会員社一覧●2018年3月現在
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阿吽社
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【あ】
阿吽社
良くも悪くもアマゾンの動向が業界の話題をさらうようになってからもう何年も経ってしまっているが、今回もアマゾンの話題である。
2018年2月15日の毎日新聞・朝刊に「印刷工場から本を直接調達[アマゾンが「取次外し」]」という記事が掲載された。
その要旨は
1)バックオーダー中止で一部の商品だけでも直接取引する出版社が2017年中に660社増えて計約2300社に上った。
2)「アマゾン限定本」の扱いを始めた。
3)品切れ・絶版本を数百部単位で印刷会社から直接納品してもらうようにする。
といったところであろうか。
いずれも取引・物流に取次が介在しない点で「取次外し」ということになるのだろうが、会長の水野もコメントを寄せているとおり「中小出版社にとっては、すぐに関係する話とは受け止めていない」だろう。
1)については、残念ながら新規に設立する出版社にとって現行の取次店の取引条件を考えると魅力的に見える。支払サイトだけでも資金繰りはかなり楽になる可能性がある。しかし、既存の出版社にとって初期の取引条件が圧倒的に良好というわけではない上、その条件が維持されるのか否かが不明瞭のため、全面的に直接取引に移行することは、考え難い。出版社側の管理の手間を考えるとトータルで有利な条件かということも再確認する必要があるため、会員各社には慌てないようにとお知らせしてある。
また、アマゾンは「顧客のため」というのであろうが、その最大の武器であるはずの「ロングテール」商品は、「はやく」ではなく「入手できるか」に大きな意味があるはずだが、場合によってはアマゾンから入手できないという事態になりえることが容易に想像がつきそうなのだが、理解に苦しむところだ。
加えて、出版協は、以前と比べ、日販のネット営業部と密に情報交換を行っていて、情報不足による不安に駆られる状態ではない。
どちらにしても取次を回避して直接取引をしなければならない大きな動機には結びつかないだろう。
2)に関しては、CDの新作発売時には、比較的普通にとられている販売政策の亜流にもみえる。
昨今(特にアイドル関係の)CDが発売される際には、初回限定版を何種類かと通常版を用意した上、販売店によって種類の違う特典を付けることは、常態であって、それがアイドルの書籍に応用されたということであろう。
むしろ、CDと違って(シュリンク?)ラップ(に加えてスリップも?)が必須ではない書籍で「オリジナルカバー」と「生写真」の特典で、本文部分が共通であれば、大きな手間や、リスクがあるわけではないので、今までなかったことの方が不思議なほどである。
3)については、印刷会社として名前があがっている2社と、想定されている増刷部数から、あまりリアリティがない。
今後はわからないが、出版協の多くの社は、名前の挙がっている印刷会社2社には、こちらが取引を希望しても与信を盾に相手にしてもらえなかったこともあったはずで、取引先として入っている可能性は少なく、入っていてもメインではない上、この「増刷想定部数300から500部」というところから、いわゆるPODなどの技術を使った「小ロット印刷」によるものと推察されるが、増刷500部になれば通常方式で印刷したものと原価の点では大きな差は出てこなくなるはずで、わざわざ新規取引を始めて、アマゾンのためだけに商品をそろえることは考えにくい。
また、何らかの理由で印刷所から直接書店に書籍を運び入れることがあったとしても、取引上は取次店経由になるはずだ。
アマゾン側は「私たちは閲覧数のデータを持っている」というが、過去に人間の判断による発注ならば、まず慎重になるであろう大量発注をした上、返品の申し入れをしてきたことのあるところのデータをみたところで、どれだけの説得力と販売力をもつのかは甚だ疑わしいと考え、返品に備えるのが普通であろう。
2月1日の文藝春秋に関する日経新聞の記事にしても、今回のアマゾンの発表にしてもなんともいえない違和感がある。
直接取引が利益率を上げるのに大きな効果があるから、誘導したいのであろう。であれば、なぜ「直接取引以外は扱わない」と宣言しないのであろうか。
「バックオーダー中止」を宣言したものの、取次の商品調達力には当面かなわず、失策を糊塗するために一生懸命「取次外し」という、気分だけの既成事実を積み重ねようとしていると思うのは、穿ち過ぎだろうか。
出版協理事 廣嶋武人(ぺりかん社)