ほんのひとこと

2018年5月28日 (月)

そうか! 物価の優等生だったのか?

 ●日販レポート 

 今年3月、日販平林社長の記事が「文化通信」に掲載された。衝撃的な内容だった。結論的な要請は、運賃の分担金増額などを含む条件改定だが、取次経営が全体として赤字構造になっていて、取次との取引が赤字になっている版元口座は放置できない事態という。想像するに書籍に限れば高正味版元、大量送品(高返品率)、低定価(文庫、新書、コミックなど)が赤字の要因になっているのだろう。

 また、赤字が大きい版元順に並べると上位何社が条件を改定すれば、当面の収支が改善されるのだろう。版元の対象を絞って取引条件の改定交渉に入るという。すでに日販以外の取次から運賃の高騰分の分担を理由に応分の負担を要請された版元があると聞く。

 

 ●詳細な「成績データ」

 版元が取次との取引で気にしていたのは、正味と支払い条件、返品手数料、新刊委託部数などの額面であって、取次の経営が版元・書店の業態の中で、どんな構造になっているのか(平たく言って、取次が自社との取引でどんな収益になっているか)については、関心が向かなかったというのが正直なところだろう。

 その意味で、日販レポートは衝撃的であった。版元との取引項目ごとに詳細な「成績データ」が作られているとのことだが、そのデータを渡された版元は、さっそく経営分析をしているのだろうが、取次・書店・版元を主要な担い手とする出版業界の収益構造が改善する方向性はどこにあるのだろうか?

 

 ●3つの分野の健全性の確保

 ①書店の健全性の確保──書店への取次出し正味は、平均どのくらいなのだろう。版元出し正味が70%、取次口銭が8%なら、書店の販売粗利は22%。書店も体力がさまざまであり、取次との取引条件も万別だと聞くが、30%の粗利がなければという書店側の主張があると聞く。

 ②取次の健全性の確保──雑誌の落ち込みが止まらない。雑誌配送システムとして成り立っていた流通が雑誌の部数低減によって流通コストをカバーできない。それを補填できるほど書籍で利益を獲得できない。版元正味を下げる要請が不可避になるのだろう。

 ③版元の健全性の確保──低正味(65以下か)、支払い保留などの厳しい条件が版元の経営を困難にしている。委託部数の削減、初版実売率の悪化によって、初版部数を減らさざるを得ない。定価を上げることは憚られることから、勢い原価率が上がってしまう。

 

 ●三すくみ的状況を脱出するには

 以下まったくの試論である。さまざまな段階で大いに議論を活発にしたいものである。

 ①取次の状況、要請が版元に届いていない点──取次からの発信があった。定価アップ(20年間書籍の平均定価が上がっていなというから当然であろう)。月末新刊見本・委託の集中状態の是正(適切な分散が配本・普及の上で合理的であろう)。常々、取次の窓口では、仕入れ窓口に商談に来る版元営業に折りに触れて要請しているという。

 大手版元の営業・編集・制作の意思形成過程がどのようになっているかは知るよしもないが、中小出版の場合、定価を決める場、進行を管理する制作部の段階まで取次の意向が伝わるが却ってむずかしい。営業の課題(取次との間の諸問題)を編集部(者)が共有する社内、業界風土を醸成したいものである。

 ②出版業界あげての読者へのキャンペーン──出版不況の言葉を知らない人はいない。出版関係者と知ると、「大変ですね」と慰められたり、励まされたりする。相手も出版不況の実態を知っているわけではなく、枕詞として使っているだけで、こちらの方も、「励ましてくれるなら、○○してくれ」という提案できるわけではない。

 三者の共通(書店・版元・取次)になりうる目標を掲げてキャンペーンを張っていく必要があると思っている。

 定めしそれは、読書の大いなる価値と文化行政的な支援(図書館、読書教育の予算の増額など)、本の価値の体現としての定価のアップ戦略ではないか、と思っている。出版文化を守っていく版元から読者への情報発信も、取次のプロモーション力の発揮も期待したい。

 ③版元が本を創る力・販売する力を研修する──物はたくさん作らないと上手くならない、たくさん作っているうちに洗練されてくる。ただし、粗製品を乱造しても一向に上手くならない。業界あげての編集・営業ノウハウの共有・教育のシステムの整備が必要だろう。

 小さい研修からでいい。編集の先達、営業のプロ、経営の手練から体験や知恵、技術を教わる機会を増やしたいものである。

出版協副会長 上野良治(合同出

 

 

2018年4月25日 (水)

そろそろ後継者問題にも関心を向けたい

 最近、こんな記事が目にとまった。

 「予備軍『27万社』の衝撃 後継ぎ不足、企業3割」という見出しで、中小企業の後継者問題をテーマとするものである。それによると、①この20年で中小企業の経営者の年齢分布は47歳から66歳へ高齢化している、②2020年ごろには数十万人の「団塊の世代」の経営者が引退時期となる、③少子化や「家業」意識の薄れもあり、後継ぎのめどが立たない企業は多い、という

 そうしたことから、経営者が60歳以上で後継者が決まっていない中小企業は、日本企業の3分の1にあたる127万社に達する。事業が続けられず廃業すると、2025年ごろまでに650万人分の雇用と22兆円分の国内総生産(GDP)が失われる可能性がある、と警鐘をならしている(朝日新聞デジタル版4月1日)。

 また、昨年7月〜8月に、東京商工会議所が東京23区内の中小・小規模事業者を対象として実施した「事業継承の実態に関するアンケート調査」でもこんな結果が出ている(配布数:非上場の1万社、回収率19.1%)。

