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2017年12月

2017年12月27日 (水)

年末雑感

 本年もあとわずか。会員社にとって明るい話題は余りなさそうである。取次の半期の決算をみても、出版界そのものの低落傾向に歯止めがかかってはいない。
 そうした中、とりわけ話題になったのがアマゾンのバックオーダー中止である。突然で事情もわからず、どういった事態が起きるのかも分からず不安になった版元も多かったのではないか。小社も同様であった。まず、そもそもバックオーダーなるものが、いかなるものかさえ、分かっていなかった。ようは日販Web在庫等で調達できなかった商品を、アマゾンが直接発注を出すことをやめる、ということである。今まで、ともかくあらゆる商品を揃えて販売する、ロングテールの商品があるのが強み、といっていたはずなのだが、突然の方針転換である。
 と同時に各版元に対して、アマゾンとの直接取引を促す案内が頻繁にくるようになった。直接商品を入れれば、取次ルートに頼らず速く、しかもアマゾンの在庫が切れることがないから、販売機会を失うことがないという。日販Web在庫をメインに、取次からの取り寄せでは間に合わないということだが、アマゾン自身の倉庫に事前に仕入れて揃えておくという気はないわけである。
 小社はアマゾンとの直取引には応じなかった。一つには、正味を含む取引条件が折り合わないからである。しかもこれまで、洩れ伝えられる所では、1年契約であり、当初結んだ契約条件が、いつどう変更になるかは分からないからある。これでは安心して取引をできるはずがない。が、それにもまして、アマゾンのこれまでの版元に対する接し方がとても信頼できるものではないからだ。まず、担当者の顔がまったく見えない。返品も一方的に部署名だけで、責任者・担当者名の記入もなくメールで送ってくるだけである。注文部数にしても、需要予測にもとづいて自動発注しているのだろうが、その担当者・発注者など全く不明である。クレームの受付はメールだけである。小社商品についての過大なポイントサービスを中止して欲しい旨等、全く無視されている。これで信頼関係を構築するというのは無理があろう等々である。
 とはいっても、売上規模から会員社も含め不安が広がり、日販にどうなっているかを説明して欲しいと申し入れた所、快く応じてくれた(これは、快挙だ)。2月には、今一度、出版社に対し、倉庫統合後の王子在庫の状況なども含め講演をしてくれることになっている。これまで日販(その他の取次も)と出版協は対立することもあった。とはいってもどちらがなくとも成り立たない関係ではある。今後とも情報を交換し、お互いの要望を話し合っていければと思う。そして、2月の講演に先だって、11月24日に出版協理事と日販ネット事業部との情報交換会が行われた。版元がどのような情報欲しいのかを確認していただくため、また日販側の取り組みがどのようなものであるかなどの説明をうかがい、互いに意見を交換した。
 以前の情報交換会ですでにおおよそ伝えられていたが、倉庫の移転は、12月3日に完了予定であり、ネット書店に対応するために、ロングテール商品の在庫を充実させる。と同時に、リアル書店にも日販の在庫をNOCS等を通じて可視化し、客注に迅速に対応できる態勢をつくっていく。新刊等動きの大きい商品は、ネット書店の需要予測をこれまで以上に精緻化し、ネット書店からのオーダーに応える態勢の構築をはかっている、とのことである。もちろんネット書店側の協力も必要になってくるであろう。また版元も自社在庫の情報、とりわけ品切れ情報や、重版出来予定等を取次に的確に伝えていく必要がある。これは、ネット書店ばかりでなく、リアル書店が日販在庫を把握して客注に対応するためにも必要である。
 街の書店がなくなっていく中、規模が小さくとも、すぐに客注に対応できることで、お客さんの信頼を得ていってもらえるようにすることは、版元・取次にとって非常に重要な課題である。とはいえ、会員社にとって、在庫情報の更新を発信していくための、時間、労力等、なかなか難しいことも事実である。どう対応していくかは、今後の課題であろう。
 また、近刊・新刊情報は、JPO出版情報登録センターに早めに登録すれば、それを利用したサイト等で、書店さらに直接読者まで情報が届くようになってきた。ネット・リアル書店を問わず活用されていく。数年前とはまったく違う情報の流れができているので積極的に利用していくことが必要だろう。
 すでにほぼ語られたことを繰り返し述べたにすぎないが、年末に改めて確認した次第である。
 若手といわれた自身がすでに還暦となってしまった。世情もろくでもない話ばかりで、加えて生活保護の食費等の生活扶助について、政府は3年間で160億円程度減らすことを決めた。F-35戦闘機が1機150億円であるとのことなのに。どうも声を出せる所が、メディアでは出版社ぐらいになってしまったようである。暗闇のなかでこそ希望はみえてくるのではないか、と思いつつ、新しい年を微かな期待をもって迎えたい。
 会員社のみなさん、よいお年をお迎え下さい。
出版協理事 石田俊二(三元社

