前門のアマゾン、後門の取次
■不意の挟撃
連休直前の4月28日、アマゾンジャパン合同会社書籍事業部購買統轄部から、「重要なお知らせ」が届いた。この6月末をもって「日販バックオーダー発注(非在庫商品取り寄せ)」を終了する、というのだ。
あまりに唐突な「お触れ」に、出版業界は上を下への大騒ぎ。さらに、5月2日の日販の「見解」が、追い討ちをかける。「今回のお申し入れのままでは、出版社の取引の選択が狭められ、対応ができない社が出ることも懸念されます」と。
真っ先に「対応できなく」なりそうな零細出版者としては、それだけでも戦々恐々なのだが、泣きっ面にハチ、連休が明けると、今度は五軒町方面から、「返品率上昇」を理由に「協議したい」旨の連絡を頂戴することに。この手の申し出は、過去2度も体験しているので、先方が何を言いたいのかは百も承知。要は、取引条件の改定要請なのだが、まかり間違っても改善してくれるといった話ではない。
ともあれ仕入窓口に出頭。前年度の不本意な「成績表」(データ)を前に、先方の言い分を神妙に聞く。一通りの説明を受けてから、「本日はお話を伺うだけにして、後日、質問状をお出ししますので、文書にてお答えいただいたうえで "協議" に入らせていただきます」と席を辞した。
連休直前の4月28日、アマゾンジャパン合同会社書籍事業部購買統轄部から、「重要なお知らせ」が届いた。この6月末をもって「日販バックオーダー発注(非在庫商品取り寄せ)」を終了する、というのだ。
あまりに唐突な「お触れ」に、出版業界は上を下への大騒ぎ。さらに、5月2日の日販の「見解」が、追い討ちをかける。「今回のお申し入れのままでは、出版社の取引の選択が狭められ、対応ができない社が出ることも懸念されます」と。
真っ先に「対応できなく」なりそうな零細出版者としては、それだけでも戦々恐々なのだが、泣きっ面にハチ、連休が明けると、今度は五軒町方面から、「返品率上昇」を理由に「協議したい」旨の連絡を頂戴することに。この手の申し出は、過去2度も体験しているので、先方が何を言いたいのかは百も承知。要は、取引条件の改定要請なのだが、まかり間違っても改善してくれるといった話ではない。
ともあれ仕入窓口に出頭。前年度の不本意な「成績表」(データ)を前に、先方の言い分を神妙に聞く。一通りの説明を受けてから、「本日はお話を伺うだけにして、後日、質問状をお出ししますので、文書にてお答えいただいたうえで "協議" に入らせていただきます」と席を辞した。
■優越的地位の濫用?
実は小社、トーハンとの直接取引はここ20年くらいのものなのだが、そのスタート時、「取引をお願いする」という当方の圧倒的に弱い立場ゆえ、不承不承、署名捺印せざるをえなかった「条件書」には、こうあった。返品率と「歩戻し」の率を連動させるというのだ。しかし契約の場で急遽書き込まれたその条項は、いつまでも零細版元を苦しめ続けることになる。
しかもその文書、取引契約書とは別建てではあるが、本契約と同様の拘束力を持っている。だが、どういうわけか、当方にはその控えも渡さないという、きわめて不明朗なものだった。
そのようなものが、何年も後になって「返品率上昇」が問題にされたときに持ち出され、そのときに初めて、その控えが、あろうことかFAXで送られてきたのだった。
ところで、「返品率上昇」を理由に、取次が版元の取引条件の引下げを求めるというのは、「その責任はひとえに版元にあり、版元だけが責を負うべし」との考えのよう。では、その合理的な根拠はいったいどこにあるのか、取次は丁寧に説明しなければならない。
その点について納得しうる説明ができないのなら、これは独占禁止法に言う「優越的地位の濫用」に限りなく近いと指弾されても仕方あるまい。
実は小社、トーハンとの直接取引はここ20年くらいのものなのだが、そのスタート時、「取引をお願いする」という当方の圧倒的に弱い立場ゆえ、不承不承、署名捺印せざるをえなかった「条件書」には、こうあった。返品率と「歩戻し」の率を連動させるというのだ。しかし契約の場で急遽書き込まれたその条項は、いつまでも零細版元を苦しめ続けることになる。
しかもその文書、取引契約書とは別建てではあるが、本契約と同様の拘束力を持っている。だが、どういうわけか、当方にはその控えも渡さないという、きわめて不明朗なものだった。
そのようなものが、何年も後になって「返品率上昇」が問題にされたときに持ち出され、そのときに初めて、その控えが、あろうことかFAXで送られてきたのだった。
ところで、「返品率上昇」を理由に、取次が版元の取引条件の引下げを求めるというのは、「その責任はひとえに版元にあり、版元だけが責を負うべし」との考えのよう。では、その合理的な根拠はいったいどこにあるのか、取次は丁寧に説明しなければならない。
その点について納得しうる説明ができないのなら、これは独占禁止法に言う「優越的地位の濫用」に限りなく近いと指弾されても仕方あるまい。