  経営者の年齢が60代で3割、70代を超えても半数近くが後継者を決めていない。親族外承継も年々増加し、約4分の1を占めるようになった。親族外の役員・従業員への事業継承では、社内での経験を積みながら暫時承継の準備ができるので、経営理念や経営のナウハウなどの継承はスムーズにいくというメリットはある。

 一方、相続という手段で事業継承する親族内承継とは違って、借入金・債務保証の引き継ぎ・株式の承継などの資金準備が大きな課題である。なによりも大きな問題は、親族外の役員・従業員への事業継承では、後継者養成や後継者選びであるという。

 

 この傾向は、出版協の会員社でも例外ではないだろう。多くの社は、70年代に創業しているし、創業が浅いところでも、70年代から出版社にいて独立したという経営者は珍しくない。私が知る限り、普段は出版協の経営者たちはみな元気で、体力・知力が尽きるまで働くんだという気概をもっている。私から見ても、エネルギーが全身からほとばしっていてさすが出版協の経営者だと感嘆するばかりである。日頃、事業継承・後継者問題にはさほど関心がないように見受けられる。

 事業継承・後継者問題にあまり関心が向かない理由には他にもあるような気がする。多くの中小零細の出版経営者はなんでも屋で、編集をしながら経理も販売もこなしている。金融機関や取次など取引先との関係では個人保証も引き受けている。借入金やその個人保証を残したまま引き受けてもらうことにはなんとなく躊躇を感じるからだろう。

 しかし、酒の席では、本人の健康問題とともに編集者探しや事業継承・後継者の話題は出る。最近、社長が病気で亡くなって経営が難しくなった、高齢でまわりに迷惑をかけたくないので健康であるうちに廃業の道を選んだという話も聞く。

 私も60代前半に比べて体力は相当落ちてきて、元気でやっていけるのはあと10年くらいかなと感じるような年になった。事業継承・後継者問題を本気に検討する必要に迫られている。金融機関は融資の際はかならず後継者はいるのかということを聞いてくる。後継者がいないからといって融資を断られることはないが、金融機関は関心をもっているようである。

 この事業継承・後継者問題で最近いろいろな方と話をすることがあった。事業継承というからには、資金面の手当ては重要だが、いままで培ってきた出版活動をどう継承するかが大きな課題であると指摘された。当然のことであるが、あらためて出版理念や出版傾向というものを整理するいい機会にもなった。

 日本における出版物の多様性は最大の特徴で、それは中小零細出版社によって担われている。日本の出版文化は、中小零細出版社の持続的な発展なくしてはありえない。後継者がなく廃業していっては、先細っていくのは目に見えている。危機的状況である。

 中小零細出版社では、毎日のことで忙しく先のことまで考えられないという向きもあるが、日本の出版文化の維持発展のためには、そろそろ事業継承・後継者問題にも関心を向ける必要があるのではないか。出版協としても事業継承・後継者問題に助言できるような体制づくりができなればいいなと思う。

出版協副会長 成澤壽信(現代人文社

 

2018年4月 4日 (水)

取引格差の是正を

 昨年は、アマゾンの「バックオーダー」発注停止問題が、大きな話題となった。

 昨年4月に突然、出版各社に通告があり、7月から実施されたこのアマゾンの施策は、ロングテールの商品を多く持つ出版協会員各社にとって大きい影響を及ぼす可能性があることから、出版協では日販との情報交換に務めた。

 アマゾンは「バックオーダー」発注停止について、流通上の問題の解決を掲げているが、アマゾンが唯一の解決法として示した直取引(e託取引)への勧誘こそが、アマゾンのねらいであることは明らかだろう。「バックオーダー」の発注を停止すれば、アマゾンにとって、当面、読者の注文に応えられない商品が増えることになる。それを押しても強行したことから、アマゾンの、ここで一気に直取引を増やすという強い意思が感じられる。

 取次店を経由しないアマゾンとのe託取引は、各出版社が取次店と結んでいる再販契約とは何ら関わりのない取り引きとなり、定価販売が守られる保証はない。また、当初示される取引条件が変更されない保証もない。出版協では、再販制擁護の点からも、取引条件面からも、会員各社には慎重な判断を呼びかけてきた。

 会員社に適切な判断材料を提供するために、日販との情報交換は不可欠だった。この問題は、日販側もネット営業部が出版社への情報公開に積極的だった。出版社側に不安が広がれば、アマゾンと出版社の直取引(取次はずし)が拡大する可能性があることもそうさせた理由のひとつだろう。アマゾンの通告以後、日販ネット営業部とは、日販の倉庫統合問題、統合後の王子在庫問題などについて、さまざまな形での情報の交換を行い、ロングテール商品の販売に関して、取次在庫の多品種化を図り、アマゾンのみならず他の書店からの注文に対しても対応できる(つまり「バックオーダー」にさせない)商品を増やす体制づくりを進めていることなどを、会員社に発信することができた。

 今後も取次各社とは、情報交換・意見交換の機会を増やしていきたい。特に、アマゾンとの直取引の問題は、既存の取次の版元ごとの取引格差の問題とも関わっている。新規版元、また低正味版元への取引格差を是正していかなければ、アマゾンとの直取引が見かけ上、魅力をもってしまうことになる。この点は引き続き取次各社に是正を求めていきたい。

 ——と、昨年の問題を振り返って、3月7日に開催した出版協の定時総会の報告にしようと考えていたのだが、総会直後、取次に大きな動きがあることを知った。

 取次4社が物流費高騰を理由に出版社への追加負担の要請を開始したことが報道されたのだ(3月9日付「日本経済新聞」)。すでに2月段階から、取引額の大きい大手・中堅版元から交渉が始まっているという。3月19日付「文化通信」は、トップで「出版社に条件変更求める」として日販・平林彰社長へのインタビュー記事を大きく掲載した。