2017年12月 6日 (水)

2017年12月62号(通巻286号)

1p ・・・・・・・・・・・・「ほんのひとこと」

「私・今・そして/あるいは紙々の黄昏」
出版協理事 河野和憲(彩流社
2p-5p ・・・・・・・・・「FAX新刊選12月に出る本」(出版協Books)

2017年12月 4日 (月)

私・今・そして/あるいは紙々の黄昏

 この「季節」がやってきた。ここ数年、弊社(彩流社)では、一橋大学大学院言語社会研究科の院生をインターンとして迎えている。とはいえ、当初はこちらの意気込みもあって、複数の院生を迎え、「出版」にかかわる全般を、それぞれの分野の方々に直接お会いしてレクチャーを受けるという形で、差配人である愚生は奔走してきたのだが、あれやこれやの業務も増え、また寄る年波、肉体的精神的な疲弊が急激にすすんだこともあって、今年はひとりのみ(修士1年・S氏)の迎え入れとなった。
 とはいうものの、せんだって手にした冊子を読んでいたら、次のような文言が目に入ってきた。出版界の先輩、山本光久氏のことばである。「昨今、いわゆる〈人文知〉のみならず広く大学教育一般、いやむしろ教育全般に関して、近視眼的・成果主義的な抑圧政策が強まっていることは誰もが感じていることだろう。直近では、〈大学の専門学校化〉なる〈改革案〉(?)までもが飛び出した。有体に言って、これは常軌を逸した文言である。何を馬鹿な。その一方では、〈ノーベル賞〉的なるものへのあられもない垂涎ぶりがあり、無論これらは表裏一体で、とりわけ若い研究者たちの無用な足枷ともなっている(多くの文学者たちにとって優れた教育者でもあったエズラ・パウンドの口真似をすれば、〈教育機関〉ではなくて〈教育阻害機関〉ということ)。しかし、ここで現政権が、そもそも大学教育の何たるかを全く理解していないなどと今更のように慨嘆してみせても始まるまい。要は、文系・理系を通底する認識の〈筋力〉をいかに鍛えるかが常に問題になるはずだ」(「埋め草的に…」『ガラガラへび』228号・2017年11月、ぱる出版)。
 これまでも、著者・訳者とのお付き合いのなかで、学生の「学力」の低減についての話題を仄聞することが多かったが、この出版不況のなか、なにはともあれ意欲ある学生にはできるかぎり、われわれ出版界の者は「応えていくしかない」のだと奮起を促されたのだった。
 というわけでこの勢いをかって、まずは代表的な「ひとり版元」の下平尾直氏にお会いし、お話を伺った。氏は「出版」にまつわることを大所高所から、さらには微に入り細を穿って、いつにもまして熱く語ってくれた。要諦はコレだ。「なぜ本に惹かれるのか……。簡単なことだ。本には思想があるからさ。本にはなにがしかの思想が書かれている、という意味じゃない。本というものそのものが一個の思想なんだ。きみたちの好きなカネに思想があるように、本にも思想がある。どういう思想かって? 本はひとを幸福にする。本は、執筆者や読者だけでなく、それをつくるひと売るひと流通させるひとなど、それに関わるひとすべてを幸福にするんだ。たとえそれがエロやグロやゴミみたいな政治家や芸能人のゴシップであったとしても、本を媒介にすることによって、ひとは幸せになり、豊かになる。本さえあればカネなんかなくても生きていける。いや、そんなにカネがほしいなら、カネを生み出すことだってできるだろう。だからおれの夢はこの国を、いや、国なんかいらない、この世界を、花やカネやジヒギトリの代わりに本で埋め尽くすことなんだ。それが思想なのさ。あの棚やこの棚にあるすべての本を、ほら、きみの部屋の本棚へ!」(「ページの奴隷、編集者!」『大学出版』112号・2017年秋、大学出版部協会)。嗚呼、むべなるかな。
 そして次はハードルが高い、「紙・印刷・製本」についてのレクチャーである。差配人としては、すでに「年末進行」的繁忙期を意識せざるをえず、普段からお付き合いをいただいている明和印刷・田林明良氏に、印刷・製本に関しての工場見学およびレクチャーを思い切って依頼してみたところ、快諾を得た。ありがたい。「印刷することと出版することは、もはや同義ではない。デジタル・パブリッシングの時代にあっては、両者は異なるものである。また、〈プリントアウトされたもの〉と、〈印刷されたもの〉が肩を並べるようになる。我々はアナログ紙の上に書き、書かれたものを読む。また我々は、電子ペーパーの上に書き、書かれたものを読む。(ポール・)ヴァレリーの細菌には、まだまだやるべきことがたくさん残っている。これから当分のあいだ、我々は依然として紙の時代に生き続けるのである」(ローター・ミュラー『メディアとしての紙の文化史』三谷武司訳、東洋書林)と、愚生のあたまのなかで鳴り響いていた。感謝多謝であった。
 ことほどさように、われわれは、著者・訳者をはじめ、多くの方々のお力添え、協力なしに「本」をかたちにすることなどできない。さらにいえば、「本」をダシにして多くの方々との「つながり」を追求しているといってもいいのかもしれない。
 出版協主催の勉強会でこれまで何度か講師を務めていただいたブックデザイナー・鈴木一誌氏は、著書で次のように記している。「あらゆる書物は、他の書物と引用や参照の関係をもっている。周囲から孤絶した本は、読まれ得ない。一巻の書物という単位すら、仮の仕切りなのかもしれない。デザインは終われない」(『ブックデザイナー鈴木一誌の生活と意見』誠文堂新光社)。 
 まさに拳拳服膺、以て瞑すべし。
出版協理事 河野和憲(彩流社

