ほんのひとこと

2017年6月 9日 (金)

前門のアマゾン、後門の取次

 
■不意の挟撃
 連休直前の4月28日、アマゾンジャパン合同会社書籍事業部購買統轄部から、「重要なお知らせ」が届いた。この6月末をもって「日販バックオーダー発注(非在庫商品取り寄せ)」を終了する、というのだ。
 あまりに唐突な「お触れ」に、出版業界は上を下への大騒ぎ。さらに、5月2日の日販の「見解」が、追い討ちをかける。「今回のお申し入れのままでは、出版社の取引の選択が狭められ、対応ができない社が出ることも懸念されます」と。
 真っ先に「対応できなく」なりそうな零細出版者としては、それだけでも戦々恐々なのだが、泣きっ面にハチ、連休が明けると、今度は五軒町方面から、「返品率上昇」を理由に「協議したい」旨の連絡を頂戴することに。この手の申し出は、過去2度も体験しているので、先方が何を言いたいのかは百も承知。要は、取引条件の改定要請なのだが、まかり間違っても改善してくれるといった話ではない。
 ともあれ仕入窓口に出頭。前年度の不本意な「成績表」(データ)を前に、先方の言い分を神妙に聞く。一通りの説明を受けてから、「本日はお話を伺うだけにして、後日、質問状をお出ししますので、文書にてお答えいただいたうえで "協議" に入らせていただきます」と席を辞した。
 
■優越的地位の濫用?
 実は小社、トーハンとの直接取引はここ20年くらいのものなのだが、そのスタート時、「取引をお願いする」という当方の圧倒的に弱い立場ゆえ、不承不承、署名捺印せざるをえなかった「条件書」には、こうあった。返品率と「歩戻し」の率を連動させるというのだ。しかし契約の場で急遽書き込まれたその条項は、いつまでも零細版元を苦しめ続けることになる。
 しかもその文書、取引契約書とは別建てではあるが、本契約と同様の拘束力を持っている。だが、どういうわけか、当方にはその控えも渡さないという、きわめて不明朗なものだった。
 そのようなものが、何年も後になって「返品率上昇」が問題にされたときに持ち出され、そのときに初めて、その控えが、あろうことかFAXで送られてきたのだった。
  ところで、「返品率上昇」を理由に、取次が版元の取引条件の引下げを求めるというのは、「その責任はひとえに版元にあり、版元だけが責を負うべし」との考えのよう。では、その合理的な根拠はいったいどこにあるのか、取次は丁寧に説明しなければならない。
 その点について納得しうる説明ができないのなら、これは独占禁止法に言う「優越的地位の濫用」に限りなく近いと指弾されても仕方あるまい。
 
■色とりどりの差別取引
 翻って、そもそも「歩戻し」とは何なのか? 「注文支払い保留」とは何なのか? そして、それらをもっぱら後発の弱小版元に課すことの正当性は、どこにあるのか? これらの問いかけに取次の説得的な説明がなされたとは、寡聞にして知らない。
 1973年に勃発した「ブック戦争」は、翌74年に「版元出し正味を最低69%、取次マージン8%(8分口銭)」で一応の決着をみたものの、80年代以降、取次店は新規取引版元を中心にこれを68%、67%へと、なし崩し的に切り下げていった。こうして「取次8分口銭」という原則は、いつしか「9分」へ、さらには「10分口銭」へと変えられてしまった。
  しかも、それがもっぱら弱い立場の新規版元に対して進められたことが、今日ある差別取引の基本構造をつくりあげたと言っても過言ではないだろう。創業したての版元が巨大寡占取次相手に条件交渉できる余地など、これっぽちもない。取次店の「優越的地位」は、いささかも揺らぐことがないのだ。
 社会のさまざまな領域で「差別」が問題視され、その「是正」が叫ばれつつある昨今、このような「差別取引」は、もはや時代遅れのものとなっているのではないのか? そして、出版が何より大切にしなければならない「多様性」を奪いかねない「差別取引」は、一刻も早く撤廃しなければならない。
 
■ 熟考に熟考を重ね…
  ここで「ふりだし」に戻ろう。アマゾンである。
 アマゾンが今回、「取次外し」とも言える乱暴な挙に出た背景の一端には、上述のような取次の「差別取引」があることを見逃すわけにはいかない。そのウイークポイントを、みごとに突いてきているからである。
「差別取引」に苦しめられ続ける中小零細版元が、鼻先に差し出された一見好条件とも思える「擬似餌」に目が眩んでしまうのも理解できなくはない。
だが、ちょっと待て。e託契約の前に、よーく心しておかなければならないことを、2つだけ挙げよう。
  まずは、その初期の契約条件がせいぜい1~2年限りのものでしかないこと。先方の間尺に合わなくなれば、いつでも無慈悲に破棄されることを覚悟しておかなければならない。
 そして、くだんの「e託販売サービス規約」第7条には、「甲(アマゾン)は単独の裁量で、乙(出版社)のタイトルの小売価格を決定します」と、白昼堂々「再販制崩し」を宣言していることも、見逃してはなるまい。
 
出版協理事 田悟恒雄(リベルタ出版

2017年5月12日 (金)

イノベーションは人間を幸福にするのか?

