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2017年3月

2017年3月30日 (木)

軍事目的の科学研究に反対する

一昨年、防衛装備庁が「安全保障技術研究推進制度」を発足させて以来、いわゆる「デュアルユース(軍民両用)研究」に応募する大学や研究機関が顕著に見られるようになった。

この「研究推進制度」は、「将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って公募・審査が行われ、外部の専門家でなく同庁〔防衛装備庁〕内部の職員が研究中の進捗管理を行うなど、政府による研究への介入が著しく、問題が多い」(日本学術会議「軍事的安全保障研究に関する声明」2017年3月24日)ことが指摘されている。

 

 学術・研究の健全な発展のためには、政治や軍事からの介入を排し、科学者・研究者の自主性と自律性を最大限尊重しなければならないというのが、悲惨な戦争からこの国が学んだ重要な教訓であった。
 

しかるに昨今、大学や研究機関の間に軍事的安全保障研究が「学問の自由及び学術の健全な発展と緊張関係にあること」(同)を軽視し、「軍事目的の科学研究」に安易に与してしまう傾向が見られるのは、「学問の自由」(日本国憲法第23条)にとっても、ひいては「言論・出版の自由」(同第21条)にとっても由々しきことである。

 

前述の日本学術会議声明が「むしろ必要なのは、科学者の研究の自主性・自律性、研究成果の公開性が尊重される民生分野の研究資金の一層の充実である」と訴えているように、その背景には、「潤沢な防衛予算と貧困な文教予算」というこの国の歪んだ予算配分の問題がある。こうして研究費の乏しい研究者が「デュアルユース研究」という名の「軍事研究」に仕向けられている、と見ることもできよう。

 

日本出版者協議会(出版協)は、前述の日本学術会議「軍事的安全保障研究に関する声明」に賛同し、「科学者の自主性・自律性が尊重される民生分野の研究資金の一層の充実」を政府に要求するとともに、科学者・研究者には「科学者の社会的責任」を十分果たされるよう強く望むものである。

 

 

2017年3月 1日 (水)

出版協新刊選2017年3月号  第53号(通巻277号)

1P「変えてはいけないもの」

三芳寛要パイインターナショナル●出版協理事
  ……出版協BOOKS/3月に出る本 
3P ……出版協BOOKS/3月に出る本(2Pの続き)
4P ……出版協BOOKS/3月に出る本(3Pの続き)

「変えてはいけないもの」

もうすぐ新年度ですね。年度末進行や、組織変更、新入社員の入社準備などで忙しい方も多いと思います。新年度の抱負について考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

弊社の場合、新年度の抱負を年末のうちに考えます。変化の激しいこの出版業界で生き残るために、何か新しいことをせねばならないのではないか、という強迫観念に毎年襲われます。しかし今年の場合は少々違いました。

 

昨年末、自然風景の写真家Tさんとの忘年会でのこと。私がTさんに「来年の抱負はありますか?」と尋ねました。Tさんはしばらく黙ったのちに、「……いや、何もないね。ずっと同じことを続けるだけだよ」とおっしゃいました。

私はその時、はっとしました。Tさんの言うとおり、「変わらないこと」のほうが大事なんじゃないかと。

実際にはTさんの写真は、年々変化し、常に新鮮なテーマを追い求めています。しかしそこには、たとえ酷暑の荒野でも、極寒の冬景色の中でも、世界中、何時間でも自分が撮影したい風景が現れるのを待ち続ける、変わることのない美への追求という姿勢がありました。

 

弊社においても、変えてはいけないものがある、と思い至りました。それは、出版企画における3つのポリシーです。

1. 自分たちが欲しいと思える本か

流行っているから、ではなく、作り手や売り手が欲しいと思えるか、つまり読者の視点に立って本づくりをできるか、また販売戦略が立てられるか、ということになります。

2. 自分たちが作ることで類のない本になるか

自分たちの強みを活かすことで、差別化し、新鮮な提案ができる分野か、ということです。他社が作っても変わらない内容であれば、わざわざ限られた時間を使って、自分たちが作る必要はありません。

3. 10年でも自分の本棚に置いておきたい本か

私たちは単なる情報としての本ではなく、プロダクトとしての魅力を備える本を作っている自負があります。一時的な流行物は、一度に多くの部数を配本できる大手出版社と比較して、弊社の得意とするところではありませんので、不変的テーマを扱うよう心がけています。

これらは多くの出版社で、共通しているポリシーかもしれません。

 

ですが一昨年から、そうとも限らない現象を目にしてきました。

それは「大人のぬり絵」です。「大人のぬり絵」は、2015年夏から2016年春ごろにかけて、世界中で大ブームになったジャンルで、記憶に新しい方もいらっしゃると思います。日本においても10年以上前から河出書房新社さんで出版されてきましたが、主に年配層向けという認識を持っていました。ですが一昨年、英Laurence King社が原書として発売した『Secret Garden』(邦題『ひみつの花園』グラフィック社刊)、『おとぎ話のぬり絵ブック』(弊社刊)といった、20代女性を含め、幅広い年齢層を読者対象とした「大人のぬり絵」書籍が刊行されました。

 

それぞれの出版物が異なった年齢層を対象としていたことから、書店店頭では複数タイトル並べても、競合するどころか相乗効果を生むこととなり、それまでに知られていなかった潜在需要を開拓でき、メディアでも多数取り上げられました。弊社では当初、それほどの需要があるとは考えておらず、あくまで美術系出版社として新しい提案をし続けてきた延長線上にありました。

 

ところが一度ブームになると、大手を含め、多くの版元が参入してきました。プレーヤーが増えること自体は、そのジャンルが互いに切磋琢磨することになり、読者にとっても選択肢が増え、よいことです。問題は決してクオリティの高いものばかりではないことでした。弊社では、作家と編集者とが、二人三脚で時間をかけて本を作りますが、聞くところによると、版元から人気作家に制作依頼が殺到し、その内容が「短期間で、内容は作家におまかせで、少額で」というものも含まれていたようです。そうしたものが出回ると、棚は玉石混交となり、読者が離れていく要因となります。この現象は世界中で起こりました。

私はそのとき愕然としました。これが、出版の衰退を加速させている原因の一つではないかと。私たちは、決して安易に流行に流されてはいけない。私たちが大切にしている出版のポリシーを守り続けようと思いました。

 

実は、似たようなことが10年ほど前の米国で起きたようです。日本のマンガがブームになり、様々な出版社から日本のマンガの翻訳本が出版されましたが、棚が玉石混交となった結果、読者離れが起き、苦しい淘汰の時代があったようです。その中でもブームに振り回されずに、厳選した翻訳出版を続けてきたDark Horse社やVIZ Media社といった版元が生き残りました。今ではBarnes & Nobleなど大型の書店において、日本のコミック棚はアメコミをしのぐ勢いを見せています。

 

変化することも大切ですが、そもそも私たちは何のために出版という仕事をしているのかを考えたとき、変えてはいけないものもあることを思い起こした新年度となりました。
三芳寛要パイインターナショナル)●出版協理事

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