出版流通・販売問題研修会(全3回)の続報

拝啓
 みなさま
 ご健勝にてお過しのことと存じます。
 第1回流通・販売問題研修会(鎌垣大阪屋栗田執行役員ご講演)は、お陰様で満員大盛況で、3時間に
 及ぶ熱のこもった研修になりました(「新文化」11月30日(第3202号)で紹介記事掲載)。
 つづきまして、現状の書籍流通の問題点を踏まえて、
 
 第2回「出版社は流通・販売の課題にどう対応するか——取次・書店・読者にどんな情報を発信するか!」
 を開催いたします。すでに大勢の方々にお申込みを頂いておりますが、余席を設けますので、お早めに
 お申込みください。
 また、第3回(「いま、日販が取り組んでいる流通改善・需要予測 つぎの一手」日販ネット営業部
 部長上原清一講師)もすでに多数のお申込みを頂いております。会場が変わり、日販本社のホールを
 お借りして開催いたします。お早めにご予約ください。http://shuppankyo.cocolog-nifty.com 
 *ご案内重複、ご容赦ください。

■第2回「出版社は流通・販売の課題にどう対応するか——取次・書店・読者にどんな情報を発信するか!」
●講師の紹介:高島利行語研取締役営業部長
東北大学理学部、東京藝術大学美術学部芸術学科。(株)IDGコミュニケーションズ(現(株)IDGジャパ
ン)出版販売部にて勤務。1999年(株)語研営業部入社。2005年2月より現職。
JPO近刊情報センターの起ち上げ時から参加、出版情報インフラ構築、流通問題の論客。JPO普及部会委
員。業務でもさまざまな情報発信を試みている。

■日時:12月7日(木)17時〜20時
会場:小石川運動場会議室(文京区後楽1-8-23) 
アマゾンが提起した出版流通問題、日販の倉庫・物流統合・需要予測システムなど、出版界のVANの
現状と課題、流通・販売問題の最新情報が公開されます。
いまさら聞けない「VAN」「在庫ステータス」「パブライン」など重要キーワードも丁寧に解説、すぐ
に使える役立つ、新刊・既刊情報を発信する際の有効例・失敗事例も種々紹介されます。
営業・広報・編集を問わずご聴講ください。どなたでも聴講できます。取材フリー。(出版協研修担当)

■申し込み先 日本出版者協議会(出版協)事務局・水野
shuppankyo@neo.nifty.jp

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