 雑誌の落ち込みと輸送経費の高騰、書籍の構造的な赤字などが理由とされ、「書籍の流通モデルを確立し、そこに雑誌の流通が載る」(平岩社長)と、雑誌流通に依存してきた物流体制の転換を目指すことが示され、そのために出版社に、正味引き下げを含む負担を要請するとされている。

 出版をめぐる状況が引き続き厳しいことは言うまでもない。1996 年の2 兆6,564 億円をピークに、減少を続ける紙の書籍・雑誌の推定販売金額は2017年は1兆3,701億円にまで減少した(出版科学研究所の調べ)。特に雑誌は、1996年の1兆5,633億円から、2016年の7,339億円へと急速な落ち込みだ。こうした長期の落ち込みの中で、2015年には栗田出版販売の民事再生、2016年には太洋社の自己破産と中堅取次店の破綻が続いた。いうまでもなく出版社数、書店数の減少も歯止めがかかっていない。

 何らかの変化が求められていることは間違いない。しかし、正味問題に踏み込むという今回の取次の提起は、今後の出版界の構造の根幹にかかわる大きな問題だ。根本的なビジョンとして、全体の取引の格差を解消する方向が明確に示されなければ、もともと低正味や支払保留など条件面で不利な状態にある中小出版社の理解は得られるはずもない。条件変更は最終的に個別交渉であることは言うまでもないが、提案は業界全体に関わるものであり、まず出版各社が検討できる論拠と全体像を示して、広く納得を得る努力をすべきだ。取次には、提起の根拠について充分な説明を求めたい。一方的に期限を区切って、強引に交渉を進めるようなことがあってはならない。

 それにしても複数の取次と同時進行で交渉を行うのは、ただでさえ交渉力の乏しい中小出版社には負担が大きい。今回の取次の足並みをそろえた交渉開始は、独占禁止法上、問題はないのだろうか。

 取次の交渉は取引額の大きい大手・中堅出版各社から始まっているとのことで、出版協に加盟する中小出版社のほとんどには現在のところ取次からの連絡はないようだが、条件面で不利な中小出版社が、個別交渉の下で更なる過重な負担を強いられ、取引格差が拡大するようなことがないよう、状況を把握し、的確に情報発信していきたい。

出版協会長 水野 久(晩成書房

 

2018年3月 9日 (金)

「取次外し」への違和感

 良くも悪くもアマゾンの動向が業界の話題をさらうようになってからもう何年も経ってしまっているが、今回もアマゾンの話題である。

 

 2018年2月15日の毎日新聞・朝刊に「印刷工場から本を直接調達[アマゾンが「取次外し」]」という記事が掲載された。

 その要旨は

1)バックオーダー中止で一部の商品だけでも直接取引する出版社が2017年中に660社増えて計約2300社に上った。

2)「アマゾン限定本」の扱いを始めた。

3)品切れ・絶版本を数百部単位で印刷会社から直接納品してもらうようにする。

といったところであろうか。

いずれも取引・物流に取次が介在しない点で「取次外し」ということになるのだろうが、会長の水野もコメントを寄せているとおり「中小出版社にとっては、すぐに関係する話とは受け止めていない」だろう。

 

 1)については、残念ながら新規に設立する出版社にとって現行の取次店の取引条件を考えると魅力的に見える。支払サイトだけでも資金繰りはかなり楽になる可能性がある。しかし、既存の出版社にとって初期の取引条件が圧倒的に良好というわけではない上、その条件が維持されるのか否かが不明瞭のため、全面的に直接取引に移行することは、考え難い。出版社側の管理の手間を考えるとトータルで有利な条件かということも再確認する必要があるため、会員各社には慌てないようにとお知らせしてある。

 また、アマゾンは「顧客のため」というのであろうが、その最大の武器であるはずの「ロングテール」商品は、「はやく」ではなく「入手できるか」に大きな意味があるはずだが、場合によってはアマゾンから入手できないという事態になりえることが容易に想像がつきそうなのだが、理解に苦しむところだ。

 加えて、出版協は、以前と比べ、日販のネット営業部と密に情報交換を行っていて、情報不足による不安に駆られる状態ではない。

 どちらにしても取次を回避して直接取引をしなければならない大きな動機には結びつかないだろう。

 

2)に関しては、CDの新作発売時には、比較的普通にとられている販売政策の亜流にもみえる。

昨今(特にアイドル関係の)CDが発売される際には、初回限定版を何種類かと通常版を用意した上、販売店によって種類の違う特典を付けることは、常態であって、それがアイドルの書籍に応用されたということであろう。

むしろ、CDと違って(シュリンク?)ラップ(に加えてスリップも?)が必須ではない書籍で「オリジナルカバー」と「生写真」の特典で、本文部分が共通であれば、大きな手間や、リスクがあるわけではないので、今までなかったことの方が不思議なほどである。

 

 3)については、印刷会社として名前があがっている2社と、想定されている増刷部数から、あまりリアリティがない。

 今後はわからないが、出版協の多くの社は、名前の挙がっている印刷会社2社には、こちらが取引を希望しても与信を盾に相手にしてもらえなかったこともあったはずで、取引先として入っている可能性は少なく、入っていてもメインではない上、この「増刷想定部数300から500部」というところから、いわゆるPODなどの技術を使った「小ロット印刷」によるものと推察されるが、増刷500部になれば通常方式で印刷したものと原価の点では大きな差は出てこなくなるはずで、わざわざ新規取引を始めて、アマゾンのためだけに商品をそろえることは考えにくい。

 また、何らかの理由で印刷所から直接書店に書籍を運び入れることがあったとしても、取引上は取次店経由になるはずだ。

 アマゾン側は「私たちは閲覧数のデータを持っている」というが、過去に人間の判断による発注ならば、まず慎重になるであろう大量発注をした上、返品の申し入れをしてきたことのあるところのデータをみたところで、どれだけの説得力と販売力をもつのかは甚だ疑わしいと考え、返品に備えるのが普通であろう。