                                   出版協理事 村田浩司(唯学書房)
「ロボット社会主義」と編集業務
 私は学生時代(およそ30年ほど前)に、遅ればせながら「軟弱な(?)」学生運動に取り組んでいたが、一緒に活動を行っていた理系某大学の友人が、「ロボット社会主義」なるものを提唱していた。いわく、「科学が進歩して、これまでに人間が担っていた労働をロボットが肩代わりするようになれば、人間は搾取的な労働から解放され、社会主義が実現する」というものだ。「階級闘争もないのに社会主義が実現するんかい?」と、私は反論した記憶があるが、まあいずれにしても、お互いに、20歳前後の粗い議論だったことは否めない。ただ、薄らぼんやりとではあるが、科学技術の革新が、格差の是正や労働環境の改善など、何かしら人類の幸福に貢献するであろうことは、当時の誰しもが夢想していた。
 その後、私たちは90年代中盤以降のIT革命により、仕事の環境やライフスタイルのドラスティックな変化を体験することとなるが、私が中堅出版社の雑誌編集部に就職した90年代初旬はまだ、アナログの最後の時代であった。OA機器といえば、編集部に1台ずつあるワードプロセッサーと、フロアにはファックスとコピー機があるのみ。雑誌の組版は当然活版で、再校以降の修正は、次ページに被害が及ばないように文字を数えながら調整を行うという配慮が必要であった。ダメな著者が再校ゲラを真っ赤にして戻してきてしまうと、印刷所の怖い活版職人のおじさんから電話がかかってきて、こっぴどく叱られたことを覚えている。
 また、雑誌のゲラの著者校正は、当然、持参か郵送で、時間がない場合にのみファックスでの確認が許された。校正の締め切り日前後には、著者校戻りゲラの回収に、著者の勤める大学や自宅を行脚する日々が続いていた。
 その後、数年を待たずに、PCが普及し、Eメールの「添付ファイル」によって、原稿は編集部に居ながらにして入手できるようになった。
 組版も、長年の経験を経た職人の仕事であったものが、2000年代初頭には、MACの低価格化とアプリケーション(QuarkXPress)の普及により、少し訓練を積んだ者が簡単に担えるほどハードルが一気に下がった。いずれにしても、これまで時間と費用をかけて行っていたものが、誰でも簡単に行えるようになったのだ。イノベーションの勝利である。では、「ロボット社会主義」も実現したのだろうか? その答えは「否」である。技術革新は、さらに私たちの労働を増やし、日常の細部に至るまで管理する(される)環境を構築してしまったことは皆さんも体感されているはずだ。
 
「オムニチャネル」の功罪
 さて、前置きはこれくらいにして、今回の本題に入りたい。物流革命と言われている「オムニチャネル」に関してだ。オムニチャネルとは、「実店舗やオンラインストアをはじめとするあらゆる販売チャネルや流通チャネルを統合し、どのような販売チャネルからも同じように商品を購入できる環境を実現すること」である。また、オムニチャネルは、市場優位性を確保すべく、きわめてユーザーフレンドリーに物流を再構築するのも、重要な要素だ。このことを顧客サイドから説明すれば、「欲しいものが」「欲しい時間と」「欲しい場所で」手に入るシステムがオムニチャネルである。
 企業サイドは、顧客の消費を喚起すべく、ビッグデータからあらゆる個人情報を吸い上げ、個々人の嗜好や趣味を精緻に把握し、ITメディアを駆使して、TPOに応じた情報をプッシュ型で提供する。たとえば、通勤の電車の中では、仕事で使える便利グッズやランチの弁当情報などを提供し、簡単な操作さえ行えば、適切な時間と場所にその商品を届けてしまうわけだ。
 アマゾンの「プライム会員」は、まさにこのオムニチャネルの一端を担うサービスとして多くのユーザーに利用されている。「欲しいものが」「欲しい時間と」「欲しい場所で」受け取れるわけだ。居ながらにして、あらゆる欲求を満たしてくれるミラクルワールドである。しかし、これは、ITと物流をマッチングさせた「イノベーション」の勝利なのだろうか。「ロボット社会主義」なのだろうか。
 答えはやはり「否」である。アマゾンの物流を担っていたヤマト運輸は、荷重な残業労働と人材不足を理由に「当日配送」からの撤退を表明した。これと前後して、ヤマト運輸は労基署の是正勧告を受け、ドライバーを含む7万人超の従業員への未払い残業代の支払いを余儀なくされている。
 一方で、アマゾンの物流倉庫においても、非常に過酷な労働が強いられている。詳細な実態は、「Mother Jones」誌の記者、マック・マクリーランド氏のルポ「I was a Warehouse Wage Slave」に詳しい。
 非常に厳しい「ブラック」労働にさらされている労働者は、社会総体から見れば、アマゾンでの「オムニチャネル」のサービスを享受している人々と同じである。タコが自分の足を食う(食うことを強いられている)地獄の中で、資本主義は延命を図っているのだ。
 イノベーションはあくまでもツールに過ぎない。「誰が」「何のために」それを利用しようとしているのか。そこを私たちは見極めねばならない。そして、時として「時代遅れ」であることを選択する勇気も必要なのだ。(2017年5月 55号)

2017年4月 5日 (水)

2016年度の活動から

 去る3月8日に第5回の定時総会を終え、出版協としては6年目、現理事会の体制になって2年目が始まった。

 総会当日にも報告があったが、2016年度の活動の中でも特徴的なものをご紹介したい。

 

 芳林堂書店高田馬場店選択常備伝票切替問題と5者協議

 2016年2月26日に太洋社の大口取引先であった芳林堂書店が自己破産を申請、商号をS企画とし、書店事業を書泉に譲渡することで合意、帳合取次店はトーハンとなり、在庫品は太洋社からトーハンへ売却され書泉に納品という形で引き継がれた。

3月15日に自主廃業を目指していた太洋社が自己破産を申請し、帳合書店の常備品は新規取引の取次店に伝票切替で引き継がれたが、この際、出版社に対して、セット一括搬入分のみが案内されただけで、選択常備品に関しては宙に浮いた状態だった。各出版社はこの状態を解消すべく書店、取次店に働きかけたが、書店・取次店は「買い取った商品」と応じなかった。

この事態に出版協は、太洋社破産管財人・トーハン・書泉に強い抗議ならびに速やかな伝票切替の対応を要請する文書を送付する。

7月に入りトーハンを介して「関係5者協議」の提案がなされた。これを受けて、内外への告知と会員社の状況を調査し集会を開き、会員外を含め8社が参加し、早期の解決を目指すこととした。

