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2017年8月30日 (水)

アマゾン号が砲撃を開始した

欠品率の成績表
 去る8月9日、アマゾンから「貴社欠品状況と日販引当率」(先週1週間)をお知らせします、というメールがデータ添付で送られてきた。1週間前にも同様の成績表が来ている。「6月30日をもって、日販様、大阪屋栗田様へのバックオーダー発注を停止しており(中略)貴社に在庫があるにも関わらずamazon.co.jpで在庫切れとなっている状態を防ぎ、(中略)お客様に商品をお届けできる状態を作るための参考」との前口上付きだ。 
 このデータによると、先週1週間の欠品率:20. 9%――1万回の閲覧があったとすると、2090回は欠品状態になっていたというのである。 
 欠品状態では、「在庫あり」表記と比較すると、購買率が大きく低下するとコメントしている。
 
発注冊数、銘柄点数、引当数 
 この3点についてもデータが送られてきた。日販にスタンダード発注した総冊数の内、引き当てられた冊数は、16.5%だとされていた。アマゾンは日販に対して適切な在庫数をデータ開示しているという。
 
カート落ちとマーケットプレイス 
 カート落ち商品(買い物かごがなくなり注文不能になる)になると、アマゾンでは買えないことになる。もちろん、マーケットプレイスという第二市場が設けられているが、新刊発売後4週間でカート落ちして、マーケットプレイスで本体1500円の本が4800円で出品されていたという版元の話を聞いた。
   これはならじとこの版元は、マーケットプレイスに自社から1500円で新刊在庫を出品したという。
  北海道から翌日にはカニが届く時代。本を欲しい方の手元に遅滞なく届けられるように、日販―大阪屋栗田―アマゾンの間で不断のシステム改善を実行してほしい。日販さんの倉庫統合、ロングテール在庫充実の効果に注目している。
 
最恵国待遇と独禁法違反 
  アマゾンは「カート落ちや欠品状態の解消にはe託販売サービスのご利用」を勧誘している。e託を利用すると版元はアマゾンと直接やり取りすることが可能になるという。そう言えば6月末日までに直取引をすると契約条件を優遇するというお誘いもあった。
   一方で、6月にはアマゾンが「最恵国待遇」条項を取引先に求めていたことで、公取が独禁止法違反の疑いがあるとした。「俺との取引はもっとも安い価格でないとだめだぞ」という「最安値条項」は、優越的地位乱用の最たるものだろう。8月にもアマゾンは電子書籍での「最恵国待遇」契約の存在を認めてこの条項の破棄を発表した。
   「同等性条件」とも強弁していたそうだが、契約書にこの文言が入れば、納品業者はたまったものではないだろう。一番安くなければ、契約違反で取引を停止をほのめかされるだろう。
   契約書からこの文言がなくなったからと言って、アマゾン本社のビジネスマインドは変わるのだろうか。
  年間契約で、実績で契約条件見直しをし、あまつさえ契約の実質的な決定者が「会社」ではなく、部局の責任者に任されていて、その責任者も年俸で評価されているとしたら、取引するこちらとしては、「共生」の心根がない責任者に変わったらと戦々恐々である。
 
アマゾンは再販制を守るか 
    「一番安く仕入れて、どこよりも早くお客様に届ける」。後半は良い。前半を実現するには、つねにデータ評価で取引先との条件を「最適」なものにしていく。
   このビジネスマインドが基本だとすると、本の価格維持を担保している再販制をアマゾンは尊重するのか。
   一強、できれば独占ならなお結構、版元とアマゾンが直取引をするなら、取次はいらなくなる。書店はかろうじて街の新刊書籍・雑誌の見本展示コーナーになる。展示コーナーの機能だけでは、文化・学術施設で公営にするか、入場料経営になるだろう。
   これは、ある熱帯夜の明け方、悪夢にうなされた。
   「昔、出版界には取次があって、街々にあった書店では本が買えたのだ」 
   「4500社ほどの出版社があったが、今は、300社程度かな。それでも大したもので、『カント純粋理性の思索』という本が500部も売れるから、捨てたもんでもない……」 
 大変貌した出版界の未来図である。
 
出版社に求められるもの?
   カスケード発注、スタンダード発注、在庫ステータスなどなど、さまざまな新用語が飛び交う。ほとんど、営業部でもフォローできていない。
  学習と情報交換、出版社サイドからの読者・書店・取次・著者との関係再構築が必要になっている。とりあえずのスタートに、出版社間の情報交換から進めたいものである。(2017.8.28)
出版協副会長 上野良治(合同出版

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