 

 2月1日の文藝春秋に関する日経新聞の記事にしても、今回のアマゾンの発表にしてもなんともいえない違和感がある。

 直接取引が利益率を上げるのに大きな効果があるから、誘導したいのであろう。であれば、なぜ「直接取引以外は扱わない」と宣言しないのであろうか。

 「バックオーダー中止」を宣言したものの、取次の商品調達力には当面かなわず、失策を糊塗するために一生懸命「取次外し」という、気分だけの既成事実を積み重ねようとしていると思うのは、穿ち過ぎだろうか。

出版協理事 廣嶋武人(ぺりかん社

2018年1月26日 (金)

デジタルメディアと出版宣伝・広報との親和性

2018年が始まりました。昨年の雑感としては、アマゾン・バックオーダー発注停止や、取次流通の疲弊から来る発売日調整、雑誌・コミック売上の大幅減といった、業界の制度疲労が目立つ出来事が多かったように思います。雑誌・書籍の売上が、ピーク時1996年の約半分となり、量のメリットが失われつつある今、最終的には卸正味の話になってくるのかもしれません。欧米では書店マージンが定価の4割程度と、文具・雑貨と変わらない水準に対し、日本は2割程度。書籍は、商品としての魅力があっても商売にならない、と判断する小売店もあるでしょう。簡単なことではありませんが、たとえば「もしすべての版元が卸正味を10%下げて、定価を20%上げたら?」といった、「if」の話から、議論すべき時期なのかもしれません。

 ◇SNSの普及が意味するもの

さて、このような状況が生まれた最大の理由は、インターネットとスマホの普及によるデジタルメディアの台頭と、さらにこの10年間でSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が普及したことにあると考えています。TV・新聞・出版物といった従来のメディアに加え、ネット上のメディアが可処分時間の対象として増えたことで、相対的に従来メディアに割ける時間は減った、ということです。この影響で、マスメディア上の広告も、以前のようには効かなくなりました。

一方で、こうしたデジタルのインフラ普及は、「書籍の出版社」にとってはチャンスをもたらしています。従来のマスメディアが「できるだけ多くの人を対象として」編集した情報を、読者が「受動的に」受け取るのに対し、SNSでは「個人が自分の興味のある話題を」、「能動的に編集する」ためです。もともとニッチをターゲットとした「書籍」が扱うテーマは、SNSと親和性が高いのです。弊社のような小規模出版社の読者は、数千人からせいぜい数万人。ミリオンセラーは狙っておりません。ですからこの数千人、数万人の、本を届けるべき方たちに、確実に情報を届けることが大切です。マス広告は必須ではありません。書店では、ご年配の方が新聞の切り抜きをお持ちになるのに対し、若い方はスマホを片手に「この本ないですか?」と問い合わせするケースが増えているそうです。また、書店員さんご自身も、版元の新刊情報をTwitterなどのSNSで知る機会が増えています。

201711月現在、日本国内のTwitterユーザー数は4000万人、Facebookユーザー数は2800万人。これだけの「情報を自分で取得しにいく」方々がいる無料のインフラ上に、情報提供をしない手はありません。

 ◇「はじめてのSNS」研修会の実施

以上のような背景に加え、出版協会員社の半数以上がSNSを利用していない実態から、今年119日、出版協会員社向けに、「はじめてのSNS」という研修会を実施しました。Twitterを題材に、どんな記事を読者は必要としているのか、どうすればフォロワーが増えるのか、どう拡散されるのか、といった基礎的な内容です。本研修会に参加された会員社の中で、新たに梓出版社さん、青灯社さん、知泉書館さんがTwitterアカウントを開設されたようです。

◇デジタルメディアへの情報提供

また、自社でSNSを運用する以外に、「自社と親和性の高いデジタルメディアに情報提供する」ことも、デジタル時代の恩恵を受けられる方法です。現在、実に多くのデジタルメディアが存在します。

たとえば、日本最大の検索サイト「Yahoo! JAPAN」では日々ニュースがアップされていますが、これらの記事は外部のニュースサイトから記事の提供を受けています。いずれかの記事をクリックし、表示された画面の右下を見てみると「ニュース提供社」という小さなリンクがあります。ここで、エンタメからカルチャー、経済、地域など、膨大な数のデジタルメディアを確認できます。これらのメディアはニッチな読者とつながっているうえ、フレッシュな情報を常に求めており、外部からの記事提供を歓迎しています。これら提供社以外にも、ネット上には各版元の出版物と親和性の高いメディアもきっとあるはずです。

こうしたメディアに新刊プレスリリースなどで情報提供をすると、記事化してくれる可能性があります。もし記事化された場合は、自社のSNSでも拡散を試みましょう。弊社の経験上、新刊にはニュース性があります。新刊には、時代の関心が反映されているからなのだと思います。またネット上の記事のメリットは、新聞・雑誌と異なり、日本中の人々が容易に目に触れられる機会を、長い間提供します。ネット上の看板のようなものです。小さなメディアでも、紙媒体など別のメディアの記者が目にして、さらに記事化されることもあります。

このように、時代が変わったからこそできるようになったことがあります。業界に暗いニュースが蔓延しているように見えますが、明るいニュースは自分たちで作れるものではないでしょうか。新年を迎え、何か新しいことを始めるにはよい機会です。ぜひみなさんもデジタルメディアを活用してみてください。

出版協理事 三芳寛要(パイインターナショナル

2017年12月27日 (水)