8月28日に、太洋社破産管財人、S企画破産管財人、書泉親会社、取次店、出版社の5者による協議が行われ、太洋社破産管財人が譲渡されたとする書籍リストを照合し、該当するものだけが伝票切替の対象とすることになる。

そして10月14日付で伝票切替が実現する。

後に個人会員から自社の常備商品について取次店に対して担当者レベルで要請をしたが解決がつかない旨の相談があり、上記の経緯を知らせるとともに、会社レベルで破産管財人に要請するよう忠告。後日解決に至ったとのこと。

いずれにしても、当然のことを正面から筋を通したほうが禍根を残さずに済むのではないかと感じた出来事であった。

 

 各種イベント、講座の開催

 前年に引き続き、対外的な広報活動の効果も期待し、「ブックデザイン講座」として3回のイベント講座を行った。

 1.「《デザインの種》から編集的デザインへ」(鈴木一誌氏)

 2.「祖父江+コズフ+慎+イッシュ」(祖父江慎氏)

 3.「本づくりと聖書(The Book)」(桂川潤氏)

ブックデザイナーとして第一線で活躍中の諸氏が講師ということもあってか、毎回定員を超える申し込みで、当日も満員という盛況ぶりだった。

 また、参加者も会員外の比率が高かったとのことで、当初の目的であった広報的な役割を果たすことができ、より出版協を身近に感じてくれればと願う。

 次に新規会員社及び個人会員の獲得と会員社内の知識と技術の向上を企図して、各種講座を開催した。

 まずは、副会長の上野氏が講師となって、「出版連続講座」を6回にわたって開催。

 1.どんな判断で書籍企画の採用/不採用を決定しているか

 2.原稿整理はとこまで許容されるか?

 3.著者のための本を作らないというルール

 4.小社では原価率をどう設定しているか/初版部数の決定法則

 5.実売部数・返品率をどのような表で管理しているか

 6.編集者にとって必要な能力とは何か?

といった刺激的で魅力的なテーマのせいか、こちらも毎回満員の状態。この講座をきっかけに出版協入会となった会社、個人の方があった。

 これら編集寄りの講座に加え、営業寄りの講座も開催した。

 ・「混迷を深める出版界を見極める」(小田光雄氏+中村文孝氏)

 ・「図書館営業基本の基」(尾下千秋氏)

 こちらの講師諸氏も業界内ではそのお話を一度は聞いてみたい方々であったこともあり、各回とも好評であった。

 各種講座は全般に好評で会員外からの参加も多く、参加した会員にとっても刺激になった。

 

 以上、昨年度の活動の一部をご紹介した。

「芳林堂書店高田馬場店選択常備伝票切替問題と5者協議」は、流対協から引き続き、取引・流通問題に対して「もの言う」スタンスの継承、「各種イベント、講座の開催」は、理事会の若返りとともに出版協として新たに始めた活動である。

 

ところで、お気づきであろうか。いずれも会員外の方々にも対応している。

現在の会員社の顔ぶれをごらん頂いてもわかることだが、多分、皆さんが思っている以上に、出版協はオープンな(はず)ので、興味をもった講座・イベントには気軽に参加いただき、取引上だけでなく、ちょっとした困り事から、できる限り知恵をしぼってお答えしているので、こちらも気楽にご相談いただきたい。

廣嶋武人ぺりかん社 )●出版協理事

2017年3月 1日 (水)

「変えてはいけないもの」

もうすぐ新年度ですね。年度末進行や、組織変更、新入社員の入社準備などで忙しい方も多いと思います。新年度の抱負について考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

弊社の場合、新年度の抱負を年末のうちに考えます。変化の激しいこの出版業界で生き残るために、何か新しいことをせねばならないのではないか、という強迫観念に毎年襲われます。しかし今年の場合は少々違いました。

 

昨年末、自然風景の写真家Tさんとの忘年会でのこと。私がTさんに「来年の抱負はありますか?」と尋ねました。Tさんはしばらく黙ったのちに、「……いや、何もないね。ずっと同じことを続けるだけだよ」とおっしゃいました。

私はその時、はっとしました。Tさんの言うとおり、「変わらないこと」のほうが大事なんじゃないかと。

実際にはTさんの写真は、年々変化し、常に新鮮なテーマを追い求めています。しかしそこには、たとえ酷暑の荒野でも、極寒の冬景色の中でも、世界中、何時間でも自分が撮影したい風景が現れるのを待ち続ける、変わることのない美への追求という姿勢がありました。

 

弊社においても、変えてはいけないものがある、と思い至りました。それは、出版企画における3つのポリシーです。

1. 自分たちが欲しいと思える本か

流行っているから、ではなく、作り手や売り手が欲しいと思えるか、つまり読者の視点に立って本づくりをできるか、また販売戦略が立てられるか、ということになります。

2. 自分たちが作ることで類のない本になるか

自分たちの強みを活かすことで、差別化し、新鮮な提案ができる分野か、ということです。他社が作っても変わらない内容であれば、わざわざ限られた時間を使って、自分たちが作る必要はありません。

3. 10年でも自分の本棚に置いておきたい本か

私たちは単なる情報としての本ではなく、プロダクトとしての魅力を備える本を作っている自負があります。一時的な流行物は、一度に多くの部数を配本できる大手出版社と比較して、弊社の得意とするところではありませんので、不変的テーマを扱うよう心がけています。

これらは多くの出版社で、共通しているポリシーかもしれません。

 

ですが一昨年から、そうとも限らない現象を目にしてきました。

それは「大人のぬり絵」です。「大人のぬり絵」は、2015年夏から2016年春ごろにかけて、世界中で大ブームになったジャンルで、記憶に新しい方もいらっしゃると思います。日本においても10年以上前から河出書房新社さんで出版されてきましたが、主に年配層向けという認識を持っていました。ですが一昨年、英Laurence King社が原書として発売した『Secret Garden』(邦題『ひみつの花園』グラフィック社刊)、『おとぎ話のぬり絵ブック』(弊社刊)といった、20代女性を含め、幅広い年齢層を読者対象とした「大人のぬり絵」書籍が刊行されました。

