会員社獲得のための第1歩
小社が出版の業界団体の一つである出版流通問題対策協議会(流対協)に入ったのは、創業(1994年)して数年経ったころである。当時流対協の会長(現相談役)だった菊池泰博・現代書館社長から誘われてのことである。そのころ、流対協は会員社を100社以上にするという大きな目標を掲げていた。またたく間にその目標を達成したという記憶がある。
流対協の核となる中心的な会員社は70年代に創業した強者ぞろいの出版社である。小社は、その中で末席を汚す、いや枯れ木の賑わい程度の存在でしかなかった。
その後、流対協は、会長が高須次郎・緑風出版社長に交替し、2012年に一般社団法人日本出版者協議会(出版協)に発展的解消をした。今では出版業界の一角に「ものいう」存在として確固たる位置を占めている。
その理事になってもう3年が経過する。理事会の世代交替をはかるために、前号で紹介したとおり本年3月の総会で水野久・晩成書房社長が会長になった。理事もその若返りのために一挙に5人が交替した。その折り、私は、出版協では社歴が比較的若い方に属していたためか、7月で67歳になるのでそう若くはなかったが、副会長を仰せつかった。
理事としても末席を汚す程度の仕事しかしてこなかったので、出版協の3役に突然なってしまったので、ちょっと面くらっている。
最初の3役会のテーマの一つは会の財政問題であった。ご存知のとおり、出版協の財源は加盟社の会費である。この会費で事務所経費と一人の事務局員の人件費などを賄っているのである。長く続く出版不況のため、会員社がだんだん減ってきている。最盛期は100社を優に超えていたが、現在は83社である。果たして団体としての機能をこの数で長期的に維持できるのか、というのが大きな課題である。
さて、以上の課題に今後じっくり取り組む第1歩として、長く出版界にいる方は知っていることばかりで申し訳ないが、出版の業界団体を調べることにした(但し、活字の書籍関連に限定する)。
はじめに、言わずと知れた一般社団法人日本書籍出版協会(略称「書協」)。1957年に創立され、2015年10月現在、大手出版社を含む423 社の会員を擁する、業界団体の横綱である。出版事業の健全な発達、文化の向上と社会の進展に寄与することを目的とし、その目的を達成するために事業を行っている。最近では出版物への軽減税率適用の実現を目指して政府や国会に働きかけているのが注目される。
つぎに紹介するのが、一般社団法人出版梓会である。人文系の専門書出版を中心とする出版社112社(2015年11月現在)で構成。1948年、出版界と読書文化の復興を目標に、有志出版社42社により「出版団体・梓会」として設立されたもので、「学術・専門書籍および雑誌の出版事業に関する調査研究を推進し、その文化的使命の達成を図り、国民文化の向上と社会の進展に寄与すること」を目的としている。多くの出版社にとって、同会が主催する梓会出版文化賞の受賞はあこがれの的である。
上記の業界団体とは趣を異にするのが版元ドットコムである。2000年設立、現在212社で、中小出版社が比較的多く参加している。その目的は、会員社の書籍の情報をインターネット上で公開・提供し、その書誌情報を書店・取次など出版関連業界に配信している。さらに、購入希望の読者に、直接版元から送料無料で販売する受注システムをもっているので、専属の営業部員を持たない少人数の出版社にとって強い味方といえる。
忘れてはいけないのが「NRの会」である。1969年、当時、社歴5年以下、社員10名以下の小出版社が集まって誕生したもの。その小出版社は「反骨・反体制・反権力の色彩が強い出版団体」であったため、会名のNRとは、「ノンセクト・ラディカル」の頭文字をとったものと伝えられている。現在は、亜紀書房、インパクト出版会、現代人文社、新泉社、柘植書房新社、七つ森書館、風媒社の7社で構成され、販促活動を主軸として活動している。地方の書店に熱烈なNRファンをもっている。
最後に紹介するのが、ユニークな活動をしている「平和の棚の会」である。2008年12月に20社が集まって設立された(現在は、あけび書房、大月書店、凱風社、学習の友社、花伝社、かもがわ出版、金曜日、現代書館、現代人文社、合同出版、高文研、コモンズ、彩流社、新泉社、新日本出版社、新評論、同時代社、七つ森書館の18社)。
設立のきっかけは、その前年に東京・新宿のジュンク堂書店(2012年に閉店)にあった画期的な書棚「反戦平和棚」であったといわれる。それにヒントを得て生れたもので、同会は、全国の書店と協力して「平和の棚」をつくる活動、ブックフェアなどの活動を通して着実に実績を作っている。昨年は、「安全保障関連法案の強行採決に強く抗議する声明」を出すなど同会のテーマである積極的平和(「命が脅かされず、人種や性別で差別されず、持続可能な環境と暮らしが保障されること」)を積極的に内外に発信している。
長い出版不況のため新しく出版社を起すことはますます困難になってきている。そうした中で、新たな会員社を増やすために、出版協として何をどうしたらよいか本格的に検討しなければならない時期となっている。
そのために上記の業界団体の活動を大いに参考にしようと思う。
成澤壽信(現代人文社)●出版協副会長
『新刊選』2016年5月号 第43号(通巻267号)より
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