年末雑感

 本年もあとわずか。会員社にとって明るい話題は余りなさそうである。取次の半期の決算をみても、出版界そのものの低落傾向に歯止めがかかってはいない。
 そうした中、とりわけ話題になったのがアマゾンのバックオーダー中止である。突然で事情もわからず、どういった事態が起きるのかも分からず不安になった版元も多かったのではないか。小社も同様であった。まず、そもそもバックオーダーなるものが、いかなるものかさえ、分かっていなかった。ようは日販Web在庫等で調達できなかった商品を、アマゾンが直接発注を出すことをやめる、ということである。今まで、ともかくあらゆる商品を揃えて販売する、ロングテールの商品があるのが強み、といっていたはずなのだが、突然の方針転換である。
 と同時に各版元に対して、アマゾンとの直接取引を促す案内が頻繁にくるようになった。直接商品を入れれば、取次ルートに頼らず速く、しかもアマゾンの在庫が切れることがないから、販売機会を失うことがないという。日販Web在庫をメインに、取次からの取り寄せでは間に合わないということだが、アマゾン自身の倉庫に事前に仕入れて揃えておくという気はないわけである。
 小社はアマゾンとの直取引には応じなかった。一つには、正味を含む取引条件が折り合わないからである。しかもこれまで、洩れ伝えられる所では、1年契約であり、当初結んだ契約条件が、いつどう変更になるかは分からないからある。これでは安心して取引をできるはずがない。が、それにもまして、アマゾンのこれまでの版元に対する接し方がとても信頼できるものではないからだ。まず、担当者の顔がまったく見えない。返品も一方的に部署名だけで、責任者・担当者名の記入もなくメールで送ってくるだけである。注文部数にしても、需要予測にもとづいて自動発注しているのだろうが、その担当者・発注者など全く不明である。クレームの受付はメールだけである。小社商品についての過大なポイントサービスを中止して欲しい旨等、全く無視されている。これで信頼関係を構築するというのは無理があろう等々である。
 とはいっても、売上規模から会員社も含め不安が広がり、日販にどうなっているかを説明して欲しいと申し入れた所、快く応じてくれた(これは、快挙だ)。2月には、今一度、出版社に対し、倉庫統合後の王子在庫の状況なども含め講演をしてくれることになっている。これまで日販(その他の取次も)と出版協は対立することもあった。とはいってもどちらがなくとも成り立たない関係ではある。今後とも情報を交換し、お互いの要望を話し合っていければと思う。そして、2月の講演に先だって、11月24日に出版協理事と日販ネット事業部との情報交換会が行われた。版元がどのような情報欲しいのかを確認していただくため、また日販側の取り組みがどのようなものであるかなどの説明をうかがい、互いに意見を交換した。
 以前の情報交換会ですでにおおよそ伝えられていたが、倉庫の移転は、12月3日に完了予定であり、ネット書店に対応するために、ロングテール商品の在庫を充実させる。と同時に、リアル書店にも日販の在庫をNOCS等を通じて可視化し、客注に迅速に対応できる態勢をつくっていく。新刊等動きの大きい商品は、ネット書店の需要予測をこれまで以上に精緻化し、ネット書店からのオーダーに応える態勢の構築をはかっている、とのことである。もちろんネット書店側の協力も必要になってくるであろう。また版元も自社在庫の情報、とりわけ品切れ情報や、重版出来予定等を取次に的確に伝えていく必要がある。これは、ネット書店ばかりでなく、リアル書店が日販在庫を把握して客注に対応するためにも必要である。
 街の書店がなくなっていく中、規模が小さくとも、すぐに客注に対応できることで、お客さんの信頼を得ていってもらえるようにすることは、版元・取次にとって非常に重要な課題である。とはいえ、会員社にとって、在庫情報の更新を発信していくための、時間、労力等、なかなか難しいことも事実である。どう対応していくかは、今後の課題であろう。
 また、近刊・新刊情報は、JPO出版情報登録センターに早めに登録すれば、それを利用したサイト等で、書店さらに直接読者まで情報が届くようになってきた。ネット・リアル書店を問わず活用されていく。数年前とはまったく違う情報の流れができているので積極的に利用していくことが必要だろう。
 すでにほぼ語られたことを繰り返し述べたにすぎないが、年末に改めて確認した次第である。
 若手といわれた自身がすでに還暦となってしまった。世情もろくでもない話ばかりで、加えて生活保護の食費等の生活扶助について、政府は3年間で160億円程度減らすことを決めた。F-35戦闘機が1機150億円であるとのことなのに。どうも声を出せる所が、メディアでは出版社ぐらいになってしまったようである。暗闇のなかでこそ希望はみえてくるのではないか、と思いつつ、新しい年を微かな期待をもって迎えたい。
 会員社のみなさん、よいお年をお迎え下さい。
出版協理事 石田俊二(三元社

2017年12月 4日 (月)