 

それぞれの出版物が異なった年齢層を対象としていたことから、書店店頭では複数タイトル並べても、競合するどころか相乗効果を生むこととなり、それまでに知られていなかった潜在需要を開拓でき、メディアでも多数取り上げられました。弊社では当初、それほどの需要があるとは考えておらず、あくまで美術系出版社として新しい提案をし続けてきた延長線上にありました。

 

ところが一度ブームになると、大手を含め、多くの版元が参入してきました。プレーヤーが増えること自体は、そのジャンルが互いに切磋琢磨することになり、読者にとっても選択肢が増え、よいことです。問題は決してクオリティの高いものばかりではないことでした。弊社では、作家と編集者とが、二人三脚で時間をかけて本を作りますが、聞くところによると、版元から人気作家に制作依頼が殺到し、その内容が「短期間で、内容は作家におまかせで、少額で」というものも含まれていたようです。そうしたものが出回ると、棚は玉石混交となり、読者が離れていく要因となります。この現象は世界中で起こりました。

私はそのとき愕然としました。これが、出版の衰退を加速させている原因の一つではないかと。私たちは、決して安易に流行に流されてはいけない。私たちが大切にしている出版のポリシーを守り続けようと思いました。

 

実は、似たようなことが10年ほど前の米国で起きたようです。日本のマンガがブームになり、様々な出版社から日本のマンガの翻訳本が出版されましたが、棚が玉石混交となった結果、読者離れが起き、苦しい淘汰の時代があったようです。その中でもブームに振り回されずに、厳選した翻訳出版を続けてきたDark Horse社やVIZ Media社といった版元が生き残りました。今ではBarnes & Nobleなど大型の書店において、日本のコミック棚はアメコミをしのぐ勢いを見せています。

 

変化することも大切ですが、そもそも私たちは何のために出版という仕事をしているのかを考えたとき、変えてはいけないものもあることを思い起こした新年度となりました。
三芳寛要パイインターナショナル)●出版協理事

2017年1月30日 (月)

年度末雑感


2月、3月の年度末に向けて、綱渡り的な毎日が続いている。毎年繰り返されることであるにして、今年は例年に比して、さらに危うい日程調整が続いている。小社など専門書が主力となっている版元さんは、同じような状況であろうと思われる。学術振興会の科研費また各大学の出版助成などなど、2月中あるいは3月中での刊行が義務付けられているからである。もちろん、それぞれ採択から、しかも多くの場合、完全原稿があって、それを審査した上で採択されたものであるはずなので、少なくとも、紙の上では半年以上の制作期間があることになっている。したがって、よほどのものでないかぎり、日程的に無理があるわけではない。順調にいっていれば、大方、年内12月には刊行できているはずである。

しかし、そういったことは、小社の場合でも極めてまれな例である。
採択されてから、原稿に手直しが入り、さらに推敲しなどなどで、版元に届くのが遅れる。しかも、近年は、大学では学期内は関係者の忙しさが飛躍的となっているので、その期間落ち着いて原稿に取り組む余裕はないようである。したがって、夏休みの間にそれを行うというのが、現実的であろうと思われる。そうすると、いきおい、脱稿はさらに遅れることになり、早くて9月あるいは10月くらいにようやく、脱稿となる。

さてようやく制作に入ると(といっても、版元もその頃、そういった原稿がまとめて入ってくることになる)、大学がはじまり、なかなか予定通りには、校正が進まない。こちらも、複数本を一気に抱えることとなり、思い通りには進行できない。加えて、図表、図版が多いものは、それがあとから揃うなどもあり、より混乱の度がましてくる。

なんだかんだで、再校が出てくるのが、結局、正月明けになってくる。それから念校になるのだが、センター入試、私大では入試が始まり、著者、版元ともにバタバタしながら、ようやく念校にたどりつき、頁が確定してから、索引をとるというこれまた、難儀な作業が最後に残り、これが、時間がかかる。

 


科研の刊行助成は2月中が締め切りであるが、この時期の印刷、とくに近年では製本が非常に混み合ってくる。通常であれば、印刷所にデータを渡してから、2週間みておけば見本となるのだが、そう順調にはいってくれない。2月10日までには、入れないと間に合わないこともあり得る。
ようやく見本を納めると、最近では、やたらと提出書類が多い。どの取次に何冊出荷したのか、伝票を示せ、著者に何冊送ってなどなど、また、請求書をもう一度提出せよ(しかし助成金額が決まっているのに、なぜもう一度、請求書が必要なのか分からないが)など、これにも手間がかかる。
以前は、科研の刊行助成は、筆者と版元の間だけで処理されていたものが、大学がすべて処理するようになった。このため、大学が請求書を提出せよと言ってくるようになったわけである。そもそも国の助成金になぜ、消費税があるのか、分からないのだが、こちらで請求書を出せば、何もしなくとも、内税ということになってしまう。ということは、消費税分が助成金から目減りするということである。これは、小出版社にとっては、かなり大きい。

などなどしている間に、今度は、3月の締め切りとなる。こちらは、2月にまして、各版元の決算期にあたるのか、毎年刊行点数が非常に多い。それと、年度末の締め切りの出版物がかさなるので、大混雑となる。印刷所との打ち合わせた日程で進行しないと、まず年度末には間に合わないことになってしまう。このため連日の綱渡りとなる。
しかし、なんとか締め切りに間に合っても、なぜか助成金の支払いは、3月末ではなく、4月末になっている。年度末までの支払ではなくていいようである。であれば、金額は決まっているのだから、締め切りをそれほど、厳格にする必要などないのではないだろうか。よく分からない。

