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2017年1月30日 (月)

年度末雑感


2月、3月の年度末に向けて、綱渡り的な毎日が続いている。毎年繰り返されることであるにして、今年は例年に比して、さらに危うい日程調整が続いている。小社など専門書が主力となっている版元さんは、同じような状況であろうと思われる。学術振興会の科研費また各大学の出版助成などなど、2月中あるいは3月中での刊行が義務付けられているからである。もちろん、それぞれ採択から、しかも多くの場合、完全原稿があって、それを審査した上で採択されたものであるはずなので、少なくとも、紙の上では半年以上の制作期間があることになっている。したがって、よほどのものでないかぎり、日程的に無理があるわけではない。順調にいっていれば、大方、年内12月には刊行できているはずである。

しかし、そういったことは、小社の場合でも極めてまれな例である。
採択されてから、原稿に手直しが入り、さらに推敲しなどなどで、版元に届くのが遅れる。しかも、近年は、大学では学期内は関係者の忙しさが飛躍的となっているので、その期間落ち着いて原稿に取り組む余裕はないようである。したがって、夏休みの間にそれを行うというのが、現実的であろうと思われる。そうすると、いきおい、脱稿はさらに遅れることになり、早くて9月あるいは10月くらいにようやく、脱稿となる。

さてようやく制作に入ると(といっても、版元もその頃、そういった原稿がまとめて入ってくることになる)、大学がはじまり、なかなか予定通りには、校正が進まない。こちらも、複数本を一気に抱えることとなり、思い通りには進行できない。加えて、図表、図版が多いものは、それがあとから揃うなどもあり、より混乱の度がましてくる。

なんだかんだで、再校が出てくるのが、結局、正月明けになってくる。それから念校になるのだが、センター入試、私大では入試が始まり、著者、版元ともにバタバタしながら、ようやく念校にたどりつき、頁が確定してから、索引をとるというこれまた、難儀な作業が最後に残り、これが、時間がかかる。

 


科研の刊行助成は2月中が締め切りであるが、この時期の印刷、とくに近年では製本が非常に混み合ってくる。通常であれば、印刷所にデータを渡してから、2週間みておけば見本となるのだが、そう順調にはいってくれない。2月10日までには、入れないと間に合わないこともあり得る。
ようやく見本を納めると、最近では、やたらと提出書類が多い。どの取次に何冊出荷したのか、伝票を示せ、著者に何冊送ってなどなど、また、請求書をもう一度提出せよ(しかし助成金額が決まっているのに、なぜもう一度、請求書が必要なのか分からないが)など、これにも手間がかかる。
以前は、科研の刊行助成は、筆者と版元の間だけで処理されていたものが、大学がすべて処理するようになった。このため、大学が請求書を提出せよと言ってくるようになったわけである。そもそも国の助成金になぜ、消費税があるのか、分からないのだが、こちらで請求書を出せば、何もしなくとも、内税ということになってしまう。ということは、消費税分が助成金から目減りするということである。これは、小出版社にとっては、かなり大きい。

などなどしている間に、今度は、3月の締め切りとなる。こちらは、2月にまして、各版元の決算期にあたるのか、毎年刊行点数が非常に多い。それと、年度末の締め切りの出版物がかさなるので、大混雑となる。印刷所との打ち合わせた日程で進行しないと、まず年度末には間に合わないことになってしまう。このため連日の綱渡りとなる。
しかし、なんとか締め切りに間に合っても、なぜか助成金の支払いは、3月末ではなく、4月末になっている。年度末までの支払ではなくていいようである。であれば、金額は決まっているのだから、締め切りをそれほど、厳格にする必要などないのではないだろうか。よく分からない。

ということで、以上のような状況が現在進行形のなか、この原稿を書くことになり、愚痴っているとしかいいようがないのであるが、なんとか手立てはないものだろうかと思う。
せめて、年度末という締め切りを、採択後、1年以内として、採択時期を2回にわけるとか、大学関係の助成金は、例えば、6月(9月)採択、翌年6月(9月)までに刊行とか、出来ないものであろうか。そうすれば、多少なりとも事態は改善するように思えるのだが。

だったら、そんな助成金に頼らない出版をすればいいではないか、とも言われそうだが、専門書で助成金をまったくナシで刊行するのは、現在非常に厳しいと思う。助成金で制作費がまるまる賄えるわけではなく、各社かつかつでやっているのではないだろうか。小社に限っていえば、助成金がついても、なるべく価格を抑え、一般書店でも買える価格を付けたいとすると、助成金の総額はどうしても低くなってしまうようになる。しかし、そうした本が一般書店で販売されて、手にとってもらえることが、知の下支えになるのではないかと思っているのだが。

 

石田俊一三元社 )●出版協理事

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