私・今・そして/あるいは紙々の黄昏

 この「季節」がやってきた。ここ数年、弊社(彩流社)では、一橋大学大学院言語社会研究科の院生をインターンとして迎えている。とはいえ、当初はこちらの意気込みもあって、複数の院生を迎え、「出版」にかかわる全般を、それぞれの分野の方々に直接お会いしてレクチャーを受けるという形で、差配人である愚生は奔走してきたのだが、あれやこれやの業務も増え、また寄る年波、肉体的精神的な疲弊が急激にすすんだこともあって、今年はひとりのみ(修士1年・S氏)の迎え入れとなった。
 とはいうものの、せんだって手にした冊子を読んでいたら、次のような文言が目に入ってきた。出版界の先輩、山本光久氏のことばである。「昨今、いわゆる〈人文知〉のみならず広く大学教育一般、いやむしろ教育全般に関して、近視眼的・成果主義的な抑圧政策が強まっていることは誰もが感じていることだろう。直近では、〈大学の専門学校化〉なる〈改革案〉(?)までもが飛び出した。有体に言って、これは常軌を逸した文言である。何を馬鹿な。その一方では、〈ノーベル賞〉的なるものへのあられもない垂涎ぶりがあり、無論これらは表裏一体で、とりわけ若い研究者たちの無用な足枷ともなっている(多くの文学者たちにとって優れた教育者でもあったエズラ・パウンドの口真似をすれば、〈教育機関〉ではなくて〈教育阻害機関〉ということ)。しかし、ここで現政権が、そもそも大学教育の何たるかを全く理解していないなどと今更のように慨嘆してみせても始まるまい。要は、文系・理系を通底する認識の〈筋力〉をいかに鍛えるかが常に問題になるはずだ」(「埋め草的に…」『ガラガラへび』228号・2017年11月、ぱる出版)。
 これまでも、著者・訳者とのお付き合いのなかで、学生の「学力」の低減についての話題を仄聞することが多かったが、この出版不況のなか、なにはともあれ意欲ある学生にはできるかぎり、われわれ出版界の者は「応えていくしかない」のだと奮起を促されたのだった。
 というわけでこの勢いをかって、まずは代表的な「ひとり版元」の下平尾直氏にお会いし、お話を伺った。氏は「出版」にまつわることを大所高所から、さらには微に入り細を穿って、いつにもまして熱く語ってくれた。要諦はコレだ。「なぜ本に惹かれるのか……。簡単なことだ。本には思想があるからさ。本にはなにがしかの思想が書かれている、という意味じゃない。本というものそのものが一個の思想なんだ。きみたちの好きなカネに思想があるように、本にも思想がある。どういう思想かって? 本はひとを幸福にする。本は、執筆者や読者だけでなく、それをつくるひと売るひと流通させるひとなど、それに関わるひとすべてを幸福にするんだ。たとえそれがエロやグロやゴミみたいな政治家や芸能人のゴシップであったとしても、本を媒介にすることによって、ひとは幸せになり、豊かになる。本さえあればカネなんかなくても生きていける。いや、そんなにカネがほしいなら、カネを生み出すことだってできるだろう。だからおれの夢はこの国を、いや、国なんかいらない、この世界を、花やカネやジヒギトリの代わりに本で埋め尽くすことなんだ。それが思想なのさ。あの棚やこの棚にあるすべての本を、ほら、きみの部屋の本棚へ!」(「ページの奴隷、編集者!」『大学出版』112号・2017年秋、大学出版部協会)。嗚呼、むべなるかな。
 そして次はハードルが高い、「紙・印刷・製本」についてのレクチャーである。差配人としては、すでに「年末進行」的繁忙期を意識せざるをえず、普段からお付き合いをいただいている明和印刷・田林明良氏に、印刷・製本に関しての工場見学およびレクチャーを思い切って依頼してみたところ、快諾を得た。ありがたい。「印刷することと出版することは、もはや同義ではない。デジタル・パブリッシングの時代にあっては、両者は異なるものである。また、〈プリントアウトされたもの〉と、〈印刷されたもの〉が肩を並べるようになる。我々はアナログ紙の上に書き、書かれたものを読む。また我々は、電子ペーパーの上に書き、書かれたものを読む。(ポール・)ヴァレリーの細菌には、まだまだやるべきことがたくさん残っている。これから当分のあいだ、我々は依然として紙の時代に生き続けるのである」(ローター・ミュラー『メディアとしての紙の文化史』三谷武司訳、東洋書林)と、愚生のあたまのなかで鳴り響いていた。感謝多謝であった。
 ことほどさように、われわれは、著者・訳者をはじめ、多くの方々のお力添え、協力なしに「本」をかたちにすることなどできない。さらにいえば、「本」をダシにして多くの方々との「つながり」を追求しているといってもいいのかもしれない。
 出版協主催の勉強会でこれまで何度か講師を務めていただいたブックデザイナー・鈴木一誌氏は、著書で次のように記している。「あらゆる書物は、他の書物と引用や参照の関係をもっている。周囲から孤絶した本は、読まれ得ない。一巻の書物という単位すら、仮の仕切りなのかもしれない。デザインは終われない」(『ブックデザイナー鈴木一誌の生活と意見』誠文堂新光社)。 
 まさに拳拳服膺、以て瞑すべし。
出版協理事 河野和憲(彩流社

2017年11月 6日 (月)