ということで、以上のような状況が現在進行形のなか、この原稿を書くことになり、愚痴っているとしかいいようがないのであるが、なんとか手立てはないものだろうかと思う。
せめて、年度末という締め切りを、採択後、1年以内として、採択時期を2回にわけるとか、大学関係の助成金は、例えば、6月(9月)採択、翌年6月(9月)までに刊行とか、出来ないものであろうか。そうすれば、多少なりとも事態は改善するように思えるのだが。

だったら、そんな助成金に頼らない出版をすればいいではないか、とも言われそうだが、専門書で助成金をまったくナシで刊行するのは、現在非常に厳しいと思う。助成金で制作費がまるまる賄えるわけではなく、各社かつかつでやっているのではないだろうか。小社に限っていえば、助成金がついても、なるべく価格を抑え、一般書店でも買える価格を付けたいとすると、助成金の総額はどうしても低くなってしまうようになる。しかし、そうした本が一般書店で販売されて、手にとってもらえることが、知の下支えになるのではないかと思っているのだが。

 

石田俊一三元社 )●出版協理事

2016年12月27日 (火)

「世界一美しい本を作る男GS」に触発され考えた 二、三の事柄

先日、池袋演芸場のまえでばったり梅原圓朝氏に会った。なんでも古書店組合の寄り合いがあったらしく、酔い醒ましに歩いて帰宅する途中という。この圓朝氏は氷川町(板橋)で古書店を営んでおり、近くに住んでいるわたしは店にお邪魔しては(焼酎の御相伴にあずかり)、「本」にまつわるよしなしごとを拝聴するのであった。
 
「しばらくでしたねぇ。ところで、東京藝術大学美術館・陳列館で、《世界一美しい本を作る男》として世に知られたゲルハルト・シュタイデルさんが差配する《Robert Frank: Books and Films, 1947-2016 in Tokyo》という展覧会(2016年11月11日~11月24日)が開かれていますが、ご覧になられましたか。この展覧会、学生が什器の製作から広報・宣伝まで裏方として働いていて観覧料が無料なんです。あなたも多忙でしょうが行ってみるといいですよ」
 
「ええ、ロバート・フランクのファンの友人からはその情報を聞いていたのですが、行こうと思いつつもなかなか時間がなくてまだなんです。シュタイデル氏の仕事は出版者たちに多くの示唆や刺激を与えてきたはずです。ドイツの地方都市、ゲッティンゲンに彼の会社がありますが、多くの作家やアーティストに支持され、世界中を飛びまわるシュタイデル氏です。ことに今回の展覧会では彼のその智慧を盗みたいものですね。また私的なことですが、わが故郷である紀州の熊野新聞社が協賛していて、大判の刷り物を印刷したようですね。シュタイデル氏も南紀・新宮にまで出張(校正)したとのこと。さらに藝大教授で新宮市出身の写真家・鈴木理策氏のトークイベントもあるようで楽しみです」
 
1968年、シュタイデル氏は18歳のとき会社を設立。当初は版画やポスター、のちにアート系書籍や文芸書なども手がけるようになった。多くの写真家やアーティスト、作家、美術館等を顧客に持ち、企画の打ち合わせには数年も待たねばならないほど多忙を極める。シュタイデル社は出版社とはいえ、本の製作(企画、組版・デザイン、印刷・製本)のすべてを自社で行い、版元と印刷会社と製本所が一緒になったような会社なのだ。
著者とは必ず会って打ち合わせをするシュタイデル氏は、紙の見本帖や束見本などを持参して、紙やインキを選び、本づくりについて提案をする。電話やメールで用を済ませることはない。その仕事ぶりは「職人」だ。作家から信頼を寄せられるのも当然といえる。

「今回の展覧会では、写真集『アメリカンズ』で成功をおさめたロバート・フランクが、写真から映画の製作に興味を移してフィクション(芝居)とドキュメンタリーのあいだに位置するような映像作品(それらは商業的成功を望んだものではない)を展示しています。とはいえ、写真であれ映画であれ、彼の作品を決定づける媒体(メディア)は結局、《ブック》なのです。会場入り口の天井からぶら下げられた多くの本とともに、製版や印刷、製本について細かく指示が書かれたゲラ刷りもたくさん展示されていました」と圓朝氏は話す。
 
これまではプリント(紙焼)の取り扱いの難しさもあって、なかなか展覧会が実現しなかったというフランクの作品だが、映像メディアに大きな影響を与えてきたフランクが、この展覧会では、新聞紙への印刷、そして終了とともにそれらを破棄することを了承したというのだ。それはまさに画期的な「できごと」である。
「展覧会用チラシには《シュタイデル氏への質問》が掲載されています。『良い本を作る条件があれば教えてください』という質問に対し、『良い作品+良いアイディア+良い紙+良い印刷+良い香り+良い装丁=良い本』と彼は述べていますが、この『良い』という語の意味はじつに多義的(アンビギュアス)で拳拳服膺すべきところではないでしょうか」と圓朝氏。
 
「おっしゃるように、この『良い』という形容詞が鍵語ですね。わたしも『良い』本づくりの要諦を考えるヒントのために、[出版協のイベントで]ブックデザイナーの鈴木一誌氏や祖父江慎氏、そして桂川潤氏(2017年2月実施予定)を講師に招きレクチャーを開きました。《tenor》(中身)と《vehicle》(器)について、また《noise》(余白等)について考えるなど、本の《物質性》へのこだわりを講師たちから学ぶという意図でした」
 
シュタイデル氏が作るのは、世界一「売れる」本ではなく世界一「美しい」本である。紙の質感(風合い、紙厚)、インキの匂い等、モノとしての本への愛、本づくりへの情熱、それらがベースにあって「出版」が具体化する。とはいえ、さまざまな「コスト」が生じる出版では、「利(益)」を生まねばならない。しかし、「それ」のみを追求すれば、おそらく想像できないような恐るべき陥穽が待ち受けている(だろう)。
 