■色とりどりの差別取引
翻って、そもそも「歩戻し」とは何なのか? 「注文支払い保留」とは何なのか? そして、それらをもっぱら後発の弱小版元に課すことの正当性は、どこにあるのか? これらの問いかけに取次の説得的な説明がなされたとは、寡聞にして知らない。
1973年に勃発した「ブック戦争」は、翌74年に「版元出し正味を最低69%、取次マージン8%(8分口銭)」で一応の決着をみたものの、80年代以降、取次店は新規取引版元を中心にこれを68%、67%へと、なし崩し的に切り下げていった。こうして「取次8分口銭」という原則は、いつしか「9分」へ、さらには「10分口銭」へと変えられてしまった。
しかも、それがもっぱら弱い立場の新規版元に対して進められたことが、今日ある差別取引の基本構造をつくりあげたと言っても過言ではないだろう。創業したての版元が巨大寡占取次相手に条件交渉できる余地など、これっぽちもない。取次店の「優越的地位」は、いささかも揺らぐことがないのだ。
社会のさまざまな領域で「差別」が問題視され、その「是正」が叫ばれつつある昨今、このような「差別取引」は、もはや時代遅れのものとなっているのではないのか? そして、出版が何より大切にしなければならない「多様性」を奪いかねない「差別取引」は、一刻も早く撤廃しなければならない。
翻って、そもそも「歩戻し」とは何なのか? 「注文支払い保留」とは何なのか? そして、それらをもっぱら後発の弱小版元に課すことの正当性は、どこにあるのか? これらの問いかけに取次の説得的な説明がなされたとは、寡聞にして知らない。
1973年に勃発した「ブック戦争」は、翌74年に「版元出し正味を最低69%、取次マージン8%(8分口銭)」で一応の決着をみたものの、80年代以降、取次店は新規取引版元を中心にこれを68%、67%へと、なし崩し的に切り下げていった。こうして「取次8分口銭」という原則は、いつしか「9分」へ、さらには「10分口銭」へと変えられてしまった。
しかも、それがもっぱら弱い立場の新規版元に対して進められたことが、今日ある差別取引の基本構造をつくりあげたと言っても過言ではないだろう。創業したての版元が巨大寡占取次相手に条件交渉できる余地など、これっぽちもない。取次店の「優越的地位」は、いささかも揺らぐことがないのだ。
社会のさまざまな領域で「差別」が問題視され、その「是正」が叫ばれつつある昨今、このような「差別取引」は、もはや時代遅れのものとなっているのではないのか? そして、出版が何より大切にしなければならない「多様性」を奪いかねない「差別取引」は、一刻も早く撤廃しなければならない。
■ 熟考に熟考を重ね…
ここで「ふりだし」に戻ろう。アマゾンである。
アマゾンが今回、「取次外し」とも言える乱暴な挙に出た背景の一端には、上述のような取次の「差別取引」があることを見逃すわけにはいかない。そのウイークポイントを、みごとに突いてきているからである。
「差別取引」に苦しめられ続ける中小零細版元が、鼻先に差し出された一見好条件とも思える「擬似餌」に目が眩んでしまうのも理解できなくはない。
だが、ちょっと待て。e託契約の前に、よーく心しておかなければならないことを、2つだけ挙げよう。
まずは、その初期の契約条件がせいぜい1~2年限りのものでしかないこと。先方の間尺に合わなくなれば、いつでも無慈悲に破棄されることを覚悟しておかなければならない。
そして、くだんの「e託販売サービス規約」第7条には、「甲(アマゾン)は単独の裁量で、乙(出版社)のタイトルの小売価格を決定します」と、白昼堂々「再販制崩し」を宣言していることも、見逃してはなるまい。
ここで「ふりだし」に戻ろう。アマゾンである。
アマゾンが今回、「取次外し」とも言える乱暴な挙に出た背景の一端には、上述のような取次の「差別取引」があることを見逃すわけにはいかない。そのウイークポイントを、みごとに突いてきているからである。
「差別取引」に苦しめられ続ける中小零細版元が、鼻先に差し出された一見好条件とも思える「擬似餌」に目が眩んでしまうのも理解できなくはない。
だが、ちょっと待て。e託契約の前に、よーく心しておかなければならないことを、2つだけ挙げよう。
まずは、その初期の契約条件がせいぜい1~2年限りのものでしかないこと。先方の間尺に合わなくなれば、いつでも無慈悲に破棄されることを覚悟しておかなければならない。
そして、くだんの「e託販売サービス規約」第7条には、「甲(アマゾン)は単独の裁量で、乙(出版社)のタイトルの小売価格を決定します」と、白昼堂々「再販制崩し」を宣言していることも、見逃してはなるまい。
出版協理事 田悟恒雄(リベルタ出版)
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