の進展に寄与することを目的とし、その目的を達成するために事業を行っている。最近では出版物への軽減税率適用の実現を目指して政府や国会に働きかけているのが注目される。 
 

つぎに紹介するのが、一般社団法人出版梓会である。人文系の専門書出版を中心とする出版社112社(2015年11月現在)で構成。1948年、出版界と読書文化の復興を目標に、有志出版社42社により「出版団体・梓会」として設立されたもので、「学術・専門書籍および雑誌の出版事業に関する調査研究を推進し、その文化的使命の達成を図り、国民文化の向上と社会の進展に寄与すること」を目的としている。多くの出版社にとって、同会が主催する梓会出版文化賞の受賞はあこがれの的である。
 

上記の業界団体とは趣を異にするのが版元ドットコムである。2000年設立、現在212社で、中小出版社が比較的多く参加している。その目的は、会員社の書籍の情報をインターネット上で公開・提供し、その書誌情報を書店・取次など出版関連業界に配信している。さらに、購入希望の読者に、直接版元から送料無料で販売する受注システムをもっているので、専属の営業部員を持たない少人数の出版社にとって強い味方といえる。


忘れてはいけないのが「NRの会」である。1969年、当時、社歴5年以下、社員10名以下の小出版社が集まって誕生したもの。その小出版社は「反骨・反体制・反権力の色彩が強い出版団体」であったため、会名のNRとは、「ノンセクト・ラディカル」の頭文字をとったものと伝えられている。現在は、亜紀書房、インパクト出版会、現代人文社、新泉社、柘植書房新社、七つ森書館、風媒社の7社で構成され、販促活動を主軸として活動している。地方の書店に熱烈なNRファンをもっている。


最後に紹介するのが、ユニークな活動をしている「平和の棚の会」である。2008年12月に20社が集まって設立された(現在は、あけび書房、大月書店、凱風社、学習の友社、花伝社、かもがわ出版、金曜日、現代書館、現代人文社、合同出版、高文研、コモンズ、彩流社、新泉社、新日本出版社、新評論、同時代社、七つ森書館の18社)。
設立のきっかけは、その前年に東京・新宿のジュンク堂書店(2012年に閉店)にあった画期的な書棚「反戦平和棚」であったといわれる。それにヒントを得て生れたもので、同会は、全国の書店と協力して「平和の棚」をつくる活動、ブックフェアなどの活動を通して着実に実績を作っている。昨年は、「安全保障関連法案の強行採決に強く抗議する声明」を出すなど同会のテーマである積極的平和(「命が脅かされず、人種や性別で差別されず、持続可能な環境と暮らしが保障されること」)を積極的に内外に発信している。

長い出版不況のため新しく出版社を起すことはますます困難になってきている。そうした中で、新たな会員社を増やすために、出版協として何をどうしたらよいか本格的に検討しなければならない時期となっている。
そのために上記の業界団体の活動を大いに参考にしようと思う。

成澤壽信(現代人文社●出版協副会長

『新刊選』2016年5月号 第43号(通巻267号)より

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