出版協ブックフェス開催しました

 9月9日(土曜日)、「第0回 出版協ブックフェス」を、東京の千代田区「在日本韓国YMCAアジア青少年センター」で開催しました(朝10時~18時まで)。
 出版協として開催した初めての「ブックフェア」でした。当日は爽やかな秋晴れで、来客萬来ならば言うことなしで楽しい年末が迎えられるはずでしたが、なかなか期待通りに行かないのも、世の常でしょうか。
 以下、反省点も含め今後のために報告いたします。
●出展社 あけび書房、凱風社、解放出版社、海鳴社、共和国、現代書館、現代人文社、合同出版、こぶし書房、コモンズ、彩流社、三一書房、三元社、自然食通信社、社会評論社、不知火書房、新宿書房、新泉社、知泉書館、筑波書房、南方新社、パイインターナショナル、晩成書房、批評社、ぺりかん社、木犀社、唯学書房、リベルタ出版、緑風出版 
計29社。
●売上 全社総額 約40万円弱
●メディア掲載実績 事前掲載・新文化、図書新聞、週刊読書人、毎日新聞朝刊、東京新聞朝刊
●その他事前告知手段 ポスター掲示・東京堂書店神保町店、千駄木往来堂書店、千代田区図書館 ならびにTwitter
 参加された出版社から以下の三点のご意見を頂きました。
①集客・売上が少なすぎた。その原因として、告知不足、場所が悪い、出版協の単独開催であったのも客を呼べなかった一つの要素かもしれない。
②合計3回あった、トークイベントが販売の妨げとなっていたのではないか(ブックフェスの会場とイベント会場が同じ所で、トークを聞くために集まった来場者が会場の中央の席に座ってしまった。そのため、トークがいったん始まったら終わるまで、会場内を回って展示してある本を眺めるということがまったくできない雰囲気となってしまった)。また、トークイベントの内容も一般読者向きというよりは業界・関係者向けではなかったのか?
③定価販売だけでなく、もっとこの日だけの値下げ販売も検討してよかったのではないか? 等々。
・開催会場に関しては、古くからの本屋街である神保町にも近く、必ずしも不利な条件とはいえないのではないか(会場を1日借りる経費も、都内の他の会場と比較すると格段に安かったのです)。
・トークイベントに関しては、反省すべき点が多かったと思います。イベントの内容はまだまだ考える余地はあったと考えます。トークイベントの設営はブックフェスの会場中央に椅子を配置したことで、お客様が通路を回遊できなくなりました。イベント用に会議室を別に借りるなどすべきでした。
・値下げ販売に関しては、出版協が主催する以上、定価販売以外の案は考えられませんが、B本や、ヤレ本についてはその旨、明記の上で販売可、と事前説明会の際に各社へ伝えています。
 イベント運営では様々な問題点・反省点がありますが、やはり最大の問題点で課題なのは「集客」問題です。来場者アンケートによると、今回のフェスを知るきっかけとして一番多かったのはTwitter(56%)でした。そのほかは口コミ、知人の紹介が多く、意外にもマスメディアや書店告知経由での認知はゼロでした。 
 今回の「ブックフェス、イベントに行ってみよう」という要因として、一番多かったのはSNS(Twitter)。これは、新刊・既刊の告知にも有効です。このSNSへの取組を大きな課題として考えていこうと提案します(参加社のうち半数はSNSを実施していないことに鑑み、まずはSNSとは何かからの勉強会を開催していく予定です)。
 また、告知の方法としてインターネットのみならず、神保町界隈の書店さんでチラシを配布する方法なども考えられました。これについては、各版元の協力が必要です。さらに、出品書籍のジャンルによりマニアに告知する方法も必要で、そうした告知方法も検討すべきだと思います。マスメディア経由の認知ゼロはショックですが、良い方法があれば出し合いましょう。
 次回の開催は現段階では決定してはいませんが、「これにめげず、壁をぶち破って次回も開催したら」という心強い声援も頂いております。知恵を振り絞って、頑張っていきましょう。
出版協理事 金岩宏二(現代書館

2017年10月 6日 (金)

遺品が語る沖縄戦

「空気なんか、読まなくていいじゃない。ほんを読もうよ。」のキャッチフレーズの下、第0回出版協ブックフェスを9月9日に東京の神保町近くで行いました。関係各位の皆さま、またご来場くださった方々に感謝の言葉を申し上げます。
 今年の夏はこうしたイベントをはじめ、いくつかのトーク会、フィールドワークや展示会に参加しました。その中で今回の「遺品が語る沖縄戦」の展示を見る機会をえました。場所は大阪市内のさるお寺の中で実施され、この後、ほかの地域でも開催の予定ということです。
 沖縄は、1945年3月、先の太平洋戦争でご存知のように日本で地上戦が行われた唯一の地です。その沖縄で、各地の壕に入りながらたった一人で沖縄戦の遺骨・遺品を収集されてこられた国吉勇さんがおられます。その方は老齢のため、2016年3月に収集をやめ、ご自身が造られた戦争資料館で約12万点の遺品を展示し、来館者に自ら説明されているそうです。
 展示会は、この遺品を保存・継承することと、収集の活動を全国に向けて発信することで、沖縄戦の凄惨さを全国で共有し、これからの平和について議論する場を創出することをめざした若者たちが、開催しました。
 今回の展示は、沖縄にある戦争資料館から53点を選んで運んでこられたものです。70年以上も経っているモノばかりですので、輸送や収納の作業など大変だったとのことです。すべて当時の「現物」であるため、見る側では直接に手で触れたり、持ちたくなる方もいます。そのときは主催の方々が瞬時に、そしてやさしく注意をしています。53点の内訳は「住民の生活用品」が11点、「壕を支えた道具」6点、「日本軍の武器」10点、「医療を支えた道具」14点、「日本兵の持ち物」12点でした。
 どれも年数物ですが、カタチはそれなりに分かるモノばかりでした。それらが見つかった場所やその状態の説明文を読み、また話を聞きながら、「現物」から受けた私の衝撃や感想を文章で伝えるのはなかなか難しいことですが、以下、数点について、その紹介をさせていただきたいと思います(以下の文章で「 」は各々の遺留品の説明書からの引用です)。
 糸満喜屋武陣地壕で収容の万年筆(住民の生活用品)は「余暇時間に壕で手紙を書くのに使ったもの。多く出土する遺品の一つで、…戦争資料館にも200本以上収容されている。当時、万年筆にフルネームを彫り込む習慣があったため、遺族に返還できることも多い。」
 糸満大里陣地壕で収容の工作用のドリルの刃(壕を支えた道具)は「壕を掘るときの工作(例えば壕に電気を通すために壁に穴を開けるとき)に使われた。ドリルの刃が収容されたのはこの1点だけ」とのことです。
 真玉嶽陣地壕で収容の陶器製手榴弾<残骸>(日本軍の武器)は「鉄不足のため、沖縄の伝統産業である陶器で作らせた手榴弾。投げにくく、殺傷能力も金属製には劣った。」
 曲がった注射器(医療を支えた道具)。糸満新垣病院壕で収容。「ガラス製だが、火炎放射器で焼かれたために変形した。当時の壕の温度は1300度に達したと推測される。」
 杯(日本兵の持ち物)。白梅の塔の壕で収容。「銅製、切り込み隊が切り込みを行う前に、酒を飲み交わしたときに使われたと思われる。追い詰められて人が結集した場所などでまれに発見されることがある。」
 一式固定重機関砲<残骸>。「収容されたそのままの形を復元したもの。激戦地の壕のヘドロの中から出土した。重機関砲は1点しか収容されておらず、大変貴重である。重機関砲は、当初戦闘機の零戦に付けられていたものであったが、地上戦が激化したとき零戦から外して地上戦で使われたこともあった。今回は展示していないが、この銃と共に三脚が出土したため、地上戦で使われた可能性が高い。」展示者の話によると、地上戦では3分位しか続けて撃てないとのことです。熱を持ちすぎて支障が出るため、休んで冷やさなければならないとのことでした。あの零戦で使うなら風圧で冷却されるため休む必要はないとのこと、まさに飛行機で使用するための武器としてつくられたものです。
 今の沖縄における基地問題などを考えるうえでも貴重な機会であり、とても感慨深い時が過ごせました。
出版協理事 髙野政司(解放出版社

