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2017年8月 4日 (金)

<著作権法違反の共謀罪>の悪夢

 7月31日、警視庁組織対策部は、新宿区四谷2丁目所在の出版社、株式会社きょうぼう社の社長四谷ごうい(68)と、同社員三谷じゅんび(45)を著作権法違反の共謀の容疑で逮捕した。同社を家宅捜索するとともに、社長宅、関連出版プロダクション、印刷所など関係個所を家宅捜索した。2人は、共謀して、著作権者が不明な写真など十数点を、十分に調査もせず、あとで著作権者が申し出た場合に対処すればいいとして、無断で書籍に掲載し、出版しようと企てたものである。さらに、同対策部は、同社は資金面で暴力団との関係があるとみて、同社長と暴力団との関係を追及するとみられる。昨年7月施行された「共謀罪」での摘発第一号事件である。
 ――まさか、こんな記事が新聞に載ることはないだろうと楽観してはいられない。
 「共謀罪」(「テロ等準備罪」)が、去る6月15日、参議院本会議において、自民党、公明党、日本維新の会などの賛成多数で可決、成立した。早くも7月11日からスピード施行されているからである。まさに、捜査当局がいつでも使える法律になったのである。
 「共謀罪」は、市民の社会生活に大きな影響を与える法律であるが、国会では、迷走する法務大臣の答弁にもみられるように、法律の内容に関する討議は深まることなく、成立した。
 政府は、共謀罪はその適用を組織的犯罪集団に限定しているから〈一般市民、会社が対象になることはない〉といっていたが、成立した法律では、組織性は2人以上であればよく、それに該当するかどうかの判断は警察が決めることができるというものだ(もちろん最終判断は裁判所であるが)。
 また、犯罪の計画(共謀)だけでなく、「凶器を買うお金の用意」「犯行現場の下見」など「準備行為」が必要であるので、濫用の歯止めになるともいっているが、何が準備行為にあたるかを決めるのも警察である。
 共謀罪の対象犯罪は277あるが、この中で、特に出版社として警戒しなければならないのが、著作権法違反である。
 出版社にとって、著作権は多いに関係するところである。
 編集・出版活動の中では、写真、図版、文章などの引用は日常茶飯事のこととしている。もちろん十分に著作権に配慮して編集活動をしているが、グレーゾーンは必ずある。
 そうしたことを、編集活動の中で議論したり、資料を取り寄せたりすることは、立派な「準備行為」にあたる。もちろん「故意」に違反しなければいいのであるが、この故意の認定はいくらでもこじつけることができる。
 警察は、ターゲットにした出版社や編集者に対して、内定捜査をして、編集者の弱みを握って(たとえば、飲み屋にツケがあった場合、それを理由に詐欺容疑として逮捕するぞと脅せばいい)、その人から、「会社の誰々さんと、写真の掲載について検討した」との供述を得るだけで、逮捕令状、捜索差押え令状を裁判所に請求することは可能である。裁判所がチェックしてくれるなどと楽観してはいられない。裁判所での令状却下率は1%にも満たないからである。
 検察は、弁護人から公判で問題にされると思えば、起訴しないという判断もできる。警察ははじめから起訴されることを考えておらず、情報収集の目的で逮捕、捜索をすることもある。
 しかし、出版社にとって、社長や編集者が逮捕され、23日間も拘束されたり(実務では、起訴するまで23日間の拘束は原則。起訴されればさらに拘束が続く)、証拠品だとして会社のパソコンなどが押収された場合、編集活動はストップを余儀なくされ、回復不可能な損害をこうむることになる。
 編集活動がストップするだけでなく、金融関係からは「反社会的勢力」と認定されるおそれさえある。
 出版協の加盟社の多くが、社員は1人か2人であるから、すぐ会社の存続にも直結する事態にならないとも限らない。
 戦時下最大の言論弾圧とされる「横浜事件」は、雑誌に掲載された論文が発端となって、日本共産党再結成の謀議をしたとして治安維持法違反で、編集者、新聞記者など約60人がイモずる式に逮捕された。そのうち約30人が有罪、4人が獄死。現代の治安維持法、共謀罪の発端は、「編集者の会話」であったとなりかねない。
 こうしたことが起こらないことを願うとともに、日頃から共謀罪と著作権法違反との関係についても十分な警戒が必要となる。
出版協副会長 成澤壽信(現代人文社

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