河野和徳彩流社 )●出版協理事
出版協 『新刊選』2017年1月号 第51号(通巻275号)より
 

2016年11月29日 (火)

さまざまなプロジェクトを立ち上げる

●アナグラから顔を出すために
本年7月から全6回で「編集研修講座」をやっている。月1回で、約40人が連続して受講してくださるので、張り合いもあり、有り難いことである。
「合同出版のケース」とあるようにあくまで体験的・実務的な内容の公開である。日頃痛感しているので、そのまま書くが、「編集者は穴ぐらに入っていて、ときどき著者のところに出掛けていく」という習性があって、他所様がどうしているかさっぱり知らない。せいぜい、刊行物でしか、相手を知らない。
こんな状態を少しでも風通しを良くするために、また私自身の40余年やってきた編集手法や原則を再検討するためにも有効だと思ってスタートした。

第1回から、編集会議での企画の採用・不採用の判断過程、密やかにおこなわれている編集者による原稿整理の実際、著者のために本を作らないというルール、原価率の設定、実売・返品管理法など、そのつど実際の表やデータを紹介した。
この原稿が出るころは6回目が終わっていると思うが、編集者にとって必要な能力(いや私が編集企画を立てる際の6つの手法)の話をしたいと思っている。
 
●出版協プレゼンス研修が次つぎに
11月には、図書館営業研修講座が企画され「図書館営業の基本の基―図書館に自社の本を選書してもらうにはどんな工夫が必要か?」のテーマで、元TRC社長の尾下千秋氏(現絵本塾出版社長)に話をして頂いた。
図書館流通センターの成り立ちや成長のポイント、図書館の現状、出版社の図書館営業の狙い目などだったが、定員をオーバーする盛況で、すぐにでも動き出す必要がある示唆に富むお話であった。
 
講演後の懇親会も大いに盛り上がり、図書館に版元がどのようにアプローチするかが議論となった。分析や評論が私たちの任務ではないので、実践が必要になる。それには、実行部隊の結成が不可欠だ。
取次との提携、書店営業、読者対応など、もはや一社ではできない。いや、一社でもやってこなかったことがたくさんあり、いまや、一社では解決に手があまる問題が山積みしている。
 
●地殻変動の時代を乗り越えていく
取次や地方の書店が消えていくという地殻変動、新刊委託率の70%から35%への激減、ネット情報が出版物というメディアに与え続けている変革のインパクトなどは、版元がたとえ共同化してもなかなか手ごわい課題だろう。
諦めてしまわない限り、課題の解決を引き受ける意欲をもった出版社が共同して知恵を出し合い、できるところから手をつけていくことしかないだろう。出版社の人的ネットワークづくりから始め、研修と情報交換の先にワークチームが出来上がっていくと理想的だ。

手始めに書店・図書館に「新刊の情報」「売れ行き情報」「在庫僅少情報」「書評・映画化情報」などのタイムリーな提供が必要だろう。これは、同時に著者・読者にも不可欠だろう。
チラシ→FAX→メール/SNSの世界に出版界は対応しているのだろうか? もちろん、日本出版情報センターが構築している「書籍情報データベース」に期待しているが、取次――書店――出版社のリングの内部で完結していて、本の情報を必要とするプロ、実際に買って頂く読者界に開かれているとは言えない。ぜひ、社会的資源としての汎用性のあるデータベースに変身して欲しい。

一方で、100社余りの版元の身の丈にあった情報提供ツールがあってもよいだろう。また、読者と著者を結びつける役割も出版社にとって重要かつ社会的な機能だろう。読者にも、物を書く方々にとっても重要な刺激になると思う。
さらに、読者と出版社の距離を縮めるイベントがもっとおこなわれてよいだろう。出版社に電話を掛けるのは気軽にはできない。ましてや、どうしたら本が出せるのか、版元は案内をしてこなかった。
本を読みたい方と結びつく/本を出したい方と結びつく。出版物の社会的機能を拡大していく中でしか、出版界の拡大も、魅力の向上も実現しないであろう。
取次と書店と読者→出版社の関係をどんどん深めていく。出版協がこの役割を少しでも果たせればいい。100社ほどの版元が力を出せば、さまざまなことができるだろう。
それには時々は穴ぐらから出て、出版協プレゼンスの研修会に出てもらえれば有難い。その小さな一歩が、変革をもたらすことを切望している。
上野良治(合同出版 ●出版協副会長
 

2016年10月28日 (金)

共通番号(マイナンバー)への対処法

FAX新刊選46号(2016年8月)で、「悩ましい共通番号(マイナンバー)への対処」と題して、中小零細出版社(事業者)が、共通番号制度によってこうむる過大な負担とそれにどう対処したらよいかについて述べた。今回は、具体的な対処法を検討したい。とくに、出版社にとって著者への適切な対応は欠くことができないので、この点について触れたい。前回述べた〈著者から個人番号を当面いただかない〉との方針を具体化した文書(案)を末尾に掲げる。この文書は、共通番号制度の概略を述べたあと、その制度の危険性、事業者への過大な負担などを指摘し、当面、個人番号をいただかないことにするという趣旨のものである。
 
あくまでも参考の文案である。各社の事情を勘案して、こうした文書を著者全員に送付するのか、問い合わせがあった著者のみに送付するのか、判断していただきたい。また、その理由付けなどについて各社の事情にあわせた表現を工夫することもおすすめしたい。