2017年8月30日 (水)

アマゾン号が砲撃を開始した

欠品率の成績表
 去る8月9日、アマゾンから「貴社欠品状況と日販引当率」(先週1週間)をお知らせします、というメールがデータ添付で送られてきた。1週間前にも同様の成績表が来ている。「6月30日をもって、日販様、大阪屋栗田様へのバックオーダー発注を停止しており(中略)貴社に在庫があるにも関わらずamazon.co.jpで在庫切れとなっている状態を防ぎ、(中略)お客様に商品をお届けできる状態を作るための参考」との前口上付きだ。 
 このデータによると、先週1週間の欠品率:20. 9%――1万回の閲覧があったとすると、2090回は欠品状態になっていたというのである。 
 欠品状態では、「在庫あり」表記と比較すると、購買率が大きく低下するとコメントしている。
 
発注冊数、銘柄点数、引当数 
 この3点についてもデータが送られてきた。日販にスタンダード発注した総冊数の内、引き当てられた冊数は、16.5%だとされていた。アマゾンは日販に対して適切な在庫数をデータ開示しているという。
 
カート落ちとマーケットプレイス 
 カート落ち商品(買い物かごがなくなり注文不能になる)になると、アマゾンでは買えないことになる。もちろん、マーケットプレイスという第二市場が設けられているが、新刊発売後4週間でカート落ちして、マーケットプレイスで本体1500円の本が4800円で出品されていたという版元の話を聞いた。
   これはならじとこの版元は、マーケットプレイスに自社から1500円で新刊在庫を出品したという。
  北海道から翌日にはカニが届く時代。本を欲しい方の手元に遅滞なく届けられるように、日販―大阪屋栗田―アマゾンの間で不断のシステム改善を実行してほしい。日販さんの倉庫統合、ロングテール在庫充実の効果に注目している。
 
最恵国待遇と独禁法違反 
  アマゾンは「カート落ちや欠品状態の解消にはe託販売サービスのご利用」を勧誘している。e託を利用すると版元はアマゾンと直接やり取りすることが可能になるという。そう言えば6月末日までに直取引をすると契約条件を優遇するというお誘いもあった。
   一方で、6月にはアマゾンが「最恵国待遇」条項を取引先に求めていたことで、公取が独禁止法違反の疑いがあるとした。「俺との取引はもっとも安い価格でないとだめだぞ」という「最安値条項」は、優越的地位乱用の最たるものだろう。8月にもアマゾンは電子書籍での「最恵国待遇」契約の存在を認めてこの条項の破棄を発表した。
   「同等性条件」とも強弁していたそうだが、契約書にこの文言が入れば、納品業者はたまったものではないだろう。一番安くなければ、契約違反で取引を停止をほのめかされるだろう。
   契約書からこの文言がなくなったからと言って、アマゾン本社のビジネスマインドは変わるのだろうか。
  年間契約で、実績で契約条件見直しをし、あまつさえ契約の実質的な決定者が「会社」ではなく、部局の責任者に任されていて、その責任者も年俸で評価されているとしたら、取引するこちらとしては、「共生」の心根がない責任者に変わったらと戦々恐々である。
 
アマゾンは再販制を守るか 
    「一番安く仕入れて、どこよりも早くお客様に届ける」。後半は良い。前半を実現するには、つねにデータ評価で取引先との条件を「最適」なものにしていく。
   このビジネスマインドが基本だとすると、本の価格維持を担保している再販制をアマゾンは尊重するのか。
   一強、できれば独占ならなお結構、版元とアマゾンが直取引をするなら、取次はいらなくなる。書店はかろうじて街の新刊書籍・雑誌の見本展示コーナーになる。展示コーナーの機能だけでは、文化・学術施設で公営にするか、入場料経営になるだろう。
   これは、ある熱帯夜の明け方、悪夢にうなされた。
   「昔、出版界には取次があって、街々にあった書店では本が買えたのだ」 
   「4500社ほどの出版社があったが、今は、300社程度かな。それでも大したもので、『カント純粋理性の思索』という本が500部も売れるから、捨てたもんでもない……」 
 大変貌した出版界の未来図である。
 
出版社に求められるもの?
   カスケード発注、スタンダード発注、在庫ステータスなどなど、さまざまな新用語が飛び交う。ほとんど、営業部でもフォローできていない。
  学習と情報交換、出版社サイドからの読者・書店・取次・著者との関係再構築が必要になっている。とりあえずのスタートに、出版社間の情報交換から進めたいものである。(2017.8.28)
出版協副会長 上野良治(合同出版

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