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2016年7月27日 (水)

悩ましい共通番号(マイナンバー)への対処

共通番号(マイナンバー)制度に関して、それが施行された昨年10月から今年はじめにかけては、マスメディアも大々的に報道していたが、最近ではほとんど関心をしめさなくなったようだ。

現在、各市区町村では、個人番号カードの交付手続を行っている。しかし、個人番号カード交付の際に市区町村の処理画面が固まる、カード使用が不能になるなど、制度運営の要になっているJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)のシステムのトラブルが相次いで発生し、全国集計で個人番号カード約1003万枚の申請に対して、自治体に送付済み977万枚、交付済約337万枚、約640万枚滞留していた(4月26日)。東京・世田谷区では、昨年12月上旬受付分の交付を現在行っているところで、申請の半分程度しか交付事務が完了していない。今年5月申請分の完了が9月にずれ込むと区議会で説明されている。J-LISの発表では、改善されたとされているが、市区町村の処理画面が固まることや、処理速度が遅くなるなどの症状は現在も出ており、こうした実情はその他の自治体でも似たり寄ったりであるという。

共通番号制度に対しては、国による管理・監視(国民総背番号制)になる、個人情報の自己コントロール権の侵害になる、漏えいした場合成りすまし犯罪の温床になる、などさまざまな問題点が指摘されているが、ここでは、私たち中小零細出版社(事業者)に共通した問題として、個人番号の「収集」問題を扱いたい。
 
個人番号(マイナンバー)の提供は、税で2016年1月から、年金や社会保険関連では2017年1月から求められる。所得税については2016年からの所得が対象になるため、年末調整では今年12月、確定申告では来年2月に本格的に個人番号の記入が求められる。
番号法では、個人番号の提供については住民に対して義務化していない。それは、政府が住民に強制して反発され、個人番号の普及が遅れることを恐れているからだろう。
住民に対して義務化していないが、事業者には従業員の税・社会保険等の申請や年末調整事務ために個人番号の収集が求められている。また、事業者には、著者に印税や原稿料を支払った場合、税務署に提出する書類(「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」)に著者の個人番号を記載することが義務づけられている。

このため、事業者には従業員や著者に個人番号の提出を求める事務が発生している。
事業者は、従業員や著者から個人番号の提示を受ける際、本人確認に必要な通知カード(+健康保険証、あるいは運転免許証)か個人番号カードのコピーも一緒にいただくことになる。
事業者には、こうして提出された個人番号やその関連書類に関して、厳重な管理(「安全管理措置」)が義務付けられている。「安全管理措置」の内容は、管理責任者の選任、管理区域の設定など多岐にわたり、手間とコストがかかり、中小零細事業者にとっては、とても対応できるものではない。万が一漏えいした場合は、4年以下の懲役または200万以下の罰金が科せられこともある。
昨年の日本年金機構からの情報漏えい(100万件以上)にも見られるように、高度な安全対策をしていたにもかかわらず個人情報が漏れてしまうことがある。 このような不正アクセスによる情報漏えい事件は、2011年9月の三菱重工業(80台以上感染)、2013年10月のセブン通販サイト(15万件以上)、2014年7月のベネッセ(2000万件以上)、2014年9月のJAL(4千件以上)、2015年6月の東京商工会議所(1万件以上)など多数ある。
 
そこで、中小零細事業者のある団体では、つぎのような理由から、個人番号を当面集めない旨を従業員に伝え理解を求めたところがある(「共通番号いらないネット」など主催の5月29日の集会発言)。
「今回、小社としては、検討・熟考した結果、万全の『安全管理措置』がとれませんので、当面番号をお預かりしないで、関係役所に提出が義務ずけられている書類は番号なしで提出する扱いにすることとしました」。
冒頭に書いた個人番号カードの交付事務が遅れていることとも関係するのか、現在のところ、各関係機関では、個人番号の記載がなくても書類が受理されないということはない(平成 28 年4月 12 日/個人情報保護委員会「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」及び 「(別冊)金融業務における特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン」に関するQ&Aの更新http://www.ppc.go.jp/files/pdf/280412_guideline_tuikakoushin.pdf)。

以上の「当面番号をお預かりしない」という方策は、従業員ばかりでなく、著者にも当てはまることではないだろうか。
一方で、「集めない」という選択をすると、関係機関から睨まれ何らかの不利益を被るのではないかという不安も残る。
しかし、集めたが最後、事業者は相当な負担とリスクを負うことになることを肝に銘ずるべきである。万一漏えいした場合のことを考えれば、「集めない」ことは従業員や著者の利益にもかなうことになる。「集めない」という選択を検討する時期にきているのではないか。

成澤壽信(現代人文社●出版協副会長

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