いまのところ小社に著者からの個人番号に関する問い合わせはない。またいくつかの出版協会員社に聞いてみてもそうした事実はないという。なぜだろうか。国民の間で共通番号制度の理解が十分でないためか、あるいは個人番号カードがあまり普及していないためか(9月25日時点で、申請受付数は、11,351,999)、その理由は定かでない。
 そうであれば、当面、静観すること(何もしないこと)も選択としてありうる。
 なお、「共通番号いらないネット」による学習会「どうなる番号(マイナンバー)強制?年末調整・確定申告・金融機関の手続き」(2016年11月5日〔土〕14時~ 、東京・文京シビックセンター4階シルバーセンターホール、講師:山崎秀和さん〔共通番号いらないネット世話人、共通番号制を考える会・静岡代表〕)がある(詳しくは、同会HP)。
--------------------------------------------------------
執筆者のみなさんへ
         2016年  月 日
         株式会社○○○○ 
 本年1月より共通番号(マイナンバー)制度が実施されています。
 共通番号制度では、事業者に対して税や社会保険事務の書類で個人番号を記入するなどを求めています(詳しいことは内閣府のホームページをご覧ください)。

 事業者には、著者に印税や原稿料をお支払いした場合、税務署に提出する書類(「報酬、料金、契約金及び賞金に支払調書」)に著者の個人番号を記載することが義務づけられています。
 そのため、事業者は、著者のみなさんから個人番号の提示(通知カード)を受ける必要があります。その際、本人確認に必要な通知カード(+健康保険証、あるいは運転免許証)か個人番号カードのコピーも一緒にいただくことになります。
 
 事業者には、提出された個人番号やその関連書類に関して、厳重な管理(「安全管理措置」)が義務付けられています。「安全管理措置」の内容は、多岐にわたり、手間とコストがかかり、中小零細事業者にとっては、とても対応できるものではありません。万が一漏えいした場合は、4年以下の懲役または200万以下の罰金が科せられこともあります。
 日本年金機構からの情報漏えいにも見られるように、高度な安全対策をしていたにもかかわらず個人情報が漏れてしまうことがあります。また、過去このような事故はたえません*。
 
 また、政府は、個人番号カードの普及を進め、住民に日常不断に所持させ、いろいろな機会に使用させるように考えています。そうなると、政府による個人情報の監視・管理などが行われる危険があります。政府は、そのようなことがないように個人情報保護法などによって厳重な保護措置をとるといっていますが、納得できる十分な説明がなされているとは言えません。
 さらにカードの紛失等の機会も増え、犯罪に使われることも懸念されます。

 よって、今回小社としては、検討・熟考した結果、万全の「安全管理措置」がとれませんので、当面個人番号をお預かりしないで、税務署に提出が義務ずけられている書類は個人番号なしで提出する扱いにすることとしました。 
 なお、個人番号の記載がなくても書類が受理されないということはありません(平成 28年4月12日/個人情報保護委員会「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)及び「(別冊)金融業務における特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン」に関するQ&Aの更新   http://www.ppc.go.jp/files/pdf/280412_guideline_tuikakoushin.pdf)。

 著者におかれましては、小社の考え方と方針をご理解いただきまして、ご協力賜わりますようお願い申し上げます。
 
*過去の情報漏えい事件/2011年9月の三菱重工業へのサイバー攻撃(80台以上感染)、2013年10月のセブン通販サイト(15万件以上)、JAL情報漏えい(4千件以上)、2014年7月のベネッセ個人情報流出事件(2000万件以上)、2015年55月の日本年金機構(100万件以上)、2015年6月の東京商工会議所(1万件以上)など多数。

成澤壽信(現代人文社●出版協副会長

2016年9月27日 (火)

凱風社 新田 準さんを偲ぶ

私たちの古い友人、凱風社の新田さんが今年7月9日、16時に亡くなりました。
1946年生まれの、69歳でした。
あまりにも早い死でした。
かなり前から糖尿病を、そして数年前から癌を患っていた事は知っていましたが、亡くなったという知らせを受けたときは、「ウソだろう!」という気持ちで、受け入れることが出来ませんでした。

出版協の前身「出版流通対策協議会(流対協)」の初期の頃から幹事を務め、なにか問題が生じれば、問題解決に全力で関わってくれました。

先日、「新田さんを偲ぶ会」を、彼と関わってきた人たちと共に、ささやかに行いました。
故人の願いは「静かに行かせてくれ」だったのです。取り立てての挨拶も司会者による指名もない会でしたが、友人たちが静かに彼の思い出を語り酒を飲み交わしました。

思えば、彼は様々な会に積極的に関わってきました。出版協、アジアの本の会、平和の棚の会、沖縄ブックフェア等々。
その時々、彼は、あの笑顔と彼独自の博識さでフェアの呼びかけを作り、ポスター、立て看を作ってくれました。
そして、コンピュータ上のトラブルには事細かな指示でトラブルを解消し、運営上のもめ事が有れば、それこそ我が身の問題として、もめ事解消のアドバイスを出し続けてくれました。

彼は大学卒業後、商社に就職し主にヨーロッパ駐在員として東欧諸国を飛び回っていました。そこで培われた語学と、日常会話の奥に潜む微妙な言葉のニュアンスの違いを肌で理解していたようです。プロの翻訳者も時には、彼の微妙な翻訳のニュアンスの違いに舌をまいていたそうです。
そんな彼がグーグル問題の時は大活躍してくれました。2009年グーグルが商業利用を目的に、書籍の全ページを無断スキャニングする暴挙にでたときです。当然流対協は反対行動を起こします。グーグル本社への抗議・拒否表記の仕方、アメリカの出版社・作家組合の動き、フランスのグーグルへの裁判闘争の報告など、世界の動きを新田さんは原文を翻訳し、私たちに知らせてくれました。彼の翻訳がどれほど私たちの活動などに勇気を与えてくれたか、「感謝」です。
さらに、めまぐるしく変動を続けている「書店の新規開店、閉店情報」を知る限りの範囲で、彼は真剣に流し続けてくれました。
彼独特のあの笑顔の裏の、真剣に物事に対応する彼の心を、知れば知るほど「亡くなった」と言うことが悔やまれてなりません。

