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2018年1月26日 (金)

デジタルメディアと出版宣伝・広報との親和性

2018年が始まりました。昨年の雑感としては、アマゾン・バックオーダー発注停止や、取次流通の疲弊から来る発売日調整、雑誌・コミック売上の大幅減といった、業界の制度疲労が目立つ出来事が多かったように思います。雑誌・書籍の売上が、ピーク時1996年の約半分となり、量のメリットが失われつつある今、最終的には卸正味の話になってくるのかもしれません。欧米では書店マージンが定価の4割程度と、文具・雑貨と変わらない水準に対し、日本は2割程度。書籍は、商品としての魅力があっても商売にならない、と判断する小売店もあるでしょう。簡単なことではありませんが、たとえば「もしすべての版元が卸正味を10%下げて、定価を20%上げたら?」といった、「if」の話から、議論すべき時期なのかもしれません。

 ◇SNSの普及が意味するもの

さて、このような状況が生まれた最大の理由は、インターネットとスマホの普及によるデジタルメディアの台頭と、さらにこの10年間でSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が普及したことにあると考えています。TV・新聞・出版物といった従来のメディアに加え、ネット上のメディアが可処分時間の対象として増えたことで、相対的に従来メディアに割ける時間は減った、ということです。この影響で、マスメディア上の広告も、以前のようには効かなくなりました。

一方で、こうしたデジタルのインフラ普及は、「書籍の出版社」にとってはチャンスをもたらしています。従来のマスメディアが「できるだけ多くの人を対象として」編集した情報を、読者が「受動的に」受け取るのに対し、SNSでは「個人が自分の興味のある話題を」、「能動的に編集する」ためです。もともとニッチをターゲットとした「書籍」が扱うテーマは、SNSと親和性が高いのです。弊社のような小規模出版社の読者は、数千人からせいぜい数万人。ミリオンセラーは狙っておりません。ですからこの数千人、数万人の、本を届けるべき方たちに、確実に情報を届けることが大切です。マス広告は必須ではありません。書店では、ご年配の方が新聞の切り抜きをお持ちになるのに対し、若い方はスマホを片手に「この本ないですか?」と問い合わせするケースが増えているそうです。また、書店員さんご自身も、版元の新刊情報をTwitterなどのSNSで知る機会が増えています。

201711月現在、日本国内のTwitterユーザー数は4000万人、Facebookユーザー数は2800万人。これだけの「情報を自分で取得しにいく」方々がいる無料のインフラ上に、情報提供をしない手はありません。

 ◇「はじめてのSNS」研修会の実施

以上のような背景に加え、出版協会員社の半数以上がSNSを利用していない実態から、今年119日、出版協会員社向けに、「はじめてのSNS」という研修会を実施しました。Twitterを題材に、どんな記事を読者は必要としているのか、どうすればフォロワーが増えるのか、どう拡散されるのか、といった基礎的な内容です。本研修会に参加された会員社の中で、新たに梓出版社さん、青灯社さん、知泉書館さんがTwitterアカウントを開設されたようです。

◇デジタルメディアへの情報提供

また、自社でSNSを運用する以外に、「自社と親和性の高いデジタルメディアに情報提供する」ことも、デジタル時代の恩恵を受けられる方法です。現在、実に多くのデジタルメディアが存在します。

たとえば、日本最大の検索サイト「Yahoo! JAPAN」では日々ニュースがアップされていますが、これらの記事は外部のニュースサイトから記事の提供を受けています。いずれかの記事をクリックし、表示された画面の右下を見てみると「ニュース提供社」という小さなリンクがあります。ここで、エンタメからカルチャー、経済、地域など、膨大な数のデジタルメディアを確認できます。これらのメディアはニッチな読者とつながっているうえ、フレッシュな情報を常に求めており、外部からの記事提供を歓迎しています。これら提供社以外にも、ネット上には各版元の出版物と親和性の高いメディアもきっとあるはずです。

こうしたメディアに新刊プレスリリースなどで情報提供をすると、記事化してくれる可能性があります。もし記事化された場合は、自社のSNSでも拡散を試みましょう。弊社の経験上、新刊にはニュース性があります。新刊には、時代の関心が反映されているからなのだと思います。またネット上の記事のメリットは、新聞・雑誌と異なり、日本中の人々が容易に目に触れられる機会を、長い間提供します。ネット上の看板のようなものです。小さなメディアでも、紙媒体など別のメディアの記者が目にして、さらに記事化されることもあります。

このように、時代が変わったからこそできるようになったことがあります。業界に暗いニュースが蔓延しているように見えますが、明るいニュースは自分たちで作れるものではないでしょうか。新年を迎え、何か新しいことを始めるにはよい機会です。ぜひみなさんもデジタルメディアを活用してみてください。

出版協理事 三芳寛要(パイインターナショナル

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