アマゾンの「バックオーダー」発注停止をめぐって
一般紙でも報道されているように、アマゾンの発注方式の変更が大きな話題となっている。これまでアマゾンは、取次店に在庫されていない本(および、取次からの注文に出版社が即応できない本)について、取次店を通した取り寄せ調達を行ってきた(アマゾンの用語で「バックオーダー発注」)。ところが、アマゾンは4月末、突然、この「バックオーダー発注」を6月末をもって終了すると発表。アマゾンから各出版社への通知文書では、取次店に在庫のない、われわれ中小出版社のロングテール商品などは、ことごとくアマゾンでは発注できないことになるように読めるため、出版社間に困惑と不安が広がった。
アマゾンからの通知では、「バックオーダー発注」の中止による販売機会の損失を抑える方法として「e託販売サービス」など、取次店を通さないアマゾンとの直接取引のみが有効だとされている。アマゾンはこれまでもe託への参加を出版各社に働きかけてきたが、今回の「バックオーダー発注」の中止は、明らかに、直接取引の出版社を一気に増やすことが狙いと思われる。それを裏づけるように、5月以降、アマゾンは活発に出版社向け説明会を開催し、「バックオーダー発注」中止の影響の大きさと、e託への参加を(期間限定の特別条件を示して)強力に働きかけている。
出版協では、日販と情報交換を行うとともに、6月15日、アマゾンのシステムや直取引に詳しい高島利行氏((株)語研)、工藤秀之氏((株)トランスビュー)らを講師に、この問題をめぐるシンポジウムを開催。この問題への関心の高さを示すように会場は、会員・非会員合わせて80人ほどの参加者で満席となった。
このシンポジウムを通じて、今回のアマゾンの「バックオーダー発注」中止の主目的は、「e託販売サービス」など、アマゾンとの直接取引への誘導を加速させることであるため、「バックオーダー発注」中止の影響が、現在実際に運用されているより大きいように印象される説明になっていることが示された。同時に、「期間限定」としてアマゾンが示している直接取引の条件は、これまでもキャンペーンの度に示されているものであることも明らかになった。「アマゾンの説明会に参加し、急いで直取引に参加しないと大変なことになると感じてこの会を聞きに来たが、落ち着いて考える機会となった」という参加者の発言が印象的だった。
アマゾンとの直取引については、これまでも出版協としては、各社に次のような点を考慮して判断するよう呼びかけてきた。
ひとつは再販制の問題である。言うまでもなく、日本の出版物の再販制は、出版社と取次店(取次店は再販契約のない書店には本を卸さない)、取次と小売書店(書店は定価販売を順守する)という2段階の再販契約で成り立っている。取次店を除いたアマゾンとの直接取引においては、アマゾンと出版社の間で個別の再販契約を結ばない限り、定価販売の保障はない。
この点についてアマゾンは、再販制を尊重すると謳っているが、e託販売の説明を見る限り、定価販売について明確な記述は見当たらない。実際、学生対象のAmazon Studentサービスでは、再販契約違反とする会員社の申し入れにもかかわらず、10%のポイント付与(値引き)が継続されているのが実情だ。再販契約のもとでさえそうなのに、再販契約のない直取引で定価販売が守れるとは思えず、実際に値引きが行われれば、抗議することさえ不可能となるだろう。同時に、同じ商品を取次店を通しても出荷するとすれば、再販契約の下で販売する小売書店には、全く不利な状況を生むことになるのは明らかだ。
もうひとつは取引条件だ。アマゾンの示す掛け率は、(良くも悪くも変更の難しい)取次の正味とは違うと認識しておいたほうがいい。取引実績による変更がどのように行われるかは定かではなく、アマゾンから条件引き下げの要求があった場合、個別の、それも中小の出版社がそれに抗する交渉力を発揮できるとは考えにくい。ましてアマゾンへの依存度が高くなっていればなおさらだろう。
6月末をもってアマゾンの「バックオーダー発注」は予告通り全面停止されたようだ。私の社は、Amazon Studentサービスを再販契約違反として、アマゾンへの出荷を停止しているため、実際の影響は分からないのだが、出版協としては、日販との情報交換を含めて、その影響を注視していくこととなる。
そして、アマゾンのみへの対応ということでなく、書店・ネット書店からの注文によりよい対応ができる取次在庫のあり方、出版社の在庫情報提供のしかたなどについて、日販との情報交換・協議を進めていく予定である。
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