問題解決に全力で力を出してきた彼でしたが、病には勝てなかったということでしょうか。

思えば、彼は69歳、私は今年71歳。敗戦生まれと初期団塊の世代です。もはや年寄りの部類にどっかりと浸っている年代です。同年代と酒を飲んでも、出る話は、共に現在抱えている体の不調話ばかりです。私が今一番の体が抱えている問題は、りっぱな「椎間板ヘルニア」です。春先まではパンツはおろか、(パンツをはかないという快感に開眼しました)靴下を履く事も困難な状況が続きました。出社、退社のバスを降りてからの家までの片道20分は地獄です。現在は、ある出版社(現代書●)の出している『椎間板ヘルニアは切らずに治す』を毎日お題目のように唱えかつ信じて(本の中身は目を通していません)メスを入れずに痛みとの格闘生活を送っています。

私たち出版業界の仲間内から、訃報の知らせをよく聞くようになってきました。
しみじみ「ああ、働けるのもあと数年あるかな?」が実感です。

新田さん、会う機会が近いかもしれないね。その時も「あの世の差別と闘う協議会」(世差協)で活動していたりしてね。

金岩宏二現代書館)●出版協理事

 

 

2016年8月30日 (火)

日本出版販売(株)王子流通センター見学会記

去る8月8日、日本出版販売(株)様(以下「日販」と呼ばせていただく)のご厚意を頂き王子流通センターの見学会を行った。募集期間が短かったにもかかわらず29名の参加者。出版協の前身「流対協」時代に行ってから十数年ぶりの開催で初めての方が多かったのも当然であろう。当日は猛暑のなか、JR王子駅に集合路線バスで王子流通センターに向かった(約10分)。
本社からいらした、今回の見学会受け入れ担当の方の出迎えを受けて15時から見学会の開始となった。まず、概要説明そしてセンター内現場見学、その後担当者との質疑応答17時終了のスケジュールである。
 
概要説明では、取次の役割、そして日販の流通センターの紹介。
・ 王子流通センター
・ ねりま流通センター(雑誌)
・ CVS営業所(雑誌)
・ Web-bookセンター(ネット対応)
などである。
 
王子流通センターは1970年開設、日販最大の流通センターで書籍(新刊、既刊本及びコミック、文庫、新書)を扱う。働いている方が700人、一日の取り扱いが180万冊、新刊は日に300点80万冊を扱う。在庫は約70万点、650万冊。版元への注文は出版vanやnocsなど。また、王子流通センターにない書籍の在庫状況の提供の要望があった。
注文品の仕分けについてはMS2(マルチスーパ2)を1998年に、そして2007年にはBCS(ブックス)を導入との説明がなされる。(この仕分け機については現場見学のところで説明)王子流通センターの建物は1~4号館、6階建。
センター現場見学は4班に分かれ、各班に日販の方が付き説明を頂いた。現場は稼働中で仕事の邪魔にならないように、また「事故」に遭わないように、更に場所によっては相当騒音がするため少人数で説明を聞きやすくするため等の配慮と思われる。見学は1~3階の単行本関係のシステムを回る順番を変える方法で行った。以下の説明は私が回った順である。
 
「新刊センター」(3階、在庫エリア)
 発行後1ヶ月の新刊と売上良好の新刊 をストック
「BSC(ブックス=Book Channelizer System)」(3階)
 「MS2」で対応できない書店からの直 接注文などでデータのない書籍や定型 外の仕分
  け機。日に10万冊を6,000 書店に仕分け起票を行う。
「MS2」(2階)
 注文書籍の投入、書店別仕分け、搬出、 伝票発行といった全ての工程を網羅する、 多
  判型対応の高速自動仕分け機。日あ たり約50万冊を約6,000方面に仕分け。
「データーイン」(2階)
 書店から直接注文された商品や手書き の短冊付き商品の情報のデータを担当 者が入
  力。30台の端末を使用。これに よりセンター内の商品全てをデータ化 することで注文品
  の100%機械仕分け が可能送品のスピード化等を実現。注 文票や手書き短冊の客注
  者名や客注番 号の情報については、それらを入れる ので書店には届くとのこと。
「大口検品機」(2階)
 一覧注文やセット品等大口品の納入検 品を行う。
「新刊ライン」(1階)
 新刊書籍の送品ライン、通過型重量検 品機で1個1個の荷物の重量計測を行い、 商品
  の過不足チェックを行う。
「SS80」(1階)
 新刊、注文品全ての荷物を日約5万個、 一時間あたり最大6,000個運送会社別、 80方 
  面に仕分ける。
といったところを質疑応答も交えて一時間あまりかけて回る。
現場見学後の質疑応答はコミック・文庫センターの方と新刊センターの方お二人との間で行なわれた。
在庫エリア5階の専門書センター(見学をしたかった)への在庫希望について。
 在庫をしている版元は決っているが取 次や版元の希望で交渉することはある とのこ
   と、相談を。
「データーイン」の場合客注名など手書き短冊情報が書店に届くかどうかの質問について。
 データ化しても手書き短冊は入れると のこと、但しデータ化には2~3日か かるとの返
  答。その分だけ書店への納 品は遅れる。
王子流通センターに納品から書店への到着日の質問。
 おおよそ2~3日目には書店に到着。 沖縄、北海道でも一週間くらいとのこと。手書き短
  冊の注文品が「宛先不明」で間々返品されることについて。
 一つには短冊用紙が弱い可能性、集品 時の取扱いに問題がある可能性、後者 につい
  ては日販の方で調査との返答等 であった。
 
今回の見学会には編集担当の方も参加していて普段接することが少ない出版流通の学習の機会にもなった。
 
日販王子流通センター様には見学会を引き受けていただいたことに改めて感謝を申し上げます。有難うございました。
 
髙野政司(解放出版社●出版協理事

より以前の記事一覧